表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/133

少年と盗賊

キリのいいとこまで書いたら長くなりました。






 リンスレットに案内してもらって森を無事出られた僕は、すぐギルドへ納品しに向かい、依頼完了の手続きの為、いつものお姉さんの所に並んだ。


 「あら、ノゾムさん依頼完了ですか?」


 「えぇ、何とか初めての依頼は無事終わりました。これが依頼の品です」



 そう言って薬草の束を渡たし、お姉さんは薬草の数を数えながら僕に質問してきた。


 「そう言えば、魔物に出会わなかったのですか?魔物の討伐部位の買取も一緒に受け付けますよ?」


 「えっ?あの森って魔物が出るんですか?」



 おかしいなぁ、僕が森を捜索していたのは3~4時間ぐらいだったけど、一度も魔物に出遭ってないぞ?

 もしかしてあまり魔物とのエンカウント率は高くないのかな?



 「出るもなにも、最弱の部類とは言え、ゴブリンやウルフなどの魔物たちの住処となっている森ですよ? ノゾムさんがどれだけ森にいたかは分かりませんが、1匹も出会わない事はまず無いと思うのですが…」



 「確か3~4時間だったと思いますが…」


 突然、あの森が魔物の出る危険な森だったと言われて、内心でパニックを起こしていた僕は、つい本当の事を言ってしまった。

 それが不名誉なあだ名に繋がるとは思いもしないで…





 「それだけ森にいたのに1匹も魔物に出会わなかったのですか?そんな事が…?」


 ヤバイ、変な詮索されても面倒だ。ここは誤魔化そう…



 「た、たまたまですよ。それに3~4時間と言っても半分は迷子でしたし! だから運よく魔物を避けられたんじゃないんですかね?」




 「…ノゾムさん今何て言いました?」


 し、しまった。いくら誤魔化す為とは、なぜ自分の失敗談を暴露しているんだ?



 「あの森で迷子になったんですか?」


 本命の話(魔物の件)からは上手くそれたけど、これはこれで不味い気がする…、いや、確実に不味い。直感のスキルが警告を鳴らしてる。


 「………」


 「ノゾムさん…。迷子になっちゃったんですね…」


 僕が無言を貫いていたけど、お姉さんはその態度で確信したらしく、ため息混じりに同情してきた。


 周りにいる冒険者も『迷子』と聞こえてから聞き耳立てていたけど、『迷子』が確定いた今となっては、こっちを見ながらひそひそ話をしているよ。 普段はこっちなんて気にしないくせに…



 「あの森は人を惑わせるような作りではないので、今まで迷子になった人はいなかったんですが…。もしかしてノゾムさん道から外れて採取していました?」



 「えぇ多分そうですね。採取に夢中になりすぎてふらふらと森の奥に進んだので…」


 もう迷子が確定してしまったので、僕は諦めて採取時の行動を話した。



 「そうですか…、とりあえず無事でよかったです」


 「そうですね、それじゃあ今日はこれで失礼します」



 僕は報酬を受け取り逃げる様にギルドを後にした。

 その日は城に帰り、団長に頼んで訓練場の使用許可をもらって、剣の訓練をした。

 いくらステータスが低くても剣に慣れておく事に越した事はないからね。

 ちなみに吉田たちはこの1週間で訓練を終えて今は近くのダンジョンでレベルを上げているそうだ。

 だからあいつらと顔を合わせる心配はない。




 翌日も僕は森に来ていた。もちろん採取依頼の為である。

 依頼を受ける為にギルドに行ったら、「『迷子のノゾム』が来た」だの、「今日はどこで迷子になるんだろう」とか聞こえるように話し始められたのは思い出したくもない出来事だ。

 ってか僕の通り名は『迷子』で決定なんですか?そもそも昨日の今日でなんで定着しちゃってるんですか?

 そんな事を思いながら依頼の手続きをしていると、いつものお姉さんも「道に迷わないようにね」と言って送り出してくれた。

 もう泣きたい…。





 かれこれ4時間ぐらい捜索しているが今日も魔物には会わない。

 本当に魔物なんているのだろうか?

