11 あたたかな思い出
はあ、一人……か。
「こういう時……どうしてたかなあ、私……」
家は居場所なんてなかった。
それは私だけじゃない。世の中には、私より不幸な人間なんて掃いて捨てるほどいる。
近所の人は味方になってくれていた。そうじゃない人だっているんだ。
両親も……あそこまきつかったわけじゃないんだ。
変わったのは、いけ好かないバカ女が来てから。
あいつは私を友達と言った。私はそれを信じた。そして裏切られた。
よくある話だ。
そして、そのよくある話を信じた親が私への風当たりを強くした。
その時……私は心からあいつら全員を殺してやろうと思ったよ。
『あいつら全員殺してやる! 全員切り裂いて……砕いて……踏み潰してやる!』
当時、幼馴染みだった睦月に、なかば八つ当たりまじりに自分の本心をぶちまけた。
今覚えば、とんでもなく愚かで、とんでもなく子供じみた行為だと思ってる。
だけど、あいつは……。
『京香ちゃんは優しいね』
そう言って、柔らかく微笑んだんだ。
『優しいって……どこから出てきたの、その言葉……』
『え?』
心から疑問に思った。
何故そういう発想になるのか。
もともと睦月が何を考えているのかよくわからなかったが、この時は輪をかけてよくわからなかった。
『私のこと、知ってるでしょ? 気狂いってばかり。親にさえ言われてんだよ?』
『うーん……』
睦月は何かを考えているようだった。
それが何なのか、私はまったくわからない。
『私はあいつらが憎い。殺してやりたいくらい。殺すだけじゃ足りないくらい』
『でも、京香ちゃんは僕を殺さないでしょ?』
『そりゃあ……あんたが別に敵じゃないから』
睦月は敵じゃない。
近所の人達も敵じゃないけれど、睦月は特別だった。
何でだろう、と思ったけれど……それは、次の言葉が決定づける。
『もしも僕を殺したくなったらいつでも言って。気晴らしにくらいは付き合うよ』
……その言葉は、私の心に浸透していった。
『馬鹿っ! 絶対にそんなことしない! 睦月は大事なんだ!』
『ふふ、やっぱり京香ちゃんは優しいね』
本当に、馬鹿な奴だった。
そして、優しい奴だった。
それに付き合う雲雀も。
『京香ちゃん……うん、お嬢って呼ぶっす!』
『何言ってんのよ……頭、大丈夫?』
私がそっけなくしても、雲雀はまったく懲りなかった。
それどころか、前より明るく、それでいてうるさくないほどの音量で私達を励ましてくれた。
『いえいえ! 俺も大変な時にお嬢と旦那に声をかけられて、勇気百倍だったっす! だから……せめて、お二人を守れるくらい強くなるっす!』
雲雀……あんたはいつも無理してばっかりだった。
私が他の連中に後ろ指さされた時も、睦月が他の男子生徒に蹴飛ばされた時も。
いつだって、一番に駆けつけて、相崎先生を呼んでくれた。
男子生徒は相崎先生にメロメロだからそんなところは見せたくなさそうだったから、いじめはピタリとやんだし、女子生徒は昔、ワルだったいう噂を信じて先生を怖がっていた。
「……タイムリミットは、あと少し……かな?」
朝を迎えたら……二人を本当に探す。
そして、相崎先生もちゃんと見つける。
ネツァム……。
「私の居場所は、やっぱりここじゃないよ」
だって、こんな力があっても、本当に望んだのはこういうことじゃないから。
「うん、わかっているよ……マウガン」
あんたが敵か味方かはわからない。
だけど……あの人は私達を試している。
思いどおりになんてなってやるものか。
このまま帰って、居場所がない世界でも自分自身で切り開いてやる。
だって、私はやっぱり睦月と雲雀がいる場所が好きだから。