どうあっても誤解は解けないようだ
昨日で、連載開始して2年が経ちました!
いやぁ、時間が経つのは早いですね!!
物語も中盤に入っていますが、これからも本作品をよろしくお願いします。
「う、う~ん。あ…れ? 僕は…」
「目が覚めた?」
いつの間にか寝ていたらしい僕は、ベッドから起き上がると側にいたサキが心配そうに僕の顔を覗き込んできた。
「えっと、何で僕は寝ていたの?」
「ノゾム君、覚えてないの?」
現状を把握しきれていない僕の言葉に、サキが少し戸惑っている。
そんなサキを見た僕は、ここで寝ていた原因を思い出すために、朝からの行動を思い返す。
「えっと、確か…。日の出前に起きて、海岸沿いにリンたちを探して歩いていた。そして、やっと見つけたと思ったら…って! いきなり、リンに殴られたんだ!!」
「よかった。ちゃんと、思い出せたんだね」
自分の身に何があったのか思い出した僕を見て、サキが安堵する。
「色々心配かけてゴメンね」
「ん。ノゾム君が無事で良かった。あと言葉はリンさんにも言ってあげて。リンさん、ノゾム君が飛び出した後を追おうとして大変だったんだよ!」
サキに謝ると、彼女は目の端に涙を少し浮かべながら僕が無事だった事を喜んでいた。
「…また殴られないよね?」
「そればっかりは分からないよ」
サキが苦笑いで答える。僕は覚悟を決めてみんなの所へ行くことにした。
「ノゾム、様!? 大丈夫、ですか?」
「主様、もう起きて平気なの?」
「ノゾム様! ご無事でなによりです!」
「望君も味方にダウンさせられるとはね~」
ベッドのある部屋を出ると、ここが船の一室だと分かったので、甲板へと向かう。
甲板に出ると、みんなが僕に気付く。
ちなみに、セシリア、イリスさん、ルージュ、アイラさんの順で詰め寄られた。ってか、アイラさんは僕の心配より、リンに殴られた事をからかってきた。そんなみんなに続くように、新人組も僕の元に集まってくる。
「心配かけたみたいだね。もう大丈夫だよ」
心配をさせた事を謝り、1人だけ甲板の端にいる人物の元へと近づく。どうか殴られませんように…。
「リン。ただいま」
「………」
返事はない。ただのお怒りモードのようだ。
「無事に戻ってきたよ? …えっと、ゴメンね。あの時は勝手に飛び出して」
「…………」
まだ、反応がない。そして、海の方を見ていて僕の方へは一切視線を向けない。
「とりあえず、あいつは海底に落として巻いてきたから、ここに来ることはないと思うよ?」
反応がないので、一方的に話しかけるしかない。
「そうそう、昨日なんだけど、この島に住む獣人と接触した、と言うか襲われたんだよ。もちろん、返り討ちにしたけど」
「……………」
「あ、あの~リンさん? 聞いてます?」
さすがにそろそろ辛くなってきたので、ストレートに呼びかける。
「……………」
名前を呼ばれたことでこちらをチラッと見たけど、すぐに視線は海へと戻ってしまった。
「りんさ~ん」
「………………いきなり殴ってゴメンなさい」
再度名前を呼ぶと、リンはギリギリ聞き取れるほど小さな声で謝ってきた。どうやら、怒っていたんじゃなくて謝るタイミングを見計らってはいたみたいだ。
「あ、あぁ。まぁ、僕も悪かったし、お互い様だよ。次からは気を付けよう」
「…うん」
リンはまだ僕を殴った事を気にしているのか、表情が少し暗い。
僕はこの空気を変えるために、昨日の獣人たちとの話をみんなに伝える事にした。
「そうだ、リン。聞いてほしい話があるんだ」
「…? 何?」
首を傾げるリンを余所に、みんなを呼ぶ僕。
「ちょっと待って。この話は皆にも聞いて貰いたいから。お~い、皆も集まって!」
皆が僕の呼び声を聞いて集まる。そして、皆が揃ったところで、獣人の話を皆に伝える。
「…って、事らしいんだけど、どう思う?」
話し終えたところで、皆の考えを聞く。たぶん僕と同じ考えになっているとは思うけど。
「…帝国」
「………」
「それって、偶然で…すか?」
「きな臭いどころか、確実だと思うわ」
「帝国の獣人狩り…。もしかして、戦争のためですか!?」
発言はリン、サキ、セシリア、イリスさん、ルージュの順。
それにしてもルージュの考えは無かった。けど、そうか。僕は今しか考えなかったけど、何故獣人狩りをするのかって視点から見ると、王国との戦争の為に戦力確保って理由も考えられるな。
そうなると、帝国も戦争を仕掛けようとしていると見て間違いないだろう。
仮に戦争したくないけど、王国が戦争準備をしているから仕方がなくその対応をしているってなら、獣人狩りなんてするはずがない。自分たちの正当性を説いて、協力を願い出た方がいいに決まっている。
「アイラさんはどう思います?」
僕は発言の無かったアイラさんに話を振る。なお、新人組は僕と同じ考えに至ったようだ。
「…私は、帝国の動きは誰の思惑なのかが気になるわ。帝国のトップなのか、魔族なのか、それとも…」
