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バレ…た



 「ノゾム! ルージュが大変なの! すぐに来て!」


 アイラさんに魔力譲渡の実験の結果を報告していたところに、リンが慌てて駆け込んできた。その慌てようは、ルージュの事を愛称で呼ぶのを忘れているほどだ。


 「ちょ、ちょっと、リン。落ち着いて! ルーが大変って、どう大変なのさ?」


 「私も、何から話せばいいのか分からないから、とにかく来て!」


 リンを落ち着かせて話を訊こうにも、本人も状況を理解しきっていないようだ。そうなると、ここで無理に聞き出すよりは、大人しくついて行った方がいいだろう。

 アイラさんに視線をやると、彼女も同じ考えに至ったらしく、僕と目が合うと頷いてくれた。


 「分かった。ルーの所まで案内して」


 「こっちよ!」


 リンは言うと同時に走り出してしまう。僕たちもリンを見失わないようにその後を追いかける。


 それにしても、リンがここまで慌てるのも珍しいな。いったい、ルージュの身に何が起きたん…って! もしかして、また狂乱モードになったんじゃ!?


 リンが走って戻って来た時から止まらない嫌な予感を必死に表に出さないようにしながら、リンの後を追いかける。


 リンを追いかけてついた場所は、小さな湖だった。周囲は草原の為、永い時をかけて出来たものだろう。


 「それで、ルーは何処にいるの?」


 「あの湖の畔よ」


 リンに案内され湖に近づくと、何やら笑い声が聞こえてきた。


 …なんだろう? 想像していた笑い声とは違うぞ?


 「や、止めなさい。くすぐったいじゃないてすか。あははは」


 「キュ~?」


 「…ねぇ、リン? あのルーに体をこすりつけているのって、もしかして?」


 「…もしかしなくても、ドラゴンの子供。ドラゴンパピーよ」


 僕の目に飛び込んできたのは、湖の畔で腰を下ろしているルージュに体長1mに届くか否かぐらいのドラゴンパピーが甘えている光景だった。


 「確か、2人は契約する魔物を探していたんだよね?」


 「その成果がアレよ。私も何でこうなったのか判らないわ」


 リンの話によると、ルージュはウルフと契約しようとしたところ、そこにこのドラゴンパピーが突然割り込んできたらしい。しかも、そのまま契約成立してしまったようだ。

 しかし、このまま契約しているとドラゴンパピーを探しに来た親ドラゴンの怒りを買うことになりかねないと思った2人は、ドラゴンパピーとの契約解除しようとしたのだが、これにドラゴンパピーが猛烈に反対。暴れ出してしまったらしい。

 そして、困った2人は僕たちに相談することにしたらしい。ちなみに、ウルフとはちゃんと契約したらしい。


 「…アイラさん、ドラゴンの子供がこんなにも懐く事ってあるんですか?」


 困った時の神頼り(アイラさん)と僕の中では方程式が出来ているので、ひとまずこの状況がどれだけ異常なのか確認してみる。


 「あり得なくはないわね。ただ、それには条件があるわ」


 「条件ですか?」


 「まず1つ目。親ドラゴンが何かが原因で子供の前から姿を消した。

 2つ目、彼女の魔力がドラゴンパピーの好みだった。その両方を満たさないとまず無理ね」


 1つ目の条件は分かるけど、2つ目の魔力が好みって? ドラゴンは肉食じゃないの?


 疑問を感じた2つ目の条件について、アイラさんに訊いてみる。


 「ドラゴンは肉食でもあるけど、魔力も食べるのよ。よく考えてみて? 大人のドラゴンは10m越えが当たり前、大きいのだと100mに届くドラゴンだっているのよ? そんなのが物理的にお腹いっぱいになるまで食事をしたら、とっくにこの世界から生き物はいなくなっているわ。だから、ドラゴン…いえ、ドラゴンに限らず、ある程度の大きさを超える魔物は大体が魔力も食べるわよ」


 言われてみれば納得だ。もし体の大きい魔物たちが魔力を一切食べないのであれば、この世界のその他の生物はもっと体が大きくなるよう進化していたはずだ。っと、これ以上は今考える事じゃない。


