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急行

間に合った!


一文変更しました。


2人の手を握ると

2人を抱きかかえ




 「王国の兵士1000人がエルフの村に侵攻を開始した。しかも、その軍を率いているのは、勇者だ」


 いきなりカードスが言った言葉に、僕らは頭の中がが真っ白になった。








 「そろそろ話を進めたいんだが、いつまでマヌケ面で固まっているつもりだ?」


 「えっ? あっ、はい。お願いします」


 僕はカードスに声を掛けられて、我に返る。フォーカスはいまだに固まっているけど。

 カードスはフォーカスの復帰を待たずに話を進め始めた。


 「3日前に俺が、王都に行ったのは知っているよな?」


 「えぇ、勇者の御披露目式と会食でしたよね?」


 流石に、3日前の事は覚えているので、即答した。


 「そうだ。だが、そいつが罠だった」


 「罠? ですか?」


 「あぁ。本当の目的は、勇者率いる軍の出立と王都周辺にいるギルド幹部達を王都に縛る事だったんだよ」


 「…いったい、何のために?」


 僕はある程度、予想が出来ていたけど、確認のためにあえて質問してみた。

 すると、カードスは深い深い溜め息をついてから、答えを口にした。





 「………帝国との戦争の準備だ。これは、城内で情報収集して掴んだものだから、まず間違いないだろう」


 …やっぱり、戦争の為か。

 この世界に召喚された時に、説明された神のお告げからして、あの王は仕掛けると思っていたけど、ついに行動に移したか。


 「準備って言うことは、もしかして、エルフを戦力としてあてにするつもりなんですか? エルフが協力するとは、考えられないのですが…」


 僕の質問に、カードスは苦虫を噛みしめたような表情になり、吐き捨てるように答えた。


 「……軍の中に奴隷商人が何人か混ざっているらしい」


 「それって、無理矢理奴隷にして、戦わせるって事ですか!?」


 「そのための兵士1000人と勇者なんだよ」


 つまり、はなから戦闘による制圧が目的じゃないか!


 「勇者関連は分かりましたが、何故、ギルド幹部を王都に引き止めたのですか? 罠と言ったからにはそれなりの理由があると思うのですが…」


 「そいつは、ギルドと言うよりは、自由都市の横やりが入らないようにする為だ。

 そもそも、ギルドが作った自由都市は、王国と帝国に属さない、第三の勢力なのは知っているよな?」


 「統治しているのは知ってますが…」


 「自由都市の始まりは、王国と帝国に冒険者を戦力として利用されない為の処置からだと言われている」


 なるほど。自由都市と言う、第三勢力が出来る前までは、有力な冒険者を多く抱える方の国が戦争で有利だったのか。

 まぁ、冒険者を戦争に利用してばかりだと、魔物への対応が出来ないなど、一般市民には迷惑でしかないからな。冒険者の独立を言い出した人は市民の事を第一に考えられる人だったんだろう。


 「以降、ギルド支部がある町や村に攻めるのは自由都市にケンカを売る行為と同義になった。おかげで、王国と帝国は戦争して互いを支配したいが、自由都市が邪魔で、仕掛けられないと言う、今の状況に落ち着いた訳だ」


 「…それが、いったい?」


 「わからねぇか? 王国の連中は、そこから出る救援に対応出来ないように、俺たちを引き止めていたんだよ」


 「けど、救援なら、ギルドの支部長じゃなくても、対処できるんでは?」


 「魔物関連ならな。だが、外交問題にまでに、発展しそうなやつは、支部のトップが許可しないと行動に移せねぇんだよ」


 「だから、迅速な対応をさせない為に、勇者のお披露目と会食と偽り、王都周辺のギルド幹部を集めた、と」


 「そうだ。……それにしても、勇者を召喚したからって、戦争するか? しかも自国内とは言え、ギルドのある村を侵攻するか?」


 ん? 今、カードスの独り言で、何か引っかかる言葉があったような…


 「って! 今、何て言いました? ギルドのある村って言いませんでした!?」


 引っかかった事を思い出そうとして、記憶を掘り返していたら、思い出したので、カードスに襲い掛かるような勢いで質問する。


 「い、いきなりなんだよ! ギルドのある町って言ったかだって? そう言ったがどうした? 種族が違うが、交流があるからな。だから、ギルドももちろんあるぞ」


 「ちょ、ちょっと待って下さい! 僕たちの村にギルドはもうないですよ!? 」


 ようやく、真っ白な状態から復活したフォーカスが、会話に割り込んでエルフの村の状況を説明する。


 「おいおい、何でギルドが、勝手に退去していやがんだよ! ギルドの退去を指示できるのは、本部にいる幹部たちぐらいだぞ? しかも、退去したなら、その連絡が全ギルドに通達させるんだ! その連絡すらないってどう言う事なんだ!!」


 フォーカスの説明を聞いたカードスは、怒鳴り散らし始めた。しかし、僕たちはそれに対する答えを持っていないので、カードスが落ち着くまで、静かに待った。


 「はぁはぁ…」


 「落ち着きましたか?」


 「あ、あぁ。それで、そこのエルフの話は本当なのか?」


 「彼は、フォーカスって言うんです。一応、僕の弟子なんで、覚えておいて下さい。それと、今の話は本当ですよ。僕も最初は、エルフの村で、生存を知らせようしたんですが、すでに退去済みでしたよ」


