第1話『氷河の血』
どうも、星野夜です。
今回は童話、南極大陸をテーマとして書かせていただきました。
冬、この時期になると肌寒くなりますよね。この小説の主人公はもっと寒いツンドラ気候のなかにいます。あなたがた読者も一緒に、この寒さにのめり込んでほしいと思います。
それでは、『残存ツンドラ逃走劇』、始まり始まり~。
今日の天気は曇り空。鉛色のベールが空一面を取り囲んでいる。幸い、風は落ち着いているみたい。この地では風は大の天敵。吹き抜けるだけで全身凍りつきそうなくらい。でも、曇り空なので気温は低い。ここは南極。地球の南の果てにある極地です。
この場所に二人の人間が歩いていた。一人は灰色のくせっ毛、短髪を持つ、瞳の色が空のように蒼い男の子。もう一人は長いストレートの茶髪で、翡翠色の瞳を持つ女の子。二人共、フカフカの毛皮で作られたウィンドブレーカーを羽織って寒さ対策をしています。
〈雑学その1。翡翠とは、宝石の一種で綺麗な翠色をしているんだ。みんなはどんな色の宝石が好き?〉
男の子はカイト、女の子はルマという名前です。二人は幼なじみで、いつも一緒にいます。
二人はある目的があって今、寒い中を歩いているようです。
「ルマ、大丈夫?寒くない?」
「大丈夫…。だって、私に見せたいものがあるんでしょ?それを見るまでは諦めないよ。」
ルマはニコリと笑う。口から濃く白い吐息が風になびいて消える。
二人の目的とは、南極の氷河のとある場所、そこから流れる血です。言っている意味が良く分からない方もいるでしょう。
〈雑学その2。南極の氷河は血を流す。実は、この場所には猛烈な風が吹き抜けていて、地面が見える場所があるんだ。この場所から酸化鉄っていう物質が海へ流れ出すらしい。これが海に流れると、赤色に見えるから血を流しているみたいに見えるんだって。だけど、この現象が起こるのはごく稀なことだから、彼らはそれを見たいために急いでるようだよ。〉
氷河が血を流すのを見たいために、彼らはその場所へと目指して歩いていく。足裏の広い靴を履いてるから、地面の雪に足が埋まらなく歩きやすい。雪を踏みながら進んでいく。
それから1時間が経過して、彼らは目的の場所へと着いた。風が酷く、地面に積もっていた雪を巻き上げ、地吹雪が起こり、着ているコートが風で荒く揺れる。カイトはルマの手を引き、見晴らしの良い場所へと連れて行った。
カイトは海を指差し、
「ほら!あれだよ、あれが見せたかったものなんだ!」
カイトとルマはその海に見とれる。そこには赤い血液のような海が!南極の地面から流れ出している。海の青と血液の赤が混ざり、それはそれは不思議な場所だった。
「わぁ~!あれ何?!」
ルマは興味津々で、目を見開いて訊く。
「僕にも分からないけど、でも綺麗でしょ?こんな事、初めてだよ!ルマに最初に見せたかったんだ!」
ルマは少し身を震わせて心配げ。
「うん…綺麗だけど…でも怖い。何か、変な予兆じゃないのかなぁ。」
「あはは!ルマはいつも心配しすぎなんだよ!大丈夫だってばー。」
「そっそうかなぁ。」
「元気出してよ。そんな浮かない顔、似合わないよ。」
カイトはルマの背中を軽く叩く。ルマは心配性なので、少しだけ不安な表情。だけど、何とか笑顔を作る。
「これは二人だけの秘密だよ。絶対に絶対に、ぜぇ~ったいに!誰にもいっちゃ駄目だからね!」
カイトは念入りに訴える。ルマは大きく首肯した。
南極の血を見終わった二人。もう一度、同じ道を引き返す。先ほど来た時とは一変して、急に風が強くなり空が暗くなる。気温が下がり始め、吹雪が吹き始めた。
「カイト、吹雪だよ!早く帰らないと!」
「うん、それはそうだけど、この場合は風よけを探さないと!」
二人は慌てて風しのぎの場を探し始める。吹雪の時は視界が極めて悪く、さらに激しくなると天地の境が分からなくなる。そして傾斜感覚がなくなって体が宙に浮いてるように感じる錯覚に陥る場合あり。吹雪の吹き始め、早めに風しのぎを探さなければ、吹雪で視界を奪われて凍死する可能性が。
〈吹雪時に起こる、雑学その3。吹雪によって視界が遮られると、方向が分からなくなって同じ場所を大きな円を描いてぐるぐる回り歩く、リングワンデルングという現象が起こるんだ。こんな時は視界が良くなるのを待つ方が良いらしいよ。〉
だから、彼らは急がなければならないのです。二人は大急ぎで風しのぎを探しに走ります。しかし、この場所は傾斜。二人は息を荒げ、疲れて立ち止まってしまいました。
「ルマ、大丈夫か…?少し、休憩するか…?」
カイトは乱れた呼吸で訊く。ルマは言葉ではなく、首を振って否定しました。
カイトはルマを見つめます。吹雪が強くなってきてるため、見づらいようです。
「ルマ、緊急事態だよ。風しのぎは自分たちで作るしかないみたいだ。」
「で、でも…時間が…。」
「やるしかない!」
〈吹雪しのぎの、雑学その4。吹雪の風をしのぐために、地面に穴を掘ってやり過ごす。入口と風の方角はなるべく直角に作ること。〉
二人は数メートル離れ、それぞれ傾斜に穴を掘り始めた。手袋をしているけど寒さは手袋を突き抜け、両手を冷やしていく。長時間、手が冷えてしまうと凍って壊死するかもしれないので、急がないと。
先に作り終えたのはカイト。さすがは男子。力だけは十分にある。人一人分の空間ができた。中は風の影響がないため、外気より圧倒的に暖かい。とはいえ、寒いのには変わりないが。
「ルマ!そっちは終わった?!」
ルマは反応しない。カイトからでは吹雪のためルマは見えない。どうしているのかが分からない。風の音で聞こえていないようです。カイトはルマを確認するためルマの所へと歩いて行った。ルマはまだ、穴を掘り終えていない。なのに、吹雪はさらに強さを増していくばかり。
「カイト!まだ、終わらない!」
ルマは泣きそうな表情でカイトに叫ぶ。良く見ると、ルマは手袋をしていない。両手は真っ赤に腫れ上がり、壊死するのではないかという状態だった。
「手袋はどうしたの?!」
「それが、急に破れちゃって…。」
カイトはルマの手を引き、自分の掘った穴へと連れて来た。
「先にこの中に入ってて。僕がもう一つは掘るから。」
「で、でも…。間に合わないよ。」
カイトは笑顔でルマの背を押す。
「僕のことなら大丈夫!ルマのその手じゃ、もう掘る事はできないよ。」
カイトはルマを穴へと押し入れた。そして自分は先ほどの位置へと戻る。ルマはそんなカイトの背を穴の外へと顔を出して見た。
「カイト!」
風のせいで声は届かず、カイトはそのまま進んでいく。そして吹雪の中へと消えた。
ルマは穴の中、不安そうな顔で蹲りました。罪悪感に取り付かれ、瞳から一筋の涙が伝って流れ落ちました。
「カイト…絶対に死なないで、お願いだから…。」
そしてルマは瞳を閉じた。