プロローグ『私、異世界に行きます』
読みにくかったら申し訳ありません。
8/4加筆修正しました。
雪が降っています。このまま降り続けば明日はホワイトクリスマスになるでしょう。まぁ、私には関係のない事なんですけどね……
恋人たちは愛を育み、子供たちは家族とともに幸せを噛みしめているでしょう……
そんな雪降る聖夜……私、藤咲美亜は後ろから猛スピードで突っ込んできた黒塗りの高そうな車に撥ねられ……大空を舞う鳥になりました。
いつもよりバイトが長引き、気づけば日が変わろうとしています。疲れていたのか忘れてしまいましたがいつも以上に注意力が無かったのは否めません。
――さて、現状を把握しましょう。
近くの電柱に黒塗りの高そうな車が突っ込んでいます。どうやらスピードの出し過ぎでスリップして、そのまま電柱にぶつかってしまったようです。
そして私の目の前には、血を流して倒れている私がいます。毎日鏡の前で見てるんですから間違いようがありません。私です。あれ?でも目の前に倒れているのが私ということは…
ふと倒れている私の隣を見てみると、バイトの帰りに買ってきたお弁当が見るも無残な状態で落ちています。
「あ、お弁当が……」
「こんばんは、藤咲美亜さん」
ショックです!今日の夕食をこうも簡単に失ってしまうなんて……藤咲美亜一生の不覚です……
「バカバカバカ!私のバカ!!!」
「あの~もしも~し聞いていますか~……もしかして無視ですか!」
気が動転して気が付きませんでしたが、誰かに声を掛けられているようです。
「っは!誰ですか!!!」
振り向いた先には見た目12~13歳くらいの少女が立っていました。
でも、今の季節は冬なのに白のワンピース姿というのは……この少女の頭の中が気になります。
「オホン!えーと藤咲美亜さん……ですよね?」
そう言いながら少女は私の方へ歩いてきます。
どうやらこの少女は私のことを知っているようです。
でも、私はこの人を見たことはありません……見たこともない人が、こんな夜更けに、しかも女の子である私に声を掛けてくるなんて……間違いありません!
「もしかして、――ストーカーさんですか?」
目の前の少女が盛大にズッコケました。
足元が凍っていたんでしょうか?怪我をしていなければいいのですが。
「あの?大丈夫ですかストーカーさん?警察呼びましょうか?」
「ストーカーじゃありませんし、警察も必要ありません!」
そう言って私が右手に握りしめていたスマートフォンを無理やり奪っていきました。
「はぁ、とりあえず場所を変えましょう。こんな所で立ち話してたらわ・た・し・が大変なことになりそうだから……」
少女はそう言いつつ、私の左手に握られた護身用のスタンガンを忌々しそうに見つめてきます。何故でしょう?
「はぁ、それじゃあちょっと移動するから私の手を握ってくれるかしら?」
「え?いやです?」
「え?いやいや、別に取って食おうとか思ってないからさ」
「怪しい人に付いて行っちゃダメだってお父さんが言ってました」
「子供か!」
子供とは失礼ですね!これでも20代前半です!
私がそう思っていると少女は少し考えるようなそぶりを見せ
「――仕方ない、この手だけは使いたくなかったんだが……」
そう言って少女はどこからか一枚のカードを取り出し、声高らかにこう言いました。
「今私の手を握ってくれた者に、この全国のワスバーガーで使えるワスカードをプレゼントしよう!」
気づいた時には私はその少女の手を握っていました。
物欲って怖いですね~。
少女の手を握った瞬間目の前が光り、私は意識を失ってしまいました。
―
――
―――
それからどれだけ時間が経ったのでしょうか……目を覚ました時には私は空に居ました。
空と言っても床は存在しているようで、辺りにはバロック式と思われる柱が多数立ち並んでいます。
いい仕事してます。
私がそんな風に思っていると、後ろから声を掛けられました。
「お目覚めかしらお姫様?」
その声に聞き覚えがありました。
先ほどまで話していた少女の声でした。
私が振り向くと少女は椅子に腰かけ優雅にお茶を飲んでいました。
「ほら、そんな所に突っ立っていないでそこの席に座りなさい」
少女にそう言われ近くまで歩いていきます。そして私は少女の向かいの席に座りました。
「それじゃあ、自己紹介でもしましょうか?」
と言い少女はその場に立ち上がり、無い胸を張りながら
「私は女神イリス、ここ天国と地獄の間であり、煉獄と対になる門の守護者にして管理者代理よ」
と言いました。
まぁ、この際ですとりあえず聞くだけ聞いてみることにしましょう。
「は、はぁ……」
「私の自己紹介をしたところで、早速なんだけど本題に入るわね」
どうやら私の自己紹介は要らないようです。初めて会った時も何故か名前を知っているようでしたし……
そして、こちらの返答を待たずに本題に入っていきました。
「さて、藤咲美亜さん貴女は現実世界で事故に巻き込まれて死んでしまいました」
どうやら私は本当に死んでしまったらしい。
車にぶつかった事は覚えていないけど、仮に時速60km/hで走っている車に生身でぶつかれば・・・まぁ、死にますね。
「でも、死んでしまった時間が良かったようで貴女は転生チャンスを掴み取りました!」
「え?死んだ時間?転生チャンス?」
私がそう聞き返すと女神イリスはニコリと笑いながら
「まず、貴女が死んでしまった時間なんだけど、12月25日の午前0時っていうのがね、私たち神々の世界で唯一裁定が行われない時間なのよ。」
「裁定……ですか?」
「そう、人が死ぬとその魂は神々によって裁かれ天国や地獄に送られるの。でもね、例外が12月25日の午前0時、この時間に死んだ者に対しては一切裁きを行うことが出来ないのよね。」
「え?それじゃあ私はどうなるんですか?まさか、このまま永遠にこの場所に居続けなきゃいけないなんて事は……」
「あ、それは大丈夫よ、その為の転生チャンスなんだし」
「えっと、つまりあれですか?小説とかでよくある『貴女は現実世界で死んでしまったので異世界に行って世界を救う勇者になってきなさい!』っていうやつですかね?」
「まっさか~あはははは」
「ですよね~はははは」
「そこまでわかっているなら話は早いです」
あれ?
