#1『異世界での目覚め』
「ん……うぅん……」
目が覚めると、私は湖の近くで倒れていました。
「ここは……」
周りは木々に囲まれ中央には大きな湖、よく見てみると歩道なども整備され、所どころに古い木製のベンチが置かれています。恐らくこの場所は公園か何かなのでしょう。
どこぞの女神様に文字通り突き落とされた異世界……これで死んでいたらあの女神様を殺人罪で神様の前に突き出してやろう!そう思ったけど、突き落とした犯人も一応神様なんですよね~。さて、そんなことを言っていても仕方ないので、始めましょうか異世界生活!
「ここが異世界?なんだか死ぬ前とたいして変わらない気がする……」
立ち上がり気付いた事があります。
「地面が近い」
何だか縮んでいる気がします。こう身長とか胸とか
「これは転生したから?確か容姿や年齢とかはランダムみたいな事言っていたような……」
取りあえず近くの湖で容姿の確認をしてみましょう。
――湖に映し出されたのはボサボサの銀髪、少しツリ目がかった紫と緋の瞳、血色の悪そうな白い肌
「誰?」
つい「誰?」と言ってしまいましたが、湖に映っている以上これが私なのでしょう……
そして、服装も変わっています。さっきまで倒れていたからでしょうか、所どころ土が付いていて汚れてしまっています。これで前のままの服装だったらサイズ的に困った事になってしまうので、良しとしておきましょう。
私は軽く服の汚れをはたいて落としてから今後について考え始めました。
まず、異世界への転生は成功して私は見た目10歳くらいの子供になっている。この際それはいいとしましょう。しかし、いくつかの問題が出てきました……
「お金がない、住むところがない、お腹すいた……」
まず、転生したからと言って最初から何でも持っているとは思いませんでしたが、最低限衣食住は欲しかったです。
お金は早急に手に入れなければなりません。お金が無ければ元居た世界だろうと異世界だろうと生活していけません。そして、住むところは……これもお金が無ければ宿に泊まることすら出来ません!食べ物だって……結局お金です。
「でも、子供で仕事なんて出来るのかな?」
仕事が出来るかどうかはわかりませんが、とにかく人のいる場所に行きましょう。
近くに出口らしきものが無かったので湖の周りを周っていると、立て札がありました。
『←サルア洞穴 辺境都市アウネイル→』
左に進むとサルア洞穴、右に進むと辺境都市アウネイルですか。とりあえず今回は都市部に向かってみましょう。多分あそこに小さく見えているのがそうだと思うんですけど……遠くないですか?
「とにかく、日が暮れるまでに街には着きたいですね。さすがに異世界生活初日が野宿になるのは嫌ですし」
そう言いつつ、ゆっくりとした足取りで街へ向かっていきました。
街へ向かう途中野盗に襲われそうになったり、野盗から逃げていたら変な動物に出くわして野盗が「ま、魔獣だあああ」と言って逃げてしまったり、その魔獣と目があったら魔獣が怯えて逃げてしまったり……なんだか余計に疲れてしまいました。
夜も更けてまいりました。私のお腹は『ぎゅるるる』と情けない音を出しています。お昼ごはんを食べてから体感で20時間程経ったでしょうか?いい加減何か食べ物を食べないと倒れてしまいそうです。
街に到着したころにはすっかり日も暮れて、人っ子一人歩いていません。
「――お腹すいた……」
そう呟いて、私は吸い込まれるように地面に倒れました。
―
――
―――
チュンチュン
どもからか雀のような鳴き声が聞こえます。私は、重い瞼を薄く開き周りを見ました。ぼーっとしていて気がつきませんでしたが、私はベッドに横たわっているようでした。流石にずっと寝ているわけにはいかないので、上半身だけ起こしておきましょう。
「――ここは……」
見たところ、民家のようです。私は外で倒れたのですが、誰かが運んでくれたのでしょうか?
