ギルドマスターの実力…
「まずは初手を譲ろう。どこからでも、どんな攻撃でもいいぞ。好きにするがいい」
セイドリックさんは、そう言いながら腕を胸の前で組んだ。どうやら言葉通り、本当に先手を譲るみたいだ。
その余裕の態度にイラッとした。なので、ちょっとだけ手の内を見せることにした。
「分かりました。では、遠慮なくいかせてもらいます」
僕は剣を片手持ちで構え、炎を纏わせる。
「…………」
セイドリックさんは、僕の魔法剣を見ても全くリアクションがない。
僕は、どこに攻撃を入れるか考えるために、セイドリックさんを頭から足元まで改めて見直す。
セイドリックさんの防具は胸当て、ガントレット、すね当ての3点。防御力よりも機動性重視のようだ。武器が見当たらないのは、あとで取り出すのだろうか? まぁ、今は考えなくていいか。
…よし、狙うは一番ガードが堅い所あの場所にしよう。
セイドリックさんとの距離は先ほどまで話してままなので、5mぐらいしかない。僕は、少し腰を落としタメを作ってから、一気にセイドリックさんへと接近した。
「せええぇぇぇぇぇい!!」
掛け声とともに最初に決めた場所へと剣を走らす。ガギンと言う音が辺りに鳴り響く。僕は、袈裟斬りで胸を狙った。防具と腕に守られた一番防御力が高い場所だった。しかし、僕の攻撃はガントレットを壊すどころか、腕を弾くこともできなかった。つまりビクともしなかった。
「だけど、それも予想通りです! 『ショック』」
「む? うぐっ!」
剣に纏わせていた炎で一瞬目を瞑った隙を突いて、つかさず雷魔法のショックを使いセイドリックさんの身動きを封じる。
ショックは雷魔法のLV1の魔法で、攻撃力こそ無いものの相手の体の自由を数秒ほど奪う効果がある使い勝手のいい魔法だ。欠点として、相手の体が大きければ大きいほど効果が無い事だ。まぁ、人間相手なら問題なく効果はある。
「喰らえ! 粉塵爆破!」
バーーーーン!!
セイドリックさんの身動きが出来ない内に、本命の合成魔法を放つ。
僕は巻き込まれないように、魔法を放った瞬間にバックステップでセイドリックさんとの距離をとった。
爆発のせいで発生した煙がセイドリックさんの姿を隠しているので、どれだけダメージを与えられたかわからない。
この煙に乗じていきなり攻撃を仕掛けてきても対応出来るように警戒する。
ちなみに、今回の合成魔法は、ファイアボールとサンドニードルを合成したものだ。
ようやく煙が晴れると、そこにいたのは、無傷でただずむセイドリックさんだった。
いやいや、マジですか? 流石に装備や衣服が焦げたりはしているけど、それだけだ。傷1つ無いどころか、動いた形跡すらない。爆発系の攻撃を受けても、その場から一歩も動かないなんてありえないでしょ?
「確かに初手は譲ったが、まさかここまでの攻撃を受けるとは思わなかったぞ? して、体の自由を奪った魔法と爆発の魔法はなんだ?」
「…こちらとしては、無傷どころか一歩も動かせないとは、思いませんでしたよ。あと、自分の手札をベラベラと喋るのは三流のやることですよ」
セイドリックさんの質問に、努めて普通に受け答えをするけど、内心は冷や汗をダラダラとかいていた。
「ノゾムさーん! マスターは永久機関の二つ名を持っているヒトっぽい生物です! あのぐらいの攻撃じゃ、まず倒れないですよー!」
セイドリックさんの情報を外野にいるフリーシアさんがわざわざ大声で伝えてくれる。
はい? 今、何と仰いましたか? 二つ名はどうでもいいです。いや、よくないか? それより、ヒト『っぽい』って何ですか? ヒトなんですか? それとも人外なんですか? ハッキリして下さい。
「こら、フリーシア! 誰がヒトの形をした魔物だ! 儂は一般人よりも少しだけ、回復能力が高いだけだぞ!」
「誰もそこまで言ってませんよー! それにマスターの回復能力は少しどころじゃなく、桁違いじゃないですか! それに回復能力しか取り柄が人がSSSランクになれるわけないですよねー」
…あまり聞きたくない情報が飛び交っているような。もうバレでもっていいから、観察でステータスを視てしまおう。
