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北へ向かう旅路の途中で

6章開始です!






 屋敷で今後の方針について話し合った翌日、僕たち一行は獣人たちが住む北の島へと向かっていた。


 「そう言えば、アイラさんってこの件に関わることに賛成でしたけど、どうしてですか?」


 道中、雑談ついでに昨日の多数決でアイラさんが賛成側だった事について訊ねてみた。


 「何か、今回の件は匂うのよね」


 「ラストとか言うやつが、黒幕ではないと、アイラさんはそう考えているんですか?」


 「黒幕と言う意味では、ラストとか言うやつで間違いと思うわよ。ただ、アイツが少なからず関与しているような気がするのよね」


 アイラさんがアイツって言うと、管理神エルピトスか。


 「ちなみに、その関与ってどんな形でだと思います?」


 「ん~、何とも言えなわね。と、言うのも情報が足りなすぎるのよね。今回の件で判っている事は、魔物を集めてるラストってヤツが獣人を襲うって事。集めている魔物に、ワイバーンやドラゴンなどの竜種がいる事。配下に爵位持ちの悪魔がいるほどの実力者って事ぐらいでしょ? ここから、どうアイツが関与しているか予想するのは無理ね」


 「そう言われると、確かに」


 「ただ、獣人を襲うのに竜種を引っ張り出した事だけは気になるわ。まるで、獣人を襲うんじゃなく、滅ぼそうとしているみたいな…」


 アイラさんは難しい表情で考え込んでしまった。


 襲うじゃなく滅ぼす…か。


 「…ねぇ、ノゾム。ギルドには何か言ってきたの?」


 アイラさんの言葉について考えていたら、リンが話しかけてきた。


 「ん? いや、特には。ちょっと急用で屋敷を留守にするって事ぐらいしか伝えてないよ」


 「それって、大丈夫なの? 確か、ワイバーンの件で何か分かったら連絡がくるはずでしょ?」


 「いなきゃいないで、何とかすると思うよ?」


 「主様。今、先頭組が今日三度目となる魔物との戦闘を終えたわよ」


 リンがギルドに対してちゃんと説明してこなかった僕をジト目で睨んでいると、前方にいたはずのイリスさんが後方にいる僕たちの所までやってきた。どうやら戦闘の報告みたいだ。


 「魔物の種類と数、それと被害状況は?」


 「オークが5匹。こちらは被害なし。みんな無傷よ」


 「ちなみに、戦闘に参加したのは?」


 「えっと、フェルにリゼット、エアル、サチェス…それからホールだったはずよ」


 ふむふむ。リンたちに聞いた新人たちの戦闘スタイルは、自分たちと似てしまったと言っていたな。そうなると、サキのところのリゼットとサチェスが前衛でリンのエアルが後衛ってなると、フェルは遊撃かな? あとは、ホールか…。って!! ホール!?


