獣人たちの集落
あけましておめでとうございます。
本年も本作品をよろしくお願いします。
今回の話の為に、最初の方を少しだけ修正しております。
ですので、暇があれば最初から読み直してみてください。
あえて、何処を修正したとかは言いません。
「始祖の事は分かりましたが、スキルを持っているから生まれ変わりと言うのは、早計では?」
このままセシリアを始祖とらやにしておくと、この先獣人たちとの関係がめんどくさいものになりかねないので、違うんじゃないアピールをしてみることにした。
「お前の言うことも分かるが…」
ん? 問答無用で否定されると思ったんだけど、これはもっと押すべきか?
「狐人とスキルだけで生まれ変わりと言うのは決定打に欠けますよ。せめて身体的特徴とかも一致しないと」
と、押せばいけると思ってしまった僕は、調子に乗って余計なことを口走ってしまった事に気付かなかった。
「身体的特徴…か。…そうだ!始祖様は銀髪だったと言われている。始祖様! 貴女も本当は銀髪なんですよね?」
なんだ…と! セシリアの銀髪は始祖とおなじだったのか!! これはマズい。この事が知られたら、確実にセシリアは始祖の転生体だと認定されしまう。頼むセシリア、上手く誤魔化してくれ!!
「は、い。私の髪の、色は銀髪…です。今は…妖術で変え、ていま、す」
セシリア~~~!!? 何で正直に答えちゃうのさ~!! って、さっきの命令を解除するの忘れてた!! 終わった…。これは、確実に獣人たちともひと悶着起こるわ…。
「あの、よければ本当に銀髪かどうか見せてもらってもよろしいでしょうか?」
「えっと、これでい…いです、か?」
『おぉ!!』
これから起こるであろう厄介事への絶望感に打ちのめされている僕を余所に、周囲はセシリアの銀髪で盛り上がっていた。
なお、リンたちは僕に同情するかの如く、暖かし視線を送っていた。
「そうだ! いつまでも始祖様をこんな所に居させるわけにはいかない! 俺たちの集落へと招待してはどうだろうか!!」
「確かに! 集落の奴らにも始祖様が再びこの地に訪れた事を知らせねば!!」
「よし! 一足先に戻って、歓迎の準備をしてくる!」
「なら、我らは歓迎に必要な獲物を狩ってくる!」
「長よ、始祖様の事を頼んだぞ!」
「おう! こっちは任された。お前たちも頼んだ。だいたい5時間後に開催できるようにしてくれ」
『おう!!!』
1人の獣人が何を思ったのか、セシリアを自分たちの集落へと招待すると提案すると、あれよあれよと言う間に話は進み、気が付くとガルムさん以外の獣人たちはこの場から立ち去ってしまった。
もちろん、気絶してした獣人たちも。
当の本人たちは急に叩き起こされて、事態も飲み込めぬまま、仲間の気迫に圧されていたけど…。
ってかガルムさん、長とか言われていませんでした?
「ガルムさんって、長…だったんですか?」
他に優先で訊かなければいけないことがあるのだけど、そっちは既に手遅れなので、ひとまず放置することにした。
「ん? あぁ、言ってなかったか。長と言ってもほんの1ヶ月ほど前になったばかりだがな」
そう言うガルムさんは少しだけ表情を曇らせた。この感じだと、なになら普通じゃない事情で長になったみたいだ。
「そうなんですか。っと、そう言えば集落には僕たちも行ってもいいのですか?」
長の件に深く関わる気が無いので、さっさと話題転換の為に、集落に行っていいのか訊く。
「こちらとしては、同族以外を集落に連れて行くのは…」
僕たちを集落に連れて行くのに難色を示すガルムさんだったが…
「ノゾム様た、ちが、行けない所に…私だけ行くな、んて嫌で、す!」
「…分かった。集落へ招待しよう」
鶴の一声で、あっさりと折れたのだった。
セシリアが始祖認定された事による、これから起こるであろう面倒事ばかりに目が向いていたけど、こんな風に獣人側に意見が通りやすくなったと思うと、少し考え物だなぁ…。
セシリアのおかげで誰一人、仲間はずれにされる事なく獣人の集落に向かう事になった。船長たちは、船を置いていく事に少し抵抗があったようだが、何とか説得して一緒に集落に行く事になった。
「ガルムさん。ちょっと訊きたいのですが、この島に獣人が住む集落は幾つぐらいあるんですか?」
「詳しい数は、長である俺でも把握していない。いや、先代でも把握していなかっただろうな」
「何故です?」
「幾つか理由はあるが、主な理由は2つだ。1つ、この島がかなり広大な事。2つ、集落間の交流があまりない事。そのせいで、いつどこに新しい集落が出来たのか分からないんだ。それに今は、帝国の獣人狩りもあって、集落の数はとてもじゃないが把握できない」
何となく気になったから質問してみたけど、これって思った以上に、拙いかもしれない。集落間での交流が希薄って事は、帝国の獣人狩りが行われている現状、どの集落が無事なのかも分からないって事じゃないか。下手をすると、ガルムさんの集落以外全滅だってありえる。…さて、これは一体、どうしたらいいもんか…。
