10 別れは突然に
「返事して! 睦月、雲雀!」
だが、誰の返事もかえってくる様子はない。
マウガンの姿さえない。
それどころか、私が今、いる場所はリーラグサ林道じゃないのかもしれない。
今、私がいる場所は先程のところとは違う場所だった。
植生を見る限り、そこに近い所なのは間違いないが……。
リーラグサ林道にいることを祈るしかない。
「……っ!」
……やられた、と私は思った。
老人……マウガンの狙いが何だったのかはわからない。
もしかしたら本当はラグセム神殿国の追手だったかもしれないし、あるいは本当に修行をつけてくれようとしていたのかもしれない。
だが……私達にとっては有難迷惑にもほどがある。
確かに、マウガンのいうことはもっともだった。
それに虚を突かれた形になったのかもしれない……。
私が、ネツァムの加護を発動できなかったのは。
***
ネツァム
――この世界における、創造神。その加護を受けしものは、すべてを意のままに操ることができる。制御して、元の種族に溶け込むこともできる。
***
こういうことなので、当然マウガンの動きを封じることも見えた。
(乗ってみようと思ってしまった)
私はネツァムの加護なしで、どれくらいいけるのか。
そして……。
(睦月と雲雀が、どれだけ強いのか。強くなれるのか)
私達は、多分、連携の方が強いだろう。
時々、ルールなんてほとんどない、3on3をしたことがあったが、すぐに相手を倒せたことを思い出す。
私は割と連携能力は下がるけれども、睦月と雲雀のコンビネーションはすさまじい。
「怒られるかな、睦月に……」
ある意味、睦月達を試しているようなものだ。
そして、今も。
「ネツァムの加護……今も使えるみたいだからね……」
ネツァムの加護は、神の力と同じ。
だけど、神に縋った時……人は可能性を狭めてしまう。
宗教が悪いと言っているわけじゃない。
しかし、神が人を救うのはただの気まぐれだと思っているのだ。
そんな根っからの無神論者なので、私はあまり多用したくないのだが、
もしも、ネツァムの加護を使えば、私達はまたもとの三人に戻って、三人でラギルアミル文明国に入るだろう。
しかし、私の現在地は不明……。
***
現在地
リーラグサ林道
**
あ、勝手に情報入ってきた。これもネツァムの加護の力かね?
うん、便利だけれど、スマホがあったらこれもなくても大丈夫……って、現実逃避してる場合じゃないよね……。
「どうしよ、私……」
私は、自分が可能性を探したいからって、あの二人を捨てたんだ。
多分だけど、ネツァムの加護で二人をここに連れ戻すこともできるだろう。
だが……それじゃあ、意味がないのだ。
「虚を突かれたのは本当なんだけどなあ……」
あ、駄目だ……。
何を思ってもマイナス思考になってしまう……。
言い訳がましいよね、これ……。
「睦月……雲雀……ごめん」
うん、やっぱり駄目だ。
このまま終わりたくなんてない。
このまま離散したままっていうのは我慢ならない。
マウガンの狙いがわからない以上、それに乗るのは危険すぎる。
ネツァムの加護を……発動する!
「お願い……あの二人を、ここに!」
ビーッ、と脳内にアラートが鳴る。
え、何? 何したの、私?
どういうこと……?
ネツァムの加護自体、使ったことなかったけれど……もしかして自分が使おうと思って使えるものじゃなかったとか?
「いやいやいや、それはない、それはない……」
さすがに、そんなあってないような加護があるとは考えにくい。
それに、マウガンが与えたものかどうかわからないものの、彼が敵とはあまり思えないんだ。
「マウガンは、何を考えているんだろう……」
せめてそれさえわかれば……というか、睦月と雲雀の安否さえわかればなあ……。
***
影原睦月
現在地
――ラグセム神殿国・アークルト公園
状態
――健康
***
お。おお?
***
大前雲雀
現在地
――ラグセム神殿国・ムールト街道
状態
――健康
***
うおおお、わかる! 二人の状態がわかる!
これ、二人がどうなっているかわかるかな?
まあ、状態見る限りでは大丈夫だと思うけれど……。
私が念じた瞬間、二人が何をしているかに切り替わる。
二人とも戸惑っているようだが、雲雀は持ち前の明るさで他人に道を聞いたり、テレポートを芸に用に見せたりして、見事に溶け込んでいた。
睦月も、兵士らしき人にも話しかけられても、いつもと変わらないようなにこやかな態度で応対し、相手の毒気を抜いている。
「……よかった……」
私の口からこぼれおちたのは、安堵の言葉。
二人は無事。
それを知れただけでも、私は嬉しかった。
「この夜が明けたら……その時は私の力で二人と合流しよう」
そう、決めた。
「未来予知」
そう呟くと、二人と合流できる姿が見えた。
大丈夫、二人なら。二人はすぐに合流できると思う。場所もさほど離れてなさそうだから。
ネツァムを……信じよう。
だけど、はじめて……。
私は「神」という存在を意識した。
「人は変われる。たとえ、神様なんていなくても」
チートなんかなくっても。
だって、私達は……私にとって一番大事なのは決まっているから。
「それまでは……利用させてね」
心の中で創造神に舌を出しながら、私は空を見上げたのだった。