南の森での攻防4
小説を書き始めて今日で1年です!
最初の頃に比べると、執筆速度がかなり遅くなりましたが、これからもよろしくお願いします。
-ノゾム(本体)-
危なかった!
まさか、吉田が村に到着しているとは思わなかった! 見たところ、吉田のやつ、かなり暴れたようだが、奴隷になってる人はいないみたいだ。
それにしても、フォーカスたちを先に行かせて正解だった。この光景を見ても正解だったと言えるかは微妙だけど、幸いにも、奴隷になった人がいないのだから、正解だったと思いたい。
「誰だてめぇ? いきなり現れて、なに人の手掴んでんだよ!」
おっと! 手首を掴まれたままの吉田が喚き始めたので、フォーカスと吉田の間に体を割り込ませてから、吉田の手首を放す。
解放された吉田は、2mほど、距離を取り、僕の顔を凝視してきた。
「てめぇ、もしかして、佐伯か?」
「そうだけど?」
どうやら、僕だと判ったようだ。そうなると、伊藤はどれだけ、僕に関心が無かったんだろう。
「おいおい、お前みたいなザコがまだ生きてたのかよ! すでに死んだもんだと、思ってたのによぉ!」
「そりゃ、ご期待に添えなくて悪かったな。それよりも、お前何してんだよ?」
僕は少し皮肉を言ってから、状況を理解していない風を装って、吉田に現状を問いただしてみた。
「何って見て分かんねぇのかよ? 勇者としてのお仕事だよ!」
そう答える吉田の表情は満面の笑みだった。まるで、今の状況を楽しんでるみたいに。
「ふざけるな! これのどこが、勇者の仕事なんだよ! 一方的に、村の人たちに危害を加えている、お前のどこが勇者だよ!」
僕は、自分の行いを『勇者だから』で、済まそうとしている吉田に反論する。
「あ゛ぁ!! てめぇ…。ザコのくせに、勇者のしている事に楯突こうってのか? 俺もだが、王国も黙ってねぇぞ!! そもそも、てめぇとここに何の関係があんだよ!」
吉田は僕の反論が気に入らなかったようで、満面の笑みから一転、怒りの形相で睨みつけてきた。
「…相変わらず、後ろ盾が無いと何も出来ないんだな」
「てめぇ! なんつった!!」
僕がポロリと口から出た一言が聞こえたようで、さっきよりも大きな声で怒鳴り散らしてきた。
吉田が、飛びかかって来そうだったから、威圧を発動させてみたら、踏みとどまった。
「…別に、何でもないよ。…それより、僕とここの関係だっけ? それなら、さっきお前から助けたエルフは僕の弟子なんだよ。あと、あそこで倒れている女性は僕の奴隷だ」
「はっ! お前みたいなザコがいったい何を教えるんだよ! それにあんな美人お前にはもったいねぇんだよ!」
吉田は、今でも僕がこの世界の一般人並のステータスだと思っているらしく、とことん僕を貶してくる。
ちなみに、吉田は、威圧はかかったままなので、動けないようだけど、口だけは動くらしい。
「…はぁ。あんたってやっぱり、馬鹿だな。この1年で、僕が全く成長していないと思っているのか?」
「はっ! ザコがいっちょ前に強くなったつもりかよ! いくら成長しようが、元がザコなんだから、何も変わりやしねぇよ!」
まぁ、普通ならそう思うか。まさか、僕がヒトではないなんて思わないだろうしね。
けど、そう言うこいつはどれだけ成長したんだろう?
【名 前】 マサキ・ヨシダ
【年 齢】 18歳
【種 族】 ヒト
【職 業】 勇者
【レベル】 25
【H P】 16439/16439
【M P】 11743/12328
【筋 力】 10978
【防御力】 9748
【素早さ】 9328
【命 中】 10493
【賢 さ】 9543
【 運 】 40
【スキル】
異世界言語 剣術LV2 体術LV2 身体強化LV2 オートヒールLV1 火魔法LV2 風魔法LV1 光魔法LV3
【ユニークスキル】
武器生成
ステータスは軒並み上がっているけど、スキルはほとんど成長していないし…。こいつ、もしかして、ステータスが高いのをいい事にごり押しでどうにかしてきたな。
とりあえず、こいつは一度、痛い目を見させないとダメだな。
「フォーカス。危ないから少し離れてくれないか?」
僕は、後ろで倒れたままのフォーカスに、ポーションを使いながら話しかける。吉田には、まだ威圧はかけたままなので、後ろを向いても、襲ってはこない。
「師匠…」
「大丈夫だから。あと、他の人たちの事も頼む」
アイテムボックスから大量のポーションを出しフォーカスに渡す。
フォーカスはポーションを受け取ると、自身のアイテムボックスにしまい、この場を離れた。
「弟子の前でボコられたくないからって、あんな嘘つくとは、師匠は大変だなぁ、佐伯?」
吉田の方へ振り返ると、吉田はニヤニヤと笑いながら僕を挑発してきた。
動けない癖に、口だけはよく動くな。
そんな事を考えなから、僕は吉田に挑発し返す。
「そうでもないさ。相手がビビって動けない奴だから、ボコられる心配もない。だから回復役を頼んだだけさ」
「てめぇ! 誰が、ビビってるって!! 佐伯のくせに、あんまふさけた事ぬかすと、マジで殺すぞ!!」
「出来もしないことを口にするなよ。虚勢を張っているようにしかみえないぞ? ほら、威圧は解除してやる。これで動けるだろ?」
「佐伯ぃぃぃぃぃ!!」
僕の挑発にあっさりと引っかかる吉田。
言葉通りに威圧を解除すると、吼えながら持っていた剣で斬りかかってきた。
しかし、その攻撃はただ早いだけで、鋭さも威力も全くこもっていない、本当に振るっただけの攻撃だった。まぁ、ステータスのごり押しでここまで来たんだから、こんなもんなんだろうけど。
もちろん、そんな攻撃は当たってやる必要もないから、攻撃の軌道を完全に見切った上で、最小限の動きで回避する。その際、すれ違いざまに足を引っかけて転ばせる。
「吉田。なに勝手に転んでるんだ?」
「調子乗ってんじゃねぇぞ! 今のを、まぐれで避けれたからって、勝った気でいるんじゃねぇ!」
いや、そのセリフはやられキャラのセリフなんだけどなぁ…。
立ち上がりながらそんな三下のセリフを口にする吉田は、怒涛の攻撃を開始する。
僕はその攻撃を時には躱し、時には剣で受け流したり、たまに足を引っかけたりと、一つ一つ対処していった。
そんな事が簡単にできた理由は、ステータスの差が大きいのもあるけど、吉田の攻撃が、連続で行われているだけで、連続攻撃ではないのも原因の一つだったりする。
普通、攻撃を連続で繰り出す場合は、一つ一つの攻撃が全て次に繋げられるようにするものだ。しかし、吉田の攻撃は、一回毎に攻撃が止まってしまうのだ。
なんだか、素人に稽古つけてる気分になってきた…。指摘はしてやらないけどね!
