凶報
遅くなりました!
明日から5日ほど、お盆休みなので、その間にもう1話更新出来たらいいなぁと思っています。
前回のあらすじ
カードスから、指名依頼の打診をされる
カードスとの話を終え部屋を出た僕は、イリスさんと合流する為に、まずは受付へと向かった。
「あっ、師匠! 用事は済んだのですか?」
受付のフロアに出ると、登録を終えて待っていたフォーカスが僕を見つけ、駆け寄ってくる。
「まぁ、済んだことは済んだんだけど、ちょっと…」
「?」
僕が、ハッキリしないので、頭に?マークを浮かべるフォーカス。
「とりあえずは、イリスさんと合流しようか」
「えっ? 魔物の素材などの換金はどうするんですか?」
そう言えば、それもあったんだっけ…
「それは、明日にしようか。今はそれよりも優先する事が出来たから」
「分かりました…」
フォーカスは戸惑いながらも、了承してくれた。
ギルドを出た僕たちは、イリスさんと合流する為に待ち合わせ場所に移動した。
待ち合わせ場所に到着したけど、イリスさんの姿はまだ無かった。ちなみに、待ち合わせ場所は、最初にイリスさんと別れた場所だ。
イリスさんが戻ってくるのを待っていたら、フォーカスが唐突に爆弾を落としてきた。
「そう言えば、師匠の名前、初めて知りましたよ」
そうだ! ミリムさんが僕の名前を言うから、フォーカスに僕の名前がバレたんだった! 名前の事はイリスさんにバレたくないから、フォーカスにも黙っていたのに…。さて、何て誤魔化そうかな。
「いや、まぁ…、教えなかったのは悪かったけど、理由があるんだよ」
「理由…ですか?」
「訳あって、王都近辺では名前が売れると困るんだよ。だから、僕の名前はイリスさんでも呼ぶことを禁止しているんだよ」
少しの嘘を混ぜてでっち上げた理由をフォーカスに教える。
「そう言う訳で、名前の件は他言無用でお願いね。もちろん、イリスさんと2人で話す時であってもね」
「そこまでですか?」
「2人だと思っていても、どこで聞いているか、分からないからね。それに近くにいなくても、情報収集出来るスキルがあるかもしれない。だから、口に出さないのが一番なんだよ」
「師匠がそこまで言うなら、分かりました」
よし。とりあえず、これでイリスさんにバレる心配は無いかな?
名前の件をどうにか乗り切った後は、イリスさんが戻ってくるまで、雑談して時間を潰した。
僕たちが、待ち合わせ場所に戻ってきてから、だいたい、1時間ほどしてイリスさんは戻ってきた。
「あら? まさか、私の方が遅かったなんて思わなかったんだけど?」
イリスさんは、僕たちが先にいるとは思わなかったらしく、首を傾げながら歩いてきた。
「ちょっと予想外の事がありまして、換金をしないで、戻ってきたんですよ。なので、戻ってきてすぐで悪いのですが、宿に案内してもらっていいですか?」
「…分かったわ。こっちよ、ついて来て」
イリスさんに案内されて、着いた宿は以前、リンとで利用した『泊まり木』だった。あれ? これはちょっとマズいんじゃ…
僕はどうしようか考えるも、イリスさんが店に入ってしまったので、覚悟を決めて後に続いて店に入った。
「いらっしゃい!」
店に入った僕たちを出迎えたのは、リムさんではなく、おばさんだった。
「こっちの奴隷の主人なんですが、奴隷から話は聞いているとは思いますが、大丈夫ですか?」
とりあえず、リムさんがいないので、ホッとした。今の内にさっさと、部屋に行きたい…。
「大丈夫ですよ。3人部屋が一つですよね? 何泊にしますか?」
「とりあえず2泊の朝食付きでお願いします」
「分かりました。では、こちらに名前をお願いしますね」
僕は名前を書いて(勿論偽名)、お金を払い、部屋に向かった。
あとで、こっそり降りてきて、リムさんがいたら、口裏を合わせるように頼まないと…
「…と、そんな訳で、ギルドの支部長から指名依頼を頼まれてしまったんですが、2人とも協力してくれませんか?」
部屋に到着したので、さっそく2人にカードスとの会話を伝える。ただし、ある程度誤魔化して。
リンの事や個人的な借りの事まで、話す必要はないと判断したので、その辺りを誤魔化した。
「大量発生している魔物の討伐ですか…。僕は、師匠について行くだけですので、もちろん手伝いますよ!」
フォーカスは迷うことなく、協力してくれると、答えてくれた。
「私も別に構わないわよ」
イリスさんも協力してくれるようだ。
「ありがとう。じゃあ、明日から行動開始としよう。僕とフォーカスはギルドへ。イリスさんはその間に情報を集めてもらってもいいですか?」
「僕もですか?」
「今日やらなかった換金をする為にだよ」
「あっ、そう言えば…」
「分かった? それじゃあ、話は終わりにして、あとはご飯食べて休むとしますか」
下で食べると、リムさんと鉢合わせるかもしれないので、フォーカスにご飯は部屋に運んでもらうようお願いした。
ご飯を食べた後は体を拭くために、お湯を貰った。僕とフォーカスが体を拭き終わり、イリスさんが体を拭くので、僕とフォーカスは外で時間を潰す事にした。リムさんにはこの時に会ったので、偽名の事を伝えておいた。
翌日
「そう言えば、師匠って、どこに行こうとしているんですか?」
「へっ?」
カードスへの返事と素材の換金の為に、僕とフォーカスはイリスさんと別れ、ギルドに向かっている途中で、唐突にフォーカスが質問してきた。
「だって、あれだけこの町に行かなきゃ! と、慌てていたのに、実際は着いてみても特に何もしないんですもん」
あれ? あの時、僕は何て言ったっけ? テンパっていたからか、思い出せないけど、フォーカスの言葉通りなら、僕はこの町に行かないといけないって、言ったらしい…。 ターニンじゃなく、イーベと言ったのは何でだ?
