地雷は予想外の所にも埋まっている
「…こ、これには事情が…」
「事情ってなんだよ! そんなヒト族の勝手な言い分で、我らの同族は物扱いされているのか!!」
「やっぱり、帝国の人間は口だけだ! どうせこの島に来たのも、他の帝国兵を回収するためだろ!!」
自分の迂闊さのせいで、和解のチャンスを逃した僕は現在、獣人のみなさんから糾弾されていた。
「それにアイツ、自分の同族も奴隷にしているぞ!」
また微妙に否定できない事を言ってくれちゃったよ!? 確かに、同族も奴隷だけさ。だけど、リンに限らず人組以外のみんなは、それぞれ自分の意志で僕の奴隷でいてくれている。
むしろ解除しようとすると抵抗するぐらいだ。
「おい! 何かと言えよ!!」
獣人の1人がリンたちをかき分け、僕の胸ぐらを掴み、睨みつけてくる。
おっと。何て言うか考えている間に向こうの我慢が限界に達したようだ。これは、黙っているとなくられそうだな? …一度殴られれば、彼らの怒りが少しは静まるかな?
ぞくっ!
何だ!? 急に悪寒が!
殴られる事で、話を穏便に進めようと考えていたら、悪寒がしたので原因を視線だけで捜してみる。
…うん。身内からだった。
こんな時って普通は、殴りかかってくる方に殺気を向るよね? 何で僕に殺気を向けてるのさ?
って、思ったけど、殺気に当てられているのは獣人たちも同じようで、彼らは青い顔でガタガタと振るえている。
「みんな、彼らの言ってる事も分かる。だけら殺気をしまって。これじゃあ、話も出来ないよ」
僕がみんなにお願いすると1人、また1人と殺気を抑えてくれた。
なお、リンだけは最後まで殺気を抑えてくれなかったけど…。いやね、貴女が一番強力な殺気を放ってるんですよ?
「さて、ここまでになると僕の言葉を信じるのは無理っぽそうなんで、そっちからどうすれば信じられるのか案を出して下さい」
何とか騒ぎが収まったので、僕は獣人たちに問いかける。
「その前に、何故そこまで俺たちに信用されたがる? ここまで歓迎されていないんだ。俺たちとの接触は諦めるのが普通だろ?」
昨日、僕と受け答えしてくれた男性獣人が、逆に質問をしてきた。
まぁ、普通はそう思うよね。僕だって逆の立場なら同じ考えに至るよ。それでも、これからこの島で起こる事を思えば、無理をしてでも信用は得ておきたい。せめて、敵ではないと言うぐらいの信用は。
「う~ん…。幾つか理由はあるんだけど、一番の理由はお互いの為にかな?」
「お互い? 自分たちの為ではなく、俺たちも?」
「僕たちはこの島で起こる争乱をどうにかする為に来たんですよ。まぁ、戯れ言と切って捨てても構いませんが、その場合、この島に住む獣人に未来はないと思った方がいいです」
彼の質問に答えるついでにこの島に来た理由を簡単に説明する。
「そんなの嘘に決まっている!!」
「どうせ、お前らが我らを帝国に連れて行くのだろ!!」
「ただでは殺られんぞ! そちらも命をかけろよ!!」
僕の言葉をキッカケに獣人側が再びヒートアップする。
「静まれ!!!」
『っ!!』
獣人側の熱がピークに達する前に、僕と話していた獣人が他の獣人たちを一喝して黙らせる。
「今は、俺が話している。終わるまで割ってくるな。…すまなかったな。とりあえず、この島で起こる争乱について聞きたいのだが?」
「いえ…。それよりも、僕の話を信じるんですか?」
僕は、彼が獣人たちを黙らせたことよりも、話を詳しく聞いてきた事に驚いた。
「こちらも、この島で何が起きようとしているのか、把握したいんだ。そのための判断材料の1つにしたいんだ」
「そう言う事なら、僕たちの知っていることを話しますよ。まず…」
僕は魔族が魔物をこの島に集めている事を彼に説明した。
「魔族の目的は…俺たちなのだな」
彼は、話を聞き終わると、魔族の目的がなんなのか察したようだ。
「おそらく、帝国もそうだと思いますよ。予想ですけど、魔族と帝国は裏で繋がっているんじゃないかと」
「…だろうな。獣人狩りで狩り漏らした獣人は、この島を魔物の軍勢が蹂躙する事により、生き残りを消そうとしているのだな」
そして、奴隷となった獣人は戦争で使い潰す。これでこの島の獣人は殲滅される事となる。そうなれば、大陸に住んでいる獣人たちはヒトを憎むだろう。その先は、ヒト対獣人の戦争。
あくまでもこの流れは僕の予想だけど、そこまで外れるとは思えない。まったくこのシナリオは誰が考えたものなのか…。
「僕たちは、それを阻止するために来たんですよ。ただ、帝国がいるのは予想外でしたけど。それでもやることは変わりません」
実際は、どうせ関わることになりそうだからとか、アイラさんが気になっているからとか本音は別のところにあるけど、それは言わないお約束。
「なら、まずはお前たちが、俺たちの敵ではないと証明してもらおう。それが出来れば、お前たちを信用しよう」
「方法は?」
「まずは、お前たちのステータスを見せてくれ。お前たちが本当に奴隷関係を結んでいるのか確かめたい」
…いきなり、難題をふっかけられた。どうしよう? 新人組は問題ないからよしとしよう。ただ、僕たちはそうはいかない。ヴァンパイアに魔族、堕天使と問題だらけだ。問題ないのは、セシリアとアイラさんぐらいだろう。ルージュは名前で王族関係者だとバレるから、そこは彼らの反応次第だろう。…悩んでいてもしょうがない。吉と出るか凶と出るか。いざ、勝負!!
