第13話『罠』
三季が経過した頃、とある島国へとやって来た三人。最初に目に入った光景は街でした。布という材質を使った羽織り物の服を着た人間がたくさん行き来をしているのが目に入ります。住宅は木の板を繋げ合わせ、屋根には石材と見られる物が使われていました。三人はその街の船場らしいところにボートを留めます。その光景を街中の人々が注目して見てました。それはそのはず、この島国と三人の人種はまったくもって別物。そんな人間が入国してきたと知れば、注目の的になること間違いなし。
「…今までとはまた一風変わった街だな。凄い注目されてるぞ…。」
「…問題点は言葉が通じ合うかどうか…。悪くすれば殺されかねないかもね。」
カイトのその言葉を聞いたルマは顔色を悪くする。
「大丈夫?私たち…死なないかな?」
ルマがいつも通りに過度な心配をします。
「ルマ、そんなに心配するなって。大丈夫だよ、きっと。同じ人間なんだからさ。」
カイトもいつも通りにルマをなだめます。
その三人のところに一人の男がやって来ました。頭に黒い変な形の帽子を被り、紫色の布でできた服を着ている。何か気品漂う男です。
「そこの三人よ、貴殿らは何人となるや?」
そう言葉に出した男。しかし、三人は全員、頭にクエスチョンマークが浮かんでいました。言葉が通じていない、別の言語なのです。
「あのー…この言葉が通じてるかどうかは分かりませんが…何と言っているのでしょうか?」
カイトがかしこまった言い方で答えますが、その言語はその男に通じていませんでした。男は言葉が通じないのを確認すると一言、
「すまなかった、言葉が通じなければ仕方があるまい。」
そう言って背を向けて帰っていきました。
「どうやら、別言語らしい。困ったことになるぞ、これは。誰か同じ言語を使える人間はいないのか?」
「さすがに、僕らと同じ言語を話す人間なんてこの国にはいないよ。なんせ、僕たちの故郷から何キロ離れてるか分からないぐらいに遠いからね。」
三人はとりあえず、北へと進むことに決めました。
荷車がたくさん街の大通りを一方方向に進んでいます。たくさんの一般市民と見られる人間が荷車を運んでいました。その行列はとても長く、そして広い。三人はその光景を物珍しそうに眺めていました。これはこの国に初めて入国した彼らだからと言う訳ではなさそうです。彼ら以外にも、他の人間は同じように眺めています。この国では珍しい光景なのでしょう。
「カイト…これは一体、何だと思う?」
「さぁ…でも荷物をどこかに運んでいるんでしょ?」
「…何か、怖い…。」
ルマはその光景を見て、なぜか恐怖を覚えていました。氷河から流れ出す血を見た時と同じ反応をしています。
近くで同じようにその行列を見ている集団の中の一人が唖然とした表情で言いました。
「これは凄い行列だ。一体、何が起きたというのだ?」
「ああ…確かー、藤原道長様のお家が家事で燃えてしまったのだよ。この行列は道長様への火事見舞いだろう。」
そう、この行列は藤原道長と呼ばれる人間の火事見舞いの行列だったのです。しかし、三人にはそれが伝わらず、何も理解できていません。
「…これじゃあ、良く分からないね。せっかくだからさ、ちょっとついて行かない?もしかしたら分かるかもしれないしさ!」
カイトはそう提案します。ヘルメスは、
「それを決めるのは俺の役目じゃないが、気を付けないと殺されかねないからな。」
そう同意し、ルマは、
「…怖いよ、だけど、カイトが行くなら私も…。」
怯えてはいるが、そう同意しました。
荷車の行列は次々と門の中へと入っていきます。その門前には当然、門番が立っています。片手に槍を持ち、ガチガチの防具に身を固めていました。その門の中の方にはとてつもなく巨大な建造物が建てられていました。下を石垣で固め、その上に白塗りの壁の建造物が建てられています。屋根の左右に何かの生き物らしき像が設置してあり、その建造物はとても立派でした。