【名 前】 セイドリック
【年 齢】 55歳
【種 族】 ヒト
【職 業】 ガーディアン
【レベル】 215
【H P】 172738/172738
【M P】 63945/67434
【筋 力】 80347
【防御力】 133729
【素早さ】 62402
【命 中】 53498
【賢 さ】 40283
【 運 】 58
【スキル】
剣術LV5 体術LV10 盾術LV10 身体強化LV8 身体硬化LV9 オートヒールLV9 MP回復速度LV10 威圧LV8 状態異常耐性LV9 精密操作
【固有スキル】
ダメージ変換《HP》
ダメージ変換《HP》
MPを消費して受けたダメージをHPに変換するスキル
あぁ、うん。これは確かにヒトっぽい生物ってのが、一番しっくりくるわ。けど、魔物でもここまでのには遭った事が無いんですが…。
しかし、永久機関とはよく言ったもんだ。このスキル構成なら、確かに永遠に戦い続けれるわ。攻略法は、MPの回復速度を攻撃速度が上回るしかないけど、半端な攻撃だとあの鉄壁の防御力を突破できない…っと。
これは、殺す気でやらないと勝てないでしょ? まぁ、最初から勝つ気は無かったけどさ。
「いつまで、外野と言い争っているんですか! 早く試合再会しないと、マスターの負けにしますよ」
「ま、待て! いくら何でもそれはないだろう!?」
「言い訳は聞きません。只でさえ、仕事が溜まっているんです。早く終わらせないと、今日は帰れなくなりますよ?」
「……分かった。儂が悪かった」
僕がステータスを確認している最中、ずっと外野と言い争いをしていた当の本人は、審判から警告を受けていた。
僕としては、そんな勝ち方なら喜んで勝者になるので、試合を終わらしてほしいです。
「すまんかったな。次はこちらからいかせてもらうぞ」
だがしかし、僕の思いとは裏腹にセイドリックさんは行動を開始する。
「まずは、力比べといこうかのう」
セイドリックさんはそう宣言すると、こちらに向かってゆったりと歩みを始める。
「そう簡単に事が進むと思っているんですか?」
こちらに向かってきた事に対してタイミングを合わせてカウンターを入れようと、構えようとしたその次の瞬間…。
「最初ぐらいは…な!」
「なっ!? ぐっ」
目の前にセイドリックさんが現れた! そして、手刀で僕の手首を叩かれた衝撃で剣を落としてしまう。
「ほれ、これで力比べが出来るの」
武器を落とした次の瞬間には両手をセイドリックさんに恋人繋ぎをするように掴まれていた。全くもって色気の無い恋人繋ぎもあったもんだ。……ハァ。
「ほれ、まずはこれぐらいかの?」
そんな事を考えているとセイドリックさんは早速力を込め始める。
「これぐらいなら問題ないですよ? それより、どうやって僕の懐に入ってきたんです? ゆったりとした動きだったのに、タイミングを掴み損ねましたよ」
僕もすぐに力を入れ拮抗させる。多分5万くらいかな?
「あれはスキルではなく、ただの技術だ。不思議な事にどんなに鍛錬しても、スキルになることはないんだよ。儂も師から習っただけだから、理由までは分からないがな。ちなみに、名をコブ術言っての、その中にある、歩法の1つだ。…ほら、もう少し力を込めるぞ?」
「はぁ!? って、いたたたたたた!! …っく!」
今、なんて言った? コブ術? もしかして、古武術の事か? それならスキルにならないのも納得できる。多分だけど、体術スキルがそうなんだと思う。現にセイドリックさんの体術スキルはレベルが高いしね。そうなると、セイドリックさんの言う師というのは向こうの人かそれに関係のある人なのだろう。
…って、それよりもこの模擬戦、どうやって幕を引こう…? このままじゃ埒が明かないし、あの人の掌の上で踊っているみたいで気分もよくない。どうにかして、一矢報いたいなぁ…。
僕は、再びセイドリックさんとの力を拮抗させる程度、力を入れながらそんな事を考え始めた。
ありがとうございました。
なお、作中に出てきた古武術ですが、自分は全く詳しくないので、細かいツッコミ等は勘弁して下さい。