 「そう言う事ですか。そうなると、このドラゴンパピーは親に捨てられたと思って間違いないんですかね?」


 「絶対とは言い切れないけど、その可能性が一番高いわね」


 「なら、親のドラゴンがあの子を探しに来る可能性は低いから、無理に契約破棄しなくてもいいって事かしら?」


 「たぶん、大丈夫だと思うわ」


 リンがアイラさんの出した答えを聞き、親ドラゴンの襲撃の可能性の低さに安堵する。


 確かにあのドラゴンパピーの懐き具合を見ていると、親が探しに来るとは思えないんだよね。


 「おや? 探し物をしていたら、意外なモノを見つけてしまった」


 「誰だ!」


 突然、第三者の声が聞こえたのでそちらの方に目を向けると、そこにはいつからいたのか分からないけど、1匹の悪魔の姿があった。


 「私は、とある方の命を受け、この地にやってきたしがない悪魔です」


 「…とてもそうとは思えない実力を持っているとみるんだけど?」


 観察スキルで視なくてもこの悪魔がそこそこの実力者だというのは、こいつの醸し出す空気で判る。とは言っても、僕は勿論リンよりは弱いのは確かだ。しかし、この場には他にアイラさんとルージュがいる。この悪魔は彼女らよりは確実に強い。


 ここで悪魔と言う魔物について説明しよう。

 悪魔とは、魔力で体を構成している生き物で、以前セシリアが会ったと話していた精霊種と同じなのに、別種として見られる。理由は害の有無だ。妖精種は人間を襲わないが、悪魔は人間を襲う。これが悪魔を魔物として扱う理由だ。

 一般的な悪魔の強さは下級悪魔ならDランク冒険者並、中級でCランク、上級でBランク、それ以上の爵位持ちと呼ばれる悪魔は場合によってはSランク以上の冒険者強さを持っているらしい。

 それに、階級が上にいけばいくほど、悪魔は人間の風貌に近づくと言われている。


 そして、目の前にいる悪魔の風貌はと言うと、悪魔らしい蝙蝠の羽に尻尾こそあるものの、見た目はほぼ人間だった。


 「私の事などよいではないですか。私の任務はそこにいるドラゴンパピーだったんですが、まさか、王国の姫君がいらっしゃるとは」


 「「「っ!!」」」


 マズい! 目の前にいる悪魔は変装しているルージュの正体を正確に見破っている! 


 「おっと、下手に動かないで下さいね。さもなくば…」


 僕たちは悪魔の言葉に戦闘態勢をとる。すると、それを察知した悪魔は僕たちに警告する。ルージュの方に視線を向けると、いつの間にか10匹ほどのグレムリンが彼女を人質にしていた。


 「ちっ!」


 それを確認した僕は思わず舌打ちをしてしまう。それを聞いた悪魔は満足げな笑みを浮かべる。


 「貴方とそこのお嬢さんは、私では対処できないくらいの力をお持ちのようですので、手段を選んでいる余裕がありません。ですので、人間には効果的な人質と言う手段を使わせてもらいますよ。そして…」


 僕とリンを名指しして敵わないというこの悪魔は状況判断能力もしっかりしているようだ。

 そして、パチンと悪魔が指を鳴らすと、どこからともなく突如として、大量のグレムリンやレッサーデーモンなどの下級悪魔に属する魔物が現れた。


 「貴方方には死ぬまで殴られ続けてもらいましょう。なお、反撃する事はお勧めしません。人質がどうなってもいいのであれば、反撃してもらっても構いませんが」


 反撃すら封じられた僕たちは戦闘態勢を解除し立ち尽くすしかなかった。


 「いいですねぇ。心地いい怒りを感じます。貴方方はとても美味しくなってくれそうだ。…やれ」


 悪魔はいい感じにトリップしたと思ったら、すぐに正気に戻り手下の魔物たちに命令を下す。


 命令を受け、僕たちに殺到する魔物たち。僕たちは背後の攻撃に備える為に互いに背合わせとなり、魔物たちの攻撃を躱しながら、反撃のチャンスを待つ。




 「あぐっ!」


 「ルージュ!」


 魔物たちの攻撃を躱し続けていると、急に苦悶の声が聞こえてきたので、そちらに視線を向けるとルージュがグレムリンに頬を殴られたのが見えた。


 「あまり時間を使いたくないので、避けるのも止めてもらえませんかね?」


 再び人質を盾に脅迫され、僕たちは立ち尽くす事しか出来なくなってしまった。


 「素直で結構です。お前たち、殺れ」


 棒立ちになった僕たちを確認した悪魔は、再び手下の魔物たちに命令を下す。


 「…望君にリンちゃん、暫くの間、私の楯となって時間を稼いでくれない?」


 魔物たちの攻撃に飲み込まれる寸前で、アイラさんが僕らにだけ聞こえる声でそう囁いてきた。


 「分かりました」


 「いいわよ」


 今、この状況で問答している暇はないので、僕らは即答で了承する。

 そして、了承したからにはしっかりと彼女の楯にならないと。と思い、僕らは1歩前に出て魔物たちの攻撃をこの体一つで受け止める。幸い、周囲を埋め尽くすほど魔物がいる訳ではないので、僕とリンの2人だけでも何とかカバーしきれる。