 カードスの質問に答える前に、フォーカスを紹介しておく。本人は、怒鳴り散らしていたカードスを見て、すっかり萎縮しちゃって、まともに話せる状態ではなくなってしまったからね。

 

 「その話が、本当ならかなり面倒な事になった」


 「どうしてです?」


 「王国軍の侵攻先に、ギルド支部がないってなると、いくら救援要請が届いても、こちらは応える事が出来ない」


 「何故っ!?」


 予想外の答えに僕は声を荒げてしまった。


 「こちらが、ギルドのない村を勝手に救援してしまえば、それが戦争の引き金になりかねない。他所の人間が、うちの問題に首を突っ込んだとか、言われて…な。

 仮に、ギルドがそこにあれば、自由都市の人間を助けると言う、言い訳もできるんだがな…。

 それにしても、あいつら、この事を知ってやがったな! だから、城で情報が簡単に手に入ったのか! あいつら、自由都市をハメるつもりだったんだな!」


 カードスの言葉の後半は独り言らしく、僕たちを見ていない。


 「それで結局、僕たちはなんで、ここに呼ばれたんです?」


 僕は最初に質問するべき事を、していないのを思い出た。


 「あ? っと、悪いな。想定していた事態と違いすぎて、何も出来る事がなくなっちまった。本来は、軍を止める為の先発部隊として先行してもらい、本隊が着くまでの足止めをしてもらうつもりだったんだ」


 だけど、僕たちがもたらした情報により、それが出来なくなったっと。

 さて、どうしようか…。普通なら、このまま帰るんだけど、侵攻先がフォーカスの故郷だし、何よりも、あのバカどもが関わっているのがなぁ。同郷の人間としては、この世界の人たちにまで迷惑掛けるなって思うんだけど、あいつらには無理な話か。


 「……幾つか、保障してくれるのであれば、僕が出来る限りで何とかしますよ」


 僕がそう言うと、カードスだけではなく、フォーカスも驚いた顔でこっちを見た。だけど、僕はそれを無視して、話を進める。


 「まず、今回の件で、僕は王国から追われると思うので、ギルドとしてではなく、自由都市が僕の身の保障をして欲しい事。ぶっちゃければ、王国から匿って下さい。次に、うちの仲間の冒険者登録。それと、指名依頼のキャンセル。最後にこの件で、以前の借りを帳消しにして下さい」


 「そこまで、条件を出すからには、どうにかできる算段があるのか? 現地にいる冒険者はともかく、ギルドからは1人も冒険者を出せないんだぞ?」


 「あくまで、出来る限りですよ。被害ゼロは無理だと思いますしね」


 「…条件なんだが、冒険者登録ってのはもしかして、訳ありか?」


 「そう思っていただいて、結構です」


 僕が答えをぼかしながら答えるとカードスは暫く黙ってしまった。


 「……分かった。その条件を飲もう。今は王国のエルフ奴隷計画を阻止して、戦争開始までの時間を少しでも多く稼ぐ方が先決だ」


 「それじゃあ、僕は早速、行動開始しますね」


 「まだ、支部の退却やら色々問題は残っているが、頼んだ」

 

 カードスの言葉を聞いて、僕たちは部屋をあとにした。








 ギルドをあとにした僕たちは、イリスさんと合流する為に、急いで町の入り口まで移動する。その間、フォーカスは心、此処にあらずの状態だった。村が心配で仕方がないんだろう。


 「イリスさん! 緊急事態です。これから、エルフの村に急行します!」


 「え? 何? 来て早々、何を言っているの? と言うより何があったのよ?」


 いきなり、エルフの村に行くと言われ、混乱しているイリスさんに事の次第を説明した。


 「…あまり乗り気はしないけど、分かったわ」


 「けど、師匠。どうやって、軍に追いつくつもりですか? 今からだと、追いつくどころか着く頃には全てが終わってますよ?」


 まぁ、普通に考えれば、そうなんだよね。カードスに確認するの忘れたけど、連中は全員馬で移動していると思うし。

 だけど、僕が本気を出せば話は別だ。半年前は2日掛かる距離を1時間で走破したんだ。今のステータスならエルフの村まで3時間ほどで着くと思う。

 だから、僕はありのままに答える。


 「ん? 走ってだけど?」


 「「はい?」」


 質問してきたフォーカスだけではなく、イリスさんまで、何言ってんのこいつ? みたいな視線を向けてくる。


 「質問は全て終わってから受け付けます」


 今は、能力を隠している場合じゃないからね。

 ってか、もう嘘ついたり誤魔化したりするのに疲れたんで、隠す事やめます。まぁ、この2人なら話しても問題ないと思うし…


 「とりあえず、出発しますよ!」


 僕は周囲を見渡し、誰もこっちを見ていないことを確認し、2人を抱きかかえ、『全力』でエルフの村に向けて、駆け出しだ。




 「うわあああああああああああぁぁぁぁ」


 「きゃあああああああああぁぁぁぁぁぁ」


 2人の絶叫を残し、僕たちはイーベの町から出発した。

ありがとうございました。


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