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イリスの探し人




 さて、村まで来たけど、こいつらを引きずったまま入るのはよろしくないだろうから、フォーカスがいてくれると助かるんだけどなぁ…」


 「私が探してきましょうか?」


 イリスさんは、率先してフォーカスを探しに行ってくれるようだ。それにしても、彼女、僕の本名を知ってから、妙に従順になったような…気がする。


 「すいませんが、お願いできますか?」


 「いいわよ。それじゃあ、ここで待っててね」


 考えていても、どうしようもないので、イリスさんにお願いすると、彼女は、二つ返事で頷くと、すぐに村へと入って行った。


 「…ノゾム? 本当にあのイリスって人は、無理やり奴隷にしたのよね?」


 僕とイリスさんの今のやり取りを見て、リンがジト目で、先ほど説明した僕とイリスさんの関係を再確認してくる。

 村に到着するまでの間に、僕はこの2ヶ月の事をリンたちに説明した。もちろんイリスさんが僕の奴隷だとも話したし、フォーカスと言う弟子が出来た事も話した。イリスさんの種族だけは、本人の口から言った方がいいと思い、まだ3人には伝えてないけど。


 「そう説明したけど、さっきのやりとりを見たらしんじられないよね?」


 「そりゃあ…ねぇ」


 僕の言葉に、サキが苦笑いしながら頷いた。


 「とは言っても、こいつら(勇者たち)と戦う前までは、あんなに友好的ではなかったんだよね…」


 いったい、何が彼女をあそこまで変えたんだろう? そのあたりも、この後の話で分かるといいんだけど…。





 「お待たせ。連れてきたわ」


 イリスさんは5分ほどで、フォーカスを連れて戻ってきた。


 「どうしたんですか、師匠? イリスさんが呼んでいるって言ってましたが?」


 「ちょっと、村で落ち着いて話し合いをしたいんだけど、こいつらがいるから、気軽に入れなくて…」


 フォーカスの質問に、僕は後ろを指さしながら、困り顔で答えた。


 「ちょっ! 何で増えてるんですか!」


 フォーカスは、吉田の他に縛られている人がいるのに驚いていた。


 「これ、今回の襲撃犯。つまり、勇者御一行だよ。あぁ、おっさんたちは王国から派遣された奴隷商人だから、御一行ではないか…。とりあえず、無力化はしてあるから、害は無いかな?」


 「いやいや! いくら無力化していても、口を塞いでなかったら意味が無いじゃないですか!」


 「…?」


 「たぶん、魔法を使われる危険性の事を言ってるんじゃないかしら?」


 フォーカスが、何を言っているのか、一瞬意味が分からなかったけど、そこは、リンの一言で納得がいった。


 「あぁ、なるほど! 安心していいよ。その辺りも含めて『無力化した』だから」


 「は、はぁ…」


 納得していないフォーカスを無理やり納得させ、ひとまず、この間まで泊まっていた宿へと向かうことにした。

 宿と言うより、村は、割と被害が無かった。フォーカスの話によると、戦闘があったのが、村の入り口だったのも大きいらしい。なので、怪我人がいる以外は、日常生活にほとんど支障はないそうだ。





 「ふぅ。…漸く、落ち着いて話ができるね」


 僕たちは、宿の一室に集まり、各々好きな所に座っていた。

 ちなみに僕の両脇にリンとサキが座っていて、サキの隣にセシリアがいる。イリスさんだけ僕たちの対面に座る形になった。


 宿の方だけど、フォーカスのおかげと、僕が吉田と戦っているのを、宿の主人が見ていたらしく、問題なく部屋を借りる事が出来た。ちなみに、勇者御一行は、別の部屋に押し込んで、フォーカスに見張ってもらっている。フォーカスは、とても怖がっていたけど…。



