それぞれ
今回はノゾムじゃない視点でのお話です。
あらすじ
1000人の兵士を瞬殺
-フォーカス-
僕は現在、空を飛んでいます。
いきなり、そんな事言われても、何のことだか分からないですよね。
僕は、エルフの村に王国の兵士が侵攻してきた事を伝えるために、師匠の奴隷であるイリスさんと一緒に村へと向かっている最中です。…空を飛んで。
僕自身が飛んでいるのではなく、イリスさんに抱き抱えられているだけなんですけどね。
「師匠は大丈夫ですかね?」
「あいつが、あの程度の連中に負ける姿が、私には想像できないわ」
僕が師匠の身を案じているのに、イリスさんは全く心配する気配がない。
「けど、1000の兵士ですよ? 村の時とは数が違いすぎるんですよ? いくら師匠でも危険なんでは?」
「ありえないわね。と言うか、フォーカスは、あいつがどれほど強いか知っているの?」
「え?」
イリスさんの一言で、僕は師匠がどれほど強いのか知らない事に気づかされる。
師匠の強さについて知っていることなんて、僕を虐めていた奴らを瞬殺したのと、ハニービーの群れを聞いたことも、見たこともない魔法で倒した事。あとは、王都付近から南の森まで、徒歩なら約1週間、馬を使っても3日はかかるのを3時間ほどで走破出来るぐらい身体能力が高いぐらいかな?
うん、ちょっと大丈夫かもと思い始めました。
パーーン!!
師匠の心配をするのは無駄かな? っと、思った直後、後方から何かが破裂するような音が聞こえました。
「今のきっと、あいつよ。…また、私の知らない魔法」
音の原因が師匠だと言い切るイリスさん。僕も師匠だとは思いますけどね。
そのあと、同じ音は4発鳴ったので打ち止めとなり、たぶん師匠が1000人倒し終えたんだろうと結論付けました。
「どうやら、あっちは片づいたみたいね」
イリスさんも同じ事を思っていたみたい。
「そのようですね。あっ! この辺りで降ろして下さい」
「まだ、村には着いてないけど、いいの?」
「さすがに、この状態で村に直接降りたら、余計な混乱を生みますよ。だから、村の入り口からちょっと離れた、この場所がちょうどいいんですよ」
「そう…」
何故だろう? イリスさんが心なしか残念そうにしているような気がするんですが…
「ふぅ。…そう言えば、何で先ほどは残念そうにしていたんですか?」
空の移動を終え、地面に降りた僕は、イリスさんに先ほどの雰囲気について、質問してみた。
「……あなたが、村に直接、降りると言わなかったからよ」
えっ? 何を言ってるんですか。この人は…
「ちなみに、直接降りると言っていたら?」
「私の正体が、不特定多数に知られる訳にはいかないから、あなたを村の上空からそのまま落としたわ」
「え゛っ?」
「もちろん、ギリギリ動けるぐらいの高さから落とすように調整するつもりだったから、安心して」
この人はなんで、とてもいい笑顔で、こんな物騒な事を喜々として語っているのだろうか? …そう言えば、師匠にも似たようなところがあったなぁ…。とりあえず、数分前の自分の判断を褒めてあげたい。
「そ、そうですか…。それじゃあ、僕は村長の所へ行きますが、イリスさんはどうしますか?」
僕は、この危険な話題を終わらせたくて、さっさと、話題を変えた。
「私は行かないわ。他種族の私が村長に会えるとは思えないし、他種族がいる事で余計な疑いをかけられる可能性もあるしね。私は村の広場に行ってるわ」
そう言って、イリスさんは1人で村へ行ってしまった。残された僕は少し間を置いてから、村へ向かった。
「フォーカス! 久しぶりじゃねぇか? しばらく見ないから、てっきり、村を捨てたのかと思ってたんだがな?」
村長の所へ急いでいた僕を待っていたのは、僕を虐めていた奴等だった。
人が急いでいるのに、どうして、狙ったように邪魔してくるんだよ! って、今は僕が1人だからか。あいつら、僕が、師匠に師事するようになってから、虐めなくなったからな。どうも、師匠が恐いらしい。
兎に角、僕はあいつらを無視する事にし、村長の家へと向かう為に、駆け出した。が、当然あいつらはそんな事を許しはしなかった。
-カードス-
「それにしても、どこの誰が、エルフの村にあるギルドを撤退させたんだ?」
ノゾムが出発してからの俺は、今回の件の黒幕について、考えていた。
と言うのも、今回の件は王国だけが動いているとは考えにくい。ギルドの撤退がいい例だ。
それに、これは俺の勘だが、現在イーベルト王国の王都周辺で起きている、魔物の異常出現も無関係ではない気がする。
「しかし、現状で出来る事がほとんど無いのは、歯がゆいな…」
本部には、エルフの村のギルド撤退と王国の侵攻の件を伝える為に早馬を出したが、返事が返ってくるのは1か月はかかるだろう。なので、今はノゾムが出した要求に応えれる準備をしているぐらいしか出来る事がない。
そんな事を考えていたら、ミリムが部屋の扉を叩いて声をかけてきた。
「カードス様。突然なのですが、お客様をお通ししてもよろしいでしょうか?」
客? 今日は来訪者の予定なんかなかったはずだが…。
「…いいでしょう。通して下さい」
少し考えたが、とりあえず、その来訪者と会ってみる事にした。
「ここにノゾムはいる!?」
ミリムが案内して入ってきたのは、ノゾムと一緒にいた女だった。名前はリンスレットだったか。
「リンさん! いきなりそれは、失礼だよ?」
「…ノゾム様、い、ないです…ね」
「セシリアまで…」
他にも女が2人入ってきたが、1人は狐人で、もう1人は…って! 魔族だと!?
