ヴァンパイアとは…
説明回を終わらせたら、長くなった…。
ここまで、異世界召喚のスキルとルージュについての説明をアイラさんにしてもらっていたけど、僕はふと疑問に思った事を口にした。
「そう言えば、異世界召喚はルージュさんが使用する前に彼女の母親も使用しているんですが、そっちは失敗だったらしいんですが、何でですか?」
「……その人のステータスを見ていないから、確証は持てないんだけど、一番高い可能性は、その人が召喚師の職業ではなかった事かしら?」
「アイラ様の仰る通りかと。母の職業は魔術師でしたので」
アイラさんの予想をルージュが肯定する。
「あれ? 異世界召喚のスキルは王族にしか発現しないんだよね? と言う事は、ルージュさんの両親って血の繋がりがあるって事だよね?」
「それは違うと思うわ。理由は分からないけど、王族に迎え入れられた時からスキルが発現するみたいなの」
「へぇ~、不思議ですね。流石、ファンタジー」
「望君の言いたい事は分かるわ。けど、これは現実よ。そもそも、その辺りはスキルを創ったクソ野郎にしか分からないのよ」
「そうなんですか…。っと、そうだ! 話は変わりますが、アイラさんとルージュさんはどうして2人で旅をしていたんですか? アイラさんが、ルージュさんを治したのは分かりましたが、そこからどうすれば、2人旅に繋がるのですか?」
アイラさんがクソ野郎と口にすると、見るからに不機嫌になってたので、僕は慌てて話題を変える事にした。
「えっ? あ、あぁ。それはね、あの国王が、最初に呼んだ望君以外の子たちを捨てて、再度勇者を召喚しようと企んでいたのよ。そんな事をすれば、スキルの残り使用回数が0のこの娘は死んじゃうわ。だから、私はこの娘を連れて王国を出て、この自由都市に向かっていたの。望君たちに助けられたのは、その時よ」
「そうですか…。あいつらやっぱり国から捨てられましたか」
「やっぱり? …その様子だと、望君は、彼らが捨てられる事を予め知っていたみたいだけど?」
事情を知らないアイラさんとルージュは、僕が勇者一行の処遇を知っていた事に疑問を感じ、2人揃って不思議そうな顔をしていた。
「ええ、まぁ。そうなった直接の原因を作ったのは僕ですからね」
「どうやって!? 彼らはスキルを奪われたって言っていたわよ! 今までの転移者でも、スキルを奪うスキルなんて、とんでもないものを保持していた人いないわよ!?」
あれ? アイラさん、僕のステータスを視てない? 僕のスキルに隠蔽はないから看破持ちの彼女なら間違いなく視れるんだけど…。
「その説明をする前に僕の質問に1つ答えて下さい」
「? …別にいいわよ?」
それがどう繋がるんだ? って顔をしながらもアイラさんは首を縦に振ってくれた。なので本当なら一番最初に質問したかった事を彼女に投げかける。
「ヴァンパイアって何ですか?」
「っ!! それをどこで知ったの!?」
僕の一言にアイラさんは驚愕して声を荒げた。それに対して、僕は淡々と答える。
「知るも何も、今の僕はそれなんですが…」
僕がそう答えると、アイラさんはこの部屋にいる僕の仲間たちに視線を巡らす。そして、大きなため息をついた。
「はぁ~。…まさか、こんな所で過去の過ちに出遭うなんてね。しかも、それが望君と行動を共にしているなんて」
「教えてもらえますよね?」
アイラさんはリンの事を見つめながら、過去の過ちと言ったけど、それはリンに対してなのか種族に対してなのか判断がつかない。なので、そこらへんも込みで説明をと視線と言葉で彼女に聞いた。
「もちろん教えるわ。それにしても望君は、やっぱり運がいいみたいね」
「…もしかして、それはヴァンパイアへとなる為の条件の事を言ってますか?」
「よく分かったわね? そちらの彼女から教えてもらったの?」
アイラさんはリンに視線を向けながら訊いてくる。
「違いますよ。以前、少しだけイリスさんに教えてもらいました。けど、条件が在ることぐらいしか、イリスさんも知りませんでしたので、それ以上の事は知りません」