 「それじゃあ、イリスさん。話してもらえるかな?」


 「…とは言っても、どこから話したらいいのかしら? そうだわ。あなたから質問して、私がそれに答えるってのは、どうかしら?」


 どうやらイリスさんは、こちらの質問に答える事で、自身の事を僕たちに伝えたいようだ。


 「じゃあ、まずは、彼女たちに自己紹介をしてもらおうか」


 「分かったわ。私の名前はイリス、種族は堕天使よ」


 「私たちも自己紹介した方がいいわね。私は、リンスレット」


 「あたしは、サキだよ」


 「セ、シリアって、言いま…す」


 イリスさんが自己紹介したのに続き、リンたちも自己紹介をする。


 「そんな顔して、どうしたんです?」


 イリスさんは、リンたちの自己紹介をポカーンとした顔で聞いていた。


 「い、いやね。私の種族に何の反応も無かったら…」


 「そんな事でしたか」


 「そんな事って!」


 僕は、リンたちに目を向けると、3人は頷いたので、イリスさんに3人の種族を伝える事にした。


 「だって、彼女たちも訳あり種族ですからね。リンはヴァンパイア、サキは魔族、セシリアは生まれるはずのない銀髪の狐人族なんですよ」


 「…え?」


 この反応を見るに、イリスさんはリンたちの種族についての知識はあるみたいだ。


 「まぁ、そういう訳なんで、イリスさんが堕天使だと知っても、彼女たちは驚かないんですよ」


 とりあえず、証拠として、3人にはステータスを開示してもらった上に、 セシリアには銀髪に戻ってもらった。イリスさん的には、驚かす側だと思っていたのに、逆に驚かされる形となった為、暫く混乱していた。



 「…ごめんなさいね」


 「いえ、いいですよ。それじゃあ質問を続けますね。イリスさんは、誰かを探しているって言ってましたけど、誰を探しているんですか?」


 イリスさんが混乱から立ち直ったので、質問を再開する。


 「…私が、探している人は本来1人。その人を探している過程で見つかればいいなぁ程度であなたも探していたのよ」


 「それだけ、期待値が低かった割には、かなり感極まっていたと思うのですが…」


 僕は、イリスさんに抱き着かれた事を思い出し、苦笑いになる。イリスさんは指摘されて、少し恥ずかしそうに俯いていしまった。…あれ? そんなキャラでしたっけ?


 「…ノゾム?」


 何故か、リンのプレッシャーが増す。


 「…うほん」


 「あっ! ええっと。…あれは、あなたの事を聞いていただけだったから、見つけれるとは思っていなかったのよ。私が知っているのは、名前とこの世界に転移してきた異世界人だって事ぐらいで、あとは、少し勘のいい子としか聞いてなかったのよ」


 「ちょっと、待ってください! イリスさんは、いったい誰に僕の事を聞いたんですか!?」


 僕の事を異世界(地球)から来たと知っているのは、この世界だと、王国のトップたちとリンぐらいしかいないはずだ。なのに、イリスさんは僕が異世界からの転移者だと聞いてる。ってこの世界だと? じゃあ、この世界に限定しなければ…


 「あなたの事を話していたのは、アイラ様よ。私はアイラ様の侍従をしていた天使よ。今は、堕ちて堕天使になっているけどね」


 僕が、その考えに辿り着く前に、イリスさんは答えを口にした。


 「なるほど、それなら、イリスさんが僕が異世界人だと知っていてもおかしくないですね。って、もしかして、イリスさんが探している人って? …アイラさん?」


 僕は、嫌な予感がするけど、確認の為にイリスさんの探し人であろう人物の名を口にした。


 「そうよ。私が探している人は、この世界の魔力を司る神、アイラ様よ。…正確には『だった』が付くけどね」


 やっぱり…。しかし、神様を探すときたもんだ。人探しを手伝うって言ったの後悔してきたよ。


 「ちょっと待って、ノゾム君! 異世界とか神様とか、セシリアが話についていけないんだけど!」


 若干後悔していた所に、サキが待ったをかける。どうやら、セシリアの理解が追い付かなくなったようだ。隣で座っているセシリアと目が合うと、申し訳なさそうに、コクコクと頷いているので、話を遮れないセシリアを見かねて、サキが助け舟をだしたのだろう。

