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海を越える準備3

 -リンスレット-


 「海を越える手段の確保にこの人数が必要かしら?」


 「たぶんですが、均等になるよう分ける事で、各グループ内の負担を減らそうとしたのではないでしょうか?」


 「けど、船の手配だけよ? 一人いれば十分だと思うんだけど?」


 私の愚痴に苦笑いになるルージュとセシリアを横目に船着き場を目指して歩く。


「それにしてもノゾム様は、何処に行ってしまったのでしょうか?」


 「知らないわよ。面倒な事を全部私たちに押し付ける奴なんて」


 ルージュが言う通り、ノゾムはグループ分けをして、それぞれに指示を出すとすぐさま何処かに行ってしまった。


 全く、ノゾムは何をしているんだか。いや、それを言うならここ最近のノゾムは、私たちに隠れてこそこそと何かをしている。一度、跡を追いかけようとしたけど、ノゾムに見つかりそうになって断念した事がある。


 「ノゾム様って、昔からこのような感じなのですか?」


 「…?」


 「ええっと、グループ別で行動する時は、いつも一人で何処かに行ってしまうのですか?」


 「前はそ、んな事なかった…です。ただ、南の森で…再会してか、らは、ルーちゃんの言、う通りの感じで…す」 


 「そうなると、皆さんとはぐれている間に、ノゾム様に何かあったと言うのでしょうか?」


 「そこまで…は分かりま、せん」


 私は、後ろでのルージュとセシリアの会話に耳を傾けながら考える。確かにセシリアの言う通り、南の森で再会して以降のノゾムは、1人で行動する事が増えたように思う。あからさまに私たちと距離をとっている訳ではない。深夜にこそこそと出かけるようになったとかそんな感じだ。いったい、ノゾムは何を考えているんだろう?


「リンさん。船着き、場に着きました…よ?」


 「え? あ、あぁ。ごめんね、セシリア。ちょっと考え事してたわ」


 「大丈…夫ですか?」


 ノゾムの事でちょっと深く考え込んでいたみたい。セシリアの言う通り、いつの間にか目的地に着いていた。


 「そんな深刻な事じゃないから大丈夫よ」


 セシリアは心配そうな瞳で私の顔を見つめてくるので、安心させる為に頭を撫でる。

 撫でられたセシリアは先ほどまでの心配している表情から、気持ちよさそうにな表情に変わる。その表情を見て、セシリアは変わったなと思う。


 一年前の彼女は常に脅えていた。それが今じゃ、そんな気配は微塵も感じない。頭を撫でさせてくれている事がその証拠だ。話し方も、出逢った頃よりはしっかり話せるようにもなっている。


 「あ、あの? リンさ、ん? くすぐったい…です」


 「もう少しだけ~」


 セシリアは撫でられるのがくすぐったそうにしているが、私は延長を申し出る。だって、セシリアの髪もケモノ耳もふわっふわで撫でていて気持ちいいんだもん。



 「よし! それじゃあ、私たちを乗せてくれる船を探しましょうか! って思ったけど、人が全然いないわね」


 一通り、セシリアの頭も撫でまわして満足した私は、本来の目的を果たす為に行動しようとしたけど、何やら、人っ気が少ない。どうしたんだろう?


 「もしかして、今日はお休みなのでしょうか?」


 「そんな訳ないでしょ。と、言いたいところだけど、この様子を見るとなくも無いわね」


 ルージュの的外れの意見を一蹴出来ないほど、この船着き場には人がいない。船の乗組員らしき人達はいても、私たちのような一般人は1人も見当たらない。


 「これは、手分けして当たった方が、いいかもね」


 私の、ここに来るまで思っていた『この人数は多い』って考えが、いつの間にか、『この人数いて良かった』に変わっていた。




「う~ん。誰もかれも船を出す気がないわね。全く、根性無しね」


 「今回の件が、海の魔物にまで影響しているとは、思いませんでしたね」


 「私…たちも、船の、上で戦った事が、無いので少…し怖いです」


 私たちは2手に別れて、北の島へと乗せてくれる船を探す事にした。こちらは私、セシリア、ルージュの3人。向こうは新人だけにした。

 これも経験だと思って頑張ってと言ったら、喜々として走り出して行った。その姿を見て、ちょっと失敗するかもと心配になったのはナイショ。


 「こうなったら、仕方がないわね。実力行使でいきましょうか」


 「実力行使って、リンさん!? いったい、何をなさるおつもりですか!?」


 ルージュが私の言葉を聞いて慌て始める。セシリアは、ルージュとは違い、慌てることなく私の次の言葉を待っている様子。2人の反応の違いは、付き合いの長さによるものだと思いたい。


