エルフの村
「やっと追いついた…」
村が見えたあたりから、早歩き?で先を進むイリスさんに、村の入り口付近で追いついた僕は一息ついた。
「イリスさん。村に入る前にこの首輪を付けてください」
僕はアイテムボックスから予備の首輪を取り出してイリスさんに渡す。
「なんでそんなのを付けないといけないのよ?」
「忘れたんですか? イリスさんは奴隷になったんですよ?」
「それぐらい忘れていないわよ」
「えっと、奴隷は首輪の装着が義務付けられているんですよ。だから、イリスさんも付けないといけないんです」
「…そんなヒトが勝手に決めた事なんて、堕天使が知るはずもないでしょ?」
イリスさんはちょっと怒っている。聞くところによると、イリスさんは堕ちたとはいえ、元は天使で神様に仕え、別の世界に住んでいたらしい。だから、この世界に奴隷がある事などは知っていても、それに関する決まり事などは全く知らないらしい。イリスさんはもしかしたら、僕並かそれ以上に常識に疎いかも…。
その後、首輪の付ける付けないで時間をとったけど、何とかイリスさんを説得して付けてもらいました。
イリスさんに首輪を付けてもらったので、僕はようやくエルフの村に入ることができた。
村に着いた僕たちが最初に目指したのは冒険者ギルドだった。目的はターニンへ伝言を届けてもらうためだ。しかし、村の中を歩いて探しても全く見つけられない。
「ねぇ? いったい、いつまで歩き続けるのかしら?」
「おかしいですね? 冒険者ギルドはすぐ見つかると思ったんですが…」
村と言っても王都との交流もあるようなので、わりと大きい村だ。歩き回った時に宿屋はいくつも見かけたのだけど、肝心の冒険者ギルドが見つからない。イリスさんも歩き回ったせいでちょっとお怒りになっている。
僕はこれ以上イリスさんを怒らせないためにも村の人に聞いてみる事にした。
「すいません。ちょっと聞きたいのですが、この村に冒険者ギルドって無いんですか?」
僕はちょうど通りかかった男のエルフにギルドの事を聞いてみた。
「冒険者ギルド? …あぁ! それなら少し前に退去したぞ」
「退去!?いったいどうしてですか?」
「さぁな。そもそも私たちはそこまであれに興味がないから、詳しい事は知らないんだ」
そう言って、男のエルフは去っていってしまった。
「…それで、これからどうするの?」
イリスさんはショックを受けている僕にこれからの方針をどうするのか聞いてきた。
「………まさか、冒険者ギルドがなくなっているとは…。なんか、どっと疲れが襲ってきたから、今日はもう、宿屋で休みたいです」
「分かったわ。それじゃあ、宿屋を探しましょうか」
イリスさんにどうするか聞かれた僕は、休むこと選択した。ギルドがないショックからか、我慢していた眠気やらなんやらが一気に襲ってきたせいで、今日は何かを考える気が起きない。なので、まだ夕食前だけど、宿を取って寝てしまいたい。
「それで、どうします?」
「………」
「あ、あの~?」
「……………」
「もしも~し?」
「………………」
現在、宿屋探しの真っ最中ですが、イリスさんが何も言わずに黙ってしまったので、宿を決めれません…。
なぜ、こんな事になったのかと言うと、宿で部屋を取ろうとしたところ、宿の人に敵意を向けられながら、「奴隷に一部屋貸す事はできません。あなたの奴隷なのだから、同じ部屋で面倒みてください」と、言われてしまったのだ。しかし、お客である僕がなぜ、敵意を向けられてこのような事を言われなければならないのか?まぁ、心当たりが1つだけある。
僕が奴隷を連れている。
それが僕に対する敵意の理由だと思う。そもそも、エルフは奴隷を必要としていない。さらにヒトの奴隷制度を嫌っている節があると聞いたことがある。そんな所に奴隷を連れて来たから、先ほどのような対応になったんだと思う。
それなら、言われた通りにしようとしたところに、今度はイリスさんから待ったが入った。
「今日会ったばかりの男と同じ部屋なんてお断りしたいんだけど?」
と、言われ最初の宿を後にして別の宿を探すも、他の宿で同じ事を言われて、遂にイリスさんは黙ってしまった。
「イリスさんどうします? このままいくと野宿になりますよ?」
僕は再度イリスさんに問い掛けてみる。
「分かったわよ! 私が我慢すればいいんでしょ?ただし、変な事はしないでよね!」
「しませんよ。そんな事したら、あとで碌な目に合わないのが分かりきっているんで」
