南の森での攻防2
お待たせしました!
前回のあらすじ
伊藤との戦闘開始
-別れ道を左に進んだノゾム(分裂体)-
「あっちの僕の相手は伊藤か…」
こっちの僕とは別の分裂体が伊藤と接触した頃、僕はまだ、相手を見つられないでいた。
まぁ、本体の方もまだ見つけれていないようだし、伊藤が例外なのだろう。
「…3馬鹿はそれぞれ、奴隷商人との二人一組で行動しているのか」
あっちから入る情報を、整理しながらも、周囲に気を配るも、こっちに進んだはずの相手が、なかなか見つからない。
そして、索敵系スキルに反応が無い事で、相手がいないものだと、決めつけてしまい…
「なっ!?」
進行方向の地面から、僕に向かって飛び出してきた一本の槍に驚いてしまった。
とっさの事に、体が瞬時には反応しなかったが、ギリギリ横に跳ぶことには間に合い、回避には成功した。
「…これは、面倒な事になった…」
周囲に人の反応は無いため、今のは、トラップだと思う。しかし、何で、こんな所にトラップが仕掛けられているのか? それに、先に通ったであろう、吉田か原がトラップに、引っかかった様子はない。つまり、このトラップは先に通ったあいつらが仕掛けたことになる。それは、ここを通ったどちらかは、追手の可能性を考えている事になる。
ドーーーン!
トラップについて考えていると、遠くから、爆発音が聞こえてきた。
そして、流れてくる情報。発生源は、もう一つの分裂体が戦っている伊藤から、らしい。入ってくる情報からは、やられた訳じゃないようなので、一安心。
とりあえず、トラップをどうにかしている時間は、あまりなさそうなので、引っかかる前提で進むしかないようだ。
そうして走ること5分、漸く、索敵に反応が出た。ちなみに、トラップはあれだけだったのか、ここまで、トラップに引っかかることなく、すんなりこれた。
相手に気付かれないように、近づいていると、動いていた反応が、急に動かなくなった。不思議に思いつつも、草木に身を隠しながら。さらに接近してみる。
漸く、目視出来る距離まで、近づけたけど、驚くことに、向こうは、僕の隠れている場所に、しっかりと目線を向けていた。
「そこにいるのは、分かっている。時間の無駄だ。さっさと出てこい」
原はそう言って、僕に姿を出すように奨めてきた。
はったりかも、と言う淡い期待を抱きながらも、原に観察を使ってみた。
【名 前】 ノブオ・ハラ
【年 齢】 18歳
【種 族】 ヒト
【職 業】 槍士
【レベル】 25
【H P】 7392/7392
【M P】 4302/4302
【筋 力】 6554
【防御力】 5439
【素早さ】 7393
【命 中】 6043
【賢 さ】 4932
【 運 】 30
【スキル】
異世界言語 槍術LV6 筋力強化LV4 気配察知LV6 攻撃範囲強化LV5 身体硬化LV3 空歩LV1 風魔法LV3 無魔法LV4
これは無理だね。僕より気配察知のスキルが高いのにはったりのはずがない。
僕は諦めて、姿を現すことにした。
「まさかこんな所で、お前に遭うとは思わなかったな。佐伯?」
姿を見せた僕を見て、原はそんな事を口にした。
「僕は、お前が僕のことを憶えているとは思わなかったよ」
「忘れるか。お前は、あいつに屈服しなかった奴だからな」
原は、僕のことを憶えていたようだ。それが僕にはちょっと、意外だった。
伊藤が僕のことを忘れていたのだから、吉田と原も忘れているものだと決めつけていた。なので、皮肉のつもりで言ったのに、原から返ってきた言葉に、僕は首をかしげた。
「その顔は分かってないな」
「そりゃそうだ。あいつって、吉田の事だろ? 僕はあいつに虐められても抵抗しなかったんだぞ? それなのに屈服しなかったってなんだよ」
「いや。お前はあいつの行為に、従っていただけで、心までは折れていなかった。俺は目を見れば判る。今までの奴らは、大抵、あいつの持つ力に抗うのを諦め、心が折れる」
目を見れば判るって…
「それにしても、運がいい。お陰で、向こうでの心残りを片付けられる」
「向こうでの心残りって何だよ? どうせろくな事じゃないだろ?」
原が言う心残りが気になり、つい、聞き返してしまった。案の定、返ってきた答えはろくなものじゃなかった。
「そんな事はない。俺にとっては、極めて重要な事だ。向こうでは折ることの出来なかったお前の心をへし折ると言う、な。」
「…何で、そこまで、心を折ることに、執着するんだよ?」
「それが、俺の趣味だからだ。俺は、人の心が折れる瞬間の、あの絶望しきった表情が何よりも好きなんだよ」
「…じゃあ、お前が吉田と一緒にいるのは…」
「そう。あいつの近くにいれば、それだけ多くの、心が折れる瞬間に立ち会える。俺にとっては、最高な環境だよ」
原のやつ、かなりいい趣味をもってたんだな。吐き気がするけどね!