 「ちょっと待って、イリスさん! 今、ホールって言いました!?」


 僕は予想外の名前があった事に気付き、イリスさんに聞き間違いじゃなかったか、聞き返してしまった。


 「確かにホールって言ったわよ。まぁ、主様が驚くのも無理はないけどね。ルージュ曰く、ホールがどれぐらい戦えるのかを確かめたかったらしいわよ」


 だからって、いきなりオークを相手に選ぶか? もっと弱いゴブリンとかでもいいじゃん。


 「それで? 確かめた感想は何だって」


 「それは、主様が直接訊いたら? もう何回か戦わせるって言ってたから、もしかしたら戦ってる姿が見れるかもよ?」


 そう言われると、ホールがどんな風に戦うのか見たくなってきた。


 「僕は前まで行って、ホールの戦う姿を見ようかと思うけど、皆はどうする?」


 「私も気になるし、行こうかしら」とリン。


 「あたしも行く」とサキ。


 「私も、新種のスライムがどんな風に戦うのか、興味があるわ」とアイラさん。


 「皆さ、んが、行くのでし…たら」とセシリア。


 結局、後方組全員でホールの戦う姿を見学しに行く事になった。





 「あれ? ノゾム様、どうしてこちらに?」


 僕たちが先頭組に追い付くと、ルージュがいの一番に気が付き声をかけてきた。


 「いやね、イリスさんからの報告で、ホールを戦わせたって聞いたから、どんな風に戦うのか気になって、見に来たんだよ」


 「ホールちゃんをですか」


 おいおい、昨日まで『ちゃん』なんて付けていなかったろ。


 ツッコミ所はスルーして頷くと、ルージュはホールを呼び戻した。どうやら、現在の戦闘担当班と一緒にいるらしい。


 と、ここで今更だけど、現在の僕たち一行がどのような隊列を組んでいるのか、説明しておこう。


 今回は、2グループに分けている。新人たちとルージュ、イリスさん。僕たちいつものメンバーの2グループだ。

 新人組には戦闘経験を積んでほしいので、少し先行して進んでもらっている。

 このグループにイリスさんがいるのは、万が一、新人組の回復担当では手に負えない怪我を負った時に備えてだ。

 そして、新人組は人数がいるので、チームを組んで一戦毎にローテーションして人を入れ替えて、様々な戦闘パターンを試しているらしい。




 「ねぇたん、なんでうか~」


 よちよち? とてとて? と効果音が付きそうな足取りで、白のワンピースを着た幼児…いや、見た目幼女が舌っ足らずな口調でこちらにやってきた。


 …おかしいな。昨日まであんな風に喋れなかったよね? 服は…うん。近くにいるネネとナナがいい笑顔を浮かべているので、彼女たちが夜なべして作ったんだろう。


 「ホールちゃん。ノゾム様が、ホールちゃんの戦いを見たいそうなんです」


 「ごしじんたまが~?」


  ホールが小首を傾げながら僕の方を見る。


 「僕だけじゃなく、こっちのお姉さんたち皆だよ」


 「ほーうがんばう!」


 僕の後ろにいるリンたちもと教えると、ホールは笑顔でばんざいをしながら返事をしてくれた。どうやら、沢山の人に見られて張り切っているらしい。


 「ホールちゃん頑張るのはいいけど、まだ1人で戦うのは厳しいでしょ?」


 「あうぅ」


 そのままのテンションで走り出しそうだったが、ルージュの脳天チョップにより阻止される。


 「それなら、誰かと組んでもらうか」


 「ホールちゃんは誰と一緒に戦い?」


 「ん~。…へうがいい!」


 へう? …あぁ、フェルか。


 「僕…ですか?」


 「あなたって私以外では、フェル君に一番懐いているのですよのね」


 「昨日の今日で、誰に一番懐いているとかまだ分からないだろ?」


 「それが、そうでもないんです。今日、ここまでの間も、私が戦闘で近くにいない時は、だいたいフェル君の傍にいるんです」


 ルージュの言葉が事実だと言わんばかりにフェルは苦笑いしている。

 いったい、フェルの何にそこまで気に入ったのだろう? 当人に視線を向けるも、フェル自身も理由が分かっていないようで、僕の視線に困った顔で対応してきた。


 「ホールの御指名だけど、フェルは大丈夫か?」


 「そうですね…。僕の手に負える魔物なら大丈夫です」


 「わーい! へうといっそ!」


 とりあえず、疑問は放置する事にして、本題のホールと一緒に戦う件について聞いてみると、OKの返事が返ってきた。それを聞いたホールは大喜びだ。…うん、ホント謎だ。




 さて、そんなこんなで魔物を探し始めて、かれこれ1時間ぐらいが経ち、ようやく見つけた。


 「この気配の感じだと、魔物はトロルかな? このままの進路で1㎞ほと先、数は2体か。 フェル、いけるか?」


 「トロル2体なら、大丈夫だと思います。ノゾム様、今回は壁役に徹すればいいんですよね?」


 「…いや、最初の1体は倒していいよ。その方が、フェルもホールを守りやすいだろ?」


 ホールの戦いぶりを見るのに、2体もいる必要はないので、1体は倒していいと伝える。


 「ホールちゃん、頑張ってね」


 「あい!」


 ルージュのエールに元気よく返事をするホール。

 何故だか、ちょっと歳の離れた姉妹に見えてきたんだけど?