 森で何か起きてるのかな?とか思い、町に戻ったら森に詳しい人でも探そうかなと考えた時、リンスレットの事を思い出した。

 彼女はこの森に住んでいるっぽいから何か知ってるかもと思い、昨日の案内された道を必死に思い出しながら彼女の住んでいると思う小屋へ向かった。



 「リンスレットいる~?」


 僕は小屋に着くと扉を叩きながら彼女の名前を呼んだ。

 前回と違い今回は小屋の中に人がいる気配がする。

 なので、名前を聞き出した時と同じようにリンスレットが反応するまで繰り返す事にした。

 第三者が見たらきっと取立てかなんかだと勘違いする光景だけど気にしたら負けだ。

 それよりも魔物と遭遇しない原因を突き止めるほうが先決だ。



 10分ほどして根負けした彼女が出てきた。扉から顔だけ覗かせてだけど…

 昨日も案内してくれた時に付けていた包帯を付けている。



 「おはよう、リンスレット」


 「…何?」


 彼女がやっと出てきたことが嬉しく、普通に挨拶したからか、リンスレットからは昨日の敵意は感じられないけど、とてもうんざりしているっぽい。



 「…なんだっけ?」


 そう言った瞬間に、バタンって力強く扉を閉められてしまった。


 「お、思い出した!用事思い出したからもう一度出てきてリンスレット!」


 慌てて用事を思い出した事を伝えると、割とあっさり出てきてくれた。もちろん顔だけ…



 「この森の事について聞きたい事があるんだ。昨日も今日も一度も魔物に遭わないんだけど、この森って何か異変でも起きてるの?」


 話を脱線させると、また小屋に引っ込んでしまうと、直感で感じた僕は早速本題を切り出した。



 「あなた、何を言ってるの? この森に入ってここまで来るのに、魔物に遭わないなんてありえない」


 「そうなの?けど現に僕は一度も遭ってないよ?」


 「そんなバカな事あるはずないじゃない。バカバカしい。用ってそれだけ?それじゃあね」


 「待って!本当なんだよ! 昨日の案内してくれた時も会わなかっただろ?」



 顔を引っ込めようとする彼女に、必死になって昨日の事を思い出させてみる。

 昨日の事を思い出しているのか引っ込もうとしていた顔が止まる。

 そしてリンスレットは包帯を取って僕を見ると、質問してきた。



 「本当にこの森に入って魔物に遭ってないの?」


 「そう言ってるじゃないか。だからこの森に異変があるんじゃないかと思って、森に詳しそうなリンスレットに聞きに来たんだ」



 彼女は最初に会って質問してきた時みたくジッと僕を見つめていた。そして…


 「嘘じゃなかったの!? …とりあえず入って。色々聞きたい事が出来たわ」


 そう言って彼女は扉を開けて中に引っ込んでしまった。

 なんで急に信じたんだろう? とりあえず入ってみるか…。


 小屋はどこにでもあるような造りをしていた。変っている所は特にない。

 強いて挙げるなら物が少ないって所かな?

 いつでもここからいなくなれるように物を減らしているかのようだ。



 「いつまでそこに立っているの?早くこっちに来て座りなさいよ」


 「あっ、うん」


 僕は彼女に言われて、考えるのを止めて、彼女の対面に座った。

 彼女は座った僕に前置きもなく森の事を説明してきた。

 話によると、彼女自身毎日のように魔物を狩っているから、これと言って森に変わりはそうだ。



 「つまり、原因は僕にあると?」


 「それ以外に考えられないわ。それに昨日ノゾムを森の入り口に送った帰りは魔物に出遭っているもの」


 「あっ! 名前覚えててくれたんだ!」


 意外にも、彼女の口から自分の名前が出てきた事が嬉しかったらしく、話の腰を折ってしまった。



 「べ、別にそれぐらい普通でしょ? そんな事よりも今はノゾムの何が原因かを聞きだすのが最優先よ」


 顔を赤く染めながら話を進める彼女だが…


 「僕に原因があるのは確定なんですね…」


 もう泣いていいですよね…。運やチートにマイナススキルと魔物除けとこれ以上どんな属性を付与する気だよ…。


 「それ以外考えられないからね。ノゾムは何か心当たりあるんじゃない?」


 思い当たる節ねぇ…。

 一般人と変らないステータスの僕が一般人と違うのは運と使えないチート能力(MP)だけだ。

 ただ、今回の件に運は関与してない気がする。

 そうなるとあれ(MP)しか原因になりえる要素はないんだけど、それを彼女に伝えるには僕の全てを話さないといけなくなる。


 神様(アイラさん)に会ったって言うのもだけど、異世界から来ましたって言って、信じてもらえるのかどうか、と考えていると彼女がそのオッドアイの瞳で僕の事をジッと見ていた事に気が付いた。

