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残存ツンドラ逃走劇  作者: 星野夜
13/21

第12話『スマトラ島にて悪戦苦闘』

「逃げろっ!」

 カイトがそう叫んで、ヘルメス、ネリアはカイトの逃げてゆく方向に付いていきます。その背後から巨体の男が走ってきました。体には何本も矢が刺さり、色んな部位に切り傷ができています。そんな重症にも限らず、その男は全力で走ってきています。その顔は満面の笑みでした。

「どこへ行くんだ?逃がさないぜ。」

 三人は館の木製の壁に空いている穴から外へと飛び出しました!館はほとんどが炎によって燃やされていました。外ではスコールが未だに止まずに降り続け、地面を緩くしています。そんな中、びしょびしょになりながら、泥まみれになりながら三人は全速力で逃げていました。


 数分前のこと。

 三人は奥の部屋へとやって来ました。後ろの部屋ではヘルメスが作り出した火種によって燃えだした炎が勢いを増しています。

「ヤバッ!」

 ネリアがカイトの左腹を急に蹴り飛ばした!カイトはヘルメスを巻き込んで右へ吹き飛びます。ネリアもカイトを蹴ったことで左へと吹き飛びました。その直後、前方から椅子が吹き飛んできて入口の扉に激突して大破しました!カイトは起き上がってすぐさま立ち上がります。

「敵だね!ネリア、ありがと!」

「それどころじゃないわ!」

 ネリアは暗闇にも限らず、ククリを引き抜いて前方へと走り出した!見えない敵に向かって。ネリアの高性能な瞳は闇の中の敵を認識しています。カイトは弓を即座に構えて矢を番える。カイトは敵の攻撃から察して位置を推測します。ヘルメスは巨大な弓に矢は番えず、足音を立てずに近付いていきました。

直後、ヘルメスに向かって何かが飛んできました!ヘルメスはそれに激突し倒れました。それはネリアです!敵に吹き飛ばされたのです。恐ろしい怪力の持ち主でした。

カイトはその物音を聞いたが、闇の中では何が起こっているか分からない。だから、番えていた矢を放ちました。その数秒後に、何かが走ってくる音が聞こえた。それは重みのある足音。カイトは敵だと認識して回避する。が、その腕を何者かに掴まれ、肩に矢を突き刺された!カイトは痛みで声を上げて倒れる。肩には小さな矢が深く刺さっていました。それはカイトの矢!敵はカイトの放った矢を掴み取ったのです!

「カイト!何があったの?!」

 ネリアの驚き声が聞こえます。

カイトの頭上には巨体がうっすらと見えていました。その人間はネリアの声に反応してそこへ目掛けて走り出す。カイトは痛む肩を押さえて立ち上がり、弓に矢を何とか番えます。ネリアとヘルメスは走る足音が近づいてくるのを聞いて、左右に分かれて陣を作りました。ネリアはククリを構え、ヘルメスは弓に矢を番えて構えます。その数秒後にヘルメスは何者かのパンチを顔面に受けて吹き飛び、木製の壁を破って外へと吹き飛んだ。その壁の穴から僅かな光が差し込み、敵の姿が現わとなりました。その男はガタイが良く、巨大な身体をしています。上はTシャツ、下はズボン姿。ネリアは一度、その男に会ったことがありました。

「あんた…あの時の…。」

 その大男はネリアを見ていやらしい笑いを見せます。

「あの時の嬢ちゃ~ん。戻ってきたんだねぇ。わざわざ死にに来る奴を初めて見た。喜んで殺してあげよう。」

 ネリアはククリを構えて大男へと走り出しました。大男は無防備で立ち尽くしています。その巨体の胸部へと刃を突き刺した!が、大男がネリアの腕を掴んで攻撃を止めた。そしてネリアを持ち上げました。ネリアは大男の力によって持ち上がってぶら下がり状態となってしまいました。

「嬢ちゃん、随分と貧相な体してるな。それで良く、あの人数を殺れたもんだ。」

 ネリアはぶら下がった状態のまま、大男を冷たい眼差しで睨みつけます。

「失礼な男ね。女に対しての態度がなってない。こんなだったら、さっきのリーダーの方がよっぽど紳士的ね。」

「女?お前は女というよりはおと―――」

 ネリアはぶら下がったままの体勢から、反動を使って右足で男の頬を蹴りつけた!大男は頬にちょっとした傷ができただけ。痛がる様子がありません。

「生意気なガキには罰を与えてやろうじゃないか。」

 大男はネリアを持つ手を身体より離れさせ、使っていない左拳を構えて殴りかかった!その左腕に一本の矢が突き刺さった!大男の左腕の動きがネリアの眼前で止まりました。その矢はカイトが放ったものでした。大男はネリアを吹き飛ばし、カイトへ歩いてゆきます。ネリアは奥にある椅子の上に落ちて背中を椅子に強打しました。息ができていない様子でした。カイトは痛む肩を無視して矢を番えます。

「ここにも生意気なガキがいやがったか。お前も、そしてあの嬢ちゃんにも…両方共死ななきゃ理解できねぇみたいだな。」

 近づいてくる男に向けてカイトは矢を放つ。大男はその矢を右手で掴み取って折り曲げました。

「な…なんて男だ…。」

 カイトは驚愕と恐怖の表情を浮かべています。そんなカイトに、大男は自分の腕に刺さった矢を引き抜いて突き刺そうとしました!カイトは回避で大男の股下を通り抜け、ネリアの元へと走っていきました。