「さて、そろそろ、こっちの質問に答えてもらおうか」
「質問?」
さっきまでは、僕ばかりが質問していたのに対して、今度は原から質問しようとしてきた。
「簡単な事だ。お前は、どうやってここまで来た? この森の外には王国の兵士たちがいたはずだが?」
「………」
素直に倒してきたと言っても、僕の初期ステータスを知る原は、信じないと思うから、無言を貫くことにした。
「だんまりか。じゃあ、次の質問だ。お前は何が目的でここにいる?」
「………」
これは答える義理もないので、先ほどに続き、無言で通す。仮に言ったら、ギルドと言うより、自由都市が関わっているのが知れるので、それは不味い。だから、正確には、答える義理がないじゃなく、言えないが正しいか。
「これもだんまりか。じゃあ、最後の質問だ。お前は今、どこの派閥に所属している?」
「………」
「全部だんまりか…。まぁいい。さっきの爆発音は、伊藤のバーンストライクだろう。なら、そこで戦っている奴に聞けばいいだけだ。もしくは、森の外で戦っている連中でもいいか。どうせ、全てお前の仲間なんだろう?」
原の質問の意味が分からず、なんて答えようか考えていたら、原は勝手に誤解して、さらには、僕に大勢の仲間がいるもんだと決めつけたようだ。僕、本来の仲間はここにはいないし、今の同行者たちは、村に着いているはずだから、原の考えは全くの見当違いなんだよね。
原は、そばにいた奴隷商人に、視線を向けると、顎で離れるように合図した。どうやら、お話の時間は終わりのようだ。その証拠に、奴隷商人はそれを見て近くの茂みに姿を隠した。
「さて。これ以上、お前に時間をかけると、俺の獲物が減ってしまう。だから、さっさとお前を殺して、次に行くとしよう」
そう言うと、原はアイテムボックスから、全長5mを超える長槍を取り出した。形状からしてパイクと言う槍だろう。見た感じからしてもかなりの重量があると思うのだけど、しっかりと扱えるのだろうか?
そんな僕の考えをあざ笑うように、原は片手で軽々と槍を僕に向けて構えてみせた。その穂先はしっかりと地面との水平を保ちながら、僕に向けられてる。
そう言えば、さっき視たステータスは今の僕に匹敵する数値だったのを思い出した。それと、同時に冷や汗が背中を伝うのが感じとれた。
原がそんな状態の僕へとった行動は、構えていた槍を片手のまま振りかぶり、ただただ、横薙ぎに振りぬいただけだった。僕と原の距離は7~8mは離れているのにも関わらずに、だ。普通に考えれば、届くはずない攻撃だった。
しかし、僕はその変哲もない横薙ぎに身の危険を感じ、飛び退くような勢いで、その場から離脱した。
僕が回避しながら、自分の立っていた周囲を見ると、槍が通り過ぎたのに、樹は抵抗を感じないぐらい簡単に樹がなぎ倒されるか、斬り倒されていったように見えた。
更には、槍に触れていない刃より遠くにある範囲の樹々が斬り倒されるのが目に入ってきた。そのせいで、今の一撃だけで、原の周囲、約10mは、僕たちより高い樹々は存在しなくなった。
「へぇ…」
必殺の一撃を避けられた原は、感心した声をあげる。
「まさか、今のを避けるとは思わなかったぞ。魔物でも、人でも大抵は、今ので終わるんだがな。」
「…そうかよ」
僕は原からの賞賛の言葉を半分聞き流しながら、アイテムボックスから自身の武器を取り出す。
それにしても、今の一撃はいったいどうすれば、ああなるのだろうか?