 「ルー、落ち着きなさい。別に力ずくで船を奪う訳じゃないわよ。私の冒険者ランクと実力を見せて、信用を得ようってだけよ」


 「よかった~。リンさんが暴れたりしたら、私たちだけじゃどうにもならないてすから」


 私って、そんなに暴れてるかしら? 確認の為にも、後でルージュとはお話しが必要ね。


 「…そんな事しないわよ。それよりも、あの娘たちにも方針変更する事を伝えましょう?」


 そもそも、私としてはこの手段(身元の情報提示)はとりたくなかった方法なんだけどね。だって、むやみやたらに高ランク冒険者だと言って歩けば、絶対面倒事が舞い込んでくるに決まってるから。

 しかし、それも仕方がないか。お願いする為に話した人たちは、みんな私たちが奴隷だと分かると、適当にあしらって話にならなくなったのだから。




 「何度来ても答えは変わらんぞ。あんたらみたいな嬢ちゃんたちを乗せて海なんて渡ってたら、命が幾つあっても足りやしねぇからな」


 私たちは新人組と合流し、この船着き場で一番権力のある人に頼みに来ていた。が、今のところ取り付く島もない状態だ。


 「それなら、私たちにあなたたちの命を保証できるほどの強さがあればいいのね?」


 「嬢ちゃん、笑い話をしたいなら、ここじゃなく酒場でした方が受けはいいぜ?」


 「別に冗談じゃないわよ? 私は、Sランクの冒険者だもの。ちなみに、これがギルドカードよ」


 案の定、言葉だけでは信じてもらえなかったのでギルドカードを見せる。


 「おいおい、こいつは何の冗談だ? こんな線の細い嬢ちゃんが、Sランクだと?」


 「ちなみに、こっちの狐人はAランクよ」


 私のランクを見て引き攣った笑みを浮かべる船長? さんに、セシリアのランクも教えてダメ押しにする。


 「…いやいや、いくらランクが高かろうが、この目で実力を見ない事には信じねぇぞ!」


 流石、ギルドカード。さっきまでの対応が嘘のようね。けど、そうなると次は、どんな無茶を言われるかが問題なんだけど…。


 「それじゃあ、その実力を見せてあげたいのだけど、どうすればいい?」


 「そうだなぁ…」


 「言い忘れたけど、なるべくその日の内に終わるようなものにしてほしいのだけど?」


 下手に任せっきりになると、長期遠征になりかねないから釘だけは刺しておかないと。


 私の一言に、船長? さんは一瞬だけ、肩を震わせた。やっぱり、遠くに出て海が落ち着く時間稼ぎをしようとしたみたい。


 「なら、帝国へと続く街道付近に、この辺りじゃ見かけない魔物が住み着いたって話がある。その魔物退治でどうだ?」


 「魔物の情報は? ギルドで判るかしら?」


 「判ると思うぜ。なにせ、ギルドでも手を焼いているからな」


 何でそんな状況なのに、自由都市の本部に応援を頼まないのよ…。


 「はぁー。なら、情報を集めたりするから、1時間後に帝国側の入り口で待ち合わせましょう?」


 私は、船長? の返事も聞かずにこの町のギルドへと歩き始めた。





 「遅いですね?」


 1時間後、私たちは待ち合わせ場所で船長? を待っていた。

 が、約束の時間になっても船長? はなかなか現れなかった。そして、もう30分が経った頃にようやく彼は現れた。


 「わりぃわりぃ。仕事の引継ぎで遅れたわ」


 「別にいいわ。こちらもそっちの返事を聞かずにいたのだから。それより、時間が惜しいから早く行きましょう。っと、忘れていたわ。私はリンスレットよ」


 「そういや、お互いに名乗ってなかったな。俺ぁ、ギムだ。ひとまずはよろしくな」


 ギムが名乗ると、セシリアたちも各々自己紹介を始める。自己紹介が終わったタイミングを見計らって、私たちは出発する。







 「この辺りでよく目撃されるみたいなんだけど…」


 私たちは、周囲に何かいないか見渡すも目的の魔物は見つからない。まぁ、こんな街道のど真ん中ですぐ見つかるようなら、色んな意味で大変なのでこれぐらいは予定の範囲内。


 「確か、情報によると、煙に反応するって話だけど…」


 こんな見通しのいい所で、煙を出したら現れるとか、半信半疑だけどやってみる。


 「リンさん、こちらに…近づく反応があ、ります」


 焚き火をしながら待つ事30分ほど経った頃、セシリアの探索系スキルに反応があった。


 「数は?」


 「5つです」


