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豹変…




 アイラさんの固有スキルがチートだったと判明した件から1ヶ月が過ぎた。


 あの後は、自身の自由獲得の為にルージュを含む11人全員に各々が希望した属性をその日のうちに習得させたアイラさんだったが、案の定、僕の次の言葉を聞いて激怒した。


 「それじゃあ、ルージュにフェルたちが激しく体を動かしても問題なさそうだと思っている1週間後までに、ある程度の戦闘技術を叩き込んでおいて下さい。付きっきりで。あと、目標は回避スキルの習得で」


 とりあえず、これを聞いて激怒したアイラさんに、彼女の早とちりだと説明して、しっかり誤解を解いた。


 怒りの収まったアイラさんは、自分じゃ指導は出来ないと言ってきた。なのでアイラさんを丸め込んで、僕がアイラさんとルージュの戦闘指導もする事になった。と言うか、そうなるように仕向けたので、狙い通りになってくれてよかった。

 アイラさんを巻き込んだのは、今後の事を考えた末の結論だ。だって神と戦うのに、遠距離しか戦闘の選択肢がないのは話にならないと思ったから…ね。


 そんなこんなで翌日からアイラさんとルージュのスキル習得の為のシゴキが始まった。

 まずは、ひたすらに僕が木刀で打ち込み、それを2人が避ける。これの繰り返しだった。避け方が悪かったり、足を止めてしまったりすると、容赦なく木刀の一撃が2人を襲う。最初の一撃を避けれるようになるまで、生理現象以外は休憩なしで行った。もちろん、ステータスの差を考慮して、それぞれがギリギリ見極められるぐらいまで加減はしている。

 最初は休憩なしに文句を言っていた2人だけど、僕自身も休憩をしないと気付くと自然と文句も減っていった。

 そして、2日目で2人とも初めて避ける事に成功した。なので、次は避けた後、いかに次の行動にを素早く移れるかを目標に練習を続ける。

 そうして、一週間が経つ頃には2人とも無事スキルの習得に成功していた。

 ちなみに、アイラさんは体術スキルと回避スキルをルージュは回避、直感、先読みのスキルを習得した。


 その後は、動いても激しく大丈夫だと判断したフェルたちを交え、武器の扱いや魔法の練習、さらには実践訓練の為に、外へ魔物を狩りにも行った。




 そして、現在は…


 「はい、そこまで。勝者はネクス」


 「おし!」


 「フェルはまだまだ、武器に振り回されている感があるな。それが余計な隙を作っちゃうんだよ」


 「…はい」


 「その辺りは、武器の扱いに慣れるか、魔法で補うしかないと思うよ? ただ、魔法で補うなら、最低でも詠唱短縮は必須になるけどね」


 「それって、また練習量が増えるのです…か?」


 「もう少し様子見かな? 改善されないようなら、それも考えないと」


 「…ご主人様の様子見って、2日ぐらいしか猶予が無いって事と同じなんですけど」


 「ん? 何か言った?」


 「何も言ってません! 自分は訓練に戻ります!」


 それだけ言うと、フェルは僕の元から去っていく。ネクスはとっくに、自分の訓練を始めている。


 と、訓練に精を出す日々を送っている。


 さっきまでフェルとネクスがしていたのは、3日おきに行う模擬戦だ。今回の勝者はネクス。と言うより、割とネクスの勝率は高い。フェルが弱い訳ではないのだけど、使っている武器が武器の為、どうしても勝率が伸び悩んでいる。逆にネクスは、武器をしっかり扱えている為、戦いでは隙が少ない。


 「ノゾム様、今日はどのような訓練をするのでしょうか?」


 模擬戦が終わったのを見計らって、僕に声をかけてきたのはルージュだ。…若干目が虚ろだけど。


 そろそろ、外に出ても平気かな? ってか、この目は外に出さないとマズいか…。


 実は、フェルたち新人が外に魔物を狩りに行ってる間も、ルージュだけは外に出ていなかった。理由は、変装が上手く出来ないからだ。あとは魔力操作を覚えるだけなんだけど、それが思いのほか上手くいかなかった。けど、それでも限界かな? ひとまずは、息抜きがてらに外で魔物でも狩らせよう。


 「今日は特別に、外に行くとするか」


 「へ? ほ、本当ですの?」


 外へ行けると聞いて、ルージュの瞳に光が戻る。そして、僕にずずずいっと顔を近づかせてくる。


 ルージュさん、顔近いッス! 鼻息荒いッス!


