上陸
「う、う~。あと、数十mで陸だったのに…」
現在、僕は前髪から水が滴り落ちるほどずぶ濡れになりながら砂浜を1人歩いていた。
北の島へと向かう途中で、えげつない魔物に遭遇してしまった僕たちは、僕が1人囮になることでその場での全滅を回避した。
その際、魔力を使いすぎた為、島目前って所で魔力不足によるスキル不発なんて言う初歩的ミスを犯し、海にドポンしたのだ。
「ひとまずは、魔力の回復に努めて、リンたちを捜すのはそれからだな」
これからの予定を言葉にしてから行動に移る。まずは、ゆっくりと休める拠点探し。食べ物はアイテムボックスにあるから探しに行く必要はない。
本当ならマジックポーションでさっさと魔力を回復させればいいだけの話なんだけど、この先何が起こるか判らないから、ポーション系は節約することに越したことはない。
砂浜を抜け、森の中に入って雨風をしのげそうな場所を探して歩くこと、2時間が経ったぐらいでちょうど良さげな場所を見つけた。
「今日はここで休む事にしよう」
大きな樹の根が剥き出しになっている部分に人が入れるスペースがある。ちょうど、樹の根が屋根代わりになってくれるので、急に雨が降り出したとしても問題無さそうだ。
ひとまず寝床を確保した僕は、周囲に魔物がいないか索敵スキルで確認して、魔物がいないのは確認できたのでそのまま仮眠をとる事にした。
「うわーーー!!」
「ぎゃっ!」
「ちくしょーーー!」
仮眠をし始めて2時間ってところで男たちの悲鳴が聞こえてきた。
どうやら、無事罠にかかってくれたみたいだ。
仮眠前に索敵スキルで周囲を確認する前、この島に上陸した時から僕を見ているのは知っていた。と言うよりも、空歩を使う魔力が無いだけで索敵系のスキルを使う分ぐらいは残っていた。
あとは、彼らにも聞こえるように独り言でこちらの行動を教えて、最後は罠で一網打尽にしたのだ。
何故そんな事をしたのかって? 僕としては、穏便に話をしたいんだけど、人の事を尾行するような人たち相手に穏便に事を運べるとは思えなかったから、捕まえてから話をする方針にしたのだ。
「こんにちは? でいいのかな? とりあえず、あなた達に聞きたいのは、何で後をつけてきたんですか? って事です。答えてくれますよね?」
僕が男たちの前に姿を現すと、男たちが文句を言い始めそうだったので、先制で軽く脅しをかける。すると、男たちは言いたい事をぐっと飲み込み僕の質問に答えた。
「ヒトが空を飛んでこの島に来たんだ、様子を見るのは当たり前だろ?」
「最近は魔族たちも何処からか出入りしているからな、そこにヒトも船を使わずに上陸しているんだ、魔族と繋がっていると考えるだろ」
「それで? お前が捜すのは魔族なんだろ?」
話をまとめると…。
最近船も使わずに魔族が島に出入りして何かしている。
僕も船を使わずに上陸した。
なので、最近出入りしている魔族と関係があると睨んだので尾行した。
つまり、僕の上陸方法がいけなかったと言うことかぁ~。
しかし、どうやってこの誤解を解こうか? 捜しているヒトの中に魔族がいるのは事実だし…。
……ひとまず、黙っていればバレないかな?