「師匠?」
僕が過去の自分の発言について、自問自答しようとしたら、フォーカスによって現実に引き戻された。
「えっ? あ、あぁ、何?」
「だから、師匠の目的地の話ですよ!」
僕は、先ほど感じた疑問をわきに置いて、フォーカスの質問に答えることにした。
「…それは、ターニンだよ。だけど、今回の件のせいで、暫く行けないけどね」
「ターニンって、大陸の東の端にある?」
「そのターニンで合ってるよ」
「しかし、それなら、何でこっちに来たんです? 森を北東に進んだ方が近いじゃないですか?」
「それが出来ないんだよ。村があった南の森の東には、この国唯一の鉱山がある山岳地帯があるんだよ。そして、唯一であるが故に国が管理しているから、許可証がないと通れないんだ」
僕が、国から許可証なんて貰えるはずもないから、最初からルートの選択肢からは外していた、とは思っていても、言葉にはしない。
ちなみに、サキを見つけた場所は管理されている山岳地帯とは少しだけ離れている場所だった。
「そうだったんですか! 森から出たことが無かったので知らなかったです」
「まぁ、僕も最初は知らなかったんだけどね…」
この事はターニンに着いてから学んだ事だった。そう思うと、サキの件はホント運が良かった。
その後、この周辺の地理に関しての話をしている間にギルドに到着した。
「ミリムさん、おはようございます。昨日の件の返事をしにきたのですが…」
「おはようございます。では、案内します」
「あっ! ちょっと待って下さい。ミリムさんには、あいつの換金をしてもらいたいんです」
そう言って、僕はフォーカスを指差す。
「はぁ、それは構いませんが…」
ミリムさんが何故? と、目で訴えてくる。
「実は、ここに来るまでに、あいつ1人で戦わせたんですが、ランクに似合わない魔物ばかりでして…」
「…何となく、言いたい事は分かりました。とりあえず、別室で査定しますので、ご安心下さい」
「お願いします」
これで、フォーカスが実力を疑われて絡まれるみたいな事は回避できるかな?
「それじゃあ、僕は、昨日の返事をしてくるから、その間に換金して待ってて」
「分かりました」
ミリムさんにフォーカスを任せて、僕は別の職員の先導の元、カードスの部屋へと向かった。
「早速で申し訳ないのですが、昨日の返事を聞かせてもらっても、よろしいですか?」
入室した僕に、カードスは昨日とは180度違う口調で、いきなり本題をぶつけてきた。
「いいですけど、今日は何故その口調なんですか?」
いまさら僕相手に、この口調は気持ち悪い以外の何物でもないので、つい訊いてしまった。
「…この後すぐ、仕事で王都のギルドに行かなければならないのですよ。なので、今からこっちに切り替えておかないといけないのです」
「王都にですか?」
「何でも、勇者のお披露目式と会食をすると、王からギルドに招待状が届いたのですよ」
あいつらのお披露目式か…。まぁ、僕には関係ないからどうでもいいか。
「そうですか、なら早く用事を済ませますね」
「お願いできるかな?」
「依頼は受けます。それまでは、魔物の数減らしでもしています。調査を開始する前に、もう一度、顔を見せに来ます」
「そうですか。それでは、お願いしますね」
僕はその場でリン達への手紙を書いて、カードスに渡し、部屋を後にする。
それから、2日ほどはフォーカスの訓練と平行して、魔物の数減らしをしていたけど、減るどころか、日々増えているような気がする…
そして、手紙を出して3日目の朝、思いもよらない事が起きた。
「ノゾム! 丁度いい時に来たな! 話があるから、ついて来い!! 連れのエルフも一緒で構わないから、早しろ!」
ギルドに顔を出すとカードスが有無を言わせない威圧感を出しながら、詰め寄ってきた。何やら、ただ事ではないと、判断したので、黙ってフォーカスと共に後を追うことにした。
「とりあえず、座れ」
部屋に入り、カードスに言われた通り、ソファーに座ると、カードスは前置きも無く、いきなり結論から話し始めた。
「王国の兵士1000人がエルフの村に侵攻を開始した。しかも、その軍を率いているのは、勇者だ」
ありがとうございました