報告、別れ、決意…
ようやく、第四章の終了です。
実際は、あと一話だけ続きますが、そちらは、ノゾム視点ではないので、本編はここで一区切りです!
「…もう朝かぁ」
昨夜のリン主導による、リンの為の、『リンが納得するまでの話し合い』は、空が白み始める頃まで続き、そのせいで僕は寝不足だ。一応、睡眠時間と言う代償を払った甲斐もあり、リンは納得はしてくれたようだ。
現在、僕がいる部屋は、勇者御一行と同じ部屋だ。流石に、フォーカス1人に夜通し見張らせている訳にも行かないので、解散した後に、フォーカスは帰らせて、僕が同室で見張る事にしたのだ。まぁ、朝方まではリンの尋問…もとい、話し合いがあった為、結果としては、1人で見張っていた事にはならなかったけど。
「おはよう…」
身支度をして、宿の外に出ると、既に全員が揃っていた。
「おはようノゾム。眠そうだけど大丈夫?」
誰のせいだと思ってるんですかね、リンさんや?
「おはようございます師匠!」
そして、フォーカスもいるのだけど、何故か隣には、名前の知らないエルフの女性がいた。
「おはよう。えっと、隣の方は誰?」
「彼女は、僕の幼なじみのアンです。村長の孫でもあります」
ああ、そう言えば一度だけ、見かけた事がある。確か、フォーカスの後をつけていた時だったと思うけど…。
「それでその幼なじみが何でここに? もしかして、村長が呼んでるとか?」
「いや、そうではないんです。彼女は…」
「初めまして。エルフの村の村長の孫娘アンと言います。私はフォーカスについていく事にしました。これからよろしくお願いします」
フォーカスが説明しようとしたのを遮り、自ら簡潔に説明するアンさん。何て言うか、押しが強い人だ。
フォーカスに視線をやると、本人はすでに諦めた表情をしているので、多分説得しきれなかったんだと思う。
「そうですか…。こちらこそ、よろしくお願いします」
どんな形であれ、フォーカスが何も言わないのなら、僕から、言うこともないので、無難に挨拶だけしておく。僕が、アンさんに挨拶すると、それに続くようにリンたちも挨拶を始める。僕は、リンたちが、互いの自己紹介が終わったのを見計らい、口を挟む。
「お互い、挨拶も終わったみたいだし、出発しようか?」
「出発はいいけど、こいつら引っ張っていくのは面倒じゃない? もう少し楽にならないかな?」
サキは勇者一行の運搬方法に不満があるようだ。
「とりあえず、馬と馬車を買うから、その後ろにでもソリを括り付ければいいんじゃないかな? あとは、外から見られても平気なように布でもって被せておけば、問題ないでしょ」
声を出せないよう口に布を詰めるのも忘れないようにしないと。
「う~ん…。確かにそれなら…?」
「それじゃあ、早速、馬と馬車を買いに行こう。フォーカス、案内よろしく!」
「あ、はい!」
サキも納得したようだし、さっさと行動しますよ!
その後、馬と馬車を買い、出発した僕たち。道中は何事もなく、イーベの町へと着いたので、ひとまず、、カードスへ話を通してもらう為、リンには先にギルドへ行ってもらった。
「お疲れさま。それじゃあ、確認の為に荷物見せてもらえるかな?」
なのに、リンが連れてきたのは、なんと本人だった。
「何で、あなたが来たんですか?」
てっきり、僕たちの事を知っているミリムさんが来ると思っていただけに予想外だよ!