「それって、現状マズくないですか? 帝国の獣人狩りで生き残っている集落がどれくらいあるか把握できていないって事なんですから」
「それについては、現在交流のあった集落に遣いを出して無事を確認しているところだ」
一応、動いてはいるのか。しかし、そんな中で始祖の歓迎をするって事は…。はぁ~、絶対厄介な事を企んでいるな。
「ちなみに、交流のあった集落で生き残っているのはどれくらいなんです?」
「俺たちの集落と交流のあったのは5つ。どれもこの島では大きい部類に入る集落だ。5つのうち、3ヶ所は無事を確認した。残る2ヶ所も今日明日で遣いが戻ってくるはずだ」
聞くところによると、獣人たちの集落は基本100人単位で形成されているらしい。ガルムさんの所はその中でも大きいらしく、1000人ほどが暮らしているとの事。
あと、帝国の獣人狩りの被害に遭った集落は分かっているだけでも20はくだらないらしい。なんでも、獣人狩りに遭った集落では必ず、1人か2人は逃げ延びる事が出来るらしい。そして、その生き残りの証言で被害の数が分かったらしい。
うん…。帝国の奴ら、わざと取り逃がして、次の集落に案内させているな。でなければ、毎回生き残りが出るはおかしい。
それにしても…。大きい集落が全部同じぐらいの人数だとして、約5000。獣人狩りに遭った集落が1ヶ所につき100人だとして、約2000人。合わせて、7000人に無事な集落や誤差をみても、1万いるかいないかってところか。この島は北海道ぐらいの面積があるのに住んでいる獣人が1万しかいないのは少なくないか? これだけの面積があればもっといてもおかしくはないと思うんだけど?
いや、それを言ったら、もっと前から引っかかっている事がある。この世界に国が3つしかない事だ。王都、帝国、魔国の3つ。自由都市は国ではないから数には入らないが、王都と帝国、それに自由都市がある大陸は、面積で言うならユーラシア大陸並にあるはずだ。なのに、国が2つしか存在しない。これはこの世界に来た時から感じていた違和感。そして、王都を離れ、各地を転々とするうちに感じるようになった事。
もしかして、この世界って人口が少ない?
「ノゾム? さっきから黙り込んでどうしたの?」
「えっ? …な、何でもないよ。ちょっと帝国兵の事を考えていただけ」
「ふ~ん…」
リンの呼びかけにより、思考の海から引きずり出された僕は、周囲を見渡し、いかに自分が考え込んでいたのかを思い知らされた。と、言うのもいつの間にか目の前には、獣人たちの住む集落があったから。
「始祖様、ようこそ俺たちの集落へ。歓迎の宴の準備が出来るまで、窮屈だと思いますが俺の家でお待ちください。お前たちも始祖様と待ってくれてていい」
「分かりました。お世話になります」
集落に到着したので、周りの目を気にするのであれば、始祖となっているセシリアが受け答えするべきなんだろうけど、当の彼女は僕の後ろに隠れて出てこないので、代わりに僕が対応している。
「これからどうしようか?」
ガルムさんの家に案内された僕たちは、歓迎の宴が始まるまでの間に、これからの事を話し合う事にした。
ちなみに、船長たち船乗りは家に入りきらなかったので、別の家に案内された。
「その前に、ノゾムはどうなると考えているの?」
リンが話し合いを始める前に僕の予想を聞いてくる。
「…そもそも、このタイミングで始祖様歓迎の宴を開く事自体、裏があるんだよ」
「裏? 純粋に始祖再来を祝いたいんじゃないの?」
「帝国が獣人狩りをしているこの時に? 僕ならそんな時期にはやらないよ」
サキがなんの疑いもなく聞いてくるが、僕はそれを否定する。
「サキさん。この大変な時期にあえて歓迎の宴をすると言う事はですね。周囲の集落に始祖と言う旗を喧伝し、獣人を一つに纏めようとしているのです。多分ですが、今歓迎の準備で散り散りになっている彼らのうち、数名は場所を把握している集落に始祖の事を伝えに走っていると思いますよ?」
ルージュが僕の代わりに、この時期に宴をやる理由を説明してくれた。
「何それ? セシリアの事を始祖とか言って、勝手に持ち上げていたのにはそんな事を考えていたからなの!」
「落ち着きなよサキ。彼らもこの時期じゃなければ、純粋に祝ったと思うよ?」
獣人たちの思惑にサキは怒り心頭だ。まぁ、その気持ちは分かる。ただ、時期が悪かった。
「それで? 獣人たちの思惑が、セシリアを御旗にしての獣人の意思の統一だとして、その先は?」
リンが脱線しそうな話を元に戻す。
「考えられるのは2つかな? 一つは、御旗として拘束される。期間は無期限かな? もう一つは…」
「大変だ~~~!! 帝国の奴らだ~~!!」
唐突に響く帝国兵の襲撃を知らせる声が僕の声を遮った。
ありがとうございます。