恨み晴らさずべきおくか…
SSランクへ正式に昇格し、セイドリックさんたちとの模擬戦から1ヶ月ほどが経過した。その間、特に変わった事は起きず、僕たちは各々自由に行動していた。
僕は昼間は細々と冒険者活動。夜は宿を抜け出し自身のレベル上げに勤しんでいた。それと、この間の模擬戦で痛感した、スキルレベルの不足も解消するためそちらの方も精を出している。
リン、サキ、セシリアは僕の冒険者活動について来たり、街を散策したり、イリスさんのお手伝いとそれぞれがその日毎に自由に動き回っている。
イリスさんは、アイラさん探しの為、街で情報収集を主な日課にしている。偶に息抜きで、僕たちと冒険者活動もしている。ちなみに、アイラさんの情報収集はあまり進んでないみたい。
そんなある日、僕は1つの気になる依頼を受けて、自由都市の東に位置する草原にいた。
「それにしても、軍隊アリの凶暴化かぁ…」
その依頼とは、軍隊アリに関するものだった。依頼内容は、ここ最近、軍隊アリが凶暴化しているので、その原因を調査しろって依頼だ。
何故、これが気になるのかと言うと、僕がこの自由都市に来てから日課にしている、夜のレベル上げでよく狙っているの獲物だからだ。ぶっちゃけ、乱獲しすぎたのが原因かなぁと思っている。なので、罪悪感に苛まれない為にも、自分の手でさっさと解決してしまおうと言う魂胆で依頼を受けてきた。
「ノゾム君はどうしてこの依頼受けたの? いつもなら、討伐依頼ばかりなのに」
「何となく…かな? 特に理由はないよ」
「そう言って、主様の事だから、私たちには言えない訳の一つや二つは有りそうだけどね」
「そんな風に決めつけるのは良くないと思いますよ?」
サキが今日受けてきた依頼について質問してくる。それを誤魔化すように答えると、イリスさんがそれを見透かしてるぞと言わんばかりのツッコミを入れてくる。
今日の監視役は、サキとイリスさんだ。実はこの2人、意外に仲が良かったりする。そして、身長差もあって端から見ると、少し歳の離れた姉妹に見える。ちなみに、リンとセシリアは街に残っている。
「さて、事前に集めた情報だと、この辺りで、頻繁に凶暴化した軍隊アリを目撃するみたいだよ?」
サキが言うこの辺りとは、案の定、僕が夜な夜な軍隊アリを狩っている場所だった。まぁ、情報を集めるにつれて、ここじゃないかなぁとは思っていたんだけどね。そうなってくると、今回の件はやっぱり僕が原因みたいだ…。
「……………ァァーーー!!」
僕が内心で冷や汗を滝のように流していると、突然悲鳴が聞こえてきた。瞬時に索敵系スキルで発生源を探すも引っかからない。
「イリスさん!!」
「分かったわ!」
僕がイリスさんに声をかけると、僕の考えを察してくれた彼女は、すぐさま黒い翼を羽ばたかせ、一気に空へと舞い上がる。
イリスさんに頼みたかった事とは、悲鳴の聞こえてきた位置を上空から特定してもらう事だった。
「いた! ここから、南に2㎞って所かしら? 丘を越えた先よ」
「状況は?」
「…女性が2人、魔物に襲われてるわ。数は約30!」
「ありがとう! それじゃあ、僕たちは先行するからイリスさんは降りてから追いかけて! サキ、行くよ!」
「えぇ!」
イリスさんが伝えてくれた状況は、一刻の猶予が無いと判断し、僕は彼女が降りてくるのを待たずにサキと2人で南に向かって走り出す。
「ノゾム君。魔物が30って…」
「うん。この辺りでそんな数で行動している魔物は軍隊アリしかいないよ。急ごう!」
丘を越えて、視界に飛び込んできたのは、軍隊アリに襲われている女性たちだった。だけど、その内の1人はもう1人を庇うように軍隊アリと戦っている。
「ノゾム君! フォローお願い!」
サキは僕の返事も聞かずに、サイドテールをはためかせながら縮地スキルで一気に女性たちの所へと駆けていく。
「ふぅー……ハァ!」
そして、女性たちと軍隊アリの間に割り込むと、一呼吸分、精神を集中させ、気合いとともに居合いを放ち、軍隊アリを上半身と下半身の真っ二つにした。その数半分ほど。
「サキ、いくら何でもイノシシ過ぎないかな? 『ファイアウォール』!」
僕は居合いを使って硬直しているサキへと襲いかかろうとしている軍隊アリを牽制する為に、火魔法のファイアウォールを使ってサキを守る。
ファイアウォールはストーンウォールの火ヴァージョンだ。
「ノゾム君、イノシシって何?」
おっと、つい向こうの名称を使ってしまった。どうしよう? 正直に教えるべきか…。
「…ボアックって魔物がいるでしょ? 僕の世界にも似たのがいてね、猪って言うんだけど、あいつらって突っ込む事しかできないでしょ? だから、突進しかしない人を僕たちの世界じゃイノシシって言うんだ」
