司令官の行方
「みんなの所にもいなかったって事は、残るはガルムさんの担当だけか。ちょっと、話を聞きに行ってくるね」
みんながいつまでもフリーズから復活しないので、僕は1人でガルムさんの所へと向かうことにした。
ガルムさんの所に顔を出すと、そこは戦闘の後処理に精を出す獣人たちがいた。
「すいません。ガルムさんはどちらにいますか?」
ガルムさんを捜そうとした矢先に、見覚えのある顔が目の前を通ったので、ガルムさんの居場所を訊いてみた。
「お前はっ!?」
「どうかしましたか?」
声をかけただけなのに、めちゃくちゃ驚かれた。何でだろう?
「い、いや。何でもない。ガルムさんなら、丘のふもとの方だと思う」
それだけ言うと、そそくさとこの場から去ってしまった。ホント、何なんだ?
逃げるようにこの場からいなくなった獣人の事を考えなからも、彼に言われた通りに丘のふもとへと足を進める。
ふもとに降りるまでの間、帝国兵の死体はほとんどなかったが、その代わりふもとは帝国兵の死体の山が出来ていた。
ガルムさんは、そんな山のすぐ側にいた。どうやら、この山の処理の指示を出しているみたいだ。
「ガルムさん、お疲れさまです」
「ん? あぁ、お前か。こっちは見ての通りだ」
「こちらも、問題なく終わりましたよ」
僕が帝国兵の撃退報告をすると、ガルムさんは苦虫を噛み潰したような顔になった。
「俺たちより圧倒的に人数が少ないのに、俺たちと同じくらいの戦闘時間で終わらせるとは…。お前たちのステータスを見ていなければ、信じられなかったところだ」
「それよりも、そちらの相手にした帝国兵の中に、司令官らしき人物はいませんでした?」
「いや、報告では上がってきていないな」
こちらにもいなかったってなると、最初からいなかったのか? 誰1人逃げなかったのは、そう命令されていたから? だからって、誰1人命令違反しないものか? それとも、恐怖政治による統率か? 一気に倒した弊害だな。敵の戦闘に対する気持ちが全然分からない。分裂体を通じて見ていたとは言え、それは遠くからの為、現場の空気までは分からなかった。
「そうですか。もう一つ訊きたいんですが、敵の様子はどうでしたか?」
「様子?」
ひとまず、ガルムさんに帝国兵の様子を聞いて参考にしようとしたんだけど、当の本人は何故そんな事を聞くんだって感じだ。
「僕が担当した所なんですが、最後の一兵になってもむかってきたのが気になりまして」
「そう言われれば、こちらも何かおかしかったな。あそこまでやられているのに誰一人逃げ出したものがいなかった」
こっちもか…。これは戻ったら、リンたちにも確認しないといけないな。
そのあと、ガルムさんと幾つかのやり取りをしてから僕はリンたちの所へと戻った。
「そんな訳で、向こうにも司令官らしきヤツはいなかったらしいよ」
リンたちの元へ戻った僕は、ガルムさんの所で得た情報をみんなに話していた。
「どこにもいない司令官に、誰一人逃げない部隊…」
僕の話を聞き終えたみんなの内の誰かが呟く。
「そこで、みんなにも訊きたいんだけど、戦った連中はどんな感じだった?」
「う~ん。そう言われてもなぁ…」
リンは特に何も感じなかったみたいだ。見てた感じリンはサポートに専念していたからしょうがないか。
「あたしは少し変だなって感じた。なんか、正気に見えるんだけど、正気じゃない感じがしたかな?」
サキがちょっと気になる事を言ってきた。
「ん? サキ、どういう事?」
「はっきりとは分からないんだけど、ほとんどの連中が正気のように見えて正気じゃなかったと思うよ?」
「何かに操られていたのとは違うの?」
「…違うと思う。操られていたにしては、本人の意思を感じたから。だから、正確には意思を誘導されている…かな?」
サキの言う事が真実だとするならば、帝国兵たちは何者かに唆されてこの島に獣人狩りに来たって事か? だけど、それだけで逃げない兵が出来るか? 何か秘密があるような気がする。しょうがない。生き残った帝国兵を尋問してみようか。
「…分かった。それなら、そのあたりも含めて生き残りに聴いてみようかな」
「ノゾム様? 帝国兵に生き残りがいるのですか?」
ルージュが生き残りがいる事に少し驚いている。が、それは他のみんなも同じ…いや、セシリアはそうでもないから、気付いているんだろう。
