強制…
間に合った~~~~!!!!
「それで、この悪魔はどうするんですか?」
少し休んだ僕は、いまだに抱き着いているリンや泣きじゃくるルージュをひとまず放置して、アイラさんに質問する。
「そうねぇ…。望君が反対しないなら一つ案があるんだけど?」
動けない悪魔たちを眺めながら、アイラさんは僕の質問にそう答える。
「答えを出す前に、その案を聞いてみない事には、何とも言えませんよ?」
「怒らないで、聞いてね。この悪魔をルージュと契約させるの」
「なっ!?」
アイラさんの案を聞いて僕は驚きの声をあげてしまった。そして、声こそ出さなかったもののリンもこの案にはかなり驚いている。ルージュに至っては、硬直してしまった。
「もちろん、ルージュの身は安全よ。いえ、安全になるように、いくつか細工はしないといけないけど」
「どういう事です? 召喚魔法の契約は双方の同意が必要ですよね? 力で屈服させるにせよ、対価を払うにせよ」
「確かに双方の同意があって初めて契約は成立するわ。けどね、望君。何事にも裏技が存在するのよ」
「裏技ですか? 私、そのような事があるとは知りませんでした」
アイラさんと話しているうちにフリーズしてしまっていたルージュが復活して、話に加わってきた。
「まぁ、本来の契約とは違って、相手の意思を無視して契約するから、外道のする事と忌避されてきたからね。今では、ほとんど伝わっていないんじゃないかしら?」
「それじゃあ、ルージュも外道の仲間入りじゃ?」
「あぁ。そこは心配しないで。この方法を使って外道と呼ばれるようになるのは、契約者のいる魔物に使用した場合だけだから」
つまり、召喚魔法の契約って契約者の有無関係なく出来るのか。
「た、確かにそれは外道のする事ですね…」
ルージュはの表情は悪感を隠そうとしないままで声を絞り出す。
「それでアイラさん。その裏技の方法は?」
「それはね、契約時に魔力を思いっきり流し込む事。要は魔力によるゴリ押しね」
「ゴリ押しって…。そんな簡単な方法でいいんですか?」
裏技ともったいぶっていた割には、大層な方法ではなくて、僕は拍子抜けしてしまった。
「簡単って言うけどね、望君。それだって条件をクリアーしないと成功しないのよ? まず、相手より魔力が多くないといけない。次に10分ほど互いに静止状態じゃないといけない。それをクリアーして、ようやく契約が成立もしくは上書きが出来るのよ」
「その条件を聞いた後だと、簡単だと軽々しく言えないですね。って、ルージュはこの悪魔より魔力が多くなかったらどうするんです?」
「そこは、最初に言った通り、細工するから大丈夫よ。そう言う訳で、あの悪魔のステータスを視ちゃってちょうだい」
「とりあえず、視ればいいんですね? え~っと…」
【名 前】 ソリューツ・バティン
【年 齢】 217歳
【種 族】 悪魔
【職 業】 子爵
【レベル】 71
【H P】 7342/7342
【M P】 3218/13234
【筋 力】 7327
【防御力】 6429
【素早さ】 6376
【命 中】 6545
【賢 さ】 9483
【 運 】 16
【スキル】
剣術LV3 体術LV5 火魔法LV6 風魔法LV6 闇魔法LV7 並列思考LV6 詠唱破棄 魔力操作 消費魔力軽減 隠蔽
【固有スキル】
転送
僕は言われた通り悪魔のステータスを視る。そして、その結果をアイラさんにそのまま伝える。
「ありがとう。それじゃあ、手始めに、ルージュの魔力以下になるよう徴収させてもらうわ」
ステータスを聞いたアイラさんは笑顔で悪魔…ソリューツににじり寄っていく。動けず、声も出せないソリューツは悪魔らしからぬ涙目になっているように見えるけど、気のせいだろう。
「これでよしっと。それじゃあルージュ。この悪魔と契約を結んでちょうだい」
「は、はい!」
魔力を徴収し終えたアイラさんは、ルージュを呼びよせ、早速契約をするように指示を出す。
「わ、我と契約を結べ!」
そして、ソリューツの足下に魔法陣が出現する。
「そこで、ありったけの魔力を注ぎ込みなさい」
「分かりました!」
アイラさんの指示を受け、魔力を注ぎ始めたのか、魔法陣が以前の契約時よりも輝き始める。
「注ぎ込んだら、そのまま光が治まるまで維持するのよ」
「はい!」
アイラさんの指示に元気よく返事をするルージュを見て、この分なら問題はなさそうだなと思う。
魔法陣の光が治まるまでの約10分間は、特に何も起きなかったし、誰かが口を開く異もなく過ぎ去っていった。
「お疲れ様。これで契約成立よ」
「ふぅー。アイラ様、ご指導ありがとうございました!」
魔法陣の光が治まったタイミングで、アイラさんは上手くいった事をルージュに伝える。ルージュも息を大きく吐いて、緊張を解いた。
「まだ、気を抜くのは早いわよ? これから契約以外にもう一つする事があるわ」
「ほかに何をすればいいんですか?」
「それは、この悪魔の真名を呼ぶ事よ。悪魔種は普段名乗っている名前以外に、真名と言うものを持っているのよ。そして、悪魔の真名は、悪魔以外が呼ぶと呼んだ者に支配されてしまうという特性を持っているの。そのために、悪魔が他者に真の名を教える事は普通ではあり得ない事なのよ。今回はその真名を契約者であるルージュに悪魔を完全に支配下に置くために、真名を呼んでほしいのよ」
