動く人々
これにて、第四章は終了です
-レキア-
「以上が今回の任務報告になります」
私は、現在、主のスロウス様に任務報告をしています。帝国の方にはこの後向かう予定ではありますが、その前にこちらに報告をして、次の任務を言い渡される手筈になっているのです。
「…任務の報告は分かった。だが、お前に渡したあのドラゴン、もう死んだぞ?」
「…今、なんとおっしゃいましたか?」
私の耳がおかしくなったのでしょうか? 今、あの場に残してきたドラゴンが死んだと聞こえたのですが? 嘘ですよね? あれから、まだ1時間も経っていないのですよ? 幾らなんでも討伐されるにしても早すぎます。
「死んだと言ったのだ」
再度、スロウス様の口から出た言葉は、先程といっさい違わず、ドラゴンの死亡を告げるものだった。
「まさか、勇者が?」
「そこまでは、分からん。そこで、新たな任務だ。原因を探れ」
「仰せのままに」
私は一礼し、この場を後にしようとしました。
「…待て。もし、勇者が生きているのなら、グラトニーの所にでも持っていけば面白いことになるかもしれないぞ?」
「はぁ…。では、失礼します」
スロウス様より助言? をいただいたのち、部屋を後にする。そのまま、自室に戻り少し休憩をする事にした。
「それにしても、この短時間であれを倒すとは…」
休憩中に考えるのは、誰があのドラゴンを倒したのか? だ。あの場にいたのは、勇者一行と何処にでもいそうな冒険者ただ1人だけでした。
あの冒険者は、勇者一行を自分が倒したみたいな事を言ってましたが、私はそれが、不意打ち騙し討ちなどの搦め手で得た勝利だと判断していました。
しかし、もしかしたら実力で勇者一行を倒したのでは? そうなると、あのドラゴンをやったのも…
「…ありえませんね」
ありえない考えを私は否定します。何故なら、私たちにとって危険な冒険者…つまり高ランクの冒険者は、一通り覚えています。その中に、彼はいない。ましてや、Sランクになりえるだろう、上位Aランクにも彼はいなかったと、記憶しています。
「考えていても始まりませんし、まずは帝国に報告に行きましょう」
私は、考えるのを止めて、自分のスキル転移で帝国へと向かう事にしました。
ー吉田 正木ー
「…うぅ」
目を覚ますとそこは、見知らぬ部屋だった。
「…ここはどこだ? うぐっ?!」
起き上がろうとしたが、腕が動かず、さらには、激痛が体を襲ったせいで、起き上がれない。
「…そうだ! 佐伯の野郎ぉ!」
俺は、この激痛の原因を思いだし、その原因を作ったやつの名を呟いた。
「…うっ!」
「りょう、起きたか?」
声がした方に、首だけ動かして視線を向けると、そこにはダチの伊藤良介ことりょうが寝かしつけられていた。どうやら、りょうも目が覚めたみたいだな。
「ここは…どこだ?」
「分かんねぇ。ひとまず、のぶが起きるのを待つしかねぇんじゃねえか?」
「正木!? んぐっ!?」
どうやら、さっきのはりょうの独り言だったみたいだ。俺がそれに答えたもんだから、声のする方に体を向けようとして、さっきの俺と同じ激痛を味わうことになったみたいだ。
「落ち着け。りょうは、どこまで覚えている?」
「覚えているって何をさ?」
「んなもん、今の痛みの原因についてに決まってんだろ?」
「……! 佐伯! あいつは何処だ!? あいつから俺の力を取り戻さないと!!」
「だから落ち着けと言ってんだろ? 佐伯の野郎はマジぶっ殺してぇが、それよりもここがどこだか分かんねぇと、どうしようもねぇだろ?」
「…悪かった」
「いいって。それより、のぶはまだ起きねぇのか?」
「もう起きてるぞ」
どうやら、今のやり取りの間に原信夫こと、のぶも目を覚ましたようだ。
「目覚めはどうだ?」
「最悪に決まっているだろ…」
のぶの瞳には怒りを通り越して、激しい憎悪が宿っているように見える。
「おや? 目が覚めたみたいですね」
全員起きた事だし、これからどうしようかと思っていた矢先、おっさんがいきなり部屋に入ってきやがった。
「誰だてめぇは? あと、ここは何処だ?」
「初対面の人にいきなり『てめぇ』ですか…。私には、カースと言う者です。それと、ここはイーベの町のギルドです。私はここで支部長をやらせてもらっています」