 ルージュは現在、屋敷内ではあるけど、出逢った当初の緑髪の女性に化けている。なので、普段の彼女にはない美しさに自然と頬が赤く染まってしまう。それを誤魔化す為に、そっぽを向きながらルージュの肩に手を置き、引き剥がしにかかる。


 「落ち着け! 本当に外に連れていくよ。ただし、明日からはスキル習得するまでは出れないからな」


 「はい!」


 ルージュは元気よく返事したけど、話の後半を聞いていたか怪しい…。


 「アイラさんも話は聞いてましたね? ルージュの変装の手伝いお願いしますね。フェルとネクスは訓練を切り上げて、派遣メイドさんの所へ」


 「分かったわ」


 「「はい!」」


 僕とルージュのやり取りを近くで見ていたアイラさんにも確認をとり、フェルたちにこの後の指示を出す。そして、僕たちは外に出る準備をする為に地下をあとにする。


 ちなみに、派遣メイドとは、家事スキルを一つも持っていない新人たちの為に雇った教師の事だ。

 一週間前から来てもらっている。今は、午前中は戦闘訓練、午後は家事訓練となっている。


 閑話休題



 そう言う訳で、やって参りました。自由都市の東にある森に。聞いた話だと、この森も王都の北にある森も同じらしいけど…。いったい、どれだけ広大な森なんだか。


 「早速、ルージュは魔物を探してくれ」


 「ノゾム様とアイラ様はその間、何を?」


 「僕たちは、ルージュのサポートかな? 手に負えない魔物が出てきた時とかのね」


 「分かりましたわ。その時は、よろしくお願いします」


 ルージュに魔物捜索を任せ、僕たちは彼女の後ろをついて歩く。


 暫く歩いていると、ルージュが魔物を発見したみたいだ。僕の感知スキルにも引っかかっていたから、気付かなきゃ教えるつもりだったけど、余計な心配だったみたい。


 「ノゾム様。前方に武器を持たないゴブリンが3匹。どうすれば良いのでしょうか?」


 「それじゃあ、3匹の位置を確認して、奇襲を仕掛けるのに最適な場所まで後をつけて、一気に殲滅しようか」


 ルージュの質問に答えると、彼女は返事はせずに首を縦に振ることで、了解したことを伝えてきた。




 そして少しの間、ゴブリンの後を追っていると、多少開けた場所に出た。

 仕掛けるならここがよさそうだと判断した僕は、ルージュへと合図を送る。

 合図を見たルージュは先ほどと同じように、首を縦に振るだけだった。


 「周囲が少し開けているとはいえ、あの武器(・・・・)が振り回せるほど余裕がある訳じゃない。だから、今回は短剣を使うんだ」


 「分かりましたわ」


 アドバイスを貰ったルージュは、腰に付けていた短剣を鞘から抜き、そのままゴブリンへと近付いていく。


 「ギャッ!!」


 「ギギャ!?」


 「グギ!!」


 突然の背後からの襲撃により1匹は喉から刃が突き出ている。貫かれた時の声で残り2匹は、背後から(ルージュ)の襲撃に気付く。

 ルージュはすぐさま喉に刺していた短剣を引き抜き、同時にバックステップで2匹から距離をとる。


 「ゲギャ!」


 「ギャギャ!」


 距離をとったルージュに対して、2匹のゴブリンがとった行動は単純なもので、彼女に文字通り飛びかかっただけだった。多分、女性って事で侮ったんだろう。


 ルージュは、飛びかかってきたゴブリンに慌てることなく、その場で飛び上がり、ゴブリンの背中に全体重をかけるように着地すると同時に短剣で心臓を貫く。


 「ガアアア!!」


 残った1匹がやられた仲間を見て怒りの声をあげる。

 そして、その怒りに任せて突っ込んで来るのをルージュは冷静に避ける。避ける際に、短剣を心臓に突き刺したので、ゴブリンはそのまま倒れた。


 「ハァ、ハァ…」


 3匹のゴブリンとの戦闘を終えたルージュは、息が乱れていた。流石に初戦闘だけあって緊張したのだろう。僕がいる場所からだと彼女は背を向けているので表情は伺えないから息づかいだけでそう判断したけど、間違ってないと思う。


