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ギルドマスター…




 「今、何と仰いましたか? 模擬戦をすると聞こえたのですが?」


 いきなり模擬戦とか言い出したギルドマスターらしきおじさんに、僕は先ほどの言葉が間違いじゃないか確認する。


 「間違いないぞ。じゃあ、地下の訓練場で待っているからな」


 ギルドマスターは、その優しそうなおじさんの風貌からはかけ離れた、有無を言わせない圧力を放ちながらこちらの返事を聞かずにこの場を後にした。

 僕はただその空気に圧倒され立ち尽くす事しか出来なかった。


 「ノゾム…」


 「ノゾ、ム様」


 「ん? …あぁ。大丈夫だよ」


 2人に呼ばれた事で、僕はようやく立ち尽くしていた事に気が付く。そして、返事をして初めて気が付いたけど、いつの間にかリンが僕の腕を解放していた事。そして、セシリアは僕の腕を解放するどころかより力を込めて抱き着いていた。多分、さっきのおじさんに気おされたのだろう。その証拠に狐耳がぺたんと垂れている。

 僕はそれを見て、ひとまず先に、セシリアを安心させる為にリンから解放された方の手で頭を撫でた。


 「わふ。…ふあぁ~」


 しばらくセシリアの頭を撫でていると、恐怖がなくなったのか狐耳が元気を取り戻したので撫でるのを止める。


 「それにしても、凄い存在感だったね」


 僕は、一呼吸分だけ静かに息をはいて、気持ちを切り替えてから2人に話しかけた。


 「…そうね。ある一定の力の持ち主にしか、分からないように隠しているのが嫌らしいけどね」


 リンに言われて周囲を見てみると、確かに実力の無さそうなのに限ってへらへらしているのに対して、実力のありそうな連中はみな、大人しくなっていた。

 そうなると、リンはともかくとして、セシリアも一定の実力を持つ側の人間だという事になる。そう言えば、皆のステータスを久しく確認してなかったな。…まぁ、あとでいいか。


 「とりあえず、そんな人を待たせるのは後が怖いから、さっさと地下の訓練場に行こうか」


 「えぇ…」


 「はい」


 受付にいる職員さんに地下への行き方を聞き、移動する。

 それにしても、模擬戦か…。よくよく考えると、対戦相手は誰なんだろう? 事前に決まっていたものでもないし、そう都合の良い相手がいるとは思えないんだけどなぁ。もしかして、ギルドマスター本人? うわぁ…。それはそれで面倒だから勘弁願いたいな。





 「…来たか」


 訓練場に到着すると、その中央にギルドマスターが立っていた。周囲を見渡しても、野次馬根性丸出しの冒険者たちばかりで、ギルドマスターのそばには誰一人立っていない。


 あれ? もしかして、本当に模擬戦の相手ってギルドマスター?


 「お待たせしました。それで、模擬戦の相手っていうのは?」


 僕は、意を決して模擬戦を言い出した本人に聞いてみる事にした。


 「まぁ、慌てるでない。今、職員に呼びに行かせたところだ。もう少し待っておくれ」


 よし! 相手はギルドマスターじゃない!!


 僕は、ひそかに心の中でガッツポーズした。

 SSSランクと模擬戦なんて今の僕でも勝てるか分からないからね。勝利を確約させるなら、もう少しレベルを上げないと…


 「分かりました。では、待っている間に質問をしてもよろしいですか?」


 「ただ待っているのもヒマだからの。それで、何が聞きたい?」


 ギルドマスターの許可も出たことだし、ずっと気になっていた事を聞くとしよう。


 「…あの、お名前をお伺いしてもいいですか?」


 「…ん? そう言えば、名乗っていなかったか。いや、この役職をしていると、儂の名前を知らない者は少なくてな、つい名乗り忘れてしまう。儂の名はセイドリック。一応、ギルドのマスターをしているSSSランクの冒険者だ。最近は、執務室が主な戦場になっているのが悩みの種だったりする」