「貴女には異世界に行ってもらいます!」
「――ふぇ?」
「別に無理して行かなくてもいいけれど、そうしたら貴女は何百年、何千年と此処に居続けなきゃいけないわよ?私としてはただ居られても邪魔なので早く転生して貰いたいんだけどね?」
「うぅ……」
今、さらっと邪魔者扱いされたんですけど、此処に残っていても仕方なさそうですね。
志半ばで死んでしまった薄幸の美少女の新たな物語がここから始まる……そう思っていっその事、転生してしまうのもありなのでしょう。生きていた世界に未練は……まぁ、沢山ありますけど!今更現実に戻っても身体は死んでいるわけで……
「今更現実に戻っても仕方ないですよね」
「今現実世界へ戻ったら、もれなく地縛霊になるオプションが無料でついてきますよ?」
ニコニコしながらイリスがそんな事を言ってきた。退路は断たれた!寧ろ最初から無かった気がするけど……
「私、異世界に行きます!」
私はイリスに向かいそう言い放ちました。
いや、だって私もう死んでるんですし、帰ったところで地縛霊ですし……
お弁当もないですし……あ、つまり私の最後の晩餐?はお昼に食べたコンビニの幕の内弁当ですか!色気も可愛らしさもあったものじゃないですね……何でしょう急に悲しくなってきました……
「ふむ、決断が早いのは私としてもありがたいな。それでは異世界に行くにあたって、その世界の説明をしておきましょう」
「お願いします!」
何やら小難しいことを話し始めた女神イリスだが、簡単にまとめてしまえば、科学の発展していない剣と魔法のファンタジー世界といった感じの話しだった。
ゲームはあまりやったことはないが、多分モンスターを倒してアイテムを集めたりお金を稼いだりするのだろう。多分そんな感じなのだろう。
「さて、異世界の説明はこのあたりにして、転生するにあたって貴女には一つ特別な力を与えましょう!その方が異世界をもっと楽しめるかもしれないしね?」
「特別な力……う~ん、すぐには思い浮かばないですよ~」
困りました……別に異世界に行っても、冒険したりするわけでもないので、あまり変な能力は欲しくなかったのですが……
「あ、そうだ」
「おや?決まったのかい?意外と早かったね」
「えっとですね、変な力とかは要らないので私をオッドアイにして下さい!」
私がそう言うと女神イリスは驚いたような複雑な表情をした。
ファンタジー世界に行くのだから、それこそ見た目を少し変えたい。オッドアイってなんだか神秘的でファンタジー世界にはもってこいだと思います!
「えっと……それがいいわけね?」
「はい、特にこれといったものは思い浮かびませんでしたので……」
イリスは少し考え、やがて諦めたかのように深いため息をついた。
「まぁいいか……わかったわ、それじゃあ貴女には『紫緋の瞳』の力を与えましょう」
ん?紫緋の瞳?私は変な力は要らないって言ったのに。
「転生するにあたって、容姿や性別、年齢までは干渉することが出来ないの……だからこれで我慢してね」
イリスは舌を少し出して謝ってきました。可愛いです。
「まぁその瞳の使い方は……これから楽しい異世界生活が待っているのでその中で覚えていくといいでしょう」
「楽しいかはわかりませんけど……そうですね、そうします」
「それじゃあこっち来て」
イリスが手招いているのですが、何だか笑顔が怖いです。笑っているのに怖いって……不気味です。
「はい、そこでストップ」
私が立ち止まると、イリスの後ろにあった立て札が目に留まりました。
『この先異世界↓』
何だか嫌な予感がします。
この先異世界まではいいのですが、矢印が下を向いています。矢印の先には雲があります。床はありません。
「さぁドーンと行ってみよう!」
後ろでイリスが何か言っていますが、これはつまり紐無しバンジー『ドーン』
背中に強い衝撃が走り、私の体はそのまま雲の中へ……
「いやああああああああああああああああああああ」
落ちていく私に手を振りながら『異世界生活楽しんで逝ってね~』とイリスが手を振りながら言っていたような気がしました。