どうしてこうなった…
GWが終わってしまいましたね。
次の連休(7月)まで頑張っていきましょう!
「…降参します」
「そこまで! 勝者フリーシア」
僕の降参を受けて、セイドリックさんが勝敗を宣言する。
その宣言を聞いて、フリーシアさんは僕の上から退いて武器をしまう。それに合わせて、僕も立ち上がって背中やお尻を叩き砂を払う。
「こら、フリーシア! 何でも有りにはしたが、お前はギルドを壊す気か!! 念のために、ギルド職員に防御魔法を張らせといて、正解だった」
「ひゃい! す、すみません!!」
無事勝てて良かった~。みたいな空気を出していたフリーシアさんをセイドリックさんはいきなり怒鳴りつけた。まぁ、初手のあれは…ね。
「…それにお前はこの模擬戦の意味を分かっているだろ。なのに何故、完封してしまうのだ?」
「それは分かってはいますが…」
セイドリックさんが観客に聞こえないよう声を抑えてフリーシアさんに問いかける。それに合わせてフリーシアさんも小さな声で応える。
ん? セイドリックさんから聞き捨てならない言葉が出てきたぞ。まぁどうせ、2人が模擬戦前に睨み合っていた時のやり取りと関係があるんだとは思うんだけど、一応確認してみるか。
「あの? この模擬戦の意味とは?」
「ふむ。………すまないがまだ説明出来ないな」
「…『まだ』ですか?」
「うむ。『まだ』…な」
とりあえず、説明する気はあるみたいだ。なら、あとはセイドリックさんの判断に任せるか。答えるまでの間で周囲に目をやっていたのが気になるけど…。
「すまんが、ギルドカードも渡してくれないか?」
「? 構いませんが…」
「いやなに、昇格の為にカードを更新するだけだよ。上で預かるのを忘れていたからな」
「そう言えば…。分かりました」
僕はアイテムボックスからギルドカードを取り出し、セイドリックさんへ渡す。
「では、儂は少し席を外す。ノゾム君には申し訳ないが、ここで少し待っていてくれ。更新はすぐ済むのでな」
「分かりました」
僕の返事を聞くと、セイドリックさんとアーシャさんはこの場を後にする。
「ノゾムさん、お疲れさまでした」
「フリーシアさんこそ、お疲れさまでした」
セイドリックさんたちが訓練場からいなくなったのを見計らってフリーシアさんが声をかけてきた。
「ありがとうございます。それにしても、ノゾムさん? いくら手加減を頼んだとは言え、勝ちまで譲るなんて、私に花を持たせ過ぎじゃないですか?」
「え? どういう事ですか?」
フリーシアさんの言葉に首を傾げる。
「だって、ノゾムさんのステータスなら、私の攻撃が当たるはずないじゃないですか。それをあれだけギリギリで避けるような演技をしていただくなんて…」
…フリーシアさんは何を言ってるんだ? 演技って何のことだ?
「あ、あの…。フリーシアさんは、何か勘違いしているようですが、さっきの模擬戦で演技なんてしてないですよ?」
フリーシアさんに封殺されたのは演技でもなんでもないんだけどなぁ…。
「そんな謙遜しなくていいんですよ? と、言うより手加減も、私を殺さない程度でお願いしますねって意味だったのに、蓋を開けてみたら、わざと負けるなんて手加減よりも難しい事をするんてすから」
何だ? 何でフリーシアさんはこんなに僕の事を持ち上げるんだ? 彼女の話し方だと、まるで僕が桁違いの化け物みたいじゃ…ない、か。…って! もしかして!
「フリーシアさん? 少し聞きたいことがあるんですが、よろしいですか?」
「? 何でしょうか?」
フリーシアさんは手を口に当てながら首を傾げた。
「僕のステータスを視たんですよね? それって、これと違いないですよね?」
そう言って僕はステータスをフリーシアさんに見せる。
「……えぇ。このステータスと同じ数値を看破のスキルで視させてもらいましたが?」
やっぱりそうか。普段はアイラさんから貰った特別製の観察スキルでステータスの確認をしていたから忘れていたけど、本来マイナススキルを視認する術はないんだった…。
しかし、それならフリーシアさんが、模擬戦前から異常なまでに怯えていたのにも納得だ。僕本来のステータスは、彼女の100倍以上だからなぁ…。
「えっと、ですね。僕にも原因は、分からないんですが、自分では全力を出しているつもりなんてすが、何故かステータス通りの力が出ないんですよ…」
理由は分かっているけど、正直に話す訳にもいかないからなぁ。こんな風に言っとけば大丈夫かな?
