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南の森での攻防5

今年もあと少しです。

最近、急に寒くなりましたが、体調管理は大丈夫でしょうか?





 -伊藤と戦闘中の分裂体-


 「はぁ、はぁ…。佐伯のくせに手こずらせやがって…」


 伊藤は、先ほどの一撃で、僕を仕留めたと思っているらしく、すでに戦闘態勢を解いているみたいだ。煙が晴れていないので、こちらからは目視での確認はできないけど、声の感じと雰囲気からして、そうじゃないかと思う。

 だけど、僕はまだ死んじゃいない。先ほどの火魔法でかなりのダメージを受けたけど、それだけだ。僕の意識を奪うまでには至らなかった。

 まぁ、軽く手足は吹き飛んだり、かなりひどい火傷は負ったけど、そこは再生のスキルで回復中。

 ただ、傷は治っても失ったHPまでは戻らないから、残りHPはかなり少ない。一応、満足に動けるようにポーションを飲んでおこう。


 そして、伊藤の渾身の一撃から2~3分ほどが経ち、ようやく、ある程度、煙が晴れてきた。


 「ば、バカな!」


 煙が晴れたので、僕の死体を見ようとした伊藤が驚きの声をあげる。

 それもそのはず。仕留めたと思っていた相手が、座っているのだから。ちなみに、僕が座っているのは、足の再生がまだ終わっていないから。


 「な、何で生きているんだ!? お前は、さっきの俺の一撃で、死んだはずじゃ!?」


 「勝手に殺すなよ。確かに、危なかったけど、五体満足?で生きているよ」


 「う、嘘だ! あれを喰らって、無傷なはずあるか!」


 「確かに、無傷じゃ無かったよ。と、言っても、もう無傷の状態に戻るけど」


 そう言ってる間にも、再生が終わったので、立ち上がる。


 「ば、バケモノ!」


 立ち上がった僕を見た伊藤が、怯えた目でそう叫ぶ。

 どうやら、伊藤の中で僕はヒトではなくなったようだ。まぁ、種族的にも、とっくにヒトではないんだけどね。


 「それにしても、こんな森の中で火の範囲魔法を使うな。使うならもう少し後先考えて使えよな。後先考えなかったせいで、見ろよ。周囲が火の海だ。」


 僕は、怯える伊藤に、この火の海をどうにかしろと、目で訴える。


 「そ、そんなの知ったこっちゃねぇよ。どうせ、この森に住むエルフは、全員奴隷になるんだ。森が無くなって困る奴なんかいねぇよ!」


 「相変わらず、何も考えていないんだな。よく考えろ。このままだと、この森全体が火の海になる」


 「それがどうした!」


 本当に何も考えていないなこいつは…。


 僕はため息を一つついて、この先にある結果(一つの未来)を伊藤へ伝える。


 「どうしたじゃないだろ? このまま森が火に包まれれば、エルフたちもお前も焼け死ぬんだぞ?」


 「そうなる前にエルフを全員奴隷にして、森を出るから問題ねぇよ! ってか、お前は自分の心配をした方がいいんじゃねぇか?」


 「……?」


 伊藤がいきなり、話の矛先を僕に向けてきた。僕は何を心配すればいいか分からず、首をかしげる。伊藤は、その瞳から怯えを消し去り、殺意の籠った瞳で僕を睨んでくる。


 「お前の方こそ何も考えてねぇじゃねぇか! そもそも、お前は俺に殺されるんだぞ? 仮に逃げ出そうとしても、既に周りは火に囲まれている。これじゃ、逃げる前に焼け死ぬだけだ! お前に森やエルフの心配なんかしている暇はねぇはずだ!」


 「はぁ…。2つか勘違いしているようだから訂正してやる。まず、1つ。何でお前に殺されないといけない?」


 「はぁ?」


 僕の言葉に、伊藤は理解出来なかったみたいで、マヌケ面のまま固まった。


 「2つ。…水よ。その流れによって、我に仇名すモノを洗い流したまえ! 『ウォールズレイン』!」


 水魔法LV4のウォールズレイン

 一定の範囲に滝のような雨を降らせる魔法だ。本来はその降り注ぐ水圧で相手を圧殺する魔法なんだけど、今回は威力を抑えて、代わりに効果範囲を広げている。目的は言わずもがな、消火活動の為だ。


 「よし。…で、あれぐらいの火の海なら、簡単に消せるから焼け死ぬ事もない」


 火が消えたのを熱源察知で確認した僕は、ウォールズレインで押し潰された伊藤に2つ目の訂正の続きを言う。


 「て、てめぇ~! ぶっ殺す!!」


 水を滴らせながら、起き上がった伊藤は、下級魔法を大量に放ってきた。どうやら、数で攻めて僕の隙を作る作戦のようだ。


 僕は、アイテムボックスから剣を取り出し、迫りくる魔法を全て斬り落とす。


 「なっ!?」


 魔法を斬られた事に驚愕する伊藤。


 この技は以前、リンと模擬試合した対戦相手のユティラの技だ。魔力を武器に纏わせるこの技は、スキルに載らないところからするに、未完成なのか、それとも練習さえすれば誰でも出来る事なのかのどちらかだと思う。