 ギルドマスター改めセイドリックさんは、書類仕事が嫌いなようだ。…まぁ、それもそうか。


 「僕はノゾムです。それで、こちらの包帯をしているのがリンスレット。そして、こちらの狐人がセシリアです」


 僕が2人を紹介するも、2人とも軽く頭を下げるだけしかしなかった。

 セシリアはせっかく復活した狐耳がまたへたってるし…


 「一応、リンスレットはSランク、セシリアはBランクの冒険者です」


 2人が口を開きそうもないので、代わりに2人のランクをある程度周囲に聞こえるように伝える。遠回しに、周囲にいる冒険者に釘を刺す意味合いで。

 案の定、2人のランクを聞いて、周囲の冒険者たちは騒めいていた。


 「若いのに優秀だな。若い芽が育ているようで儂のような老人は嬉しいわ」


 「何を言っているんですか、マスター? あなたはまだまだ現役なんですから、老け込むのはやめて下さい」


 セイドリックさんがおっさん臭いセリフを呟いたと思ったら、突然、横から1人の女性がツッコミを入れつつ、こちらに近づいてきた。


 「いやいや、そろそろ世代交代も考えないとなぁ? そう思うだろノゾム君も?」


 「は? え、そ、そんな歳でもないと思いますが? それはそうと、そちらの女性が相手ですか?」


 急に話を振られて、しどろもどろになりながらも何とか応える。そして、近寄ってきた女性について質問する。


 「こやつは、儂の秘書をしているアーシャだ。儂としては、それでも構わないが…」


 「馬鹿な事を言わないで下さい。模擬戦の相手は別の方です」


 「すまない、冗談だ。だが、彼女が模擬戦の相手として、不足でないのは間違いない。こう見えても彼女は、Sランクの冒険者でもある」


 セイドリックさんの言葉にツッコむ秘書のアーシャさん。そして、セイドリックさんからビックリする事実が!

 困惑する僕は、ついついアーシャさんを凝視してしまう。

 背は、僕よりちょっと高そうだから170cmぐらいかな? 髪は肩甲骨のちょっと下ぐらいまでの金髪サラサラストレート。体型は見たところ、スレンダーだ。眼鏡につり目と少しだけキツイ印象だが、見るからに仕事の出来るキャリアウーマンって感じがする。


 「…なんでしょうか?」


 「いえ、何でもありません」


 あまりにも凝視いていたので、アーシャさんの視線が鋭くなる。僕は慌てて視線を逸らし誤魔化す。


 「まぁいいでしょう。それよりも、マスター。先方に伝えたところ、了解が取れました。準備が出来次第こちらに向かうとの事なので、もう少しで到着すると思われます」


 「分かった。聞いた通りもう少しだけ待ってくれ。その間、模擬戦の準備をするもよし、自由にしていてくれ」


 「それでは、相手について教えてもらえないでしょうか?」


 「…ほぅ。理由を聞いてもいいかな?」


 どうやら相手が来るまで自由らしいので、セイドリックさんに相手について質問する。すると、セイドリックさんは少しだけ目を細めてその理由を聞いてきた。


 「事前に情報収集するのは、冒険者の基本じゃないですか」


 「その通りだな。だが、最近の若いのは、それすら出来ておらん。そんな事ではいつか足を掬われると言うのにな…」


 ですよね。だから、セイドリックさんのステータスも、情報収集の一環として覗いていいですかね? って、絶対バレるよね。それは面倒な事になるから今はやめておこう。まぁ、そのうち機会は訪れるでしょ。戦闘中とかなら、視てもバレないと思うしね。


 「それで、対戦相手の事だったな。何が知りたい?」


 「とりあえず、戦闘スタイルを知りたいですね。最低限でも使用する武器ぐらいは…」


 「なるほど。まず、使用する武器は大剣じゃ。そして、戦闘スタイルはなんて言ったらいいのか…。一言で言い表すなら常識外。統一性が無さ過ぎてな」


 ん? なんか、最近そんなステータスを視た気がする…


 「まぁ、SSランクの者は基本的に常識では測れないのだが、あやつに関しては、その中でもずば抜けておる」


 なんだろう? 絶対にあの人が相手な気がする。世界に5人しかいないSSランクがここにあの人以外にいるとも思えないし…


 「お待たせしました!」


 そんな事を考えていると、当の本人が現れたみたいだ。うん、聞いたことのある声。間違いないだろう。


 「漸く来たか。そこにいる少年が相手だ」


 「はい。よろしくお願いしま…す、ね?」


 「ども。昨日ぶりです」


 はい。やっぱり、対戦相手はフリーシアさんでした。

ありがとうございました。

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