 そんな彼女を見ていると、なんとなくだけど、全部話しても信じてくれそうな気がした。

 それに何故だか、嘘をついてもいけない気がした。だから僕は彼女に全てを話した。



 話を聞いた彼女は納得がいったみたいで、原因とその理由を教えてくれた。



 「まず間違いなく原因は莫大なMPね。そもそも魔物についてだけど、魔物は魔力を一定以上蓄える事で上位種に進化するわ。その進化の為の魔力は外部、つまり他の生き物から摂取するの。つまり魔物が襲うのは進化の為。そこまではいい?」


 「けど、それなら僕は襲われやすいはずじゃ?」


 だって僕を食べれば確実に進化に必要な魔力が手に入るはず…。


 「普通ならそう考えるでしょうね。けどノゾムの魔力は尋常じゃないぐらいある。それのせいでノゾムを食べようものなら、それだけでこの辺りの魔物は死ぬでしょうね。多分摂取した魔力量に耐え切れず進化も出来ないまま。多分それを魔物たちは本能で感じ取ってるのよ。だからノゾムは魔物に襲われないの」


 マジですか~。このMPは予想外の効果が在ったんだ!アイラさんは知ってたのかな?


 「って事は僕は魔物に一生襲われないの?」


 それなら僕にとってかなりありがたい話だ。


 「話をよく聞きなさい。あくまでも『この辺りの魔物』は、ね。上位の魔物なんかだったら問題なく襲って来るんじゃないかしら?」


 「………」


 そんな都合のいい話はないらしい。

 落ち込んでいる僕を見て彼女は慌ててフォローしはじめた。


 「け、けどノゾムはマイナススキル(魔力使用不可)のせいで無意識に流れ出る魔力を抑えられてないの。だからそれが無くならない限りはこの森の奥に行かない限りは安全よ。普通魔力が扱える者はどんな三流以下でも流れ出る魔力は抑えられるの。じゃないと魔力が枯渇して倒れちゃうから」


 それじゃあ、この世界に来た時吉田たちが気絶していたのってそれが原因?

 けど、僕は?


 「多分、ノゾムは膨大な魔力のお陰で倒れないで済んでいるの。まぁ魔力が切れても死ぬわけじゃないし問題はないはずよ。それに召喚されたばかりはどうだか分からないけど、今はそんなに魔力が流れ出てはいないわ。相変わらずとんでもない魔力を持ってるようだし倒れる心配もないでしょうね」


 「あれ?リンスレットって他人の魔力を感じとれるの?」


 僕の疑問に思っている事を聞く前に、リンスレットは答えを話してくれたけど、その中で気になることを彼女が言ったのでそれについて質問した。

 彼女は「あっ!」って言って困った顔をしながら質問に答えてくれた。



 「うん。理由は話せないけど、確かに私は他者の魔力…正確には魔力量を感じる事が出来るわ」


 なんか言いたくない事のようだけど、僕は全く気にしていなかった。


 「そっか。じゃあ話さなくていいよ」


 彼女は僕の言葉を聞いてビックリしている。


 「何も聞かないの? 普通はスキルを使っても無理な事なのよ?それにこんな小屋に1人で住んでるし、疑問に思わないの?」


 よほど僕が何も聞かないのが予想外だったらしく、本題以外にもおかしい所を自分で挙げていく。

 そんな彼女に僕は思った事をそのまま言葉にして伝えた。



 「だって、それを聞いても聞かなくてもリンスレットはリンスレット以外の何者にもならないじゃん? だから、僕は君が何を隠していても構わないし、それを知っても君との接し方を変える気はないよ?」


 そう、たとえ魔王であろうと変える気はない。

 彼女は僕の『運』みたく、自分ではどうしようもない物に、生き方を振り回されている気がする。

 僕の『運』は今のところそこまで酷くはないけど、それでも、振り回され生き方を捻じ曲げられた辛さを知ってる者としては、それぐらいで今までの接し方を変える気はない。出合ってまだ1日しか経ってないけど…