「それは、勇者について知っているのが、ギルドで私以外に、いないからに決まっているじゃないですか」
…そう言われてみれば、まだ勇者の顔を知っているギルド職員は、城にお呼ばれしたカードスぐらいなものか。
「事情は分かりました。それでは、確認をお願いします。荷物はこれです」
カードスが布をめくり中を確認する。もちろん中が周囲に見えないようにだ。
「…確かに。それでは、ギルドの裏手に回して下さい。その後は、うちの職員たちにやらせますので」
カードスの指示に従い、ギルドの裏手に回り、荷物を預けて、カードスの部屋へと向かう。
「あ~、お疲れ。それじゃあ、報告を聞こうか?」
部屋に入るなり、おざなりな対応でカードスが出迎えてくれた。
「勇者倒したら、帝国のヤツがドラゴン引き連れてやってきた。帝国のヤツは逃がしたけど、ドラゴンは倒した。以上」
「「はぁ?」」
態度にムッとしたので、こちらもそれ相応の態度で対応する。もちろん、カードスは只でさえ、訳が分からないのに、帝国とかドラゴンなんて単語を聞いて余計に混乱していた。ちなみに、もう1人反応したのはサキだったりする。そう言えば、魔族と遭った事を言ってなかったっけ…。
「悪いがちゃんと説明してくれ」
「なら、それなりの態度を要求します」
「…無事、依頼を達成してくれたみたいだな。助かった、感謝する。それで、帰ってきて早々で申し訳ないが、向こうであった事を話してくれないだろうか?」
僕の要望にあっさりと折れたカードスは、それなりの態度に切り替えて、これで満足か? と言わんばかりの視線で僕を睨んできた。と言うか、あんたが最初からもう少しこちらを労わるような態度で接してくれていればよかったんだけどね。
僕は、カードスの視線を無視して、ここを出発してから起きた出来事を最初から話していく。ついでに、討伐したドラゴンも見せた。室内で出すなと怒られてので、顔だけしか見せれなかったけど…。
「…帝国が今回の件を裏から操っていたのも問題だが、それ以上に、帝国内部に魔族が入り込んでいるのも問題だぞ」
僕の話を聞き終えたカードスはため息とともに頭を抱え込んだ。
「申し訳ないんですけど、保証にあった仲間の冒険者の登録をお願いしてもいいですか?」
「あなた、よくこの空気で、そんな事言えるわね?」
イリスさんが呆れながらツッコミを入れてきた。
「いやね、ちょうど魔族が話に出てきたから、紹介がてらにと、思ってね。そういう訳でして、3人の登録をこの場でお願いしたいんですが…」
「いったい、これ以上何があるんだよ! ったく、誰かいるか? 誰でもいいから、未登録のカードを3枚持ってこい!」
「…それで、これはどういう事なんだ?」
あれから、ギルド職員がカードを持ってきたので、サキ、セシリア、イリスさんの3人が冒険者登録をした。そして、出来上がったカードを見たカードスの言葉が、先程のセリフだ。
「んなの、そこの堕天使についてに決まってんだろうが!」
「ですよね。目の前に、魔族がいるんで…。…堕天使? えっ? そっち? …あれ? この流れだと、サキの方に反応するのが正解じゃ?」
ちょっと、ちょっと! 予想していたリアクションと違うんですが!? ここは、サキが魔族であることに驚き、そこから魔族の説明、そして魔人へと話を繋げる予定だったのに!
「そこの魔族は、この前会ったときに、看破を使って、その時に知ったからな」
え、何それ? 僕聞いてないんですが?
サキの方に視線を送ると、サキは、視線をリンの方に向けるので、そのまま、視線をリンに向ける。目が合ったリンは、今、思い出したかのように話し始めた。
「ノゾムの居場所を聞くために、ここを訪ねたら、あいつが私たちと初めて会ったときのように、看破を使ったのよ。その時に、サキは敵じゃないと言っておいたのよ」
うん。その話、ここに来る前にしてほしかったな。
「あなたが、サキの種族を知っているのは、分かりました。あと、イリスさんの事はひとまず置いといて、魔族の話をしたいんですけど?」
「…分かった」
カードスは、お前が脱線させたからだぞって目を向けてきていたけど、まるっと無視して、以前、サキから聞いた魔族の事をカードスに話す。
「…なるほどな。その話をそのまま信じる訳にはいかないが、魔族のバックには、その魔人ってのがいるのは分かった。そうなると、帝国に入り込んでいる魔族も、その魔人の指示の可能性があるな」
「それで、どうするんですか?」
「ん? どうもこうも放置しかないだろうよ」
やっぱり。せめて、帝国内部に協力者が出来ない限り無理だろうな。
「そんな事より、そっちの堕天使の目的を聞こうか?」
「イリスさんの目的は、ある人を探し出す事ですよ。別に魔人とか、魔王なんて人間に害があるような人物ではないので安心してください」
さすがに、神様とは言えないけど…
「それが本当である証拠は?」
「彼女も僕の奴隷なので、嘘はつくなと命令した上で聞いたので、大丈夫でしょう」
これは嘘だけどね。まぁ、イリスさんが奴隷であるのは本当の事だし、バレやしないと思う。
「分かった。お前を信じよう」
意外だ! カードスの事だから、僕のステータスかイリスさんの魔法陣ぐらいは確認してくると思ったんだけど。意外に信用されているんだな。
「それじゃあ、次ですが、退治したドラゴンなんですが…」
「はぁ~~~~~。そう言えば、それもあったな…。魔族や堕天使ですっかり忘れていた」
ドラゴンと聞いた瞬間、カードスが深いため息をついた。
「忘れないで下さいよ…。で、そのドラゴンなんですが、帝国から来た魔族が連れていたので、多分ですが、最近の魔物の増加はこれが原因だったんじゃないかと思うんですよ」
「なるほど、一理あるな。しばらくは経過を見る必要があるが、これで、魔物の数が落ち着くようなら、そういう事だったんだろうな」
これで解決なら、運が良かったというべきなのかな?