変な事したら絶対リンたちにバレる。向こうには魔眼があるしね。そして、バレた後が怖いから絶対に変な事なんて出来ない…。
とりあえず、イリスさんが同室に納得してくれたので、宿を取って部屋のベッドに倒れこむとすぐ眠気が襲ってきた。だけど、僕は眠る前にイリスさんに1つだけ主人として命令をして眠りについた。
翌朝
2日前からろくに寝ていなかった僕はぐっすりと寝ていたらしく、目が覚めた時には陽はかなり高い位置まで昇っていた。
「あなた、いったいいつまで寝るつもりなの?」
目が覚めていきなり話しかけられてビックリしたけど、何とか声を出すのは我慢できた。
「えっと、おはようございます。それと、すいません。一昨日から寝てなかったもので…」
「ふ~ん。まぁ、私には関係ないけど。それより、あなたが起きなかったせいで朝食食べ損ねたじゃないの」
イリスさんは僕の睡眠より朝食の方が大事だったようだ。兎に角、起きたので食べ物を求めて村に出て散策する事にした。
「おい、あんたらが昨日、村に来たヒトで間違いないか?」
宿を出るといきなりエルフの男たちに絡まれた。
「確かに僕たちは昨日この村に着きましたが、それが何か?」
無視しても厄介な事になりそうなので、最低限質問に答えることにした。
「なぁに、ヒトの冒険者が奴隷を連れて村に来たって話を聞いてな。ちょいと実力を見ておこうと思って探していたんだ」
もしかしなくても、僕が強そうに見えないから絡まれているの? 本来なら、初めて訪れた冒険者ギルドで発生しそうな、テンプレイベントがこんな所で発生するとは…
僕たちを取り囲んでいるエルフは6人。みなエルフだけあって美形だ。年は見た目だと20歳前後に見えるけど、実際はもっと歳取ってるんだろうなぁ。
そう思って観察で視てみると、全員80歳前後だった。スキルは魔法属性が3種類でスキルレベルは3だった。他にはこれと言ったスキルも無いし、レベルも高くないので、エルフ版のゴロツキだと思っていいと思う。
とりあえず、僕は連中に従って移動する。あの場所で何かすると、宿屋にも迷惑が掛かると判断したからだ。ちなみにイリスさんは何も言わずにいるけど、ご飯がお預けになって不機嫌になっている。
「それで、こんな人気の無い場所まで来たけど、どうやって実力を見るんです?」
宿屋から人気の無い開けた場所に移動したので、連中に質問してみた。
「そうだなぁ…。俺たちが6人で魔法を放つから相殺してくれよ。奴隷を買えるほどの冒険者なら問題なくできるだろ?」
僕の質問に答えたリーダー格の男はニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべていた。あれは絶対に出来ないと思っている顔だ。
「もし出来ないなら今のうちに正直に言っていいんだぜ? ここには俺たち以外いないんだから、誠意を見せてくれたら凄腕の冒険者じゃない事は黙っていてやるよ」
こいつは何を言ってるんだろうなぁ? 僕がいつ凄腕の冒険者だって言ったんだ? 別に凄腕じゃないと言いふらされても問題ないんだけどなぁ…。
何て事を考えていたら、連中は詠唱を始めていた。
「水よ敵を撃ち抜け! 『アクアバレット』」
僕は舌打ちをしながらも、並列思考をフルに使って4つのアクアバレットを一気に放つ。
「「「「「「「なっ!!」」」」」」」
イリスさんを含む全員が驚きの声を出す。
詠唱短縮系のスキルを持っていない僕だったけど、詠唱は僕の方が先に唱え終わり魔法を放てた。連中は僕が反撃するとは思っていなかったらしく、ずいぶんゆっくり詠唱していたようだ。
僕が放ったアクアバレットが4人に命中して全員の意識を刈り取る。もちろん殺してはいないけど、ある程度力を入れたので暫くは目を覚まさないだろう。
「な、なんなんだ! お前」
いきなり4人やられて残った2人は怯えてしまったようだ。だけど、僕は攻撃を止めない。
「土よ敵を穿て! 『サンドニードル』」
残った2人にはおしおきの意味も込めて、両足をサンドニードルで打ち抜いた。
「「ぎゃあああぁぁぁぁっぁぁ!!」」
この世界には回復魔法もあるし、これぐらいなら治せるはず。
そう思って僕はのた打ち回る2人と気絶している4人を放置して広場を後にする。僕が魔法を同時に放ったあたりから呆けていたイリスさんも僕が広場を後にすると、我に返り僕を追いかけるように広場を後にした。
ありがとうございました。