そして、幾度目かの足かけで吉田を転ばせた僕は、だいぶうんざりしながら、吉田に話しかけた。
「そろそろ僕との実力差が分かったか? いい加減諦めて大人しくしろ。そうすれば殺しはしない」
これだけの実力差があるのに、さっさと終わらせないのには、理由がある。それは、実力差をしっかりと分からせて、絶望させたいからだ。
まぁ、戦い終わった後には、更に罰を与える予定だけど、命までは取るつもりはない。今までの行いを後悔させたいからね。
そうでもしないと、こいつはいつまでも弱い者いじめを辞めないと思うし。
「お、俺が、手も足も出ないだと? ふざけんな…。俺は勇者だぞ? 俺は常に選ばれた人間なんだ! それなのに、何で、佐伯みたいな価値のない奴に勝てない?」
「…お前は選ばれた人間なんかじゃないよ。ただ、他の人より少しだけ運が良かっただけだ。お前の力に、お前自身の手で手に入れた物なんて一つもない。そんな薄っぺらい力だけで、強くなったと思っているから、お前は弱いんだよ」
僕の言葉に吉田は地面に倒れたまま、拳を握りしめて悔しそうに震えている。
「ふ、ふ、ふざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「くっ!?」
悔しさから震えていたと思っていた吉田が、叫びながら立ち上がると、握っていた拳から砂を僕の顔に投げてきた。
僕はその砂を喰らってしまい、視界を奪われてしまった。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
目を潰された僕に、吉田は叫び声をあげながら、襲いかかってくる。
その攻撃を僕は熱源察知と直感のスキルを頼りに回避する。
「な、なにぃ!? ぐげっ!」
必殺の一撃になると思っていた吉田は、避けられた事に驚きの声をあげる。僕はそんな吉田の無防備な腹に回し蹴りを喰らわせる。回し蹴りを喰らった吉田は、持っていた剣を手放し、5~6mほど吹っ飛んでいった。
「ふぅ…。終わったか」
吹っ飛んでいった吉田が、動かないので、戦闘態勢を解き、捕まえる為に近づき、倒れた吉田を見下ろしたその時…
「死・ね!」
吉田のギョロリと目を見開き、何も持っていなかったはずの手から槍が出てきて、僕の心臓へと突きを仕掛けてきた。
「なっ!?」
が、そのだまし討ちも慌てることなく、僕はひらりと避ける。避けられた吉田は、声の感じからして、たぶん、さっきの砂かけの時以上に驚いた顔になったんだと思う。
僕が今の一撃を避けれたのは、吉田から魔力が練られている反応があったからだ。魔力察知さまさまだ。
「はい、無駄な抵抗お疲れさま」
これ以上、抵抗されても面倒臭いので、さっさと意識を奪ってしまう。そして、スキルで糸を創り、ぐるぐる巻きのミノムシ状態にする。
「師匠! 終わったんですね」
ぐるぐる巻きが終わったところで、フォーカスが声をかけてきた。
「終わったよ。そっちも大丈夫そうだね?」
「お陰様で村の人たちはだいたい大丈夫でした」
「だいたい?」
フォーカスの言い回しが気になり、聞き返してしまう。
「何名か行方不明がいまして…。ただ、村としては厄介者だった連中でして、捜索はしない方向になるかと…」
「そっか。そう言えば、イリスさんは?」
「イリスさんなら、まだ目覚めていないですよ?」
ん~。まだ起きないのか。じゃあ、しょうがないか…。
「それじゃあ、目が覚めたら、森の外まで来るように言っといて」
「…いいですけど、師匠は?」
「僕は、こいつと森の外で気を失っている兵士たちの処理をしてくる」
「分かりました。気を付けて」
フォーカスはあっさりと、送り出してくれた。ちょっと意外だ。
僕は、吉田を引きずりながら、森の外を目指し、歩き始める。
「さて、残り二か所もさっさと終わらせますかな?」
ありがとうございました。