「あとは、勇者一行の事だが…」
「それについては、僕にいい考えがあります」
「ほう?」
カードスが勇者をどうしようか悩んでいるようだったから、僕が1つ案を出す。
「まず、今眠っている勇者たちは、目が覚めてから、王都に送り返す。そして、奴隷商人たちは金で買収。出来ないようなら、奴隷にでもして、今回の件について口止めする」
「それのどこが、いい考えなんだ?」
カードスが、僕の案を聞いて首をかしげる。確かに、今のだけじゃ、説明不足だからそうなるのも分かる。
「詳しく話すと、目覚めた勇者たちにこう言うんです。『この町に入ろうとした奴が、あなた方を荷台に隠していたので、我々ギルドが保護しました』って」
「おいおい、それだと、勇者が王に頼んで、王国はお前を賞金首にするぞ? そうなったら、ギルドも匿う事なんて出来なくなるぞ」
「大丈夫ですよ。あの王や勇者と僕は訳ありでしてね。多分ですが、あの王が勇者の話を聞く事は、もうないと思いますよ」
過去に追い出した奴に負けた人間をあの王は、使い続けるような事はしないだろう。しかも、戦闘能力は奪われているんだ。ほぼ、確実に捨てるだろう。
「それなら、王国が進めているエルフの奴隷化はどうする?」
「エルフは、ドラゴンによって全滅した事にすれば、問題は解決です。魔物の増加の原因と一緒に噂を流すだけで、いけると思いますよ。実際、兵士1000人はドラゴンにやられたんですしね」
「………」
「どうするかは、そちらにお任せします。もう、話すこともないので、僕たちはこれで」
「…おい」
僕たちが退室しようと立ち上がったところで、カードスが口を開いた。
「何ですか?」
「お前をSランク…いや、SSランクに昇格させる。それに、リンスレットは、Aランクに昇格か、既にAランクならSランクへの昇格、他の3人は、特別にBランクスタートにしておく」
「突然、何を言い出すんですか!?」
「何って、ドラゴン討伐の報酬だよ? リンスレット、お前今のランクは?」
僕の質問に手短に答えるカードスは、リンに現在のランクを問う。
「私は、今Aランクよ」
「は?」
「分かった。それなら、お前は、Sランクに昇格だ。約1年でSランクか…。ノゾムが言ってた通りになったな」
あれ? リンって確か、Cランクじゃなかったっけ? それが、いつの間にAに?
「ノゾムを探すのにいろんなダンジョンを制覇したせいで、いつの間にかAになっちゃったのよ」
混乱している僕に気付いたリンが説明してくれる。
「ほら、これを預けとくから、自由都市のギルド本部で渡せ」
「これは?」
カードスから手紙を渡される。
「そいつは、今回の昇格の推薦状だ。それまでは、今のランクのままだから我慢しろ」
「分かりました。……って! それより、何でこんな昇格を!?」
「お前な、以前も言ったが、討伐した魔物がランクに似合ってないんだよ! 今回のドラゴンは、普通ならAランクが40人ぐらいか、Sランクか15人ぐらいはいないといけないようなヤツだったんだよ。それをAランクとBランクが1人ずつしかいない、1パーティーで討伐とか、おかしいんだよ! だから、他の冒険者が真似しないように、この中で一番強い、お前をSSランクに昇格させるんだ」
またその理由ですか…。
「あ~、はい。分かりました、納得です。もう話はないですね? それでは、今度こそ失礼します」
今度は呼び止められることなく、僕たちは、部屋を後にすることができた。
「さて、フォーカスはこれからどうするんだい?」
「何ですか、いきなり?」
広場に出たところで、僕は唐突に、フォーカスへと今後の事を聞いてみる。ちなみに女性陣は旅に必要な物を買いに行っている。
「僕たちは、これから、この国を出て、自由都市に行くんだけど、フォーカスはどうするんだろうなって思ってさ。とりあえず、旅の間で、基本的な事は教えたと思うから、弟子卒業で大丈夫だと思うんだ」
「そ、そんな事、急に言われましても、何も思いつかないですよ」
「それなら、僕たちの拠点だったターニンに行ってみたら? 僕たちが住んでた家は使っていいからさ」
「…お言葉に甘えさせてもらいます」
「そっか。じゃあ家の鍵を渡すから、家を使わなくなったらギルドにでも預ければいいから。あと、キースって貴族がその町にいるから、これを渡しておいて」
僕はフォーカスに、家の鍵とキースへの伝言を書いた手紙を渡す。
「確かに受け取りました」
「それじゃあ、元気で」
「はい! 師匠! 短い間でしたが、ありがとうございました」
フォーカスは、そのままこの場を去ってしまった。
別に、女性陣が帰ってくるのを待っていからでも出発は遅くないんじゃないかな? とか思ったけど…。
「まぁ、いっか」
1人になった僕は、今回の一件を思い返す。
…今回は、ヴァンパイアになってから、初めて力不足を痛感したなぁ。今までは制限があるとは言え、それでも圧倒的な身体能力。それにチートなスキル。それでどうとでもなった。なんとなくだけど、心のどこかで、慢心していたのかな? って思う。
「決めた! 今回の事を繰り返さないように、しっかりレベル上げをしよう!」
僕は仲間が誰もいない中で、決意する。もう二度と力不足を痛感しないように…。
ありがとうございました。
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