閑話休題


 



 「雷よ。迸りて敵を…」


 「ち、チクショーーーー!!」


 僕は、この戦闘を終わらせる為に詠唱を始める。伊藤は、僕が詠唱を開始したのが聞こえ、我に返り、魔法を手当たり次第撃ち始めた。






 「な、何だと?」


 が、それも、詠唱中の僕に届く事は無かった。何故なら…


 「何で、詠唱中に動けるんだよ!! お前は、並列思考を持ってねぇだろ!!」


 そう。伊藤が言うように詠唱中にも関わらず、僕が、先ほどのように斬ったからだ。それもこれも、全ては本体から並列思考を一つ回してもらったからだ。

 ちなみに、本来なら、詠唱中に出来る事は移動ぐらいが関の山だろう。だけど、並列思考があれば、攻撃をしながら、詠唱する事も可能だ。

 閑話休題



 「…貫け『サンダースピア』!」


 わめき散らす伊藤を無視して、詠唱を唱え魔法を放つ。


 「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」


 伊藤に向かって一直線に放たれた雷の槍は、回避行動をとらせる前に、伊藤に直撃した。


 雷魔法LV1サンダースピア

 手元から扇状に放出するサンダーショックとは違い、手元から貫通性をもった雷の槍を撃ち出す魔法だ。


 サンダースピアの直撃を喰らった伊藤は、口から煙を出しながら、倒れた。


 「…死んでないよな? この体のステータスとあいつのステータスの差なら全力でも大丈夫だとは思うんだけど?」


 確認の為に近づいてみると、息をしているのが分かった。とりあえず、糸でぐるぐる巻きにして、本体と合流するために、その場を後にする。

 ちなみに、移動しようとしたら、気を失って倒れていた奴隷商人を見つけたので、一緒に持っていくことにした。多分だけど、ウォールズレインが原因だと思う。







 -原と戦闘中の分裂体-


 腹部に走る激痛に耐えながら、背後にいる奴隷商人へ攻撃をする為に、持っていた剣を逆手に持ち直し、そのまま突き刺そうとする。しかし、奴隷商人はその前に離脱する。


 「がはっ!」


 奴隷商人の離脱と一緒に、腹部に刺さっていたダガーも引き抜かれたので、腹部に更なる激痛が走る。


 とりあえず、背後にいた奴隷商人が離れたので、原と奴隷商人を視界に収められるような立ち位置へと移動する。


 「そう、それだ! お前のそんな顔を見たかったんだ! 予想を裏切られた時の顔! …あぁ。やっぱり、いいものだな」


 突然乱入してきた奴隷商人の事で、混乱していた僕を見て、原は自分の傷を忘れたかのように、歓喜の声をあげていた。


 「こいつは、吉田たちが連れている奴隷商人とは違い、俺が育てた部下なんだ。用途は今みたいな不意打ちがメインだがな」


 原は、僕の混乱している顔を見れたのが、よほど嬉しかったのか、聞いてもいない事を勝手に話し始めた。まぁ、そんなのはどうでもいいから、奴隷商人のステータスを確認しておくか。



 【名 前】 ジニアス 

 【年 齢】 37歳

 【種 族】 ヒト

 【職 業】 奴隷商人

 【レベル】 31

 【H P】 1729/1729

 【M P】 872/872

 【筋 力】 747

 【防御力】 543

 【素早さ】 1034

 【命 中】 1183

 【賢 さ】 449

 【 運 】 27


 【スキル】

 短剣術LV4 罠設置LV2 忍び足LV3  気配遮断LV2 奴隷契約 夜目 交渉術



 う~ん…。これで、職業が非戦闘職なのは詐欺だと思うんだけど…。って、それよりも、この状況を何とかしないと。


 「…っと、そう言う訳で、こいつは、元冒険者なんだと。それを使えると思い、俺が育てる事にしたんだ」


 あっ。全然聞いてなかった。まぁ、どうでもいい話のはずだからどうでもいいか。兎に角、今は腹の傷を気づかれないように、再生で治すとしよう。


 「ノブオ様、そろそろ回復した方が、よろしいのではないのでしょうか?」


 「ん? あぁ、そうだった。あいつの顔を見て、痛みを忘れていた」


 奴隷商人が原に回復を奨める。原は、言われるままにアイテムボックスから、ポーションを取り出して、傷口にかける。

 って、痛みを忘れるほどって、どれだけアドレナリン出ているんだよ! あいつって相当危ない奴だったんだ…。とりあえず、原が危ないのは置いといて、今の内に仕込みをしますか。





 「さて、傷も癒えた。そろそろ、お前の心を絶望させるとしよう」


 おいおい、さっきのポーション1つで戦闘不能の傷を完治させるってどれだけ高級なポーションを使ったんだよ! くそっ! こっちの仕込みはもうちょっと時間がかかるっていうのに…。