僕は少し迷ったけど、素直に教える事にした。…後でリンを使って探られるとマズいからね。
ちなみにボアックとは、猪に似た魔物で、強さはゴブリンクラス。まぁ突進しか出来ないバカな魔物だ。だけど、攻撃力はゴブリンとは比較にならないので、新人冒険者が油断から命を落とすケースが月に1~3度ほど発生する。
閑話休題
「ちょっと! さっきのはあたしをバカにした言葉だったの!?」
「人の返事も聞かずに飛び出したんだから、それぐらいは受け入れなよ…。っと、ほら、そろそろ魔法が切れるよ?」
サキはまだ文句を言いたそうにしていたけど、今は戦闘中なので無理やり打ち切る。
「あ、あの!」
「あぁ。突然すみません。だけど、僕たちは冒険者です。すぐに片付けてくるので、もう少しだけ待って下さい」
炎の壁、正確にはその奥にいる魔物に意識を集中しようとしたところで、魔物に追われていた緑色の髪の女性が声をかけてきた。多分、今になってようやく理解が追いついたんだと思う。しかし、僕は戦闘が終わるまで待ってもらうことにした。
「お待たせしました。怪我とかはないですか? もう1人の仲間が回復魔法を使えるので、遠慮せず言って下さい」
僕とサキは特に問題なく残った軍隊アリを始末し、襲われていた2人に話しかける。
「助けていただき、ありがとうございます。このお礼は後日…あれ?」
背の高い方の女性が僕の顔を見て首を傾げる。ちなみに、戦闘中に声をかけてきた緑色の髪の女性は、背の低い方だ。身長はサキと同じぐらいだから多分150㎝ぐらいかな? 背の高い女性赤い髪で身長は僕より少し高そうなので170㎝ぐらいだと思う。
「どうかしましたか?」
「いえ…知り合いに似ていたので…。それにしても…、いや、他人の空似…は…」
「はぁ…」
どうやら僕が知り合いに似ていたみたいだ。そして、彼女、なんかぶつぶつと独り言を言い始めたんだけど、大丈夫かな? 緑髪の女性は赤髪の女性の後ろに隠れちゃってるし、どうしたもんか…。
「主様。彼女たちは無事でしたか?」
「戻ったよ!」
彼女たちの扱いに困っていたところで、最後の一匹を仕留める為に、僕から少し離れてしまっていたサキがイリスさんと一緒に戻ってきた。
「!! イリス!? 何でこんな所に!? それにあなた、『主様』って何?!」
ぶつぶつと独り言を言っていた赤髪の彼女が、イリスさんを見た瞬間、それまでの表情を吹き飛ばし、驚愕の一色に染まった。そして、イリスさんの『主様』発言で驚愕から一転して、困惑一色になった。
「は、はい。私はイリスですが、どちら様ですか? 私、知り合いは主様たちしかいないのですが…」
「えっ! 私よ? 分からないの?」
「え、えぇっと…」
どうやら、イリスさんは赤髪の女性に心当たりがないらしい。助けを求める視線をこちらに送ってきてる。
「あの~、うちのイリスと、何処かで会った事があるのでしょうか?」
赤髪の女性が退かなさそうなので、助け船を出すことにした。が、その船の出し方を少し間違った少しみたいだった…。
「っ! 何が『うちのイリス』よ! あなた! イリスとどういった関係なの!!」
はい。思いっきり噛みつかれました…。もう面倒だから、このまま帰ろうかなぁ…
「私は主様の奴隷ですが?」
赤髪の女性の相手にげんなりしていると、イリスさんが今は言うべきではない真実を口にする。
「何で!? 何でイリスが奴隷に? 堕ちたとは言え、元天使が何で!?」
「「「「なっ!!?」」」」
赤髪の女性の発言に彼女以外の、この場にいる全員が絶句した。
もちろん僕たちはイリスさんの正体がバレている事に対して。緑髪の女性は、イリスさんが堕天使である事に対して、それぞれ言葉を失った。
僕は、何故バレたのか確かめるため、赤髪の女性のステークスを視ることに…。
【名 前】 アイラ
【年 齢】 ?歳
【種 族】 ヒト族(元神)
【職 業】
【レベル】 25
【H P】 1492/1578
【M P】 3401/356780
【筋 力】 1032
【防御力】 1092
【素早さ】 1058
【命 中】 1297
【賢 さ】 3901
【 運 】 60
【スキル】
火魔法LV4 水魔法LV6 風魔法LV4 土魔法LV3 光魔法LV5 闇魔法LV2 回復魔法LV4 無魔法LV5 魔力転換LV5 並列思考LV5 魔力感知LV4 魔力操作 MP消費半減 MP回復速度up 詠唱破棄 偽装 看破 隠蔽
【固有スキル】
魔力の支配者
ほぉ…。これは、これは…。
ようやく再登場しましたアイラさん。
彼女のキャラがおかしくなっていた理由などは、次回で説明予定…
ありがとうございました。
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