 そんな僕の考えまで伝わったのか彼女は笑い始めた。


 「…ぷっ、あはははは、ねぇ、ノゾムって面白いってよく言われない?」


 彼女は目に涙を溜めながらそう僕に質問してきた。

 それが笑いすぎなのか、それとも別の涙なのかは僕には分からなかった。


 「つい最近初めて言われたよ。件の神様(アイラさん)に…ね」


 「その人だけなの? 意外ね?」


 まぁ話はそれたけど、ここに来た目的も達したし帰ろうかなと思ったら、彼女はそれを留まらせるように話しかけてきた。


 「…もう帰っちゃうの?」


 いやいや、リンスレットさん?あなた僕がここに来た時とは態度が全然違いますがどうしました?


 「だって、それはノゾムが膨大な魔力を持っているから身構えちゃって…」


 あぁ、見知らぬヤツが来るだけでも怪しいのに、リンスレットは魔力量まで分かっちゃうから、余計に警戒しちゃったんだ。けどそれって…


 「そう、私は色んな者に追われているの…」


 ん?なんかおかしくない?僕声に出して喋ってるか?


 「あぁっ!!」


 彼女も気付いたらしいと言うよりも…僕の考えが正しければ…



 「もしかして、リンスレットって心が読める?」


 流石にこの状況では彼女も誤魔化したりはせず、包帯で赤い目を隠した後に素直に白状した。


 「確かに私は他者の心が読めるの。それはこの赤い瞳のせい。これは魔眼と言われているわ。この魔眼のせいで私は色んな者に追われて、ここに隠れるように住んでいるの…。普段はこんな風に包帯で隠しているから問題ないんだけど、さっきノゾムが思ってくれた事が嬉しすぎて、ついノゾムが帰るって思ったのに反応しちゃったの…」


 理由は分かったけど、後半は色々と反応に困る…。

 一瞬理性が崩壊しかけましたよ!


 「とりあえず、帰るのは暗くなる前に森を出たいからだよ。魔物に襲われないからって野宿はしたくないからね」


 けど彼女は納得しないらしく頬を膨らまして恐ろしい提案をしてくる。


 「じゃあここに泊まっていけb」

 「それは却下!」


 かぶせ気味に断ったらさらに頬が膨れた。


 「流石に女の子が1人で住んでる所に泊まるほど、僕は神経図太くないからダメ!また明日も来るからそれじゃダメ?」


 そう僕が代案を提示すると彼女はしぶしぶ諦めた。

 そしてその日は無事暗くなる前に街に帰れた。





 翌日以降も僕は採取依頼のついでに彼女の元に行くのが日課になった。

 彼女は今まで1人だったのか人と接するのに餓えていたっぽい。

 魔眼の事もあるし今までは誰とも会わないようにしていたんだろう。

 だからなのか、心を許したらしい僕には、今までの寂しさをぶつける勢いで接してくる。

 喜怒哀楽の全てをストレートにぶつけてくるから、たまにドキリとする事もある。

 そんな彼女の元に通うようになって1週間が経ったころに事件が起こった。





 いつものように彼女の元に向かう途中で、雨が振ってきたから走ろうと思ったところで、不意に嫌な予感がして、僕は立ち止まり周囲を警戒した。

 そんな僕の行動に舌打ちをしながら幾人もの男たちが現れ、リーダーらしき男が、僕に話しかけてきた。



 「おいお前、この辺りに魔女が住んでいるらしいが、しらねぇか?」


 もちろんリンスレットの事だとすぐに分かったけど、あえてとぼけてみた。


 「僕は採取依頼の為に森に入っているだけなので、魔女の事は知らないどころか今初めて聞きましたが?」


 そう言うとリーダーらしき男は舌打ちして僕の胸ぐらを掴んできた。


 「ちぃっ!ふざけた事ぬかしてんじゃねぇよ! てめぇがこの森で誰かと会ってる事は知ってるんだよ! 『迷子』のてめぇが1週間前に森で誰かと話していたのを部下が見てるんだよ」