 そう言えば、セシリアには、僕の事を話したことなかったな。よし、ついでだし、僕の事も説明しておくか。





 「「……………」」


 おや? 説明したら、セシリアはともかく、何故かイリスさんまでポカーンとしちゃった。


 「2人ともどうしたの?」


 「あなたがヒトじゃなかった事に驚いているのよ」


 「ノゾム様が、元ヒトだった事…に驚きまし、た」


 聞けば、イリスさんは僕が異世界人なのに、ヒト族じゃな事に、セシリアは僕が純粋なヴァンパイア族じゃない事に驚いたらしい。ようは、2人とも、種族が変わった事が驚いた原因だったみたい。


 「それにしても、ヴァンパイア族ね。少し前に絶滅したって報告が上がってきたけど、生き残りがいたなんて思わなかったわ。それと、よく平気だったわね? アイラ様は他種族をヴァンパイア種にするにはある条件を満たさないと失敗すると言ってたような気が…」


 条件!? なんですか、それ? 初耳なんですが?


 隣に座るリンも驚愕しているので、こちらも初耳だったんだろう。


 「イリスさん! 今の話を詳しく知りたいんですが!」


 「そう言われても、私は覚えていないし…。それに私に聞くよりも、そちらのリンスレットさんに聞いた方が早いんじゃないかしら?」


 イリスさんは、そう言ってリンに話を振る。


 「私は、小さい頃に隠れ里を追い出されたので、条件があるなんて知らなかったんです」


 「…ごめんなさい。軽率だったわ。けど、そうなると、あとはアイラ様に直接聞くしかないわ」


 「そうか…ん? 今、イリスさんは、なんて言いました?」


 聞き間違いじゃなければ、アイラさん(神様)に直接って言ったよね?


 「アイラ様に直接って言ったけど?」


 どうやら聞き間違いではないようだ。それに思い返してみれば、イリスさんはアイラさん(神様)を探しているって言ってたな。つまり…


 「…もしかして、アイラさんってこっち(セルフィアナ)にいるんですか?」


 僕は、アイラさんの名前が出た時点で確認すべき事を、今更ながらに確認する。


 「いるはずよ。アイラ様は、神の座を剥奪されてしまったので、ヒトとしてこの地(セルフィアナ)へと堕とされてしまったわ。私は、アイラ様が何故、神の座を剥奪されたのか、上位の神様へ問い質しに行ったら、堕とされてしまったの。元々、天使の仕事に疑問を持っていたから、天使に未練は無かったわ。だから私は、これを機にこの地(セルフィアナ)に堕とされたアイラ様を探すことにしたのよ」


 イリスさんから、アイラさんの現状を告げられて、僕たちは、驚きのあまり、何も言えず固まってしまった。だって、神って剥奪される事があるなんて聞いたら、大抵の人は僕たちと同じリアクションになると思う。


 「…話は分かりました。ひとまず、質問はこれぐらいですかね。約束でもありますけど、僕としては、イリスさんの探し人が、アイラさんである以上、約束とか関係なしでお手伝いします」


 驚きから回復した僕は、約束とは関係なく、イリスさんの人探しを手伝う事を伝える。リンたちも僕の意見を尊重してくれるようで、視線を向けると、頷いてくれた。


 「ありがとう…」


 イリスさんは僕の言葉を聞き、少し涙目になっている。


 「いえいえ。じゃあ、今日はこれぐらいにしよう。そして、明日はイーベの町に戻って、ギルド支部長に今回の件の報告をしないと」


 僕の言葉で、今日はお開きになり、それぞれ部屋に戻って休むことになった。


 今日は疲れたから、ぐっすりと眠れそうだ。





 「ちょっと、ノゾム? い ろ い ろと、聞きたいことが残っているんだけど? 何で、部屋に帰ろうとしているの?」


 …どうやら、今夜はまだまだ続くみたい。



ありがとうございました。

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