イーベのギルドで
大変遅くなりました。
言い訳としまして、仕事が人手不足により、地獄と化していまして、プライベートの時間が全然取れないのです。
これからもこのように期間が開いてしまいます。
前回のあらすじ
ギルドを目指して、三人でイーベの町を目指し出発
「ようやく、イーベの町が見えてきたよ」
「割とかかったわね」
「………」
エルフの村を出発して10日、僕たちはようやく目的地に到着した。フォーカスが喋らないけど、気にしない。
まぁ、あのハニービーとの戦闘以降、宣言通りに遭遇する魔物との戦闘は全てフォーカスにやらせてきたから、相当疲れているんだと思う。それでも、森を出るまでは1対1にしかならないように気を使った。森を出てからは、容赦なく1対多数を経験させたけどね。
「ほら、フォーカス。もう少しで町に着くけど、最後まで気を抜くな。いくら、町が近いとはいえ、魔物に襲われないとは限らないんだよ?」
「は、はい…」
町が見え始めてから、見るからに気が抜けたフォーカスに忠告をする。フォーカスも、僕の忠告を素直に聞き入れて、最後の気力を振り絞るようような感じで気を入れ直す。
それから魔物と遭遇することもなく、3時間ほどで町に到着した。
「はぁ~~~…」
町に着くなり、フォーカスは大きなため息とともにへたり込んでしまった。
「えっと、とりあえずお疲れ様?」
イリスさんがへたり込んだフォーカスにねぎらいの言葉をかける。
「お疲れ様じゃないですよ。まさか、本当にあれから1人で戦わされるとは思いませんでしたよ! しかも、寝ていようが関係なく叩き起こされますし…」
フォーカスの言葉は本当で、野宿の見張り時間外でも魔物が近づけば、叩き起こして魔物と戦わせた。
お前は鬼かと思うかもしれないけど、これも夜戦に慣れる為だからと言って我慢してもらった。
「そうは言うけど、それなりの成果はあったんだから、いいじゃないか」
「それは結果論ですからね、師匠?」
口ではそう言うが、結果が出ているだけに、それ以上は何も言ってこなかった。
先ほどから言っている成果と言うのは勿論、レベルアップやスキル習得の事だ。
【名 前】 フォーカス
【年 齢】 74歳
【種 族】 エルフ
【職 業】
【レベル】 14
【H P】 493/1023
【M P】 1432/1839
【筋 力】 534
【防御力】 674
【素早さ】 701
【命 中】 728
【賢 さ】 852
【 運 】 18
【スキル】
剣術LV3 盾術LV2 水魔法LV2 無魔法LV2 回避LV4 危険察知LV2
2カ月ちょっとの訓練だったのに、かなり成長していると思う。
危険察知のスキルは死角からの攻撃や相手の攻撃の危険度など、自身の命の危険を知らせてくれるものだ。直感のスキルほど万能ではないけど、戦闘においつてはかなり有能なスキルだと思う。
それにしても、何故、フォーカスがここまで急成長したかと言うと…
「それじゃあ、ギルドに行くよ? 長くなりそうだから、イリスさんは宿の確保をお願いします」
「まぁ、あれだけの量があるんだから、仕方がないわね…」
「それ師匠のせいじゃないですか!! いったい、幾つのゴブリンの巣やオークの群を殲滅したと思っているんですか!?」
「…幾つだっけ?」
「ゴブリンの巣が7つにオークの群が10、その他にも多種多数の魔物です!!」
「…よく、生きてここに辿り着いたね…」
と、まぁこれが急成長の原因です。総数にしてみれば、四桁越えたかな?
それにしても、この魔物の種類と数は少しおかしい…。ギルドに行けば何か判るかな?