「うん。フェルたちが担当した所に何人か虫の息だけど、生き残りがいるよ」
新人組は僕の言葉を聞いて落ち込んでしまった。まぁ、本人たちは全滅させたと思っていたんだろう。
「そう落ち込むな。おかげで奴らから情報を引き出せるんだから」
「…しかし」
僕は、落ち込んでいる新人たちに励ましの言葉をかける。だけど、新人たちに効果が薄い。
「いつまでも落ち込んでいないで、今回の件を悔やむ暇があったら、次に生かせ!」
『は、はい!!』
「分かったなら、自分たちが担当した区域から生き残りを探し出し、ここまで連れてこい!」
『はい!!』
一喝して、新人たちを無理やり復活させ、行動させることで考えさせる暇を与えないようにする。
「ご主人様、連れて来ました!」
しばらく待っていると、フェルが生き残りを1人連れてきた。
「まだ、他にもいるはずだけど?」
探知にまだ反応があるので捜索していた本人に訊いてみる。
「とりあえず1人見つけたので、先に連れて来ました。では、捜索に戻ります」
フェルはそれだけ言って捜索に戻ってしまった。
「…イリスさん。悪いんですが、会話が出来る程度いいので、回復してもらっていいですか?」
「いいわよ」
フェルが連れて来た帝国兵はボロボロの上、意識もなかったので、ひとまず回復させる事にした。
「…うぅ」
イリスさんの回復魔法により、兵士は意識を取り戻したみだ。
「目が覚めましたか?」
「…えっ?」
僕は意識を取り戻した兵士に声をかけるも、当の本人は意識が戻ったばかりで、思考が追いついてないようだ。しょうがないので強制的に意識をはっきりさせる事にする。
「『アクアバレット』」
「っ!? 何をしやがr」
「は~い。状況をよく確認してから発言して下さいね」
騒ぎそうだったので、軽く威圧をかけ黙らせる。すると、強制的に口を閉ざされた兵士は周囲へと視線を向ける。
「…何が聞きたい」
「話が早くて助かります。まず、この部隊を指揮している指揮官はどこにいますか?」
周囲に味方がいないと知った兵士は、素直にこちらの話を聞く態勢になってくれた。
「ここではない集落へ向かった部隊の指揮をとっている」
まぁ、ここにいないのなら別の所にいるのが普通だよね。しかし、そうなると逃げ出さない兵士の謎が残るな。
「ここに来た部隊以外にどれだけの兵士が数がこの島に来ているんです?」
疑問を後回しにして、僕は必要な質問を重ねる。
「全部で20000ぐらいだ」
なら帝国兵の残りは17000…。いや、他の集落でもここみたいに撃退出来ていれば、実際はもっと少ないか…。
「攫った獣人たちはどこにいます?」
「すでに帝国に送った」
「どうやって? 船は見かけなかったですが?」
この島に来る途中で、1人西に駆けたけど、船なんて一隻も見なかったぞ?
「それは、転移陣でだ」
「転移陣? 実際にあるなんて聞いた事ないけど?」
転移に関する事は以前、少しだけ調べた事があるけど、転移陣は遥か昔に実在していたと言う文献が残っているだけで、現在は存在していない。長寿であるエルフですら言い伝えでしか聞いた事がないらしい。
「最近になって、ある男が我ら帝国に持ち込んだ技術の1つだそうだ」
1つ? 転移陣みたいな技術が他にもあるのか? 詳しく問いただしたいけど、この兵士はどうみても下っ端。これ以上の情報は出てこないだろう。
「転移陣の場所は?」
僕はそっちの情報は諦め、肝心の転移陣の場所を聞き出す。
「この島の中心から東西南北、それぞれの端に1つずつだ」
それを壊せれば帝国兵が、これ以上獣人を島の外に運ぶ事はなくなるのか。さらにこちらから転移陣を使って、帝国に直接攫われた獣人たちを取返しにも行ける。
「残念だが、お前たちに転移陣は使えないぞ」
「理由を聞いても?」
「あれは、こちらからの呼びかけには答えない。その上使えるのは、ある種族だけだ」
ある種族? もしかして…。
「それって、魔族の事ですか?」
「な!?」
魔族と1発で当てられた兵士は驚愕した。だけど、僕たちはこの件に魔族が関わっている事を知っているから、答えを出すのは簡単だった。
さてはて、魔族が転移陣…ねぇ。
ちょっと長くなりそうだったのでいったんここで切ります。
ありがとうございます。