 「お疲れ。大丈夫か?」


 「ハァハァ…」


 「ルージュ?」


 戦闘が終わったので、ルージュを労うも反応が無い。僕は首を傾げながら先ほどよりも大きな声で再度彼女に声をかける。


 「え? あっ! ノゾム様! どうしましたか?」


 「…? こっちがどうしただけど、大丈夫か? さっきの戦闘で何かあったのか?」


 「いえ、何もありませんよ? それより、次はどうしますか?」


 ようやく僕の呼びかけに気付いたルージュだけど、彼女は僕の最初の呼びかけが聞こえていなかった感じの反応を返してきた。

 反応の遅さには疑問が残るけど、それも初戦闘の余韻だろうと結論付けた僕は、この後どうするか考える。


 「…そうだなぁ。このまま狩りを続けてもいいんだけど、その前にルージュの召喚魔法の為に、契約出来る魔物でも探すか?」


 「契約…ですか」


 さて、召喚魔法スキルだけど、簡単に説明すると、魔物と契約して使役する魔法だ。魔物との契約には幾つか条件がある。

 ・力で屈服させる方法。

 これは、言葉が通じない魔物と契約する基本的な方法だ。

 ・対価を支払って力を借りる方法。

 これは、意思疎通が出来る魔物と契約する時に使われる方法だ。


 この方法以外にも色々あったりするけど、基本的にはこの2つが主流だ。今回は前者の方法で契約する予定だ。


 「そう、契約。せっかく持っているスキルなんだし、戦闘に活用しないともったいないじゃんか」


 「はぁ…」


 何故か乗り気ではないルージュ。いや、心ここにあらずって感じかな? ん~、もう少しすれば戻るか。





 心あらずのルージュも捜索している途中にはいつもの彼女に戻ってくれた。


 「お? スライム発見」


 僕の索敵スキルに引っかかった魔物を確認すると、そこにいたのはスライムだった。


 「あれと契約すればいいのですか?」


 「そうだね。注意点は1つ。分裂に気を付けてね」


 「はい!」


 返事をしてスライムに向かって行くルージュ。スライムは1匹しかいないので、奇襲などせずに正面から仕掛けるようだ。

 スライムの正面? に姿を見せたルージュは先手必勝と言わんばかりに、スライムに攻撃を仕掛ける為、一気に距離を詰める。そして、鞘にしまったままの短剣でタコ殴りにする。時折、スライムからの反撃と言わんばかりの体当たりがあるけど、ゴブリンの攻撃より遅いそれは、ルージュにいとも簡単に避けられてしまう。


 「我と契約を結べ!」


 そろそろ頃合いだと思ったのか、ルージュは契約の詠唱をする。すると、スライムを囲うように地面に魔法陣が出現する。そして、一拍おいてスライムが魔法陣の中へと消えていく。どうやら契約成功のようだ。


 「お疲れさま、これで貴女も召喚士の仲間入りですね」


 「ありがとうございます、アイラ様」


 「アイラさん、どういう事です?」


 アイラさんの言葉の意味が解らず首を傾げる僕。


 「召喚士とは、ぶっちゃけ契約した魔物がいないと戦闘では役に立たない職業なのよ。だから、魔物と契約出来てやっと召喚士と名乗れるようになるって訳」


 ほー。そんな決まりみたいなものがあるのか。まぁ、ルージュは契約した魔物がいなくても戦闘出来るようには鍛えているから問題ないけどね。


 「それじゃあ、契約も出来た事だし狩りに戻るとしようか」


 「はい!」


 召喚魔法に関しては、また後日にして、狩りに戻る僕たち。一応、3匹以下の魔物を探しながら、見つける度にルージュに任せる。





 しかし、戦闘の度にルージュは徐々にだけど様子がおかしくなってるように見えた。最初は緊張だと思っていたんだけど、そうじゃないっぽい。

 だって、戦闘が終わると頬を紅く染めながら、恍惚な笑みを浮かべてるんだ。アイラさんに2人で旅をしていた時にこんな事があったのか訊いてみたところ、「こんな彼女見たの初めてよ」との言われた。


 これはどうしたものかと考えていた時に、その時が来てしまった。


 「あ、あははははっはははははははははは! き、気持ちいい~!」


 戦闘が終わった瞬間、ルージュが奇声をあげて笑い始めた。


 「ル、ルージュ!?」


 「ん~、あっちに何かあるような? まぁ、行ってみれば判るわね。あははははははは!」


 突然、豹変した彼女に声をかけるも、僕の声は、彼女の耳に届いていないようだ。そして、ルージュはそのまま、どこかを目指して走り出してしまった。 

ありがとうございます

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