 「おやおや? どうしました? お強い2人が楯となり、全ての攻撃を一身に受けて時間稼ぎに徹すれば、助けが来るとでも思っているのですか?」


 僕とリンがアイラさんを庇うようになったのを見て悪魔が嗤いながら問いかけてくる。僕らはその問いに応えず、ただひたすら攻撃に耐える。幸いにも、襲いかかってくる魔物が武器を持っていないので、僕やリンに深刻なダメージを負わせられるものではないと言う事。ただ、1つ問題があるとすれば…


 「…いくら、私よりも強いと言っても、数で攻めれば問題ないと思ったんですが、そうもいきませんね。かと言って、中級以上の配下を呼び出すのは、問題がある。そうなると、残された選択肢は、私自ら手を下すしかないですね」


 そう、僕らに確実なダメージを負わす事の出来るヤツが出てくる事。


 あの悪魔が魔物で僕たちの周囲を囲うように指示を出している隙にアイラさんを横目で見るけど、まだ時間を稼ぐ必要がありそうだな。


 僕は悪魔と2人の間に割って入る。

 

 「貴方が一番最初に死にたいのですか?」


 「そんなんじゃないさ。ただ、二度と女性に守られるような男にはなりたくないだけさ」


 「その心意気は素晴らしいですが、時と場合を選んだ方が長生きできますよ?」


 「そんな風に長生きするぐらいなら、潔く死んだ方がマシだよ」


 「それなら、その信念と共に死んで下さい。『フレイムランス』!」


 悪魔が問答は終わりと言わんばかりに、攻撃を仕掛けてきた。


 「ぐっ!」


 フレイムランスが僕の右肩に命中する。ダメージ的には全体から見たら僅かなものだけど、ダメージや炎による火傷などの痛みは普通に痛覚を刺激するので、結構辛い。

 実はさっきまでの魔物たちの攻撃は、例えるなら子供にホカホカ殴りをされている感覚だった為、痛くも痒くもなかった。

 こうなってくると、体力が馬鹿みたいに多い僕には、拷問みたいになってくる。高いステータスってのも時には考え物だね。







 「『フレイムランス』! 『スラッシュファング』! 『ストーム』!」


 「はぁ…はぁ」


 かれこれ20分ぐらいだろうか? 攻撃をもらい過ぎて痛覚が麻痺してきた…。それにしても、いい加減アイツの魔力って底を尽きてくれないかな? さすがに悪魔なだけあって魔力量も桁違いなのかね?


 痛覚が麻痺してきたことにより、余計な事を考える余裕が出来てしまった僕は、そんな事を考えながら悪魔の魔法攻撃を延々と喰らい続けていた。


 「はぁはぁ、強いとは感じていましたが、ここまでしぶといとは思いませんでしたよ? 貴方は本当に人間ですか?」


 「はぁ…、いやぁ、どうだろう、ね? 僕自身は、人間でいる…つもりだけど?」


 「…つもりですか。まぁ、いいでしょう。ここまで弱らせれば、私の最強魔法でトドメを刺せるでしょう」


 どうやら、時間稼ぎもここまでみたいだ。


 「すぅー、はぁー。すぅー、はぁー。…さよならです。『エンドレス・ナイトメア』!!」


 悪魔は、何度も深呼吸をして息を整えると、僕にトドメを刺すために上位闇魔法に属する魔法、エンドレス・ナイトメアを放った。



 …


 ……


 ………


 …………あれ? 何も起きない?


 「望君、時間稼ぎお疲れ様。たった今、この辺りの魔力を支配し終えたわ」


 僕が魔法が発動しない事に疑問に答えるかのように、僕の背後にいたアイラさんが口を開いてくれた。


 「魔力の支配ですか?」


 僕は前方にいる悪魔から視線を外さずにアイラさんに聞き返す。


 「そうよ。そして、その支配空間にいるこの魔力生命体たちは、私の支配下にいるのと同じよ。だから、もうこいつらは戦う事は出来ないわ。望君、お疲れ様」


 「ノゾム! 大丈夫!?」


 「ノゾム様! 怪我の方は大丈夫ですか!? 私が人質に取られたばかりに。本当にすみませんでした!」


 アイラさんの労いの言葉と同時にリンが飛びついてきて、ルージュが泣きながら僕の体を調べまくる。そして、気の抜けた僕はその場に座り込んでしまった。



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