必死に考えを纏めようとしているのだけど、原は待ってくれない。片手で持っていた槍を両手持ちにし、僕との距離を詰めながら、連続突きを放ってきた。
直感に従いながら、原が放つ突きを捌いていく。回避したり、時には剣で槍をいなしたりして。剣でいなす時は、槍より先に見えない何かにぶつかる衝撃がくる。
そんな防戦の中で、ようやく、相手の攻撃の正体に気が付いた。たぶん、攻撃範囲強化のスキルがこの見えない攻撃の正体だ。
理由は見えない攻撃の全てが槍の軌道上にしかない事だ。最初は魔法かと思ったんだけど、それなら、槍の軌道とは別に仕掛けた方が確実に仕留められる。と言うより、それ以外に思い当たるスキルは無い。決して、今まで原のスキルを忘れていたわけじゃない…。
「それにしても、この世界は、本当に素晴らしいな」
「?」
攻撃の原理が分かっても、ステータスが拮抗している為に、防戦から抜け出せない僕に、原は唐突にそんな事を言ってきた。それに僕が首をかしげていると、原はさらに言葉を続けた。
「何故なら、命の価値が向こうに比べて、軽すぎる。死が常に隣に寄り添っている」
「それとこの世界が素晴らしいのに何の関係がある!」
原の訳わからない言葉に、つい、声を荒げてしまった。
「大いに関係ある。何故なら、人を殺してもどうともなる。つまり、俺にとっては、人の心が折れる瞬間を簡単に見る事が出来る。人は自分がどうしようもない力で蹂躙されると、簡単に折れてくれるからな。俺にはその力がある。向こうではただの学生でしかなかった俺に、だ」
「それはお前の後ろに王国がいるからだ! この世界でだって、人を殺せば、罪になる! それこそ、生死問わずでお尋ね者になるんだ! お前はそれを王国の力でもみ消しているに過ぎない!」
「俺はもみ消してもらわなくてもいいんだがな。そうすれば、ギルドからも強者が来てくれるのに、国王は、それをよしとしないんだ」
当たり前だろ! と、思ったけど、あえて口にはしなかった。しても、無駄だと思ったから。
「…そろそろ、死んでくれ」
僕が話し相手になってくれないと雰囲気で察したらしく、原は、槍を頭上に振り上げ、そのまま力の限りに振り下ろしてきた。僕はそれに好機を見出した。
振り下ろさせる槍が僕に到達する前に、かまいたちのスキルで、腕を斬り飛ばそうと、剣を振るう。
「っ!? っちぃ!」
かまいたちは、原の腕に命中したけど、切断までには至らなかった。たぶん、身体硬化のスキルのおかげだろう。
しかし、僕に向かって振り下ろされていた槍は、腕を攻撃された事により、軌道がずれた。僕はかまいたちを放った次の瞬間には前に出ていたので、槍が地面と激突した衝撃に巻き込まれる事はなかった。
そして、原の懐に入った僕は、奴にしゃべらす前に、袈裟斬りを放つ。
「ぐはっ!」
僕の一撃で、崩れ落ちる原。防具もつけていたけど、それも斬り裂いて原の体にまで届いたようだ。
身体硬化のおかげなのか、致命傷ではないようだけど、重症ではあるので、もう戦えないだろう。
「はっ、ははははは!」
「何が可笑しいんだ?」
急に笑い出した原に僕は眉を八の字にしてしまう。
その瞬間、腹部に激痛と衝撃が走る。
「かはっ!」
背後からの衝撃により、前によろけるも、倒れるのだけは堪える。
僕は、激痛の原因を知るために、その場所に目をやる。すると、自分のお腹から剣が生えていた。
どうやら、背後から刺されたようだ。
僕は持ってる剣を振りながら、自分の後ろを見ると…
そこにいたのは、戦闘開始前に避難したはずの奴隷商人がいた。
ありがとうございました。
気づけばいつの間にか50話超えてました。
なので、この章が終わったら、登場人物でもまとめてみようかと思ってます。