緑髪の女性の正体…
ワイバーンの群れを見送った後、僕たち5人は自由都市へと帰還した。
ちなみに、あれを見たイリスさんたちも僕やサキみたく軽く放心していた。
街に戻ってきた僕たちはひとまず別行動をする事となった。
ギルドに依頼の完了報告とワイバーンの件をする僕と先に宿に戻る残り4人。…けっして、アイラさんたちを連れて帰った時のリンの反応が怖かったわけじゃない。
「ワイバーンの群れが北に…ですか。分かりました。こちらで少し調べてみます」
「お願いします。では、これで…」
ギルドに報告に行くと、受付にアーシャさんがいたので、これ幸いと思いワイバーンの件を報告する。何故、彼女が受付にいるのかと疑問にも思ったけど、あえてスルーしておく。
「とりあえず、サキとイリスさんがちゃんと説明出来ていればいいんだけど…」
宿屋へと戻ってきた僕は、部屋に行くのを躊躇っていた。理由は察してほしい。
「はぁ…。いつまでもこうしてはいられないか。よし!」
僕は、覚悟を決める為に自分の頬を叩く。そして、意を決して宿へと足を踏み入れる。
「入るよ?」
自分の部屋ではなく、4人が泊まっている部屋にノックをしてから入る。中に入ると、リン、サキ、セシリア、イリスさんの他にアイラさんと緑髪の女性がこちらを見ていた。
「おかえりなさいノゾム」
リンの声色を聞くに、機嫌は問題なさそうだ。
「ただいま。それで早速なんだけど、どこまで話を聞いた?」
「まだ何も。一応、この二人の内の黒髪が、イリスさんの探していた人だって事ぐらいは聞いたけど」
どうやら、僕が戻ってくるのを待っていてくれたみたい。それとアイラさんは、軍隊アリに襲われていた時とは姿が違って、僕がこの世界に来る前に出会った時の姿になっていた。
「それじゃあ、アイラさん。色々と貴女には聞きたい事があるんで一つずつこちらから質問していきますね。まずは、さっきまでの姿はなんですか?」
僕は始めにこの世界に来る前に会った時と姿が違っていた事を聞く事にする。
「あれは光魔法のミラージュよ。光で幻を創る魔法よ」
「あれが? だけど、ミラージュって…」
ミラージュは幻を創るだけ。決して、人の姿かたちを変える魔法ではなかったはず。
「望君の疑問は分かるわ。それの答えが魔力操作よ。魔力操作で創った幻を対象にピッタリ貼り付けているの。ただ、1ヶ月ぐらいずっと使用していたから、君たちと会った時は姿が違う事を忘れていたの」
それで、観察で視た時はMPがごっそりと無くなっていたのか。そりゃ、1ヶ月も魔法を使い続けていれば、いくら回復速度upがあっても追いつかなくなるわな。むしろ、よくもったもんだよ。
「…なるほど、そう言った理由だったんてすね。次の質問なんですが、その緑髪の女性は誰ですか?」
「彼女はね。望君をこの世界に召喚した娘よ」
「「「「「「はあ?」」」」」」
この部屋にいるアイラさん以外の全員が口を揃えて驚きの声をあげる。もちろん、緑髪の女性も。ってか、彼女はアイラさんから僕の事聞いてなかったんだ。
「疑ってる? あっ! そうか。彼女の姿を戻すのを忘れていたわ」
そう言って、アイラさんは彼女にかけていた魔法を解除する。すると、緑髪の女性は金髪の女性と言うよりは女の子と言うぐらいの顔つきに変わった。さっきまでは年上かなと思っていたけど、今はサキと同い年ぐらいに見える。
「「「「「……………」」」」」
「まだ信じないの? しょうがないわね。ほら、ステータスを見せてあげなさい。そうじゃないと、信じないみたいだから」
「…あっ、はい!」
僕たちは彼女の印象ががらりと変わったので何も言えずにいた。しかし、アイラさんはそれを疑いと勘違いして、彼女にステータスを見せるよう指示を出す。彼女はアイラさんに声をかけられて、驚きから回復する。
そして、彼女が見せてくれたステータスがこれだ。
【名 前】 ルージュ・イーベル
【年 齢】 14歳
【種 族】 ヒト
【職 業】 召喚士
【レベル】 4
【H P】 232/232
【M P】 347/347
【筋 力】 123
【防御力】 102
【素早さ】 153
【命 中】 138
【賢 さ】 178
【 運 】 48
【スキル】
短剣術LV1 体術LV1 水魔法LV1 召喚術LV2
【固有スキル】
異世界召喚(残0)
そうだ! ルージュだ! 国王から名前だけは聞いていたけど、初めて本人を目にした。よくよく思い出せば、声も聞いた覚えが…。
それにしても、異世界召喚…か。残が0って事はもう使えないって事かな?