 これが問題となっている魔物だとすると、目撃情報とも合う。


 「なら、予定通り私とセシリアで相手をするわ。ルーたちはギムさんの護衛」


 「「「「はい!」」」」





 「来た!」


 10分も経たないうちに、肉眼で確認できるほどの距離まで迫っていた。


 「ハイ…オーガ5体確認、しました」


 情報通り、ハイオーガが5体。こいつらが帝国から来る商人たちを襲っているみたい。ハイオーガはオーガ種の上位種で推奨討伐ランクは単体でAランク。それが5体だと、推奨討伐ランクはSランクに届くか届かないかのレベルになる。


 「セシリア、いける?」


 「何本ま、で使っていいで…すか?」


 「ん~…。気になる事もあるから、余力を残して5本(・・)までね」


 「それな、ら3体は…相手に出来る…と思います」


 「じゃあ、私は残りの2体を相手にするわね」


 セシリアとの打ち合わせを終えた私は、ハイオーガたちの方を見据える。


 「「「「「ガアアアアアアアア」」」」」


 私たちとの距離が100mを切った辺りで、ハイオーガたちが雄叫びを上げる。それが開戦の合図になった。


 尾を5本(・・)に増やしたセシリアはハイオーガたちに向かって駆け出す。その速度は、私以外の目には映らなかったようで、背後から驚きの声が上がる。

 しかし、ハイオーガたちは辛うじてセシリアの速度についていけたようで、セシリアの双剣を持っていた武器でガードする。

 セシリアは斬り付けた3体に更なる攻撃を与えながらも、残り2体から距離をとるように離れていく。ハイオーたちもそれにつられるように、2手に別れる。


 残った2体は、セシリアの方には行かず、私たちの方に向かって歩みを続けている。多分、獲物(人数)の多い方を選んだんだと思う。それに対し、私もゆっくりと前に進み距離を詰める。


 「ガア!!」


 ハイオーガは私が射程圏内に入った瞬間、攻撃を仕掛けてきた。私からしたら大剣の部類に入る剣をハイオーガは軽々と振るってくるも、私はその攻撃の全てを見切り、最小限の回避でさらに距離を詰める為に前に出る。

 ハイオーガの攻撃を避けながら距離を詰め、奴らの体をペタペタと触りまくる。そして、ある程度触った事で準備が完了したので、これからの攻撃に巻き込まれない為にハイオーガを殴り飛ばす。


 「ゴハッ!」


 私が殴り飛ばしたハイオーガがもう1体のハイオーガも巻き込んで吹き飛んでいく。


 「「ガアアアアアアアアアア!!!!!」」


 私に殴り飛ばされた事がかなり屈辱だったのか、2体のハイオーガは怒りの咆哮を上げる。


 「いくら喚いても、もうお終いよ。『チェインボム』」


 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダーーーーーーン


 次の瞬間、2体のハイオーガから無数の爆発が発生し、この辺り一帯をその爆発音が支配する。

 爆発の煙が晴れるとそこにハイオーガは存在せず、ハイオーガだった肉塊がるだけだった。


 「リンさん、お疲れ様です。けど、なんであんな派手な魔法を?」


 ハイオーガを仕留めた事を確認したルージュが労いの言葉とともに質問してきた。


 私が使った魔法は火魔法のLV7に属するチェインボムだ。

 対象に触れた分だけ連続で爆発していく魔法で、連鎖数が増える度に威力が上がっていく仕様になってる。

 その代わり、一発毎の消費魔力も比例して増えるのが唯一の難点かしら?


 「親玉に知らせる為よ」


 「親玉? って! これで終わりじゃないのですか!?」


 私がハイオーガごときに、あんな派手な魔法を使った理由を話すと、ルージュは驚愕した。


 「終わりじゃないわよ。そもそもハイオーガは、視力は普通よ。間違っても、セシリアの索敵範囲外から、あんな煙を視認出来るほど目は良くないわ。つまり、別の何かが確認したのよ」


 「…しかも、ハイオーガに指示できるほどの存在ですか?」


 「その通りよ。だから私は、相手に聞こえるほど派手な魔法を使ったのよ。お前の手駒は敗れたぞって知らせる為に」


 さて、いったいどんなのが現れるかしら?

ありがとうございます。



そして、まさかの次話へ続くです。


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