 こちらの心情などお構いなしに、フェルとホールはトロルへと向かって行く。トロルが肉眼で捉えられる距離までは、フェルがホールを肩車をして移動する。そして、肉眼ではっきりと見えるぐらいまで近づいた2人は、戦闘態勢に移行する。

 前衛はもちろんフェルで、そこから10mほど離れえてホールが構えている。


 「それじゃあ、僕が1体倒すまでの間、もう1体を魔法で足止めしてね」


 「あーい!」


 フェルはホールに指示を出すと、2体のトロルに向かって駆け出す。


 「「グオオオオオオ!!」」


 ようやく、こちらに気付いたトロルたちは、雄叫びを上げながら、持っている棍棒を振り回しながら、こちらを威嚇している。が、それは悪手だったみたいだ。


 「『はいあほーう』!」


 大口開けているトロル2体へホールがファイアボールを放ち、口へ吸い込まれていくような軌道で見事に口へと命中した。


 「~っ!! っ!?」


 ファイアボールが口内に命中した事で、2体のトロルは口を押さえながら悶えている。喉が焼けたのか声を発する事もない。


 その隙を見逃さず、フェルは片方のトロルの背後へと周り、トロルの首へと武器である大剣を力いっぱい振り抜く。

 フェルの大剣はトロルの首を抵抗なくはね飛ばす。そして、振りぬいた勢いに逆らわず、その場で一回転したのちに残りの1体とホールの間に移動する。


 さて、ここからが本番。ホールはどんな風に戦うのかな? いや、さっきのだけでもかなり驚いているんだけどね。まさか、大口開いた所に魔法を撃ち込むとは…。これは、本格的に知識を与えたらもっと凄くなるんじゃないだろうか?



 口内のダメージから回復したトロルは、棍棒を片手で振り回しながら、ホールへと向かって突っ込んでくる。どうやら、先ほどの攻撃でかなりご立腹のようだ。


 「行かせない!」


 しかし、その突撃も前衛のフェルによって阻まれる。自身の大剣に上手く体重を乗せた一撃がトロルの棍棒へと放たれた。

 トロルはフェルの攻撃のせいで突撃の足を止める事となり、意識をホールからフェルに移したみたいだ。


 「『そっく』!」


 「ガぁっ!?」


 トロルの意識がフェルに移った隙をついて、接近していたホールは雷魔法のショックを使い麻痺させる。そして、トロルの体をよじ登り始める。いったい、何をする気なんだろう?


 頭のてっぺんまで登りきったホールは腕をゲル状へと変化させ、何とトロルの顔をそのゲルで覆い始めた。どうやら、窒息狙いのようだ。


 だけど、トロルも黙っている訳がない。ショックによる麻痺が解け始めているのか、徐々に動き始める。


 「『そっく』! 『そっく』! 『そっく』! 『そ~っく』!!」


 が、動き始める度にホールによる追い打ちのショックが与えられる。ホールも楽しんでいるのか終始笑顔なのが末恐ろしく感じる。


 …見た目幼女による束縛スライムプrんっん! これ以上考えるのはよそう…。色んな意味で危ない。


 アホな事を考えている間に、トロルは無事窒息死したみたいだ。倒したトロルはホールが処理をしている。




 「ごしじんたま! ねぇたんたち! ほーう、どうたった?」


 トロルの処理を終えたホールがとてとて~っと僕たちの傍まで走ってきた。


 「よくやったね、ホール」


 僕は、労いの言葉とともにホールの頭を撫でる。


 「へふ~~」


 ホールは撫でられてふにゃっとした表情になる。その隙に僕はルージュの方を見て一言。


 「…ホールが変な性癖に目覚めないように、教育よろしく」


 「分かりました!」


 僕がそう言うと、ルージュはかなりの覚悟を瞳に宿しながら頷く。どうやら、彼女もさっきのホールの戦闘を見て、危機感を覚えたようだ。

 そりゃそうだろう。どこの世界に、生まれて一日しか経ってない子供が、笑顔で相手の身動きを封じながら窒息させるんだよ。むしろ、無邪気な子供だからこそ、その笑顔が恐いわ! 今のうちからしっかりと教育しないと、豹変モードのルージュ二世が誕生しそうだよ。


北の島を目指す道中で、僕たちはホールは普通の子に育てようと誓ったそんな一幕だった。

 

ありがとうございます。


そして遅れてすみませんでした!


引っ越し作業が忙しくて、執筆時間がとれません…。

今週は週末の引っ越しに向けて、荷造りしないとなので、パソコンすら触れなさそうです…。


早ければ、今月中にもう一話投稿したいのですが、たぶん再開は来月からかなぁと思います。

どうか、見捨てずにお待ちください!!

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