人を隠すなら人の中…ではなく、家の中
本日、誕生日で31になりました。
「そう言えばリンは、今までの話を聞いて、納得したの?」
僕は自分の事は横に置いて、先程怒りを露わにしたリンに話を振ってみた。
「……今まで話に嘘は無かった。ヴァンパイアの祖になった人たちが、子孫の事を考えていないのには、腹が立ったけど、彼らの気持ちも分からなくない。だから、あとは彼女次第かな?」
そう言って、リンはアイラさんを見た。それでリンが何を言いたいか分かった。リンはアイラさんがこれからどうしたいのか、またはどうするのかを聞きたいんだ。
管理神を殺す。これは神だった頃のアイラさんの目的だ。神じゃなくなったアイラさんはそれでも管理神を殺したいのかをリンは知りたいんだろう。
「私は、神でなくなった今でも、アイツを殺したいと思っているわ。そうじゃないと、今まで利用してきた人々に顔向け出来ない。
それに、アイツを殺して神の介入を止めないと、この世界の人々が、神の都合のみで生かされていることになる。それだけは終わらせないと…」
「…歩みを止めるようなら、許さなかったけど、まだ歩き続けるのなら、私は何も言わないわ。ただし、貴女が歩くのを途中で止めるようなら、私は貴女に利用された被害者の子孫として、貴女に責任を取らせるわ」
「判ったわ」
リンはアイラさんの言葉を聞くと、包帯をいつも通り目に巻き始める。どうやらひとまずは、終わったみたいだ。
2人のやり取りを見ていた僕たちは、静かにほっとひと息ついた。
が、次にリンが口にした言葉によって、再び部屋は緊張に包まれることになった。
「それじゃあ保険として、ノゾムの奴隷になりましょうか?」
「いいわよ」
「「「「「えぇ~~~~~~~!?」」」」」
最上級の笑顔で爆弾を投下したリン。それに即答するアイラさん。そして、状況についていけない僕たち。つまり、カオス再来。
「アイラ様! 神様ともあろう御方が、奴隷になるなど私は反対です!!」
「リンさん!? 今はヒトとは言え、元神様を奴隷にするなんて…。先輩奴隷として、苛める気?」
「ノゾム様、また…奴隷、増やすんで、すか?」
「サキ、あなたとは話し合いが必要なようね?」
「私、もう神様じゃないし、イリスの上司でもないわよ? だから、あなたの意見は聞いてないわ」
ああもう! みんな一斉に話し出すから、収拾がつかないよ! こうなったら仕方がない!
「命令! 『全員黙れ!』」
僕が滅多に使わない主人としての命令を使って、強制的に黙らせる。そして、急に黙ったリンたちを見て、アイラさんとルージュはぽかんとしていた。
「さて、みんなそれぞれ言いたい事があると思うけど、まずはリン。どうして、アイラさんを奴隷に?」
「だって、目の届く範囲で見張ってないと、約束を違えた時に責任を取らせられないじゃない? それに、彼女を抱え込む事で、管理神からも狙われるでしょ。そうすれば、文句を直接言うチャンスが出来るかな…と?」
あぁ、監視目的でしたか。それにアイラさんを抱え込むデメリットは、リンにとってはメリットでしかない、っと。
「なるほど…。じゃあ、アイラさんは何故、奴隷になるのに抵抗が無いんですか?」
「私も彼女の意見に近くて、私の行動を近くで見ていてほしいのと、私1人じゃ、アイツには勝てないから、戦力として協力してほしいからってところかしらね。あと、望君の奴隷なら安心だし」
こちらは強かですな。抱え込まれる事で、足らない力を補おうと言うわけですか。
「では、イリスさんにサキ。今の2人の話を聞いた上で、何か言いたい事はありますか?」
「うっ。アイラ様が奴隷になるのは、反対なのですが…。しかし、手が足りないのも事実。なら、主様の奴隷な…ら? ……いえ、何もありません」
「あ、あははは~。あたしも何もないよ。どうやら、勘違いだったみたいだし」
最初はぶつぶつと呟いていたイリスさんだが、自分の中で折り合いがついたらしく、何も言わずに終わった。サキは乾いた笑い声を出しながら、イリスさん同様、何も言わなかった。ただ、リンがジト目でサキの事を睨んでいた。
「次は……セシリアか。えっと、アイラさんを奴隷にしないと、リンが納得しないと思うんだ? それに、奴隷が増えたとしても、セシリアがいらなくなった訳じゃないから」
「本、当です、か?」
「本当だよ」
奴隷が増えると話題に上がった時から不安な表情をしていたセシリアを安心させる為の言葉を口にする。その甲斐あってか、セシリアの表情は不安一色からとても安心した表情へと変わった。
「最後にルージュさんは何かある?」
さっきの混沌とした時に何か言ってるようには見えなかったけど、ついでなので話を振ってみる。
「でしたら、私もノゾム様の奴隷にしていただけないでしょうか?」
「よーし。どうしてそうなるのか、分かり易く説明して下さい」
