vs帝国兵
「さぁて、ちゃっちゃと壁を作っていこうか。『ストーンウォール』」
壁を作る位置に着いた僕は、さっさと行動に移る。なにせ、1個だけじゃなく、あと3つ作らないといけないんだから。
ズガガガガガーっと、音を立てながらふもとに向かって伸びていく壁。それに併せて帝国兵の包囲網が止まる。どうやら、こちらの攻撃と思ったらしい。
向こうが勘違いして歩みを止めている間に残りの壁を作り終えてしまおう。
結局、帝国兵たちは壁が出来上がるまで歩みを再開することはなかった。それに、出来た壁を壊そうとする連中も現れなかった。仮に壁を壊したとしても、壁全体が崩落して集落までの道のりが崩れ落ちた瓦礫の上を歩かないといけなくなる。そんなのは帝国兵たちとしても是とはしなかったんだと思う。
「アイツら、こっちの思惑通り動いてくれるかしら?」
壁を作り終えて、向こうの行動待ちの中、リンがちょっと心配そうに呟いた。
「大丈夫だよ。いざとなれば、この壁を使ってアイツらの頭上から攻撃してやればいいんだから」
その気になれば、それだけで終わらせる事も出来ると思うけど、それをすると獣人たちの活躍の場を奪っちゃう事になるから、実行する気はない。
「ノゾム様、帝国兵が動き始めました」
ルージュの報告を聞くに、こちらの思惑通りに3000の兵を均等に分けて進軍してきたようだ。
「よし。こっちも打ち合わせ通りに迎え撃とう」
僕がそう言うと、みんなはそれぞれの持ち場へと散って行く。みんなの姿が見えなくなったところで、僕も準備を始める。
分裂体を6体作り、4体を帝国兵の迎撃に向かわせる。残り2体は各戦場の偵察及び、ピンチの時の救援部隊。つまり予備戦力。そして本体の僕はここで待機。分裂体の操作に集中したいからね。
さてさて、分裂体から見た情報によると、帝国兵たちは初期位置(壁を作った時にいた位置)からすると半分ぐらいは進んだようだな。
ガルムさんたちは、そろそろ打って出る頃みたいだ。一応、ガルムさんを中心に幾人か視てみたけど、だいたいレベルは30~50ぐらい。素早さと筋力は割と高めで賢さは頭一つ分低い感じが獣人としては一般的なステータスのようだ。
対して帝国兵は、レベルが15~20ぐらいが大半でまれに30ちょい手前のヤツがいるぐらい。ステータスもだいたいが同じぐらいで突出しているものはない。
レベルが高い奴は部隊長かな? そうだとしたら、レベルが一番高いヤツが3000人の帝国兵を率いている指揮官とみて間違いないかな? とは言え、こうも人が多いと捜すのも一苦労だ。まぁ、各所の偵察がてらに捜すとしますか。
まず最初に様子を見に行ったのはリンの所だ。相方は…ルージュか。
誰が誰と組むかはみんなに投げたから、どうなってるかは見に行かないと分からない。
このコンビは問題ないだろう。そもそも、今回の帝国兵レベルな、リンがいれば300人程度相手にならない。むしろ、この機会にルージュのレベルアップを図ってもらいたいぐらいだ。
少しだけ様子を見ていると、ルージュがホールたち使い魔を全て召喚して指示を出し始めた。ホールたちに指示を出しながら、召還した本人も突っ込んで行くのはどうかと思うが、危なくなったらリンが魔法で援護しているので、まぁいいか。
ところ変わって、次の場所の状況が入ってきた。…ここは、サキとイリスさんのコンビか。前衛のサキに後衛のイリスさんとは、なんとバランスのとれた組なんだろう。
2人の戦い方はそれはそれは模範的な戦い方だった。前衛が敵に近づくまでの間を後衛の魔法による牽制で時間を稼ぐ。前衛が敵をかき乱している間に後衛が範囲系魔法の準備。そして、準備が出来たら前衛が離脱をし、魔法で一掃する。これを繰り返して帝国兵の数を減らしている。うん。ここも問題なさそうだ。
次に分裂体が到着した場所で戦闘をしていたのはセシリアとアイラさんだった。戦闘スタイル的には中衛と後衛のコンビだからちょっと心配だけど大丈夫かな?
