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南の森での攻防3

お待たせしました!


あらすじ

奴隷商人に背後から刺された分裂体




 -フォーカス-


 僕は今、村長の家で、村長が来るのを待っている状態です。


 あいつらとはどうなったのかって?

 僕が無視する事をよしとはせず、追いかけてきたけど、走る僕に追いつけずに、引き離されたので、どうなったのか知りません。


 「フォーカス。もうそろそろ、お爺ちゃんが来るから、ちょっと待ってて」


 「アン、ありがとう。急に村長に取り次いでくれって、頼んだりして…」


 僕は、村長の孫でもあり、幼馴染でもあるアンにお礼を言う。


 「フォーカスがあれだけ、真剣な表情をしていたんだもの。きっと、それだけ大事なんでしょ?」


 僕が、あいつらを撒いて? 村長の家に飛び込んだ時、出迎えてくれたのは、アンだった。そして、村長に伝えたい事があるから、会わせてくれと頼んだところ、嫌な顔一つせず、取り次いでくれた。

 本人曰く、「フォーカスはいい加減な事で、村長(お爺ちゃん)に会わせろなんて絶対に言わないと知っている」だそうだ。ホント、僕には勿体ない幼馴染だとつくづく思う。


 そうして、幼馴染のありがたさを再認識していると、村長がやってきた。


 「待たせてしまったかのぉ、フォーカスよ」


 こちらから、押しかけてきたのに、それを咎めもしないこの人こそ、エルフ族をまとめる人で、アンの祖父でにある、メラルドさんだ。

 この人、見た目はヒト族で言うところの50歳くらいの渋めのおじさんに見えるのだが、実際は600年近く生きているらしい。もちろん、今生きている、エルフ族の中でも僕か知る限り、最年長のエルフだ。


 「して、どのような用件じゃ?」


 僕は、師匠について行った町のギルドで聞いたことを出来うる限り思いだしながら、村長に話した。




 「そうか…。勇者が召喚されたと、聞いておったから、来るとは思っとったが、思いの外、早かったのぉ…。では、今すぐに村の者たちに、防御を固めるように伝えねばな。アンよ。頼めるかな?」


 僕の話を聞き終えた村長は、大して驚きもしなかった。それどころか、アンにあれこれ指示を出し始めた。


 「あ、あの…。伝えた僕が言うのも何ですが、そんなに簡単に信じていいのですか?」


 村長があまりにも簡単に、僕の話を信じたので、ついそんな事を聞いてしまった。


 「…ふむ。確かに、普通に考えれば、そう思っても、仕方がないかのぉ。だが、過去にも同じ事があったとしたら、どうじゃ?」


 「えっ?」


 一瞬、何を言っているのか、理解できなかった。が、頭の中で今の言葉を何回か繰り返す事でようやく、理解した。つまり、過去にもヒト族が召喚した勇者がエルフの村に侵攻してきた事があるんだ、と。


 「まぁ、知らないのも無理はない。これは、儂が今のお主よりも若かった頃の出来事だからの」


 それって、500年以上前って事じゃないですか…

 村長に当時の話を詳しく聞きたいけど、今は時間がない。早く、王国の侵攻をどうにかしないと。


 「と、とりあえず、僕の話をすぐに信じた理由は分かりました。僕も防衛に参加する準備をしますので、失礼します」


 「ふむ。そう言えば、お主。村の外から来た者と、よく一緒におったが、そやつらはどうしたのじゃ?」


 僕が、出て行こうとしたら、村長から師匠の事を聞かれた。


 「え、えっと…。師匠でしたら、多分森の外に残ったので、そこにいた兵士たちと戦っているんじゃないかと? もう1人は村はずれにある広場の方にいるんじゃないかと思います」


 「そうか。その師匠とやらは手遅れであるが、広場にいる者には、手出し無用と伝えてもらえんか? 王国の狙いは儂らエルフのみ。そこに余計な手出しをして、王国から恨みを買う必要はあるまいよ」


