8 おなかがすきました
活動報告にて、少しだけ12話完結予定だったことに触れています。
ダイモスイーグルを倒してからは、モンスターの気配は感じるものの、襲ってくるものはなかった。
うん、実に順調だ。
……まあ、思いっきり隠れてらっしゃるのを引っ張り出すのはあまりにもあまりだしね……。
要するに、ここのボスだったのであろうダイモスイーグルを倒したから、統率はバラバラ、そして私らが別にモンスターに好意的でもないから、こっちをうかがって結構怖がってるというかビビってる感じ。
最初は、睦月が「もう大丈夫だよ」って声をかけようとしたんだけど、逃げられて……。
仕方ない反応なんだけれど、釈然としないなあ。
助けられて、差し出されたその手を信じられない……。
……私自身に当てはめてみたらよくわかることなんだけどね。
これも一種の同族嫌悪なのかなあ。
「睦月。今、リーラグサ林道のどれくらいの位置かどうかわかる?」
内心のイライラを隠すように、爪を噛む。
とりあえず、ちゃんとリーラグサ林道を抜けられるかどうかを知りたい。
そのためには、現在地と目的地の把握は必須事項だ。
「んーっと……そうだね、世界図鑑を使うね」
「お願い」
世界図鑑。
それは睦月がもっているアビリティであり、深度Aの情報さえ知ることができるという優れものだ。
ふつうは鑑定した時に出てくる深度Dの情報で十分だけれども、睦月の持っている能力は重宝する。
「……うん、このあたりだから……あと、数十メートルくらい行けばひらけたところに出るよ」
「ひらけたところ?」
「自然公園にもなる予定があるところみたい。今はほぼ無人だって」
「なるほど。じゃあそこをまず目指して、普通に通り過ぎることができたらラギルアミル文明国に行けるかもしれないってことかな」
「そういうことだね」
目的地はそれなりに近いみたいだ。数十メートル歩けばすぐだろう。
「あ、あの~、お嬢、旦那?」
そんな中、雲雀が申し訳なさそうな声がかかる。
「どうしたの、雲雀」
「お腹すかないっすか?」
あ、確かにお腹けっこうすいてるかも……。
急いでたし、気を張っていたからなあ。
あ、何か意識したらすごくおなかすいてきた。
「あ、言われてみればそうだねえ」
「えーっと、木の実とかでもいいっすから……食べたいっす……できれば、肉……魚……」
肉とか魚は……サバイバル知識がなかったら厳しいんじゃ……。
「手分けして食べられるものを探そうか」
「肉……肉とか食べれるっすかね?」
肉は私も食べたい。魚もだけど。
でも……。
「さすがに鳥をさばくくらいの腕はないかな、僕……」
「じ、じゃあ、木の実で!」
うん、やっぱりさばかなきゃ食べられないからねー……ちょっと無理かな。
魚くらいなら何とかなるかな?
「この辺に魚いないかな?」
「リーラグサ林道の少し向こうの方だったら川も通っているけれど……距離はかなり遠いね」
ぶっちゃけた話、ほぼ逆の位置である。
「諦めよっか……それでもいい? 雲雀」
「うん、木の実でお願いするっす……わがまま言ってごめん……」
わがままなんて……そんなことないのになあ。
雲雀っておちゃらけて見えるのに、実はすごくしっかりしてるよなあ。
……私は雲雀について、ほとんど知らない。
でも……何かあるだろうということはわかる。
せめて、雲雀が何か……私達に打ち明けるまでは、変わらず傍にいたい、そう思った。
「勝手にへこまないで。私達が食べたかったからだよ」
「お嬢……」
「帰ったらたこ焼き奢ってあげる。一緒に食べようね!」
「はいっす!」
よし、食べ物探索開始~、と。
「よし……じゃあ、この木の実はっと……」
赤い、さくらんぼのような実を見つけた。
ふむ、けっこうやわらかいみたい。
***
フレウムの実
――春から夏にかけて小さな赤い実をつける。
小さいものの、甘味として親しまれ、ソースにしてもおいしい。
***
お、これは食べられそうだね。
向こうでは、睦月が何か見つけたようだ。
「こっちは大きい木の実だよ~」
***
ホーウサの実
――大きな木の実で、大人の掌くらいある。
身は柔らかく食べやすいものの、味はあまりない。
***
割とでかいミカンのような実だった。
ふむふむ……おいしくはないかもしれないけれど、お腹はふくれそうだね。
「おおっ、一緒に食べるとおいしそうっす~。っと、こっちにも」
あ、雲雀も何か見つけたみたい。
ここの林……結構、木の実あるねえ。
***
カリットの実
――実を砕いてふりかければ、香ばしい味になる。
年がら年中成る木の実のひとつだが、花の方がおいしい。
***
「花の方がおいしいのね」
「ううっ、ちょっとそっちも気になるっす……」
雲雀が集めているのはどんぐりのような木の実。
花の方がおいしいのか……そっちも気になるかも。
「花は咲いてなさそうね~。先客がいたのかな?」
「じゃあ、これで……ホーウサの実にフレウムの実をつぶしたやつをかけようか」
ホーウサの実の皮をむき、フレウムの実の簡易ソースをかける。
「カリットの実は……よし、これで砕けたっす」
カリットの実は何か道具がいるかと思いきや、あっさり砕けたようだ。
それをフレウムソースがかかったホーウサの実にトッピングする。
「ありあわせだけれど、木の実スペシャルって感じ?」
意外とおいしそう……かも。
何かあれだ、いいにおいで……そうあれ、アイスみたいな感じ?
ホーウサの実が冷たいんだよね、中の実が氷みたいなんだ。
よしっ、実食!
「いただきまーす」
「いただきます」
「いただくっす!」
手を合わせて、それぞれ木の実を口に運ぶ。
おお……何というか結構すごい。
思った以上においしい。
ホーウサの実は冷たく、味のないアイスみたいだったのが、フレウムの実を絞ったものをかけることで、ほどよいあまさと酸味が混ざって、イチゴアイスみたいな感じになる。
さらに、カリットの実がかかっているところを食べれば、チョコアイスのような味になった。
「おお……」
「おいしいっすね……」
これ、売りに出せるレベルだと思う、というくらいおいしかった。
……まあ、私が飢えてるだけかもしれないけれど。
「ホーウサの実が実質ベースみたいなものかな……?」
***
ホーウサの実 深度C
――大きな木の実で、大人の掌くらいある。
身は柔らかく食べやすいものの、味はあまりない。
冷たい木の実とも呼ばれ、一部の乾燥地帯では重宝されている。
ラギルアミル文明国が仕入れているものも多いが、大きいものはそれなりに記帳。
***
「んー、ラギルアミル文明国が仕入れ主っぽいかな? 確かに、ここになっているしね」
このまま持ち込むことができれば、それなりに取引とか路銀になったのだろうけれど、それを言っても仕方がないだろう。
私達は腹ごしらえを終え、本格的にラギルアミル文明国を調べようとした瞬間……。
そこに、光と共に一人の魔法使いが現れたのだった。