そう思ったのは、2人の戦いを見るまでだった。
セシリアは尾を6つにまで増やし帝国兵を圧倒している。アイラさんはと言うと何故か彼女も帝国兵の中にいた。しかし、近接戦闘スキルをほぼ持っていないはずなのに何故彼女は帝国兵たちに接近戦を挑んでいるんだろう? しかも、帝国兵たちを圧倒しているし…。とりあえず、アイラさんには後で問い質す事にしよう。
最後に新人たちの戦場に到着した。組み合わせの都合で不安要素になってしまったセシリア、アイラさん組だけど、僕の本命不安要素はこっち。人数は多いけど、経験的なもので危ういんじゃないかと思ってる。
案の定、圧倒している訳ではない。むしろやや苦戦はしているようだ。見る感じ1対1だと新人組の方が上だけど、リンたちほど圧倒できる訳じゃない。それが苦戦の理由だろう。やっぱり、数の暴力に勝つには圧倒的な質をぶつけるしかないのかなぁ?
さて、見守っている感じだと、少し手を貸さないとマズいかな? 最終的には勝てるだろうけど、何人か犠牲を出しそうだ。なので、ちょっと援護射撃する事にするとしよう。
敵陣のど真ん中に魔法をぶち込むのは、新人組にも被害が出る可能性があるので、あえて前線から一番遠い所、つまり戦線の一番奥に魔法をぶち込んだ。撃ち込んだ魔法はサンダーショック。これを数発撃ち込んだ事により、帝国兵は目に見えて動揺し始めた。
新人組は、帝国兵たちの動揺を見逃すことなく一気に攻勢に出る。…これでここは大丈夫かな?
ちなみに、こうして分裂体を使って各所を見て回っているのに集中しているが、自分の所は4ヶ所ともとっくに終わっている。4ヶ所ともサンダーシャワーを2~3発落としただけで終わってしまった。生き残りもなし。一応、司令官っぽいやつがいないか確認してから放ったから問題はない。いや、司令官がいなかったって問題はあるけど、それはそれ。
身内が問題なく乗り切れそうなので、獣人たちの戦況を確認する為、分裂体を向かわせてみる。
獣人たちの戦闘は意外にも、既に終わりかけていた。獣人たちの身服を見る限り目立った傷を負っている者は少なく、苦戦した様子もない。こんな事なら、もう1ヶ所ぐらい任せればよかったかな?
しかし、帝国兵たちはこれだけやられているのにどの箇所でも逃げ出すのがいないのは何故だ? ん~。1人で考えても分からないから、リンたちと合流した後に話し合ってみよう。
僕が分裂体を帰還させみんなの帰りを待っていると、程なくしてみんなが戻ってきた。
「お疲れ様~」
「お疲れって、言う事はそれだけ? 他にも言う事あるでしょ? 怪我してないとかさ?」
僕の労いの言葉が少なすぎたのか、リンが噛みついてきた。
「無いよ。だって、ある程度は見てたから」
「見てたですって!? ノゾム、あなた自分の担当箇所はどうしたのよ!!」
「それはちゃんとやってたよ」
「じゃあ、どうやって見てたのよ!!」
「そんなの簡単だよ。全部で6体の分裂体を作ったんだから」
「へ?」
僕の言葉が予想外だったのかリンはフリーズしてしまった。だけど、それはリンだけじゃなく他のみんなも一緒だった。
「もしかして、3体ぐらいが限界だと思ってた?」
「………(コクコク)」
フリーズしているリンだったけど、僕の質問には首を縦に振る事で意思表示だけはしてくれた。
「実は、並列思考のレベル分だけ操る事は出来るよ。作るだけなら、魔力と血肉がある限り幾らでも」
『…………』
みんなドン引きしている。もしかして、大量の僕とか想像しているのかな?
「そんな事よりも、みんなの担当箇所には司令官っぽい人いた?」
『………(フルフル)』
みんな首を横に振る。いやさ、喋ってよ。
ありがとうございます。