ちなみに、この『残0』は、僕の観察スキルでのみ見えている。見せてくれたステータスに偽りがないか確認する為に視たのだけど、どうやら杞憂だったみたい。
閑話休題
「この名前。王国の血縁者で間違いないようですね。それよりも、固有スキルの異世界召喚に残0ってあるんですが、これって何を意味しているんですか?」
「えっ?」
「そう言えば望君には、私の観察スキルをあげたんだったわね。それは文字通り残りの使用回数を表しているのよ。まぁ、異世界召喚のスキルは人間なら誰であれ、生涯で一度しか使えないんだけどね」
これは予想通りだった。が、その話の中で聞き流せない事が…。
「って! この観察スキルって、元はアイラさんのだったんですか!?」
「そうよ? 私は魔力を司る神だったのよ? 魔力なら、自身の権限により自由に出来るけど、スキルなんかは自分から出すしかなかったのよ」
僕的には、ルージュの事よりもこっちの方が驚きだ…。って、これ以上は後にしよう。
「とりあえず、分かりした。話を戻しますが、僕の記憶が正しければ、ルージュさんは召喚の反動で寝たきりだったはずでは?」
当時、国王からは寝込んだと聞いていたけど、ターニンにいた半年の間に勇者を召喚した代償で寝たきりになったと言う噂が流れていた。
「ノゾム様! それなのですが、私はアイラ様に治していただいたのです」
アイラさんに質問したのに、なぜかルージュが興奮気味に会話に割り込んできた。ってかこの娘、さっきまでとは違い、なんでこんなに興奮しているんだ?
「えっと、アイラさんどういう事でしょうか?」
「それを説明するには、異世界召喚のスキルについて説明しないといけないわ。だからルージュ、落ち着きなさい」
「す、すみません!」
「ごめんね望君。この娘、この話題になるとこうなるのよ」
「い、いえ…」
「それじゃあ、まずは固有スキル『異世界召喚』についてね。このスキルはあるクソ野郎が創ったスキルで、遙か昔にルージュの祖先に与えたものなの。それが先祖代々発現しているのだから、スキルと言うよりは、もはや呪いよね。
効果は知っての通り、この世界とは違う世界から人間を召喚する事。ただし、このスキルには使用制限が設けられているの。その理由までは分からないけど。
そしてこのスキルには副作用も存在するのよ。それも望君が知っての通り、寝たきりになってしまう事。と、ここまではいい?」
「はい。みんなも大丈夫?」
アイラさんが説明をいったん止めて、僕たちがここまでの説明を理解しているか確認してくる。僕は問題ないので、リンたちに聞いてみると、彼女たちも頷いているので、ここまでは問題ないようだ。
「続けるわね。副作用の寝たきりには実は原因があるのよ。それは、魔力欠乏が原因なの」
「魔力欠乏? って事は、魔力が足りないって事ですか?」
「そうよ。正確には、異世界召喚に必要な魔力が膨大過ぎて、足りない分を回復した先から徴収されているってところかしら?」
そう言えば、リンから魔法を教えてもらった時に魔力が尽きると意識を失うって教えてもらったような…。
それをふまえて、分かりやすく表現すると、ルージュはスキルの使用に足りない魔力を借金した、と。そして、借金を返しきるまで魔力が回復する事はないから、寝たきりになると言う事か。
「異世界召喚のスキルについては分かりましたけど、それならどうやってルージュさんを?」
「それは、私のスキル『魔力の支配者』の能力で解決したのよ」
僕の疑問にアイラさんはちょっとだけ胸を張って答える。が、ルージュ以外の全員が首を傾げる。それを見たアイラさんがスキルの説明をし始める。
「『魔力の支配者』は神だった頃に望君にやったみたいな魔力の譲渡、さらには魔力の徴収が出来るスキルよ。ただ、神だった頃みたいな万能ではなくなって、色々と制限が出来ちゃったんだけどね…。っと、話が逸れたわね。要は、私の魔力を譲渡して不足分の魔力を補ってあげたのよ。それでも、2週間ほどかかったわ。これが、ルージュが回復した経緯よ」
へぇー。こう聞くと便利なスキルだと思うけどな。それにしても、アイラさんの膨大な魔力でも2週間って、どれだけの魔力を必要とするんだよ異世界召喚のスキルよ…。
次回に続きます。
たぶん次で説明回は終わるはずです…