三人は荷車たちについて行き、その門を潜っていきました。
「ねぇ、カイト…。これって本当に大丈夫なんだよね?」
ルマは心配そうに、周りの人間にその声が聞こえないように呟く。
「大丈夫…もしも、ルマに手を出す人間がいるなら、僕が真っ先に倒すから。ルマには傷一つ付けさせないよ。だから安心して。ルマには僕が付いてる。」
でも、ルマはまだ心配そうな顔をしている。
「で、でも…ずっと前の大きな怖い人間みたいな人が現れたら…。またカイトが傷ついちゃうんでしょ?そんなの嫌だよ。」
ルマは三季前に戦った巨大な体つきの軍人のことを言っている。あの時、カイトは肩に大きな負傷をしました。その傷はまだ残っています。
「…大丈夫だよ、多分ね。もしも、そんな化物が現れても…僕は絶対に負けないからさ。そうだよね、ヘルメス?」
「あ、そ…そうだな、カイト。」
ヘルメスは急に押し付けられたので少し動揺気味に答えました。
そんなカイトは内心、ルマと同じ気持ちでもあった。あの時のような軍人が現れたならば、今回こそは確実に負けてしまう。この前はネリアという戦闘に特化した人間と共に戦った。3対1で何とか勝ったのだから、今回同じことになってしまった場合、今度こそおしまいです。
そんなことを内に秘めながらも、カイトたち三人は目の前に建つ巨大な建造物へと入るのでした。
「お前たち…一体何を持ってきた?」
一人の甲冑という防具を着ている槍を持った人間が城の前に立っています。その人間は三人にそう話しかけます。しかし、言葉は通じない。戸惑う三人。
「そこの兵、ちょっと待たんか。」
背後から男の声がそう響き、二人の人間がやって来ました。一人はやせ細った貧相な人間。もう一人は上陸して最初に話しかけてきた人間でした。紫色の布でできた服を着ている男の人です。その人は甲冑を着ている兵に、三人の前から去るよう命令しました。
「悪かったな、貴殿らは確か国外の人間。言葉は通じないのであったな。」
紫色の服を着た人がそう呟き、隣の貧相な人間をカイトたちの前に出しました。その貧相な人間はカイトたちに言います。
「あなたがたは一体何を持ってきたのでしょうか?」
その言葉を訊いた一行は全員驚きました。その言語はカイトたちと同じ言語。話せる人がいたのです!
「え、えっと…あー、その…何をって?」
カイトは訳が分からないという話し方でした。
「もしかして…知らないのにやって来たと?」
頷くカイト。
貧相な体つきの男は少々呆れ気味にため息を吐く。
「まぁ…初めてやって来たのであれば…仕方のないことか。じゃあ、三人共、聞いてください。この城は藤原道長様の新しいお家でございます。藤原道長様は以前に家を火事で失ってしまいました。ここではその火事見舞いというのを運んでいます。」
「…じゃあ、僕たちは必要なさそうですね。邪魔になるといけませんから、僕らはすぐに立ち去ります。」
カイトは丁寧口調でそう答え、帰ろうとしました。
紫色の服の男は貧相な男に言いました。
「大稲荷よ、あの者共に『城内へと案内する』と伝えろ。」
貧相な男は三人に言います。
「待ちなされ、三人の旅人よ。城内へと案内してくれるそうです。付いてきなさい。」
「「「え?」」」
三人は紫色の服の男と一緒に城内の最上階、大広間に招待されました。そこは自然の素材で作られた緑色の床が広がり、左右に紙と木材で作られた扉が何枚も立っていました。奥に紫色の服を着た男が何かを敷いて座っています。三人はその手前にある三つの敷物の上に座りました。
「大稲荷よ。この者たちの、ここへ来た理由を聞き出してくれないか?」
そう紫色の男が貧相な男に言う。男は三人へと通じる言語で問いかけます。
「あなたがたはなぜ、この場所へとやって来た?」