 「…一応伝えておきます」


 「頼んだぞ」


 村長が余計な犠牲を減らしたいらしいので、僕は、イリスさんに今の言葉を伝える事にうなずき、部屋をあとにする。





 僕が、村長の家から出ると、村の人々は、慌ただしく防衛の準備をしていました。

 イリスさんがいるであろう広場は、村の入り口とは反対の方向にあるので、僕は人の流れに逆らいながら、広場へと足を進めていく。


 広場に到着し、辺りを見渡すと、イリスさんをすぐ見つける事が出来た。


 「イリスさん。村長と話してきました」


 「それで? 馬鹿にでもされたの?」


 「いえ、それが…」


 僕は、村長とのやり取りをイリスさんに伝える。もちろん、手を出さないでほしいってことも伝えるのも忘れずに。

 それを聞いたイリスさんは困った顔で僕に問いかけてきた。


 「そう言われても…。それに、あなたは行くのでしょ?」


 「もちろん行きます! この村で、いい思い出なんて、ほとんどないですけど、それでも、守りたい者はいるんで」


 僕はきっぱりと言いきる。

 そして、僕の言葉を聞いても、イリスさんはやっぱり困った顔のままだった。


 「そしたら、私も行かないわけにはいかないわ。彼から、あなたを手助けするように言われているから」


 そう言えば、師匠から、そんな事言われてましたね。村までの移動方法のせいで、すっかり忘れてましたよ。


 「なんかすいまs」


 ドーーン!!


 「「っ!!」」


 イリスさんに頭を下げようとしたところで、爆音が聞こえてきた。


 「今の音は?」


 「どう考えても、戦闘によるものですよね? 師匠の言っていた最悪の事態でしょうか?」


 「分からないわ。兎に角、音のした方に行ってみましょう」


 このタイミングでの戦闘音なんて、どう考えても、村に王国の兵士が到達した為だろう。イリスさんもそれが分かっているので、音のした、村の入り口の方へと走り始めた。






 「こ、これは…」


 「…全滅?」


 村の入り口に到着した僕たちが目にしたのは、1人の黒髪の青年とその後ろに商人らしき男と傷つき倒れた村の人々だった。

 彼ら以外に、立っている人がいないので、この光景を作ったのは、多分、黒髪の青年だと思う。だって、商人の方はでぶっとしていて、とてもじゃないけど、戦えるようには見えないから。


 「イリスさん。村の皆を回復してもらえませんか? 相手の目的はエルフの奴隷です。なので、殺されてはいないと思うので…」


 「別に構わないけど、あなたは?」


 「僕は、少しでも回復の時間を稼いでみるつもりです」


 「正気? 相手は1人でこの状況を作れる実力なのよ。あなたじゃ太刀打ちできないわ」


 イリスさんは、僕じゃ時間稼ぎにもならないから止めろと言っているけど、そうでもしないと、回復なんてしている余裕はないと思う。


 僕は恐怖で震える体を無理やり動かし、黒髪の青年の前へと歩いていく。


 「あ゛ぁ? 何だ。まだエルフがいたのかよ」


 近づいてくる僕に気が付いた黒髪の青年は、獲物を見るような目で僕のことを睨んできた。


 僕に、言葉を発する余裕など、一切ありはしなかったので、震える手で剣を抜き、どうにかこうにか構えるのがやっとだった。


 「へぇ…。丁度、物足りないと思ってたんだ。せいぜい楽しませてくれよ」


 黒髪の青年には、僕の恐怖心が分かったようだ。

 そのせいなのか、黒髪の青年は、玩具を見つけた子供みたいな笑みを浮かべながら、剣を抜いた。しかし、腕をだらんとさせて、構えようともしなかった。

 そんな隙だらけの状態でも、僕は仕掛ける事が出来なかった。僕の目的は時間稼ぎであって、黒髪の青年を倒す事ではない。なにより、仕掛けたところで、返り討ちにあうイメージしか出来なかった。




 「…っち! 来ないなら、こっちから行くぞ? 頼むから、一撃でくたばってくれるなよ」


 僕からむかってくる気配がない事に、黒髪の青年は舌打ちをし、ゆっくりと歩き出したように見えた。


 「っ!!」


 直後、全身を今まで感じた事のない悪寒に襲われた。

 僕は、とっさに横っ飛びする事で、その悪寒から逃げる事に成功した。

 僕が、飛び退いた瞬間、黒髪の青年は僕がそれまでいた場所で縦一閃に剣を振るっていた。


 「震えている割には、しっかり体が動くじゃねえか! その調子で俺を楽しませてくれよ! なぁ?」


 黒髪の青年は、僕に攻撃を回避された事など、一切、気にしておらず、むしろ、玩具がまだ壊れていない事に喜んでいるように思えた。

 しかし、僕には、それどころではなかった。さっきの一撃を回避できたのは、スキルのおかげと、相手の攻撃が、振り下ろしだったおかげで避けられただけだ。相手の攻撃動作が見えたわけでもないので、そう何度も避けれるはずもない。