 初日のあれを見られていたのか…


 「それじゃあ、なんで彼女を捕まえなかったんです? それにあなた達は何者で、彼女をどうする気ですか?」


 僕にはこの状況を打破出来る力はないので時間稼ぎに徹する事にした。

 彼女が気付いてくれると信じて…。

 彼女はここ数日で、僕の来るのを楽しみにしているのか、少しでも遅いと、僕を迎えに森の中を捜索するようになっていた。

 それに彼女ならこいつらを問題なく倒せそうな気がする。


 そんな僕の思惑通りにリーダーらしき男は話し始めた。


 「その場でどうこうしなかったのは魔女が強いって事もあるが、あれが本当に魔女なのか裏を取っていたんだよ。てめぇが誰と会っていたのか調べるのにはそれほど、時間はかからなかったぜ、町中に知り合いはいないようだったからな魔女で間違いないだろうと踏んだんだよ。それに毎日森に採取だけしに行くってのもおかしな話だ。誰かに会いに行くならまだしもな。一番時間を喰ったのは、なぜか森の中で見失っていたからなんだがな」


 魔物に襲われないからって油断したなぁ…まさかずっと監視されていたなんて…


 「ちなみに俺たちは盗賊だ。だがこんなところで終わるつもりはねぇ。そこで魔女が必要なんだよ。魔女の力は強いだけじゃなく、他人の心が読めるそうじゃねぇか。その力を使って貴族たちを脅してやったりすれば、それだけで俺たちは金には困らなくなる。こんな危険な仕事しなくてもよくなるんだ。それに魔女がいい女なら俺たちが調教してやるのもいいだろう。壊れない程度に調教して俺たちの穴奴隷兼成り上がり道具にしてやるよ」





 その言葉を聞いた瞬間僕は静かにキレた。

 人数でもそうだけど、個人の技量でも、絶対に敵わないのは分かっていても、それでも彼女をただの道具としか見ていないこいつらを絶対に許してはいけないと僕は思い、死ぬと分かっていても、一矢報いてやると決意した。



 「手を離せよ、この屑野郎!」


 そう言って僕は腰にかけていた剣を握り抜刀する動作で相手の手に剣の柄頭をぶつけた。

 特に警戒していなかったリーダーは掴んでいた手を離してしまった。

 僕はその隙に距離を取って剣を構えた。

 しかし、その刹那、リーダーは僕に攻撃できるぐらいに接近していた。



 いつの間に? 僕はパニックになりながらも剣を振り上げリーダーに向かって振り下ろしたが…


 「てめぇ、戦闘を舐めてるのか?」


 リーダーは振り下ろされた剣を振り上げた自身の剣で弾くと、そのまま僕を袈裟斬りにした。

 僕は何をされたか理解が追いつかなかったが、斬られた衝撃でそのまま仰向けに倒れ、痛みが頭の中を支配されて、ようやく斬られた事と、そして一矢報いる事も出来ないまま敗北したのだと理解した。



 「てめぇみたいな素人に負けるぐらい弱くて生きていけるほど、盗賊は甘くねぇんだよ。ったくまだ死ぬんじゃねぇぞ。これから魔女の所に行くから、てめぇは人質として役立ってもらうぜ」


 リーダーが僕を掴もうと手を伸ばした時、異変が起きた。

 周りの盗賊数人が叫びながらリーダーの下に逃げてきたのだ。

 その逃げてきた盗賊たちがいた方を見るとそこに彼女がいた。

 いつもの喜怒哀楽がハッキリと分かるはずの表情は完全に感情が抜け落ちていた。

 しかも彼女の手には『何か』が掴まれている…バスケットボールぐらいの大きさだ…


 「あ、あの女、急に俺たちを襲いやがったんです。それであいつを殺した上に素手で頭を引きちぎりやがったんですよ」



 手下の盗賊はパニックを起こしながらもリーダーに状況を説明していたが、僕は彼女がこんな事をする事に驚いていた。もちろん彼女の持っているのが人間の頭だった事にも驚いているが前者の方の驚きが勝っている。



 「おい、てめぇら。あれが噂の魔女で間違いないはずだ。この人数でかかれば負けはしねぇから、一斉にいきやがれ!間違っても殺すなよ」


 リーダーは数の優位性を疑っていないのか手下たちに命令を下す。

 その命令が惨劇の始まりとも知らないで…


 こうして彼女の虐殺劇は幕を開けたのだった。


次回はやっとプロローグより先に進みます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