海を越える準備
お待たせしました!
諸々落ち着きましたので、執筆再開です。
あとは、いかに週一ペースに戻せるかが問題です…
ホールをしっかり育てよう案件が設立して一週間が経った頃、僕たちは獣人たちがすむ北の島と行き来が出来る港町に到着した。
「これから、3班に分けて行動してもらう。目的は、海を越える手段の確保、食料などの買い出し、そして北の島の情報収集」
この町での基本方針を皆に伝える。皆も特に質問も無いようなので、頷いてくれた。しかし、これからが問題だ。
班…どうやって振り分けよう? これだけの大所帯になると、別行動する時のグループ分けが大変なんだよなぁ…。この際、あみだくじで決めちゃおうか。
-アイラ-
望君がこの世界には無いあみだくじで私たちを3つの班に分けた。
しかし、地面であみだくじを作る望君は妙に可笑しかったわね。
それに周りの皆もポカーンとしていたのも、望君の可笑しさを引き立てていた一つの要因よね。
「アイラ様? いったい、何が可笑しいのですか?」
「いえ、ちょっとした思い出し笑いよ。それよりも、情報収集組の私たちは、どのように動いた方がいいと思う?」
望君の事を思い出していたら、無意識に笑っていたらしい私は、エアルの言葉で意識が現実に戻ってきた。
「私たちのグループは、6人もいますので2人1組に別れて行動した方が効率的ではないでしょうか?」
私の問いかけに答えたのはヨーリだった。
確かに、この人数で情報収集は目立つし、人数を活かしきれない。ヨーリの言うとおり、ばらけた方が効率がいいのは間違いない。
「それじゃあ、3組に分かれて情報収集しましょう。場所は…、港辺りと、商店街、ギルドにしましょうか」
私は他の意見がないか皆に視線を向けるも、特になさそうなので、ぱぱっとチーム分けをし、それぞれ情報収集へと行動を開始する。
「冒険者ギルドはこの辺り…っと、あったあった!」
私は、サチェスを連れて担当箇所の冒険者ギルドにやってきた。
「サチェス。無いとは思うけど、絡まれても手を出しちゃだめよ。手を出すのは、相手が手を出した後にしなさい」
「大丈夫ですよ、アイラ様。私が口より先に手が動くように見えますか?」
見えるから注意をしているんだけど…。
狼の獣人は自身が認めた人以外にはドライと言う特徴がある。しかし、サチェスはドライてはなく、喧嘩腰になってしまう欠点がある。
一応、私たちの事は認めているらしいので、問題はない。同期の子たちも最初こそ色々あったけど、今では認めているみたい。
そんな彼女は、他の子たちじゃコントロール出来ないので、私が面倒を見るしかない。
「はぁ…。まぁ、いいわ」
私は、ため息を1つついて気持ちを切り替え、ギルドへと足を踏み入れた。
ギルドに入ると、昼間っから酒を飲んでいる冒険者やら、依頼の報告などをしている冒険者たちで賑わっていた。
この町のギルドは、酒場と併設しているみたいね。これは冒険者以外からも情報が得られそうだわ。
「私は、酒場側で聞き込みしてくるから、サチェスは受付に話を聞いてきてもらえるかしら?」
「分かりました。任せて下さい!」
よし、受付相手なら問題が発生する可能性はかなり低いわね。
私は、サチェスが受付娘と話し始めたのを見届けてから酒場の方へと向かう。
「こんにちは。ちょっと、聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」
「何かしら?」
「………」
私は、手始めに食事をしていた2人組の女性冒険者に話しかけた。
彼女たちは20代半ばぐらいで、戦士と魔法使いの格好をしている。ちなみに、返事をしてくれたのは戦士の方だ。
「私、これから北の島に行こうとしているの。で、その情報を集めているのよ」
私は許可を得てから、彼女たちと同じ席に着き、いきなり本題を切り出す。
まだまだ、聞き込みをしないといけないんだから、相手の腹のうちを探ってる暇なんてないからね。
「貴女1人で? 止めときなさい。命を捨てるようなものだわ」
「まさか。人数は多い方よ?」
総勢17人。こう考えると、ホント大所帯よね。まあ、こうした準備で一人一人の負担が減るのは助かるからいいけどね。
「数だけいても、実力が無いなら意味はないわよ? 最低でも、Cランク以上じゃないと数には数えられないわ」
「その程度なら多分、問題ないわよ。それに、Sランク級が何人かいるし」
レベル的にルージュと新人たちはキツいかもしれないけど、技術的な方でカバーできるから、Cランク程度の実力はあると思うわ。…多分。
それにしても、ここの海を越えるのにそんなに実力が必要だったかしら? これも、魔物を集める為に起きた事なのかしら?
