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海を越える準備4

まさかのリン視点後編です




 -リンスレット-


 私はハイオーガに指示を出している奴が現れるのを待っていた。本来なら、解体などをして時間を待つのだけど、私が始末したハイオーガは原型を留めていないので、回収できる素材がない。


 「リンさん。こちら、も終わりまし…た」

 ちょっぴり反省していたら、3体のハイオーガを相手にしていたセシリアが戻ってきた。見たところ傷を負っているようには見えない。どうやら、無傷で倒してきたみたい。


 「お疲れさま。もう少しここに留まらないといけないけど、セシリアは休んでていいわよ」


 「えっ? でも…」


 「いいから。それに多分だけど次に来る奴は、ルーたちだけじゃ時間稼ぎも出来ないと思うから」


 「そう…言うことなら、分かりまし、た」


 セシリアは、私の指示に従ってルージュたちの所まで行き、休憩をし始める。

 あとは、次の襲撃を待つだけね。さっきと同じぐらいはかかるだろうし、私はギムに現状の説明をしつつ、少し休憩しましょうかしら?




 「……っ!」


 「やっと来たようね」


 ハイオーガたちの親玉を待つ事1時間。セシリアの空気が変わったので、ようやく現れてくれたみたい。さっき以上に待つから、もしかしたら来ないかもって思ったけど、来てくれたよかった。


 「セシリア、あとどれぐらいで来そう?」


 「この、ペースだと、あと20分でしょう…か?」


 ちなみに、現在のセシリアの索敵範囲はだいたい10㎞ぐらいはいける。


 その10㎞を20分と言うと、相手は結構早いわね。




 「あれは…サイクロプス? それにしては、何か変ね?」


 肉眼に捕らえられるようになったのは、Aランク魔物のサイクロプスのような奴だった。


 しかし、通常のサイクロプスではないと思う。

 サイクロプス自体は、瞳が一つしかないせいなのか視力はとてつもなく良い。セシリアの索敵範囲外にいても、ここの煙を見つけることなど造作もないことだろう。

 私が疑問に思っているところは、通常種がハイオーガを5体も従えさせる事が出来るだろうか? と言うことだ。

 今はまだ、遠いから何とも言えないけど、ほぼ確実に上位種だと思う。


 そんな事を考えていたら、相手との距離が1㎞を切ろうとしていたので、私は慌てて相手の出鼻を挫く為に魔法を唱えた。


 「『スラッシュファング』!」


 これで、最初に機動力を奪ってしまおうと思っていたけど、結果は私の予想を超えたものだった。



 ギギギギギン!!


 「嘘?」


 私のスラッシュファングはサイクロプスの身体を切り裂くどころか、全て弾かれてしまった。


 「今の金属音は? サイクロプスが魔法を弾くスキルを持っているなんて聞いた事がないし…。もしかして、上位種じゃなくて変異種!?」


 変異種とは、通常種が上位種へと進化するのとは別の進化をした魔物の総称だ。上位種とは違い、変異種はその種族からしたら特殊なスキルを所持している事がほぼ確実だ。そして、変異種の大半に当てはまる事だけど、魔物のランクが通常種より2ランク上がるのだ。


 「こんな時、ノゾムがいたら…。観察で詳しい情報を調べてもらうのに…。いったい、何処で遊んでいる事だか!」


 私は、この場にいない男に対して毒を吐く。しかし、そう言った所で現状が変わる訳じゃないのですぐさま止める。


 「ひとまず、皮膚が堅いのは分かった。次は…『フレイムスネーク』!」


 斬るのがダメなら、熱してみよう! と、少し軽いノリで次の魔法を放った。


 フレイムスネークは火魔法のLV4に属する魔法で、発動後でもある程度こちらで操作が可能なのが特徴だ。


 フレイムスネークを相手の足から胴体、そして首にまで巻き付ける。そこから一気に火力を上げて焼き尽くそうと試みる。だけど、サイクロプスの歩みは止まらせる事は出来なかった。


 「皮膚は堅いだけじゃなく、魔法に対する耐性まで備えているなんて、まるでドラゴンのウロコみたいね。とりあえず、吹き飛びなさい! 『ロックキャノン』!」


 これ以上距離を詰められても面倒なので、質量のある攻撃をぶつけて、後退させる事にした。

 その為に使った魔法は、土魔法LV5のロックキャノン。この魔法は、土の塊をバリスタのような速度で放つ魔法だ。本来なら、攻城戦なので使われる魔法なのだけど、今回ダメージなどには期待をしていなかった。


 私のロックキャノンで再び互いの距離が1㎞まで開いた。が、何事も無かったかのようにこちらに向かって走り出した。案の定ダメージはなさそうだ。


 …しょうがない、か。


 私は気が進まないけど、現状を打破するために出来れば使いたくはなかった魔法を使うことにした。それに伴い、魔法の射程圏内にサイクロプスが近づくのを魔法の準備をしながら静かに待つ。