看破でステータスを視て驚いた。こんな所に魔族が現れたのだから。
「!! …あんた、サキはノゾムの奴隷よ? 害は無いから、その殺気はしまいなさいよ?」
俺が、魔族に向けて放った殺気に反応して、リンスレットが怒りをあらわにしながら、話しかけてくる。
「…わーったよ。ったく、これが、あいつの言っていた訳ありか」
リンスレットの殺気に負けて、俺は魔族に向けていた殺気を解除する。そして、ノゾムが出した条件の1つが、この魔族の為だと察した。
「それにしても、出合い頭に、看破を使うなんて、相変わらずのようね」
「それに関しては、変える気はねぇよ。情報収集を怠ると、自分の命が危なくなるからな。それで、何の用だ? ノゾムならこの町にはいないが?」
リンスレットの嫌味を聞き流し、用件を聞く。まぁ、察しはつくので、ノゾムはいないと先に言っておくが。
「どこに行ったの! 教えなさい!」
「ちょっとした、依頼で町を出ているだけだ。1週間もすれば帰ってくるだろう」
案の定の用件だったので、帰還の予定日を教えたが、リンスレットはそれで納得しなかった。
「1週間も待てるわけないでしょ! いいから、ノゾムの居場所を教えなさい」
「…ここから南に行くとある、エルフの住む森、南の森に行った」
先ほどの、魔族に向けて放った殺気に対する殺気以上の殺気をあてられ、俺はノゾムの向かった場所を教えた。
「南の森ね! サキ、セシリア。行くわよ!」
「失礼しました」
「………」
ノゾムの居場所を聞いたリンスレットは用は済んだと言わんばかりに、さっさと出て行った。魔族と狐人は一礼してから、リンスレットのあとを追った。
「カードス様。お茶をお持ちしましたが…」
ミリムが茶を持って来たが、もてなすべき客はたった今帰っちまった。
「…もう、必要なくなった。が、その辺に置いてくれ」
今から行っても間に合うとは思わないが、保険にはなるだろう。
そう思いながら、ミリムが淹れたお茶の飲んで、頭を切り替える事にした。
-???-
「そろそろ…ですかね?」
ここまで来るのにかなりかかりましたね。まぁ、この子のおかげで、魔物どもはどこかに逃げたので、比較的安全な旅ではあったんですがね。
「GURURURURURU……」
「おや? おなかでも空きましたか?」
私が乗っている子が肯定の意思を示します。
「困りましたねぇ…。あなたのおかげでこの辺りは食料になる魔物がいないんですよね」
餌を求めて、寄り道されるのも困るんですが…。と、周囲を見渡していたら、丁度良いところに馬車を一台見つけました。この子も見つけたようで、私に食事の許可を求めてきます。
「…あれで、足りるか分かりませんが、無いよりかはマシでしょね」
私は地面に降りてから、許可を出すと、あの子は、わき目もふらずに馬車に向かって駆け出しました。
そして、周囲に響く悲鳴と断末魔を聞きながら、私は、こんな任務をしなければならなくなった原因に思いをはせていた。
「あの忌み子のせいで…。まぁ、それもあと少しで終わり。あの子を目的地に連れていけば…」
周囲に響いていた声が聞こえなくなり、そして、食事を終えて戻ってきたそいつに私は、再びまたがり、目的地へと出発しました。
ありがとうございました。
フォーカス視点の続きはまた後程となります。