あの後、彼女たちから理由を聞き出そうとするも、彼女たちの口から聞くことは叶わなかった。その後、何組か聴き込むの誰も理由を話してはくれなかった。
「ねぇ、マスター? 貴方なら話してくれるわよね?」
「………」
このまま冒険者に聴き込みをしていても埒が明かないので、酒場のマスターに直接訊く事にしたのだけど、マスターは私の事を値踏みするように見ているだけだった。
「あn」
「おうおう、そこのねぇちゃん。さっきから聞いていれば、海を渡りたいらしいな。だったら、俺が一緒に連れて行ってやるよ!」
再度、マスターに話しかけようとしたところで、軽薄そうなオッサンが話しかけてきた。
「いえ、結構です」
私はバッサリと切り捨て、マスターの方へと視線を戻す。
が、絡んできたオッサンは、私のそんな態度が気に入らなかったみたい。
「おいおい、せっかくAランク冒険者である、このバロッサ様が親切にしてやったのに、その態度はねぇんじゃねえのか?」
…嘘ね。ステータスを見たけど、レベル30後半の特筆するところ全くなしの一般冒険者。ランクはよくてBランクってところかしら?
「別に、あなたに連れて行ってもらわなくても、問題ないわよ。私が欲しいのは情報だけ」
あっち行けと言わんはかりに手でしっしとジェスチャーをする私。
「このアマァ! 奴隷のくせに、ちっと顔がいいからって調子乗ってんじゃねぇぞ!」
私の態度に怒りを露わにするオッサン。チラッと目をやると、今にも手を出しそうなぐらい怒っているのが分かる。
ふむ。どうやら、狙い通りに手を出してきそうね。
サチェスに手を出すな、問題を起こすなと言っていた私がこのような行動に出たのには理由がある。それは、このオヤジの視線が気持ち悪いから。私の事を舐めるように視線を這わせるのに我慢できなかった。どうせ、案内と言っても裏路地辺りに連れ込むのがオチだと思う。
と、冗談はこれぐらいにして。…いや、冗談でもないけど。
本当は、周囲にいる冒険者たちへ自分の実力を少し見せようって魂胆。
私が奴隷なのか知らないけど、全員私の言う事を信じていない目をしている。だから、私に色目を使って話しかけてきたオッサンを利用して、周囲に私の事を認めさせる事にしたのだ。
「あなた、沸点低すぎよ。本当にそれでAランクなのかしら? 実はEランクだったりしてね」
「こ、このアマ~~~~!!」
周りからクスクスと笑い声が聞こえてくる。大方、こいつの本当のランクを知っている人たちが笑っているんだろう。オッサンも笑い声を聞いて、顔を真っ赤にしてこちらを睨んできた。
「どれだけ凄もうとも、Eランク冒険者なんて怖くないわよ? そんなことより、私の欲しい情報を話してくれないかしら?」
「殺す! てめぇはぜってぇ殺してやる! この俺をバカにした事を後悔させてやる!」
再三に渡る私の挑発にオッサンの我慢はついに限界を迎え、私に殴りかかってきた。
「遅すぎて欠伸が出るわ」
「なっ!?」
私はオッサンの背後へと回り込み、欠伸をする。その光景に、殴りかかってきたオッサンだけではなく、酒場にいた全ての人間が驚いていた。
それもそうだろう。今の私の動きを目で追えた人間は1人もいなかった…いや、マスターはギリギリ追えたようだ。流石、ギルド併設の酒場のマスターを務めているだけはある。
「てめぇ、何をした!」
オッサンは私の声が聞こえた事で、ようやく自分が背後を取られた事に気付き、私の方へと振り返る。
「私がわざわざ教えるとでも? 私は攻撃を仕掛けられた相手に、自分の手の内を教えるようなお人好しではないのだけど? それともあなたは、敵に『今のは何が起きたのか判らないので教えて下さい』っていちいち聞くのかしら?」