「…そんな話、今まで聞いたこと無いのですが」
「それでも、レベルが上がれば出せる力が上がっているのは確かなので、僕の中では表記が壊れてるだけだ、と完結させたんですよね。だから、実際のステータスは、分からないんですよね。一応、仲間のステータスを元に、おおよそだったら分かるんですがね」
ちょっとだけ悲壮感を出して嘘をつく僕。
「…そんな事が」
よし! 何とかなりそうだぞ。
「待たせたな」
このまま、誤魔化しきろうと思ったら、セイドリックさんが戻ってきた。
「いえ、そんな事…って! セイドリックさん? その格好は?」
セイドリックさんの方へと顔を向けると、そこにいたのは、武装したセイドリックさんが立っていた。
…何だろう? すっごい嫌な予感しかしないんだけど。
「気にするな、すぐに分かる。それより、これが更新したギルドカードだ」
「はぁ…」
いやいや、気にしますよ!
僕は心の中でツッコミながらもカードを受け取る。
「よし。それじゃあ、次は儂との模擬戦だ。準備はいいか?」
「は…い?」
やっぱりそうですか! 薄々そんな気はしていたんですよ。
しかし、何でセイドリックさんはそんなにいい笑顔なんですかね? 最初に感じた優しいおじさんってイメージが崩れるので止めていただきたいのですが…。
「その模擬戦! ちょっと待って下さい、マスター!」
そう言って、僕とセイドリックさんの間に割り込んできたのは、フリーシアさんだった。
ま、まさかフリーシアさんがセイドリックさんを止めてくれるのか?
「フリーシアさんよ。何故だ?」
「実はノゾムさん、自分のステータスの詳細が分からないそうなのです。なので、何段階かに分けて力を解放してもらえたら…」
う…ん? なにやら、止めるどころか、後押ししていませんかね?
「…そんな事があるのか? まぁ、言いたいことは分かった」
「よかったですね、ノゾムさん。マスターはかなり精密に、力のコントロールが出来ます。なので、それを利用すれば、ノゾムさんのステータスの詳細が分かりますよ」
フリーシアさんは、満面の笑みで話しかけてくる。セイドリックさんに僕の事を教えたのは、たぶん善意からだろう。
僕からしてみれば、余計なお世話でしかないが、善意からの行動に文句を言えるわけもなく、僕は引きつった笑みを浮かべながら、「わざわざありがとうございます。フリーシアさん」と、しか言えなかった。
「では、そろそろ始めようかの?」
「…分かりました」
結局、僕はセイドリックさんとの模擬戦を受け入れるしかなかった。
どうしてこうなった…。やっぱり、フリーシアさんに嘘の説明をしたのがいけなかったのか? 僕って、人前で使えないスキルが多数あるから、あまり人前で戦いたくないんだよなぁ…。しかも今回は、人類最強の一角が相手ですよ。今の僕じゃ勝てるか分からないじゃん。それ以前に、間違って勝ちでもしたら、それはそれでより一層面倒くさい事になるのは目に見えている。…ホント、名実ある人って面倒だ。そう言った意味では、フリーシアさんも負けず劣らずなんだけどね。そう思うと、彼女に負けたのはよかったことだったなぁ…。
「よし。立会人はアーシャに任せる。ルールは先ほどの試合と同じ。あと何か質問はあるかな?」
「いえ、大丈夫です」
「アーシャ」
「はい。それでは、両者準備はよろしいですか? …始め!」
そして、勝ってはいけない(自分の都合)模擬戦が始まった。しかも、何故こうなったのか分からぬまま…。
…いや、たぶん、フリーシアさんに封殺されたのが原因だとは思うんだけどね。
ありがとうございました。