 「リンさんっ!!」


 サイクロプスが接近しているのに、何もしない私へとルージュたちの叫び声があがる。だけど、私はその声に反応はしない。


 そして、サイクロプスがこれから使う魔法の射程圏内の入った瞬間、私は準備していた魔法を発動させる。


 「使うのはいつぶりかしらね? 錆び付いていなければいいけど…。永久とこしえに彷徨え。『悪夢の迷宮ナイトメア・ラビリンス』」


 私が魔法を使った次の瞬間、サイクロプスは動きを止めた。


 「リンさん! って、あれ?」


 皆のところに戻ろうと振り向いたら、そこにはルージュが立ち尽くしていた。

 たぶん、動かない私を助けるために慌てて来たんだろうけど、急に動かなくなったサイクロプスを見て混乱しているんだと思う。


 「何、呆けているのよ? もう終わったわよ」


 そう言って私は、呆けているルージュを引っ張って皆の所へと戻っていった。






 「それで、リンさん。あれは一体どうなったのですか!?」


 皆の所に戻ったタイミングで正気に戻ったルージュは開口一番に先ほどの事を聞いてきた。


 「あれは、闇魔法の悪夢の迷宮ナイトメア・ラビリンスよ。対象の精神を夢幻地獄へと誘う魔法よ」


 「無限地獄ですか? それって繰り返し苦痛を与えるって事ですか?」


 「たぶん、『むげん』の意味が違うわね。私のは、『終わりがない』の方ではなく、『幻』の方よ。あの魔法は、引きずり込んだ精神体を拷問にかけていく魔法のなのよ。一応、発動時間を耐え抜ければ、肉体に精神は帰ってくるわよ」


 「それって!!」


 「落ち着きなさい!」


 魔法の説明を聞いたセシリアを除いた全員が、サイクロプスにトドメを刺そうと行動しそうになるのを、私は呼び止める。セシリアは過去にこの魔法の強力さを見ているから、サイクロプスが耐えきれないと分かっている為、1人落ち着いている。 


 そして、私が皆を呼び止めたのと同時に、立ったままだったサイクロプスが膝から崩れ落ちた。どうやら、精神が死んだので、肉体にもその影響が出たようだ。


 「この魔法の強みは、防御力を無視したダメージを与える事が出来る事。今回みたいな、防御力が突出しているヤツには持って来いの魔法よ」


 その代わり、それ相応の弱点もある。

 1つ目、効果範囲が半径10mぐらいしかない事。

 どうしてもある程度接近しないといけないのだ。


 2つ目、一度発動すると、発動時間が切れるまで発動し続ける事。 

 途中解除が出来ないので、その間魔力を消費し続ける事にもなる上に、他の魔法を使用できないのだ。ただ魔法が使えないと言うのは、並列思考のスキルがあれば解消できる程度の弱点なので、そこまで問題ではない。


 「凄い魔法ですね。けど、そのような魔法を私は聞いた事がないのですが?」


 まぁ、そうでしょうね。だって…


 「この魔法は、私のオリジナルよ。だから、LVも当然9よ」


 「リンさんって、闇魔法のスキルレベル、9だったんですか!? 私、魔法のスキルレベルが8以上の人に初めて会いました!!」


 ルージュが私のスキルレベルを聞き驚きながらも、目をキラキラ輝かせ始める。


 ルージュがこのように驚くのも無理はない。魔法のスキルレベルは8までは、才能のある人ならまだ届く範囲なのだが、レベル9はそうもいかない。なぜなら、レベル9に上がる条件の1つが、新魔法の開発だからだ。


 「たまたまよ。村にいた時に、開発途中の魔法があったから、それを完成させただけよ。それよりも、ギムさん?」


 「お、おう。何だ?」


 この魔法の話題を早く終わらせたかった私は、適当に誤魔化した上で、ギムさんに話しかけた。


 「とりあえず、街道にいた魔物は倒したけど、私たちの実力は合格かしら?」


 「これなら問題ねぇ。あんたらを北の島まで乗せようじゃねぇか」


 「ありがとう。それじゃあ、出発はいつになりそう?」


 「そうだなぁ…。明日一日使って準備をするから、出発は明後日だな」


 「分かったわ。それじゃあ、明後日はよろしくお願いね」


  それから私たちは町に戻り、それぞれ明後日の準備の為に別れた。


 ちなみに、ハイオーガはギルドに報告したけど、サイクロプスの変異種については支部長だけに報告しておいた。周囲を不必要な不安を与える必要はないからね。

ありがとうございます。

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