「俺達は成り行きでやって来ただけの放浪人だ。ここを選んでやって来た訳ではない。」
ヘルメスが正当な言い方で答えました。
「そうではなくて…あなたがたがこの城を目指してやって来た理由です。ここに来る必要はないと思いますが…。」
「あ、それね。実はこの行列の正体が知りたくってさ。ただ、それだけだよ。」
カイトはいつも通りに答えました。
「なるほど…。道長様、この者たちはただの放浪人で、ここに来たのは行列の正体が知りたいと、それだけでございます。」
貧相な男は紫色の男にそう伝えました。
「…つまり…無関係だと…?」
「はい、その通りでございます。」
紫色の男は貧相な男に何か囁きます。貧相な体をした男は大急ぎでその場から立ち去りました。無言のまま座っているだけの三人。前には言葉の通じない男一人。気まずい空気がその大広間に立ち込めていました。
「カイト…大丈夫?何か、凄い怖いよ、あの人。」
ルマが心配気に呟きます。
「大丈夫だよ、ルマ。何かあったら僕がいるさ。」
数分が経過。ずっと座りっぱなしの三人と一人の男。
そんな時でした。
「今だ!」
誰かの声がどこからか響き、直後、障子を破って大量の矢が三人の場所目掛けて飛んできました!カイトとヘルメスは座っていた敷物を即座に取り、盾の要領で構えました。ルマを守るように。しかし、さすがに数本の矢が刺さってしまい、そこから出血しました。激痛がカイトとヘルメスを襲いました。幸い、ルマには一本も刺さっていません。
「逃げるぞ!ルマ!」
カイトはルマの手を引き、目の前に座っている男へと突進していきました!紫色の服の男は刀を引き抜きますが、それをヘルメスが矢を放って弾きました。カイトは男の背後に回ると弓を構え、
「動かないで。動くと…二度と空気を吸えない体にしちゃうから。」
そう言いました。その言葉は通じていないが、その行為で男には伝わっていました。これは人質という行為です。
それから障子を破って大量の甲冑を着た人間が入ってきましたが、それはすでに遅い。三人は紫色の服の男を人質に取っています。
ヘルメスはその場にいる相手全員に叫んで伝えます。
「武器を捨てて道を開けろ!この男、藤原道長を殺されたくなかったらなぁ!」
甲冑を着ている人々の中に先ほどの貧相な男がいるのを分かっているヘルメス。その男へと叫んで言いました。紫色の服の男が藤原道長だと言うことも推測で分かっている模様です。
「皆の者、今すぐ武器を捨てて道を開けろ!そう言っている!」
貧相な男が思い通りに通訳して全員に伝えます。みんな、武器を遠くへと投げ捨てて座り込みました。真ん中の道を三人と藤原道長は進みます。カイトは背後を確認しながら進む。誰かが背後から狙い撃ちできないように。そして城の外へと出ました。
「悪いな、藤原道長。いや、悪いのはお前の方か。」
分からないのは承知の上でヘルメスは藤原道長にそう言いました。
三人は大急ぎでその場から立ち去ります。火事見舞いの行列がいるおかげで簡単に逃げ切ることができました。その後、暗い小路地に三人は隠れます。
「ルマ…ごめんね。怖い思いをさせちゃって…。」
ルマは泣きそうな表情で首を振ります。
「そんなこと、どうだって良いよ…。それより、その傷…。」
カイトの左腕、右腹、右足には矢が刺さっていて、そこから出血していました。相当無理をしているカイト。限界が近いのです。
「大丈夫だって…。」
しかし、案の定、カイトはもう立ち上がることすらできませんでした。ヘルメスも二本矢が刺さっているものの、なぜか平気な様子でした。訓練されている体だからです。
ルマはカイトの腕と腹と足の矢を引き抜く手伝いをしました。抜く度にカイトが苦しそうな声を出すので、ルマは泣きながら矢を引き抜いていました。その後、包帯を巻いて応急処置を行いました。