「…イーベって確か王都のすぐ近くにあった町だよな? おい、おっさん! 何で俺たちはここにいる? それに俺たちはどれくらい眠っていたんだ? あと、黒髪の黒い瞳の俺と同じくらいの男を知らねぇか?」
俺は目の前のおっさんに、質問をぶつける。
「…おっさんですか。…まぁ、いいでしょう。それよりも、落ち着いて下さい。あなたたちが、ここに来た経緯はちゃんと説明しますから」
「ちっ。じゃあ、さっさと説明しやがれ」
俺は、舌打ちをしつつおっさんを急かさせる。おっさんは、『やれやれ』と疲れたように肩を落としていたが、んな事よりもこっちは早く現状を知りてぇんだ。
「つっかえねぇなぁ、おっさんよ!」
おっさんからの説明が終わり、俺は思った事をそのまま口にした。
そもそも、何を説明してきたかと言えば、まず俺たちがここにいる理由。
なんでも、佐伯が俺たちを荷物に隠したまま、この町に入ろうとしたところ、町の衛兵に荷物の検査を求められ、そこで俺たちが捕らわれている事が分かったらしい。佐伯は、そのまま、荷台を捨てて、町に入らず逃走。現在も捕まっていないらしい。
次に、俺たちは、ここに来てから3日も眠っていたらしい。俺たちが元々いた南の森からはだいたい馬で3日ぐらいだから、トータル1週間近く眠っていたようだ。
最後に、かなりの重症だった為、治療しようと思ったようだが、回復魔法の使い手のレベルが低い為に小さな傷は治せても、肩や両手足の深い傷は治せなかったようだ。
と、説明を受け、出た言葉は、さっきのあれだ。
「しかし、だからと言って何もしてない訳ではないんですよ? あなた方が勇者だと言うのは、先日のお披露目会で拝見していたので、知っていました。だから、国王に勇者を保護していると使者を送ったのですが、どうにも返事が来ないのですよ」
「はぁ!? 何言ってんだよおっさん! 俺たちは勇者だぞ! 国の為に働いてるんだ! それが返事が無いってどういう事なんだよ!」
りょうがおっさんに文句を言うが、これ以上は何を言っても無駄だった。結局、俺たちが自ら王に文句を言わないといけないみたいだ。ったく、この世界のヤツらはふざけた連中ばかりだな。
結局、俺たちが最低限歩けるようになったのは、それから一週間後だった。それもこれもこの世界の回復薬が効かなったのが原因だ。
…まぁ、効果が無かったのは下級ポーションとか言うやつだ。なら、中級以上をと思ったが、金が無くて試せなかった。
くそっ! 何で勇者の俺が金に悩まされないといけないんだ!
そんな事情で遅くなったが、ようやく城に戻ってこれた。
…そう言えば、一緒にいたはずの奴隷商人が全員いなくなってるが、まぁしょせんは国から派遣させただけの道具だったから、どうでもいいか。
「よく戻ってきたな。報告を聞こうか?」
国王がいる謁見の間に通されると、騎士団長が開口一番で説明を要求してきた。
「んなことより、何でギルドからの話を無視し続けた? そのせいで、戻ってくるのが遅れたんだぞ! この落とし前はどうする気だ?」
「…それについては、ギルドのと言うか、自由都市の情報操作かもしれなかったから、こちらとしては動くに動けなかったんだ」
俺は説明をする前にギルドからの話を無視した件を問うと、騎士団長は平然とそんな事を言いやがった。
「ふざけるな! なら、調査でもなんでもすればいいだろ?」
「したさ。結果、南の森付近でドラゴンが目撃されていたのが分かった。さらには、南の森の入り口にはおびただしい数の死体が発見された。この報告を受け、我々はお前たちの生存も低いものとみた。よって、ギルドの勇者を保護した話は虚偽だと判断したんだ」
「ちっ」
「分かったのなら、お前たちに何があったのか報告してくれ」
どうあっても、自分たちは悪くないと、言いたいようだ。このままだと時間の無駄だと判断した俺は、しぶしぶここを出てからの事を説明する事にした。
「…つまり、お前たちは、あの役立たずに負けた上に、どう言う訳かスキルも奪われ、無力化されたと言う事だな」
「………」
説明を聞いた騎士団長が要約した言葉に俺たちは何も言えなかった。
「国王様、どうしたしましょうか?」
「も、もう一度、俺たちにやらせてくれ。この怪我がちゃんと治れば今度は負けねぇ。だから、高レベルの回復術師か回復薬を俺たちに寄越せ!」
「…………」
「おい、聞いてるのか?」
「…お前たちはもういらぬ」
「今、なんつった?」