「てめぇ~~~!!」
私の嫌味に羞恥心と怒りで顔を真っ赤にしながら、再度殴りかかってくる。今度は避けないどころか、そのままカウンターでオッサンの顔面に拳を叩き込み、吹っ飛ばす。
「『エアハンマー』」
そして、あるテーブルまで飛んだところで、追い打ちの魔法を叩き込みそのテーブルにいた連中ごと潰した。
あそこにいた連中は、たぶんオッサンの仲間だろう。オッサンが私に絡んできてから、ずっとニヤニヤとこちらを見ていたしね。しかし、そんな事よりも私の全身を舐めるように見る視線が不愉快だったので、ついでに片付けさせてもらったわ。
私がオッサンを殴り飛ばした事で、周囲の私を見る目が変わった。これなら、聞き込みをしてもさっきまでとは違う結果になりそうね。
「マスター。さっきの質問に答えていただけますか?」
私は笑顔で軽くマスターを脅してみる。
「…ここ1ヶ月ほどだが、北の島に近づくにつれて、魔物の出現率がかなり上がっている。しかも、水陸両方で活動できるタイプの魔物ばかりだ。大半はDランクの冒険者でも人数がいれば対処できる魔物ばかりだが、中にはAランクの冒険者がいないと対処できないようなヤツまで出てくるらしい」
先ほどまでの見定めるような視線ではなく、若干の恐れを含んだ瞳で私の質問に答えてくれた。
それにしても、『ここ1ヶ月』か。これは確実に関係あるわね。
「ありがと。これ、あそこのテーブルやイスの修理代よ」
「そんなの気にしなくてもいいんだがな。おっと、2ついいか?」
「何かしら?」
私が、金貨一枚をマスターに渡して立ち去ろうとしたら、そのマスターから呼び止められた。
「ほかの連中を許してやってくれ。みな、奴隷のお前さんの事を心配して話さなかったんだ」
どうやら、私が聞き込みをした冒険者たちに手を上げないか心配しているみたい。私、そんな事しないのだけど…。
「そんな事しないわよ。それよりも、もう一つって何かしら?」
「それならいいんだ。もう一つは、アイツじゃねぇが俺もさっきのが気になるんだ。差支えなければ、スキルの名前だけでも教えてくれないか?」
さて、どうしましょうか…。
私がさっき使ったのは、魔力転換と言うスキルだ。実は、このスキルを使わなかったら、私はあのオッサンに勝てなかった。
このスキルは、自身の魔力をステータスに一時的に転換する事が出来るスキルだ。変換効率はスキルレベルが上昇する事でより変換効率が上がる。レベル1だと、魔力10でステータスが1上がる。私のスキルレベルは5。変換効率は3で1上がるようになっている。
しかし、いい事ばかりでもないのがこのスキルだ。魔力をステータスに変換した後の持続時間は、変換に使った魔力とは別に魔力を消費しないと維持できないようになっている。
「…止めておくわ。自分の首を絞めたくはないの」
「そうか。まぁ、最初から話すとは思っていなかったからな。っと、1つ思い出した。確定情報ではないんだが、2ヶ月ぐらい前に、褐色肌で黒髪の女性が北の島に行くのを見たって言う奴がいたな」
「それって魔族かしら?」
私は褐色の黒髪と聞いて真っ先に浮かんだ存在を口にした。
「さぁな。なんせ見たのはそいつだけだし、それ以降、褐色肌で黒髪の奴が島に行ったり、島から来たって情報がないんだ」
「なら、なんでそんな不確定な情報を私に?」
「なんとなく、だな」
勘か。こう言った所で年配者の勘ってのは馬鹿にできないものがあるって聞いたことがあるし、覚えておきましょう。
「ありがとう、一応覚えておくわ」
「気をつけろよ」
さて、情報はこれぐらいでいいかしら? サチェスと合流して、他の娘たちとの待ち合わせ場所に向かうとしますか。
ありがとうございました。