「ネリア!立て直せる?!」

 ネリアは背中を強打したため、呼吸が上手くできていません。苦しそうな表情でカイトを見ていました。カイトはそんなネリアを肩にかけて起き上がらせます。

「ネリア、意識はあるよね?」

 ネリアは頷く。

 カイトはネリアの安否を確認すると前方を確認しました。その時には目の前に巨体が入った!男が笑顔で立っていました。

「もう終わりか?」

 男はカイトを蹴り上げる。カイトは腹を蹴られて吹き飛び、奥の扉をぶち破って転がり込んだ。腹を蹴られて呼吸ができない。地面で転がり悶え苦しんでいるカイト。

「次は嬢ちゃんだ。」

 大男の目の前に苦しそうな表情で倒れているネリアに、その大男は蹴りを決め込もうとしたが、またしても矢が足に刺さります。今度はヘルメスの矢。壁の穴から目掛けて外にいるヘルメスが射ったものでした。大男がヘルメスへと向く。その瞬間、ヘルメスは大男へと全力の飛び蹴りを決め込みました!その一撃がたまたま重心にヒットしたらしく、大男は体勢を崩して地面に倒れました。

「カイトォ!ネリアァ!逃げるぞぉっ!」

 カイトは蹴られた胸部を押さえながら、壁を使って立ち上がる。ネリアも同じようにして立ち上がりました。

「…ヘルメス、ネリア…逃げろっ!」

 カイトはそう言って壁にできた穴から外へと走り出しました!ヘルメスはカイトの後を追い、ネリアも同様に壁の穴から外へ。

 大男はちょうどその瞬間に起き上がりました。

「どこへ行くんだ?逃がさないぜ。」

 大男は三人の後を追い始めました。全身には切り傷やら刺し傷がいくつもできていて出血している。普通なら死んでいるような重症にも限らず、その大男は満面の笑みで追いかけてきます。幸い、体重のせいなのかは分からないが、スピードはでていないようです。カイトたちはその大男から逃げ続けます。スコールの中、全身びしょびしょでズボンは泥まみれになっていました。カイトは肩を矢で刺されて出血しています。その傷が雨の水に染みて激痛を覚えました。


「ヘルメス、ネリア!作戦を伝えるよ!一回しか言わないから覚えて!」

 ヘルメスとネリアは走りながら頷きました。

 カイトは説明に入る。

「あの男を倒すには手段は一つしかない…。それしか思いつかなかったんだ。…ヘルメスの弓ですら男には効かなかった。だから、今度は特大級の弓矢で男を迎え撃つ!」

「そんなことができるわけ?」

「できるよ。弦の糸ならいくらでもある。問題点は矢の方なんだけど…。」

「それなら、俺に良い案がある。まずはあの化物から逃げ切んねぇとな。」

 ヘルメスは苦笑いでそう言いました。


 スコールは一向に止む気配がなく、地面はより一層ぬかるんでいます。街中では誰も歩いてはおらず、雨音以外は何も聞こえません。

 そんな中を一人の少女がボロボロの体で必死に走っていました。緑色の半袖に迷彩色のズボンを履いていて、その腰には鋭い刃のククリが引っかかっています。体中はスコールによってびしょびしょに濡れていました。膝下のズボンは泥水によって汚れきっていました。少女はぬかるんでいる地面に足を取られながらも何とか走っています。その背後をガタイの良い巨大な男が追っていました。軍人のズボンを履いているが、上はTシャツを着ています。なぜか全身は傷だらけでした。満面の笑みで小さな少女を追います。少女はそんな男から険しい顔付きで逃げていました。

「こっち来んな、変態!」

「逃がさないと言っただろ?待ちな、嬢ちゃ~ん。」

 少女はスピードを上げて逃げる。そして街角の通路へと曲がりました。男からの目線が途絶えたその瞬間、少女は地面をスライドするように地面へと飛び込みました!泥水が大量に顔面へとかかり、少女は全身を泥まみれにしながら地面を滑っていきました。それと同時に巨大な男が角を曲がって追いかけてきました!

「カイト、ヘルメス!」

 少女が泥まみれになりながら何とか叫ぶ。口に泥水が入って気分が悪くなった。

 大男は角を曲がった直後、動きを止めました。前方の異様な光景を見たからです。口を開こうとした瞬間、前方から何かが通り過ぎて行きました。

「作戦成功!さすがは私の見込んだ男!その腕は生半可なものじゃないわね!」

 少女が立ち上がって遠くにいた二人の影へと手を振りました。遠くの二人はそれに応えるように手を振ります。

 大男の中心部には大きな穴ができていました。そこから大量に血液が噴出しています。そのまま男は無言で仰向けに倒れ込みました。地面の泥水に血液が流れ込んで濁っています。

「ネリア!随分と汚い見た目になったね!女の子がそんな下品な格好して…恥ずかしいよ!」

 カイトと呼ばれる少年が笑顔で叫びました。

「うるさいわね!あんたの策に乗ったんじゃない!」

 ネリアは走って行き、カイトの頭を強く叩く。

「痛いなー…冗談だよ、冗談。」

「カイト、その腕、応急処置しとかねぇとな。」


《スマトラ島。大スンダ列島にある一番広い島。赤道直下にあるために気温は高い。》


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