そう言ってアイラさんは考え込んでしまった。彼女が言わなかった言葉の続きは多分…
「っと、これ以上は帝国の人間か魔族を捕まえて吐かせないと分からないから、次に僕たちはこれからどう動くのかを決めよう」
「魔族の計画を潰すんじゃないの?」
リンが不思議そうに僕へと問いかける。
「その為にはどうしようかってこと。帝国の事もあるしね。まず、この島に住む獣人の所に行く案。次に、魔族を探し出して叩く案。あとは、獣人と魔族を後回しにして、帝国側から片付ける案。と、ひとまずぱっと思いつくのはこの3つかな?」
「ノゾム君。その3つを同時にこなすのはダメなの?」
サキが3ヶ所同時展開を提案する。僕もそうしようか考えたけど、選択肢から外した。理由は…
「魔族も帝国も、どれだけの戦力を揃えてきているのか、判らないからそれは出来ない」
そう、相手の規模が判らないからのがこちらの戦力を分散できない最大の理由だ。
仮に3つに分けたとして、その人数で対処できなければ分ける意味がほとんどない。
まぁ、偵察と割り切れば意味はあるけど、それを伝える他の2ヶ所の位置が判らなければやっぱり意味がないのと同じだと思う。
「だから、ひとまずは連中の目的である獣人たちと接触して、連中が襲ってきても対処できるようにしておこうと思うんだけど、どうかな?」
「そういう理由なら、誰も反対はしないんじゃないかしら?」
リンが周りを見渡しながら皆に問いかけるてみても、誰も反対する人はいなかった。
「それじゃあ、獣人の村? 町? を探そうか! …って、おもったんだけど、船長さんたちはどうしよう?」
「どうしましょうって、主様? 連れて行けばいいじゃない?」
「そうもいかないかもしれないんだよ。獣人たちは今、帝国のせいでヒトと言う種族全体を敵視しているんだ。そんな中で、この人数のヒトを連れて行くのはちょっと…ね」
イリスさんが普通の答えに対して、僕はそれが出来ない理由を話す。
「けど、ここ、に残ってもらうのは危険…です」
「だからこそ、どうしようか悩んでいるんだよね」
セシリアの言う通り、ここにいるのは危険だ。魔物的な意味でも、獣人に見つかった時の彼らの対応、さらには魔族や帝国と外敵が多すぎる。…一番ベストと言うより最初に考えていたのは、獣人の住んでいる所に置いてもらえる事なんだけど、彼らの現状をした今、それが出来ないのは明らかだ。まったく、帝国のやつらも余計な事をしてくれたもんだ!
そんな事を考えていたら、何だか陸地の方が騒がしくなってきた。とりあえず、話し合いを中断して、陸の方を全員で見に行くとそこにいたのは、昨日の僕に捕まった獣人の男性たちを含む20人ほどの集団だった。
「だから、アイツの言った通り船が在ったぐらいで、アイツを信じるなんて軽率だ!」
「誰も信じるとは言ってないだろう? ただ、アイツが帝国の人間じゃない可能性も出てきたと言うだけだ」
「ただそこに船が在っただけだろう!! 帝国の人間が我々を騙す為にやっているかもしれないじゃないか!!」
聞こえてきた話からするに、昨日の僕の言葉に耳を傾けてもいいかもと思い始めているようだ。獣人の中にもヒトだからだと決めつけるばかりではないようだ。
これはもう一度話をすれば、昨日とは違う結果を得られるかもしれない。
「みんな、あの中にさっき話した獣人もいるから、僕一人で言ってもいいかな?」
「駄目よ! 行くならみんなで、よ」
僕が1人で行くのに、真っ先に反対するリン。周りを見てもみんなリンと同じ考えのようだ。
「…分かった。その代わり、変に話に割り込んでこないでね」
なぁんか嫌な予感はするものの、その正体が分からないし、リンたちも折れてくれそうにないので、結局僕が折れて、みんなで彼らの元へ行く事になった。
「昨日ぶりですね。それで今日は?」
「お前の話が本当か確かめに来た」
船を下りた僕は、昨日の獣人に話しかける。彼が一番話を聞いてくれそうだからね。
「僕の後ろにいるのが、昨日話した仲間ですよ。今朝、合流できました」
そう言って、僕はリンたちを紹介する為に、みんなを僕より前へと出す。
すると、おかしな事に獣人の集団は急に殺気を出し始めた。血の気の多そうな奴に至っては、既に武器まで構えている。一体、何がいけなかったんだ?
僕が原因について考えていたが、その答えは向こうから提示される事となった。
「何が仲間だ! 全員奴隷じゃないか!! 我らの同族まで奴隷とは貴様! やっぱり帝国の人間だな!!」
…やってしまったあああああああ!! 嫌な予感の正体はこれか! 何で気付かなかった! そりゃ、彼らも殺気立つに決まってるじゃないか! ってか、これってせっかくの誤解を解くチャンスが消滅した瞬間だよね!!?
…これから、ホントどうしよ。色んな意味で…。
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