「じゃあ私は、宿を探しに行くわね」
そう言って、イリスさんは人混みの中に消えていった。イリスさんには奴隷だと宿が取れないかもとは伝えてあるし、その際の対応も教えてあるから問題はないと思う。
「そろそろ僕たちもギルドに行こうか?」
いまだにへばって、座り込んでいるフォーカスに声を掛け、僕はギルドへと歩き始める。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!」
座り込んでいたフォーカスも僕が移動を開始すると、急いで立ち上がり僕の後を追いかけてきた。
ギルドに着き、建物の中に入ると、そこには以前来た時とは比べものにならないぐらいの人であふれていた。
「師匠、この町のギルドは普段からこうなんですか?」
「いや、以前来た時はもっと少なかったよ?」
王都のギルド並に人で溢れている人混みの中を進み、受付に辿り着くと、そこにいたのはミリムさんだった。
「あれ? ノゾムさん…ですよね? お久しぶりです」
「どうも。それよりもこれはどうしたんですか?」
僕は挨拶もそこそこに、人で溢れている周囲に目をやりながらミリムさん質問してみた。
「ここ一ヶ月ほどはこんな感じですよ? 魔物の増加が原因なんです」
なるほど。そのせいで、討伐依頼の受付や依頼達成の清算といった人たちで、これだけの人混みになっているのか。
「それで、ノゾムさんはどのような御用件でしょうか?」
ミリムさんは雑談もそこそこに用件を聞いてきた。
「今日はツレの冒険者登録をしに来たんです。ほら、フォーカス?」
「は、はい! お願いします」
僕の後ろに隠れていたフォーカスを前に押し出す。フォーカスは緊張した様子でミリムさんに頭を下げた。
「分かりました。少々お待ち下さい」
頭を下げたフォーカスをミリムさんはクスクスと笑いながら記入用紙を取りに行く。そんな彼女に僕は声をかける。
「ミリムさん。支部長はいますか? 登録をしている間に挨拶だけでもしておきたいのですが…」
「カードス支部長にですか? 分かりました。案内しますので少々お待ち下さい」
ミリムさんは、フォーカスの手続きをちょうど手の空いた別の職員に任せ、カードスの元に案内してくれるようだ。
「僕は挨拶しないと後で何を言われるか分からない人…じゃなくて、挨拶しないといけない人がいるからその間に登録しておいてね」
フォーカスは分かりましたと頷いたので、僕はミリムさんに連れられてギルドの奥へ進んでいく。
「カースド様、ミリムです。急なお客様なのですがよろしいでしょうか?」
「ちょっと待ってくれないか? ………よし、入っていいよ」
ミリムさんが支部長室で扉越しにカードスに声をかける。カードスは僕たちを少し待たせて入室を許可する。僕は少し憂鬱な気分になりながらも部屋に入っていく。
「…ちっ! 誰かと思ったら、お前かよ。この忙しい時に何の用だよ」
カードスは僕の顔を見るなり、舌打ちして毒を吐いてきた。なので、僕はそれ相応の態度で接する事にした。
「ずいぶんな言われようですね。この町に来たのに挨拶しないと、何言われるか分からないから挨拶に来たんですが、来ない方がよかったみたいでね」
「なんだよ、ちょっとした皮肉じゃねぇか。それぐらい聞き流せよ」
カードスは僕の態度に更に舌打ちをしながら愚痴る。
「特に用事は無いんですが、ギルドに寄る用事があったので、挨拶しに来ただけですよ」
僕が本当に理由が無い事を伝えると、カードスは更に不機嫌になった。が、少し思案顔になると、名案を閃いたみたいにいい笑顔を僕に向けてきた。
「…そうだ! お前との間にあった借りを返してもらおうか?」
「もしかして、今のギルドの状況が関係してますか?」
「相変わらず、察しがよくて助かるわ。知ってるかもしれんが、ここ一ヶ月ほどで魔物の数が異常に増えているんだ。中にはこの辺りではあまり見ないような魔物までいる」
「もしかして、魔物が増えた原因を探れって言うんですか?」
「そうだ。お前とあの女がいれば問題ないだろ?」
カードスの言う『あの女』とは、リンの事だろう。しかし、今彼女はいない。その辺りの事も含め、現在の僕の状況を話した。
「…と、言うわけで、この挨拶が終わったらターニンに戻りたいんですが…」
「急に訪ねてくるから、変だとは思っていたが、まさかダンジョンの消滅に巻き込まれたのか」
「えっ?」
「ん? もしかして、自分の身に何が起きたか判ってないな?」
「いや、話には聞いていましたけど、てっきりダンジョンの入り口に出されるものだと思ってまして…」
「俺も又聞きだからハッキリとは知らねえが、ダンジョンの消滅でダンジョン内にいたヤツはランダム転移させられるらしいぞ」
マジですか…。そう言うことなら、転移先が南の森だったのは運が良かったと言わざるえない。
「っと、横道に反れたな。とりあえず、ターニンには手紙で問題ないだろ? 特別に早馬を使って届けてやる」
カードスが話を戻し、僕に提案してくる。これは手紙で無事を伝えて、お前は原因を探れと言ってるのだろう。個人的にも、借りを返しておきたいからその提案に乗りたいんだけど、同行者がいるから勝手に決めれないんだよなぁ…。
「それはありがたい提案なんですが、僕には今、同行者がいるのでちょっと…」
「同行者だと?」
「今、受付で冒険者への登録を行っています。一応、僕の弟子です」
僕は、同行者の事が本当か証明してもらう為にミリムさんへと視線を移す。
「カードス様、ノゾムさんが言っている事は本当です。そもそも、ギルドに寄ったのもそれが目的だったみたいです」
ミリムさんは僕の視線を受けて、応えてくれた。それを聞いたカードスは少しの間、何かを考えていた。そして、考えが纏まったらしく、僕に質問をしてきた。
「リンスレットはお前の居場所が分かれば、お前の元に来ると思うか?」
「…多分来ると思いますよ? それが何か?」
「なら、リンスレットの到着次第、魔物の異常増加の原因を探ってくれ。それまでは自由にしてくれて」
今の会話を要約すると、リンたちに手紙を出して、合流し次第、フォーカスの面倒をリンに任せて、原因を探れって事か…。
「とりあえず、僕1人で決めれないので、返事は明日でもいいですか?」
「…分かった」
「ありがとうございます。それじゃあ、僕はこれで」
そう言って、僕は一礼して部屋を後にした。
ありがとうございました