「けど、どうやってその真名を言うんです? ルージュはおろか僕たちもこの悪魔の真名は知りませんよ?」
話を聞く限り、誰もこのソリューツの真名は知らないんじゃないかな? と思い、アイラさんに質問するととても落胆した声が返ってきた。
「あのね望君? 何の為に、君に観察スキルを使ってもらったと思ってるの?」
あっ! そう言えば、名前視たわ。
指摘された事で初めて気が付いた僕は、先ほど視た名前をルージュに耳打ちして教える。
「悪魔ソリューツ・バディン。私の許可無く他者に危害を加える事を禁ずる」
ルージュがそう宣言すると、ソリューツの足元から透明な鎖が出現し、ソリューツの全身を絡めとっていく。そして、全身に絡みついた鎖は、ソリューツの体に溶けて消えていった。
「これで、悪魔の方は終りね。あとは…この魔物の処理だけど…」
「アイラ様。その役目、私のホールたちにやらせてもらえないでしょうか?」
ルージュの提案に、アイラさんは僕に視線だけを向けてどうするか聞いてきたので、頷く事で答える。
「いいわよ。ただ、数が多いからこのまま魔力支配は継続しているから」
「はい! それでは…。出てきなさい、ホール、フェリエル。それにヴェーラーもアイツらを処理しなさい」
ルージュの命令で一斉に魔物へと向かって行く3匹。
ちなみに、フェリエルはさっき契約したと言っていたウルフで、ヴェーラーはドラゴンパピーの名前らしい。
「さて、あちらが終わるまでの間で聞きたい事があるんですが?」
「何かしら?」
「どうやってアイラさんの『魔力の支配者』の能力で、ここにいる魔物たちは動けなくしたんですか? ただ、支配しようとしただけだと気付かれますよね?」
「それはね。魔力生命体である彼らは、呼吸で大気中の魔力を体内に取り込んでいるのよ。つまり、私は自身の魔力を周囲に配布して、それを彼らは呼吸で体内に取り込んだ。そこを『魔力の支配者』で支配したって訳よ。その為に望君に時間稼ぎをお願いしたのよ」
なるほどね。
「ねぇ? あの悪魔が言ってたあの御方って誰なのか、聞き出しておいた方がいいんじゃないかしら?」
アイラさんの説明が一段落したところで、今まで黙って話を聞くだけだったリンが口を開いた。
「そう言えば、あいつは誰かの命令でここに来たんだった。とりあえず、ルージュが戻ってきたら聞くとしますか」
「ただいま、戻りました。う~ん…。やっぱり、動けないのを斬っても面白くないですねぇ」
「…ん?」
程なくして、魔物の処理を終えたルージュが戻ってきたけど、発言が若干危ない…。リンもルージュの言葉を聞いて、首を傾げているし。
「おかえり。ルージュも帰ってきたし、さっきの話の続きをしようか」
「? ご主人様たちはいったい、何を話していたんですかぁ?」
こらこら、豹変モードで話すんじゃない。リンがさらに首を傾げているじゃないか!
「この悪魔の目的は何かしらねって話していたのよ。あなたのドラゴンにも関係あるから、あなたが戻ってくるのを待っていたのよ。そういう事でこの悪魔の支配を解くわね」
リンが疑問を口にする前に、アイラさんがルージュに説明をして口を挟む機会を奪う。そして、彼女が指を鳴らすとずっと動かなかった悪魔が膝から崩れ落ちた。
「………それで、何が聞きていんですか?」
「驚いた。恨み言の一つぐらい吐くものだと思ってたんだけどね」
「真名を知られている相手に、何を言ったところで時間の無駄ですからね」
「悪魔のくせに切り替えが早いね。それじゃあ早速だけど、あのお方についてと、何故この地にやってきたのかを話してくれ」
僕の中でちょっとだけソリューツの印象がプラスになる。彼は予想通りの質問だったのかため息を一つだけついてから質問に答えてくれた。
「ふぅー。…あのお方とは、私の上司ラスト様の事です。私がこの地に来たのは、最初にお話しした通り、ドラゴンパピーの確保ですよ」
ラスト…か。
「なら、そのラストがドラゴンパピーを確保したい理由って何なんだ?」
「近々、北の獣人たちを襲う計画がありまして、その為の戦力としてです。私としては、親の方は確保できているので、必要ないと思ったのですが、ラスト様は必要だと仰ったので、私が確保に来た訳です」
もしかして、以前見たワイバーンの群れもそうなのか?
「…獣人を襲う理由は?」
「それは私も聞かされていないので、分かりません」
これは、予想通りだな。
「なら、もう一つ。ルージュを知っていた理由は?」
「それは、彼女が眠り姫だった時に一方的にお会いしたからです」
「それって王城に忍びこんだのか!?」
まさか、そんな所で遭っていたなんて…。
「忍びこんでなんていないですよ。彼女の治療の為に呼ばれた、大勢の内の1人と言うだけです」
「あの国王…。いくら何でも悪魔にまで依頼するなよ」
流石にこの事はこの場にいる全員が予想外だったようで、ポカーンっとしてしまった。
ありがとうございました
次でこの章は終わりの予定です…。
あと、私事で申し訳ないのですが、引っ越しが近々控えていまして、投稿ペースが落ちるかもしれません…。