沈黙していた国王が口を開いたと思ったら、聞きづてならない言葉が聞こえてきたので、俺は聞き返した。
「お前たちはいらないと言ったのだ。この一年勇者であるから利用していたのだが、もう使えなくなったのであれば、いらぬわ。どこへでも行くがよい」
「てめぇ! なにふざけた事言ってやがる。俺たちがどれだけこの国の為に動いてやったと思ってんだよ! それに俺らがいなくなったらこの国の一般人どもにはなんて説明する気だ!」
「国や人々の為に動くのは勇者として当たり前の事だ。それに平民たちの事は心配するな。お前たちはドラゴンに負けた恐怖により戦えなくなり、元の世界に帰ったとでも説明する」
「そんなんで納得すると思ってんのかよ!」
国王の一般人への言い訳を聞いて、りょうが食って掛かる。
「安心せい。我が娘が先日、ついに目を覚ました。なので、新たな勇者を召喚すれば問題ない。勇者と言う駒さえいれば、平民どもも安心するだろう。…おい」
「…分かりました。誰か! こいつらを王都から叩き出せ」
「な、何を!」
「触るんじゃねぇ!」
「……」
国王が騎士団長に合図すると、騎士団長が他の兵士を呼び、あろうことか俺たちを追い出そうとする。俺とりょうは抵抗するが、なぜかのぶだけは抵抗しないで、あっという間に引きずられていった。
それから、抵抗むなしく俺たちは、城を…いや、王都から追い出された。しかも、ご丁寧に誰にも見つからないように夜になってから。
「ここは何処だ? 辺りは樹ばっかりだ。どこの森なのか?」
「知るかよ! それよりも、ぜってぇ許さねぇ…。この国も佐伯も何もかも! 必ず復讐してやる」
「そんな事よりも、今をどうにかしないと、復讐もくそもないぞ?」
りょうの言葉を一蹴して、復讐を誓う俺にのぶは、復讐をそんな事と言いやがった。
「あ゛ぁ!? のぶ! お前ムカつかねぇのかよ!」
「怒りはあるが、それよりも生きる事を優先しないと、復讐も出来ない」
「……」
「漸く、見つけました」
「誰だ!」
のぶと睨み合っていたら、突然、第三者の声が聞こえた。しかも、俺たちを探していたようだ。
「私、ある御方のご命令で勇者御一行様を捜索していたのですよ」
「だから、お前は誰なんだよ!」
姿を現したのは、俺たちより少し年上に見える色黒の男だった。
「あぁ、すみませんね。名乗る事に慣れていないものでして。この間も同じ指摘をされたばかりだったのに…。おっと、話が逸れましたね。私はレキアと申します。突然ですが、あなた方をとある所へご案内したいのですが、いかがでしょう?」
「俺たちにそんな暇ねぇよ! これから、復讐しなきゃなんねぇんだ!」
「話だけ聞かせてもらっていいか?」
「のぶ!」
目の前の胡散臭い色黒野郎にのぶが興味を示す。
「お前たち、いい加減少しは頭を冷やせ!」
「「………」」
のぶに怒鳴られ俺とりょうは黙るしかなかった。
「…復讐ですか。それなら丁度いいです。もし良かったら、協力してあげる事が出来ますよ?」
「本当か!?」
「その代わり、私について来てもらいますよ。それに多少はこちらのお手伝いをしてもらいます」
「「………」」
「俺は行く」
「のぶ!」
おれとりょうが考えている中、のぶだけは即決で返事をした。
「なんとなくだが信用していい気がする」
「わーった。俺も行く」
「じゃあ、俺も」
のぶの勘を信じ、俺とりょうも色黒野郎の提案に乗る事にした。
「それでは、私に触れてください」
言われるがままに触れると、少しだけ間があり…
「行きますよ」
と、野郎が言った次の瞬間、俺たちは、全く違う場所に移動してた。
-???-
ここにいるかと思って、ずっと探していましたけど、どうやら最初からいなかったみたいですね。
それよりも、隠れて聞いていのですが、どうやらもう一度あの娘を使って、勇者召喚を行うようですね。そんな事出来ないとは知らないで。
この話を聞いてしまった以上、見捨てるのもあれですね…。以前の私なら、見捨てていたと思いますが、彼と出会ったせいで、随分と変わってしまいましたね。
なんにせよ。あの娘を連れて逃げるとしましょう。まずは、自由都市にでも行き、そのあとは海を渡って、獣人が住む大陸にで身を隠せば何とかなりますかね?
ありがとうございました。
ギルドで出てきた、カースさんはカードスの対外用の名前です。