「くしゃ」右手に力を入れると、何か紙のようなものを握った感触がありました。ちなみに左手には紋章のようなものが刻まれた鍵を握っていました。紙には「超絶大女神イリス様より」とでかでかと書かれていましたが、無視して内容を読みました。
内容に関して簡単に言ってしまえば「魔法」の使い方?でした。
魔法はこの世界の者なら誰でも使うことの出来るものである。属性は風、火、土、雷、水、を基本とし、他にも聖属性などの上級属性もある。そして小さく「スタンガン使おうとしていた奴は雷属性でいいと思います。」とも書かれている。
魔力に関しては才能。一般市民をを100とするなら50以下は才能無し、200で優秀、300でエリートとなるそうで、200以上となるのは主に貴族や王族関係が多いらしい。
そして、最後にこんな一言?でしめられていた――
『あと、転生先の身体なんだけどね、ルーフェミア・エスカ・フローネって名前でね、数年前に滅んだ北のジェネヴァ公国の大公令嬢様らしいよ?やったね(*'ω'*)b』
何がやったね(*'ω'*)bなのかは分かりませんが、顔文字がムカついたので握りつぶしてそのままベッドの横に置いておきましょう。
暫くして、扉の奥から足音が聞こえてきました。足音は扉の前で止まり、それと同じくして扉が開かれました。扉を開けたのは初老のご婦人でした。
「あら?起きていたのね」
そう私に声を掛けてくれたので、とりあえず何故こうなったのか聞いてみることにしてみました。
「あ、あの……ここは…私、どうして」
「貴女は家の前で倒れていたのよ?それを家の旦那が連れて帰ってきたのよ?」
どうやら街に着いた後そのまま倒れてしまったようですね。空腹の上5時間以上歩いていたんです、恐らく街に着いた安心感で力が抜けてしまったんでしょうね。多分。
「さて、いろいろ聞きたい事もあるけど……先に食事にしましょうか?」
食事と聞いて私のお腹が喜びの声をあげたのは言うまでもなかった。
「あなた、連れてきたわよ」
私がこの家の奥さんに連れられてダイニングまでやってくると、奥さんと同じくらいの歳の男性が声を掛けてきました。あなたと奥さんが言っているという事はこの人は旦那さんなのでしょう。
「おぉ、目が覚めたようだね。家の前で倒れていたから何事かと思ったが、元気そうでなによりだよ」
立ち話もなんだし食事でもしながら話を聞かせてもらうよと、旦那さんは微笑みながら言いました。
食事の合間に軽い自己紹介や私が倒れていた経緯など、話せる範囲のことを話しました。流石に転生や大公令嬢だの後々面倒くさくなりそうな事は話さないでおきました。過去のことは記憶喪失にでもしておけば問題ないでしょう。食事を終え、一息ついていた時、ダグラスさんと奥さんのラミスさんの会話が聞こえてきました。
「家名を聞く限りじゃ旧ジェネヴァ公国の公女様のようだが……」
「旧ジェネヴァ公国?ってあの」
と、声を小さくして話しているようですが私は耳がいいのでよく聞こえます。それにしても旧ジェネヴァ公国って言っていましたね。旧という事は今は存在しないのでしょうか?と言うよりも私の身元既に割れているんですけど。ダグラスさんとラミスさんが神妙な顔つきをし、少し考えるようなそぶりを見せてから、ダグラスさんが私に話しかけてきました。
「明日、私はここの領主様に会いに行くのだが君にもついてきてもらいたい」
領主様に会うと聞いた私は少し冷や汗を掻きました。身分がばれていますし、何より今の私は旧ジェネヴァ公国の、他国の人間となる訳ですから不法入国で投獄なんてことに……
そんな事を考えつつ、私は翌日を迎えるのでした。
翌朝、ラミスさんが私を起こしに来てくれました。昨夜のうちに私の着ていた服は洗濯され石鹸のいい匂いがしています。着替えを終え昨夜丸めた紙と鍵をポケットに詰めます。馬車が到着するまでまだ時間があるようなので、ラミスさんと少しおしゃべりをしていると、フロックコートを纏ったダグラスさんがやってきました。どうやら馬車が到着したようです。
ダグラスさんは御者の方と二言三言話をしてから馬車に乗り込みました。私もラミスさんに背中を押され御者さんに軽く挨拶すると馬車に乗り込みました。ここから領主様のお屋敷までおよそ2時間程度かかる様なので、私はダグラスさんに領主様について聞いてみたところ『領民の為に王族に喧嘩を売るような男』と言い『まぁ、王族からは気に入られているようだがな』と付け加えてきました。
吹き抜ける風は暖かく、周りは緑豊かな畑があり馬などが放牧され、幼いころに過ごした記憶が少し蘇りました。そのうち馬車は人通りの多い街道に出ました。
「もう間もなく領主様の屋敷に着くが、くれぐれも粗相のないようにお願いしますね」
と、ダグラスさんが言ってきたので『わかりました』とだけ答えておきました。