サキの見た目は、黒髪こそ魔族の特徴だけど、それを言ったら僕だってそうだ。しかし、僕もサキも髪で魔族かと聞かれたことはない。つまり、肌の色まで揃って初めて魔族と認識されるのだ。
だから、肌が褐色じゃないサキは、自分で言うか、ステータスを視られない限りは魔族だとバレる心配はないと言うわけだ。
「いや、捜しているのはヒトと獣人の集団だよ。海上ではぐれてしまったんですよ。だから、今頃はこの島の海岸線辺りにいると思うんですけどね。と言っても、信じる信じないはあなたたち次第だけど」
「…お前、帝国の人間か?」
リンたちの特徴をおおざっぱに教えたら、男から予想もしていない名前が出てきた。
「僕としては、なんで帝国の名前が出てきたのか訊きたいけど、ひとまずはこのギルドカードで、帝国の人間ではないと信じてもらえるかな?」
身の潔白を証明してからじゃないと話が進まないと思い、自分のギルドカードを男たちに見せる。
「SSランクだとっ!!」
「「なっ!?」」
男たちは僕のギルドカードを見て驚く。まぁ、それもそうか。世界で…6人しかいないらしいし。
「これで、僕が帝国の人間じゃないと信じてもらえてたでしょうか?」
「駄目だな。帝国のトップは現在、SSSランクの冒険者だと聞いている。とてもじゃないがSSランクだからと言っても信じる訳にはいかない」
は? 何? 今、帝国のトップはSSSランクの冒険者とか言わなかった? ちょ、ちょっと待って! 確か冒険者は帝国、王国の軍関係には所属してはいけないはずじゃ? 所属する場合は、冒険者を辞めなきゃいけなかったはず…。
って、それよりも今は、彼らにどうすれば信じてもらえるかだ。
「…ちなみに、帝国の人間はこの島で何をしているんですか?」
ひとまず、最初に聞かなかった彼らが帝国の人間を毛嫌いしている理由を尋ねてみる。
「奴らは、この島で獣人狩りと言って同族たちを奴隷にしているんだ! もう幾つもの集落が犠牲になっている!」
…これ信じてもらうの無理じゃないかなぁ。だってこれ、帝国と言うよりもヒトを信じてない感じだ。それもそうだ。帝国の人間はそれだけの事をしている。彼らが、帝国だけじゃなくヒトと言う種族に嫌悪してもおかしくはない。
彼らの話を聞いて信じてもらう事を諦めた僕は、彼らを縛っている糸を解く。
「いったい何を?」
いきなり解放された彼らは戸惑うばかりだった。
「いやね、このまま話していても信じてもらえなさそうだからさ。僕はこのまま仲間を探す為に、明日から海岸沿いを捜索する。君たちは、仲間に話して僕たちを待ち伏せするもよし、無視をするもよし。とうだい?」
「そんな事をしてお前に何の得がある?」
「そんなのはないかな? まぁ、強いて上げれば、僕らが帝国と無関係だと信じてもらえるきっかけになるかなと」
「…変な奴だな、お前」
「あははは~。そう言われるのは久々ですね。とりあえず、僕はここで一晩明かすので、襲わないで下さいね。命の保証は出来ないので」
久々に言われた変な人扱いに懐かしさを感じながらも、一応脅しは入れておく。
「分かった。こちらも命は惜しいからこのまま帰らせてもらう」
そう言ってこの場を後にしようとする彼らだったが、最後にこんな質問をしてきた。
「そう言えば、この島に来た目的を聞いてなかったな」
「信じるかはそちらに任せるけど、僕たちは魔族の企みを阻止する為に来たんだ」
「…そうか」
僕の言葉を信じたのかは分からないけど、男はそれだけ言って他の2人と共にこの場を去っていった。
獣人の男たちが去ってから僕は、彼らから得た情報を整理していた。
「それにしても、なにやらきな臭くなってきたな」
魔族と魔人が企てている魔物に獣人を襲わせる計画。それに加えて帝国の獣人狩り。これらが今、同時に起こっているのは偶然なのだろうか?
「これは早いところ、リンたちと合流しないと大変な事になりそうだ」
ギルドに何も言わずに来たことを少しだけ後悔しながらも、その日は休む事にした。
翌朝、日が昇るか昇らないかと言う時間に起床した僕は、早速海岸線に戻りリンたちを探す。
索敵系スキルを使いながら歩いているが、今日は尾行されていない。ただ、気になるのは、魔物の気配もほとんどないのだ。この島に来たのは初めてだから何とも言えないが、どうにも嫌な予感がする。
その後も魔物の気配が増える事はなく半日が過ぎた頃、ようやく人の気配を捉えた。
「海岸にこの人数って言う事は、リンたちで間違いなさそうだ!」
探していた仲間を見つけ、駆け出す僕。そして、船を肉眼で捉えられるような距離まで近づいた頃には、向こうも僕に気付いたみたいだ。と言うのも、何人かこっちに向かって近づいてきている。
と思った次の瞬間
「ノゾムのバカアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「がはっ!??」
いきなり目の前に現れたリンの鉄拳が出迎えてくれた。
ありがとうございました。
最後のリンですが、いきなり現れたように見えたのは全力で走ったからです。ノゾムも油断していた為に、リンの移動速度を追えずに、結果いきなり目の前に現れたと勘違いしたのです。