 黒髪の青年は、そんな僕に対して、ギリギリ避けれるように攻撃を繰り出してくる。まるで、こちらの体力が切れるまで、ゆっくりと僕の精神をいたぶるように。

 しかし、それは確実に効果があった。

 一瞬でも気を抜けば、あっという間に斬り捨てられてしまう、と言う恐怖が、心を追い詰め、それが体力を普段以上に消費させる。

 僕はほんの数回の攻撃を避けるだけなのに、すでに、肩で息をしていた。


 「…つまんねぇ。お前、もういいや」


 「はぁ…はぁ…。…え?」


 黒髪の青年がぼそりと呟いた次の瞬間、僕は、間の抜けた声と同時に崩れ落ちた。

 崩れ落ちてから斬られたのだと、気が付く。

 左肩から右腹部まで、バッサリと斬られたみたいで、起き上がれそうにない。


 「癒したまえ! 『ヒーリング』」


 「あ゛ぁ?」


 唐突に聞こえてきたイリスさんの声が、回復魔法だと理解できたのは、斬られた痛みが無くなってからだった。


 黒髪の青年は、辺りを見回し、イリスさんを見つけると、先ほどまでとは違う、下心丸出しの卑しい笑みを浮かべた。


 「おいおい! エルフ以外にも上玉がいるのかよ!」


 「くっ! 火よ! 『ファイアボール』」


 イリスさんの姿を確認すると、そのままイリスさんに向かって駆け出す黒髪の青年。

 それを見て、イリスさんは、僕への回復を中断し、迎え撃つ為に魔法を放つ。が、黒髪の青年は簡単に避けてしまう。

 周囲に村の人たちが倒れているので、イリスさんは、周囲に影響の出るような高位魔法を使えず、被害の出にくい初級魔法しか使えない。そのせいなのか、黒髪の青年に攻撃が当たることなく接近を許してしまう。


 「つ~かまえた!」


 「は、放しなさい!」


 黒髪の青年は、イリスさんの右手首を掴み、手の甲を見て舌打ちをする。


 「んだよ! お前、奴隷なのかよ。まぁ、飼い主を殺せば問題ないか…。で? お前の飼い主はどいつだ? さっきまで俺が遊んでたエルフか?」


 「誰があんたみたいなガキに、教えないといけないのよ!」


 イリスさんはそう言うと、左手で黒髪の青年の右頬を叩きました。…いや、叩いたんじゃなく引っ掻いた。その証拠に、黒髪の青年の頬に3本の傷がついている。


 「て、てめぇ!」


 「あぐっ!」


 反抗されたのが、頭にきたのか、黒髪の青年はイリスさんの腹部を殴り、イリスさんの意識を刈り取ってしまった。


 「ったく。まぁ、起きた時に飼い主の死体があっても、あんな態度とれるか楽しみだな」


 黒髪の青年は、イリスさんを投げ捨てると、僕の方へと近づいてくる。


 「てめぇのようなザコが、ずいぶん上玉の奴隷を飼ってるんだな。それに、かなり大切に扱ってるみたいだな。今まで見てきた奴隷で、あそこまで、生きた目をした奴隷なんて見た事なかったぜ。」


 それもそうだろ。師匠は、奴隷を奴隷として扱うことを嫌っていたからね。奴隷でも1人の人として接していたし。


 「まぁ、てめぇが死んだ後は、代わりにたっぷり可愛がってやるから、安心して死んでくれや」


 そう言って、黒髪の青年は剣を上段に構える。

 僕は、イリスさんの回復魔法で、出血がなんとか止まっているぐらいまでは回復しているけど、動く事は出来ない。


 「じゃ~っな! っと」


 振り下ろさせる剣に僕は思わず目を閉じてします。





 いつまで、経っても斬られた痛みが襲ってこない。僕は恐る恐る目を開けてみると、そこにいたのは、剣を振り下ろそうとしている黒髪の青年と、その手首を掴んでいるもう1人の黒髪の青年がいた。







 「し、師匠!」


 後から現れた黒髪の青年は、僕のよく知っている人だった。





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