「そうなの!?」
情報源がリンじゃない事に驚くアイラさん。なので、リンが幼少期に村から追い出された事を教える。
「…そうなると、どこから話したらいいかしら?」
「なら、ヴァンパイアって種族はいったい何なのか、そこからお願いします。リンも幼すぎるうちに同族から追い出されているので、それすらも分からないんです」
何処から説明するか迷っているアイラさんに、話を進める為の質問を投げかける。
「そうね…。結論から言うと、ヴァンパイアと言う種族は望君と同じ、異世界の人を元に私が創り出したのよ」
「ちょっと待って! それってどう言う事なの!」
アイラさんから驚愕の事実を告げられ、僕たちは全員言葉を失った。が、リンだけは違った。リンは目の包帯を外し、そのオッドアイでアイラさんを睨みつけながら、噛みついた。
「リン、落ち着いて! それも含めて、これから話してくれるはずだから。ですよね?」
「ええ、もちろん。嘘偽りなく話すつもりよ」
「…ふぅー。ごめんなさい、ノゾム。もう大丈夫よ」
一つ、大きな深呼吸をしたリンは、落ち着きを取り戻した。多分、魔眼でアイラさんの言葉が本当だと知って、ひとまず話を聞く事を選んだんだと思う。それにしても、まさかリンがこのタイミングで怒りを露わにするなんて思わなかったな。
「まず、何故異世界の人間を選んだのかと言うと、互いの利害が一致したのが一番の理由なの」
「利害の一致…ですか?」
堕ちるまではアイラさんに仕えていたイリスさんでさえも事情を知らないらしく、首を傾げながら聞き返していた。
「そう、利害の一致よ。私はクソ野郎を殺したい。彼らは元の世界に帰る為にクソ野郎を殺したいってね。その為に私は、彼らに力を与えた。それがヴァンパイアって種族の始まり」
「ねぇ、さっきからちょくちょく出てくる『クソ野郎』って誰なのよ? 神様だって事は話の流れで分かるけど、それなら貴女が直接手を下せばいいじゃない? それをなんで異界の人間に頼むのよ?」
リンがもっともな質問を挿む。
うん。僕も気になっていた。そして、たぶんこれこそがアイラさんが僕に本来やって欲しかった事だったんだと思う。
「……確かにその通りよね。私の力が及ぶ範囲で事が済めばよかったんだけど、私の力だけではアイツを殺せなかったの。そう、この世界の管理神エルピトスはね」
「アイラさんは何故、その管理神を殺そうと? 管理の名を冠しているって事は、この世界の神では一番偉いんですよね?」
僕は、リンの質問に答えているアイラさんに動機の説明を求めた。
「望君、それ本気で言ってる?」
「えっ?」
しかし、アイラさんは質問に答える以前に、とても冷たい視線で僕を見てきた。まるで、今の僕の言葉を強く批判しているかのように。
「だって君、そいつのせいでこの世界に来る羽目になったのよ?」
「あ!」
「それに、天使を創ったのもアイツ。天使が言う神託の内容を考えているのもアイツ。さらに言えば、何故管理の神が、わざわざ自分が管理する世界に異物を入れるの?」
アイラさんの言葉を聴いて、自分の喉がカラカラと乾いていくのが判る。そんな僕を無視して話を進めていく。
「あと、歴史を調べれば分かるけど、天使が神託を告げると、大なり小なり違いはあれど、確実に争いが起こるのよ。
この世界での争乱は天使の神託から始まると言っても過言ではないわ。
だから、私は神託の元であるアイツを殺すの。この世界から争いで散る命を少しでも減らす為に」
告げられた現実に誰も何も言えなかった。それに気づいてもアイラさんは話を続ける。
「そのために私は、この世界で神託を狂わせてくれる存在を創ることにしたの」
「…それにうってつけだったのが、僕みたいな存在だった訳ですね。でも、何故神託なんですか?」
僕はようやく言葉を絞り出すことが出来た。
「その通りよ。そして、神託を狙う理由は、アイツが神託を狂わされるのを嫌うから。
