6 チートなれども無一文
私達はお互いのステータスを見比べながら、興味深いデータを得られたと思った。
まあ、ひたすら笑ってただけなんだけどね。特に私のステータス。
攻撃特化にもほどがあるよ!
でもまあ、ゲームも先手必勝・一撃必殺には結構憧れていたからなあ……防御は捨てる!
ってな感じで……。
とにかく、それでだいぶ盛り上がった。
ステータスなんて、現実世界では全然ないものだからね。
……まあ、勉強とかはあるけれども、それで家族も社会も変えられない。
変えられる人間はいるかもしれないけれどごくわずかだ。
とにかく一つ、言えることは……。
「なかなかチートレベルの能力なんだねー、これ」
「うん。僕も他の人を見てみたけれど、ステータスは100にも届いてなかったよ」
いつチェックしたんだ、いつ。
……って言っても、割とあった? 兵士とか神官とか。
「それ、ちゃんと戦士とか兵士とかチェックしてるっすか?」
「魔法使いらしき人はいたけれど……魔法攻撃力は72だったかな」
そういえばいたようないなかったような……。
魔法使いといえば、あの怪しげなおじいさんは何だったんだろう。
まあ今はこの異世界ライフかな。おじいさんを思っても何かなるわけじゃないし、少なくともおじいさんはこの国には関係なさそうだし。
「……ただの偽物じゃないの?」
「他の能力が20くらいじゃなかったら僕もそう思うんだけど……難しいね」
うっわ、ひっく。
魔法使いで70くらいか……。
「っていうか、もしかして私ら全員チートなんじゃ……?」
「それは言えてるっす」
向かうところ敵なし!
ヒャッハーできるぜ!
……と思ったのだが。
「でも……いくらチートでも、僕達お金ないよね?」
はい、そうですね。
うーん、チートと言っても、それでお金がMAXとかになるわけじゃないからなあ……。
お金をMAXにするチートコードとか……まあ、あるかもしれないけれど、今は目の前のことだ。
「…………」
「…………」
「…………」
押し黙る私達。
何だか、喋ったら負けな気がするものの、それは全員同じだったらしい。
しばらくして、盛大な溜息と共に、私達は事実を確認した。
「……一文無しだね」
やっちまったい。
「どどどっ、どうするんすか! 無一文で何とかなる世界じゃないっすよ!」
「いや! こういう時は逆に無一文でも何とかなる!」
多分ね。
モンスターとか倒せば何とかなる……と信じてる。
まあ、最悪の場合、ひったくりとか……駄目ですよね、わかっています。
異世界だから言ってみただけです、はい。
「さっすがお嬢! 大した肝っ玉っす!」
「変なよいしょはいいから、あんたのテレポートでどっかに出れない?」
雲雀のテレポートは便利だ。
ホイホイ使えるものかどうかは定かではないものの、テレポートを連発してたらそれなりにいいところに出られるんじゃ……とは思ったものの、MPが足りないか。
まあ、ステータス見る限りだと、レベルアップでHPもMPも全快するっぽいけれどね。
「待って。面白い情報見つけたよ、京香ちゃん」
「ん?」
何やら調べたらしい睦月が、私にウインドウを見せる。
「これは……」
***
ラグセム神殿国の勇者 深度C
――もっぱら彼らはその国での生贄、餌、経験値として使用され、勇者として扱われることはまずない。それゆえに、「世界の敵対者」となってしまったものであふれる。彼らが目指すのは、ラギルアミル文明国だ。
***
なるほど、あの場で勇者が誕生することはありえない……いや、ありえたとしても、ただの「広告塔」だろう。
「勇者」となるのを断れば「世界の敵対者」になるっぽいかな?
そして、それの流れる先が……。
「ラギルアミル文明国? これが次の目的地っすかね?」
それにこれ……もう一つ気になることがある。
「……深度Cの情報?」
「最初に開示されているのは深度Dの情報だよ。一応、深度Aまであるらしいけれど……なかなか扱いが難しくて」
「ラギルアミル文明国までどうやっていくか……あとは、その国の文明や地理、交通手段やアクセスなどが知りたいわね」
「了解」
結論から言えば、検問からラギルアミル文明国まではワープ装置を使うらしい。
そこに行くまではラグセム街道から、リーラグサ林道を通過し、検問をクリアすればラギルアミル文明国に入国できる。
検問はラグセム神殿国のものであり、ラギルアミル文明国は検問にガラクタを置いているらしい。
「もしかして……ロボット?」
「かもしれないっすね」
ガラクタと言われてもピンと来ないが、まさか検問に本当にガラクタを置いているわけではないだろう。
そう思うと、ロボットを代わりに置いているのかもしれない。
「ロボットが検問してんの?」
「いやあ、そればっかりは見てみなきゃどうにも……」
そりゃそうだ。
「とりあえず、行ってみようよ、そのラギルアミル文明国に」
「ここはラグセム街道だから……こっちから行けばリーラグサ林道だね」
ここはラグセム街道でもはずれの方になっているから、このまま道を外れるとリーラグサ林道に行く。
「よっし! じゃあ行こう!」
「おお~!」
よし、無一文からどうなるか……。
ガラにもないけれど、ちょっとわくわくしちゃうね。