僕は即行で土下座をして説明を求める。この世界で土下座が通じるか分からないけど、そんなの関係ない。今、関係あるのは、リンとセシリアの機嫌がこれ以上悪化する前に、ルージュの口から説明してもらう事! だから、そんなにジト目と泣きそうな目でこっちを見ないで下さい。
「え、えぇっと、私は現在、王国から逃亡している身です。なので、匿っていただかないと、王国の者に見つかり、連れ帰られてしまいます。そうなると、私に待っているのは、スキルを使っての死か言うことを聞かず殺されるかの2択です」
「状況は分かりました。しかし、それが何故、奴隷になるへ繋がるんですか?」
「王族が奴隷に堕ちているとは、誰も考えないじゃないですか」
なるほど、身の安全をより確かなものにしたいから、奴隷になる…と。
「う~ん。ルージュさんの現状は、ほぼ僕が原因と言っても過言ではないですから、ルージュさんが望むのであれば、奴隷の件は引き受けますが、本当にいいんですか? 周囲の視線とか、端から見ていてもキツい時ありますよ?」
「はい、大丈夫です! だって、ここにいる皆さんと御一緒ですから」
お、おう。満面の笑みで返事してきたよ。
「…そ、そう言えばアイラさん。僕が勇者からスキルを奪った説明って、まだ必要ですか?」
ルージュさんの満面の笑みに動揺した僕は、話題を変える為に、話を思いっきり戻すことにした。
「えっ? それなら、ステータス視た時に解決したからいらないわ。それにしても、遊び半分で設定した吸血スキルを習得するなんて…。あれは超低確率でしか習得出来ないんだけど…」
…終了。
「さぁ、ノゾム様。これから奴隷商人の所へ行き、奴隷契約を交わしましょう!」
ちょっと! なんでこの娘は奴隷になりたがるの!? いくらなんでもおかしいでしょう?
「あっ、ルージュ。望君って、奴隷契約のスキル持ってるから、この場で契約できるわよ?」
何、さらっと暴露してくれてるんですか? アイラさん!! 王族を奴隷にするなんて、絶対面倒事に巻き込まれるじゃないですか! 僕はそんなの勘弁ですよ? …まぁ、こうなった原因を作ったのは確かだから、匿うぐらいはしてもいいとは思っているけど。
「…これで契約は終了しました」
「ノゾム様? これからは主従の関係です。ですので、ノゾム様は皆様と話す時みたく、私にも砕けた口調で接してください」
今の会話を聞いてお分かりの通り、ルージュとの奴隷契約をしました。
あの後、頑張って説得しようとしたけど、無理でした…。夜遅くなってきたから、続きは明日って言っても、僕の部屋までついて来ようとするしね。もう、根負けしました。
そして何故か、ルージュと契約するついでにアイラさんとも契約をしました。僕、OKした覚えないんだけどなぁ…。
そんなやり取りがあった翌日。僕たちは、朝の朝食前から集まって、今後の事を話し合っています。
「とりあえず、この人数で今後も宿に泊まり続けるぐらいなら、いっそのこと、新しい家を買おうと思うんだけど?」
「「「「「「異議なし!」」」」」」
宿屋生活が長くなってきたので、そろそろと思っていた矢先に昨日の出来事だったので、これを機にと提案してみると、みんな賛成の意を示してくれた。
「それじゃあ、ルージュには、新しい家でメイドをしてもらうから」
「えっ? 私…ですか?」
突然のメイド宣告に驚きを隠せないルージュ。ちなみに、呼び捨てになったのは、昨夜の契約後のやり取りで決まった。
「だって、1人で変装も出来ないんじゃ、家にいるしかないでしょ? しかし、僕は働かない人にご飯を食べさせる事をしない。だから、ルージュはご飯を食べる為には、働かないといけない。そして、現在外で働けないルージュは家の中で働かないといけない。つまり、炊事、洗濯、掃除などの家事をする事になる」
「メイドの理由は、分かりました。しかし、私は今まで家事をした事が一度もありません。どうすればいいのでしょうか?」
「しばらくは、短期でメイドさんを雇って、ルージュに仕事を教えさせる事にするよ。ただし、アイラさんが使っていた光魔法を利用した変装術を身に着けたら…ね」
「あ、あれをですか? あれって、光魔法、魔力操作がないと出来ないのでは? 私は両方使えませんが?」
引き攣った顔でルージュで僕に質問してくる。だから、笑顔で答えてあげる。
「だから、覚えてもらうんだよ。部屋に籠りっきりで。ちなみに、覚えるまで部屋の外には出さないから。それと、教師はアイラさんで、そのアイラさんもルージュが覚えるまで、部屋で付きっきりね」
「「ええええ~~~~~!!」」
やっぱり、人を隠すなら人目につかない所に隠すのが一番だよね。
…………………決して監禁ではないですよ。全てはルージュの為です!
ありがとうございました。
王女さんの扱い、どうしてこうなったんですかね?