過去に一度だけ、アイツがこの世界に降りた事があるのよ。その原因が、神託がことごとく実行されなかったからなの。その原因は色々あるわ。まだ、天使が自分の遣いであると認識が低く、神託を受けた者以外が、神託を信じなかったとか、神託を快く思わない者たちの妨害にあったりと…ね。
そして、それらの尻拭いの為に本人が出てきたって訳。それ以降は、本人が出張った甲斐あって、天使の神託の認知度も上がり、神託が実行されないと言う事は無くなったのよ」
「つまり、ヴァンパイアって言うのは…」
「えぇ。管理神エルピトスの神託を狂わせ、地上に姿を現したエルピトスを殺すための生体兵器の名前ってところかしらね。
けど、それは彼らも納得しての事よ。それに兵器と言っても、意思の自由はあるし、子供も出来るわ。最初にも言ったけど、要はアイツを殺す力を与えただけ」
なんか、話が脇道に逸れたようで、話が最初に繋がったのに驚いた。
「それじゃあ、これからはヴァンパイアの能力について話すわね。
まずは、魔力の量に比例して身体能力を増大させる力。これは、物理的にアイツへと対抗しうる力をつける為の能力。アイツは神だけあって、この世界の人間でも異世界の人間でも対抗できないほどステータスが高いから。
次に、自身の血を相手に分ける事で、相手をヴァンパイアへと変える力だけど、これは同志を増やす為なの。いくらステータスを強化しても数の暴力には勝てないわ。なんせ、相手は腐っても神。いざとなれば、神託を使ってこちらを悪者に仕立て上げる事が出来る。それは世界を敵に回すのと同じ。と言ってもヴァンパイアは既に世界の敵とされてしまったけど…」
それで、世界から忌み嫌われているのか。まぁ、神様公認って言うんだから、何も知らない人々は神の言葉を鵜呑みにしてもしょうがないか。
「あと、このヴァンパイア化能力には条件があるのよ」
「それって、僕が運がよかったって言う?」
「そうよ。その条件って言うのは、異世界の人間か、もしくはその血を宿す者にしか反応しないの。それ以外の、つまり純セルフィアナ人は効果がないの。…いえ、無いどころか逆に死に至るわ」
「何でそんな事を?」
幾らなんでも、失敗の代償が死ってのは厳しくないか? 別に効果が無いだけでも十分だと思うんだけど?
「そうじゃないと、敵にまでヴァンパイアを作ることになるからよ。この能力を求めてくる人間なんて大半が碌でもない事を企んでいる人間よ。中にはアイツの内通者がいるかもしれない。そんな奴らに能力を渡さない為の対策よ」
なんか、この話を聞いて、ヴァンパイアが忌み嫌われている理由がこの能力にもあるような気がしてきた…。
「さて、あとはヴァンパイアの特徴なんだけど、人間と変わらないわね。さっきも言ったけど、子供も作ることも出来るわ。ただし、同種族じゃないと子供はヴァンパイアにならないわ。異種族との間に出来た子供は相手方の種族になるわ。寿命もヒトと変わりないわ。と、こんな所かしら? 他に質問はある?」
「何故、彼らはヒトを辞めてまで、貴女に協力したんですか?」
ヴァンパイアについては知りたい事は知れた。アイラさんの理由も分かった。だけど、彼らが協力する理由が分からない。だから、僕はアイラさんに訊く事にした。
「これはあくまでも予想よ? 多分だけど、帰りたかったんじゃないかしら? 中には、自分たちをいいように利用した、神に対する復讐だった子もいたかもしれないけど、それでも大半は帰りたかったんだと思うわ。実際、アイツを殺せば、送還のスキルを創る事も可能だしね」
帰りたい…か。…そう言えば、僕はどうなのだろうか? この世界に来て早一年が経つけど、一度も帰還方法を探していなかったな。
アイラさんから聞かされた彼らの協力理由は、僕がこの先どうしたいのかを考えるには十分な理由だった。
ありがとうございました。
今回でヴァンパイア種族の設定は出し切った…はず?
ツッコミ所があった場合は、生温かい目でスルーして頂けると嬉しいです…