「…分かりました。ただし、見せるのは貴方だけでいいですか? こちらとしては、安易に公開できない事情を持っているものがいるので」
「分かった。俺以外見ないように少し離れてもらう事にしよう」
彼は、そう言って他の獣人たちを下がらせる。
「それじゃあ、まずは僕から…」
「なっ!!?」
僕のステータスを見た彼は驚きのあまりに固まってしまった。…どれが一番衝撃だったのかな? 種族? ステータス? …両方かな。
「あの…。次、いいですか?」
「え? …あ、あぁ。お、おう」
僕が声をかけると、何とかこっちに戻ってきてくれたけど、若干言動がおかしい。だけど、そんなのは無視して次に進める。だって、この先まだまだ驚くだろうから。
「リン、ステータスを見せて。ちゃんとした方で」
「………」
次に見せるのをリンにしたのだけど、彼女から返事が返ってこない。もしかして、獣人たちに対しての怒りが収まっていない? これから身内を宥めるとか勘弁ですよ? せっかく向こうが話を聞いてくれるところまで来たんだからさ!
「リン?」
「分かったわよ。はい」
「!!」
二度目の問いかけでようやく返事をしてくれたリンはステータスを彼に見せてくれた。あの驚きようから偽装無しの方をちゃんと見せてくれたようでほっとする。
ちなみにステータスは彼にしか見えないようにする為に、彼の目の前で開示されているので、僕の位置からではリンのステータスは見えない。
「じゃあ、次はサキとイリスさんお願い」
「っ!!」
次に選んだのは、サキとイリスさん。一応、人類の敵として認識されている種族だから一気に見せてしまおうと言う魂胆。説明も一回で済むしね。
案の定、彼女らのステータスを見た彼は、2人に対して敵意の目を向ける。
「殺気をしまって下さい。彼女たちは僕の奴隷です。それに彼女たちに人類を害する意思はありませんよ」
「だがっ!!」
「それに最初にも言った通り、こうなるのが目に見えていたからこそ、見せるのを貴方だけにしたんですよ」
「……」
「それに、ステータスを見せるように言ったのは貴方の方ですよ?」
「…悪かった。続けてくれ」
ひとまず納得? してくれたみたいだ。ここを乗り切ったらあとの問題はルージュだけ。
「分かりました。ルー、お願い」
「はい、ノゾム様」
「この名前は!?」
「それもここだけの話でお願いします」
「…お前たち、訳あり過ぎないか? 本当はこの島に逃げてきたんじゃないのか?」
そう言われると、確かに事情を知らない人からすれば、人目を避ける為に逃げてきたと思われても仕方がないメンツだな。
「そう言われても仕方がないですけど、違いますよ。それに訳ありは今ので打ち止めですし」
あとはアイラさんとセシリア、それに新人組。種族にしてもヒトと獣人、ハーフエルフしかいないし、これ以上彼が驚くようなものはない。
そう思いながら、アイラさんとセシリアのステータスを開示させる。すると、何故かセシリアのステータスを見て、彼は今までの中で一番の驚き顔になった。
「な、何故!? いや、それよりも…」
「…どうしたんです?」
何故か言いようのない不安を感じながらも、彼に声をかけてみる。
「お前! 何故、この御方を奴隷にしている!! 今すぐ解放しろ!!」
僕が声をかけると、先ほどまでの落ち着いた雰囲気から一転、怒りを滾らせながら僕の胸ぐらを掴み上げた。
「ちょ、ちょっと、待って下さい! い、いったい何の事なんですか?」
「何の事だと! そんなの、始祖の生まれ変わりである、この御方の事に決まっているだろ!!」
彼が何を言っているのか分からないので質問してみると、掴んでいた胸ぐらを突き飛ばすように離し、彼の言う『この御方』を指し示す。
そう、親から虐待を受け奴隷へと身を落としたはずのセシリアを
ありがとうございました。
悲報 今月の24日の仕事がなくなってしまいました…。
これは引きこもり確定ですね…。
テレビも付けずに過ごさないと…