 「僕を絶望させるって、一体どうやってやるんだよ? 自慢じゃないけど、そう簡単に絶望なんてしないぞ?」


 僕は、仕込みが終わるまでの時間稼ぎの為、原と会話をする事にした。


 「だろうな。だが、人は理不尽な死の寸前には、自身の運の無さを呪い、世界に絶望するものだ。だから、一思いに殺さずに、じわじわといたぶりながら殺してやる。そうすれば、流石のお前でも絶望してくれるだろう」


 どうやら、原はリンチをご希望のようだ。だけど、この体は本体から分裂したうちの1つだから、これが死んでも、僕の本体が死ね訳じゃないんだけどね。


 原と奴隷商人が、僕に歩み寄ってき始めた。しかも、一気に詰め寄ってくるんじゃなく、じりじりと、恐怖心を煽るような感じでだ。多分、僕が碌に動けないと考えての事だと思う。

 僕はそれに合わせてゆっくり後退していく。

 ふと、最初に盗賊と対峙したあの頃を思い出しながら。違うのはあの頃は、リンが来てくれる事を祈るしか出来ないほど弱かったけど、今は、自分で何とか出来る力を持った事か。


 そんな事を考えていたら、背中に樹がぶつかり、後退できなくなる。それを見て、原が凶悪な笑みを浮かべる。


 「さて、絶望する準備は出来たか?」


 そして、僕の側まで詰め寄ってきた原は、笑みを浮かべたまま、拳を僕の顔面に叩き込んできた。


 が、その拳は空を切る。


 僕は、原のパンチをしゃがんで避けると、そのまま来た道へと走り始める。傷の方は既に治し終えているから、もう動く事には支障はない。


 「ちっ! まだ、そんなに動けたのか!」


 原は、舌打ちをしながら追いかけてくる。しかし、僕が、たいして動けないと、高をくくっていたのもあって、僕たちは既に10mぐらい差がある。



 「よし、そろそろか」


 2~3分ほど走り、頃合いになったので、立ち止まり、振り返る。


 「もう観念したのか?」


 追いついた原は、僕が観念したものだと思って、またゆっくり近いてくる。


 原の油断を誘う為に、僕は片膝立ちになり、地面に手をあてて、詠唱を始める。


 「氷よ。その力により敵を捕らえよ『アイスロック』!」


 氷魔法LV1のアイスロックは、敵を凍らせて捕縛する魔法だ。今、この魔法が地面を凍らせながら原たちへと向かっていく。


 「こんな分かりやすい魔法が、命中すると思っているのか? 命中させるにしても、不意を衝かないと駄目だろ」


 呆れた顔で、迫りくるアイスロックを跳躍して躱す原と奴隷商人。


 しかし、僕はそれを望んでいた。




 地面を凍らせながら原たちに迫っていたアイスロックが、突然、空中にいる原たちへと進路を変える。


 「なんだとっ!?」


 これには原も驚いたようだ。僕は、アイスロックが原たちの足を捉え、全身を凍らせていくのを確認すると、次の魔法を詠唱し始める。


 「こんな氷なんか!」


 原は、力任せにアイスロックを壊そうとし始める。確かに、原ぐらいの力があれば、破壊も可能だ。だけど、数秒は稼げる。そして、その数秒で、僕は詠唱を終わらせる。


 「雷よ。駆け抜けろ『サンダーショック』!」


 「がっ!?」


 「ぎゃあああ!」


 サンダーショックをを喰らって、奴隷商人は気を失ったようだ。原はまだ意識があるようだ。


 「これぐらいで、勝ったと思ったか?」


 「まさか。だから、きっちり、追撃させてもらうよ」


 僕は、そう言うと、この体で出せる全力で、サンダースピアを原に喰らわせる。これには流石に耐えられなかったようで、気を失ったようだ。


 「ふぅ…。仕掛けがうまくいって良かった」


 実は、アイスロックには、追尾機能は付いていない。なら、どうやって、空中にいた原たちへと向かって行く事が出来たのか?

 実は、視認できないぐらい細い糸を、あいつらの体に付着させていたので、それをアイスロックで凍らせていったのだ。

 では、いつそんな事をしたのかと言うと、仕掛けを開始した時に僕の周囲に蜘蛛の巣の如く張り巡らせたのだ。ただし、糸はピンと張らずに、だらんと弛ませて。そうする事で、違和感なく付着させられた。

 もちろん、顔や肌に当たったらバレる可能性があるので、下半身に付着するように高さの調節もした。

 あとは、逃げながらも糸を付着させ続け、大丈夫だと判断したところで、作戦開始と言う訳だ。


 「さて…。おや? まさか、一番最後になっちゃったか。早く合流しないと」


 僕は、2人が凍傷になろうが知ったこっちゃないので、再びアイスロックを施す。そして、2人を引きずりながら、本体たちと合流する為に、別れ道の場所まで急ぐ。

 




ありがとうございます。


さて、多分ですが、今年の更新は最大であと一回だと思います。

今年も最後までよろしくお願いします。

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