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エルフの村を目指して




 ダンジョンの最下層からイーベルト王都の南に広がる南の森に、突然移動した事が判明した僕は、新しい奴隷のイリスさんとエルフの村へ向かうことにした。


 「…それで、捜すにもあてはあるのかしら?」


 が、それはイリスさんの一言で、いきなり暗礁に乗り上げだ。


 「イリスさんが上空から探すのは…?」


 「却下! 私を追ってるヤツらに見つかるわ。しばらくは隠れてやり過ごさないと、空なんて飛べないわ」


 「しばらくって、どれくらい?」


 「…多分2週間から1ヶ月ってところかしら? 連中も私1人にだけ構ってられないしね」


 イリスさんが上空から偵察してもらうのは無理なのか。まぁ、ただでさえ今が厄介な事態なのに、さらに余計な厄介な事態を呼び込むような事は回避すべきか…。


 「それならどうやって村を捜そうか?イリスさんは何か案ある?」


 「…それなら道を辿って捜すのがいいんじゃないかしら?」


 「そうか! 人の行き来があるんだから普通に考えれば、村へ続く道があるのは当たり前じゃん」


 そう思うと昨日の僕は何をしていたんだろう…。道なき道をただ歩き続けるとかただのアホじゃないか。


 「もしかして、あなたはそんな事も思いついていなかったのかしら?」


 僕の独り言を聞いたイリスさんがジト目で僕を見てため息をついて呆れていた。


 「……そんな事ないですよ。それじゃあ、気を取り直して、まずはこの湖の周りにある道から辿って捜しますか」


 「………」


 うぅ…。視線が痛い…。


 イリスさんの助言でエルフの村へ行くのに希望が見え始めた僕は、彼女のジト目に耐えながら、捜索を開始した。




 湖で見つけた道からエルフの村を捜すこと、2時間ほど経ちました。

 今、僕はとても辛いです…。

 何が辛いって?それはイリスさんとの会話が一切無い事です。…いや、会話が無いだけならまだ耐えられるんですが、それ以上に彼女の敵意が辛いです。

 彼女は湖を出発してから、一切口を開かず僕に敵意を向けて睨んでるのです。確かにいきなり奴隷にされたのだから、敵意を向けられるのはしょうがないと普通は思いますよ?けど、彼女の場合は僕の命を奪おうとしたのに、殺されずにいるのだから奴隷であることに文句は言えないと思うのですよ。

 だけど、彼女はそんな事はお構いなしに敵意を向けてきます…。


 道中、魔物と遭遇するけど、基本的にイリスさんが出会い頭に魔法で倒してちゃうから、僕は全く戦っていない。イリスさんは僕にぶつける事のできない怒りを、魔物にぶつけているんだと思う。だって、詠唱に怒気が含まれているように聞こえるんだもん。

 だけど、出発当初よりはマシになった方なんだ。最初の方なんて、わざと致命傷で攻撃するのを止めたと思ったら、魔法で回復させてから再び攻撃を再開するってのを繰り返していたんだから。しかも徐々に笑顔になっていくだよ…。イリスさんは絶対にドSだと思う…。



 「…ねぇ」


 そんな恐怖体験を思い出していたらイリスさんが話しかけてきた。


 「な、なんですか?」


 「…なんで、そんなにびくびくしているのよ?」


 魔物をいたぶっているあなたを思い出していたからとは言えない…。例え、主従関係のおかげで攻撃されないと分かっていても。


 「…まぁ、いいわ。それよりも、なぜ私を殺さなかったの?」


 イリスさんが話しかけてきてくれたと思ったら、自分が殺されなかった事に対する質問だった。


 「なぜって言われても…」


 そう言われると、自分でも何でそうしなかったのか分からない。女性だから?それとももっと別の何かか…。


 「もういいわ。そんな顔を見たら、私の事を売りとばす為に殺さなかったんじゃないと分かったから」


 僕がうんうんと考えていた顔を見たイリスさんがため息混じりにそんな事を言ってきた。どうやら彼女は自分が生きているのは売られるからだと思っていたようだ。


 「そもそも、イリスさんがいきなり攻撃してこなければ、こんな事にはなっていないと思うんですが?」


 「…あなたって変わったヒトなのね。」


 なぜか、イリスさんに変な人扱いされてしまった。


 「いい? 堕天使ってのは不幸を呼ぶ種族として言い伝えられているの。だから、基本的には見つけたら殺すように子供の頃から教えられるものなのよ。まぁ、中にはそんな堕天使を奴隷にしたがる物好きがいるけど…。

 この世界にどれだけの堕天使が生きているか知らないけど、そんな堕天使なのだから、ヒトに正体を知られたら殺されない為にもこちらから先に仕掛けて殺すのは普通でしょ?」


 堕天使ってそんな立ち位置だったのか…。


 「そんな訳だから、堕天使の私にそんな事を言ってくるあなたは、変なヒトって言われてもしょうがないのよ」


 「…そんなのおかしいと思うなぁ。あの種族だからこうだって決めつけるよりも、1人1人の中身の方が大切だと思うんだけど…」


 僕は思った事をつい口にしてしまった。しかもイリスさんにしっかりと聞こえていたらしく、僕の言葉を聞いた彼女はポカーンとしている。


 「え、え~と…。イリスさん?」


 「ぷっ! ぷはははははははは! あなたって面白い考え方するわね」


 沈黙に耐えられなくなって僕が声をかけたら、イリスさんは急に笑い始めた。

 

 「こめんなさいね。まさか、あんな当たり前の事を聞けるとは思わなくて…」


 「…当たり前の事なのに笑うんですか?」


 僕は笑われた仕返しに拗ねた風に言って、ちょっとした意地悪をしてみた。


 「だから、謝っているじゃない。だけど、たまにあるでしょ?言っている事は正しいんだけど笑われる事って」


 …そう言われると、確かにそういった事はある。


 「だけど、今時そんな考えを持ってるヒトがいるとは思わなかったわ」


 それは多分、僕が異世界の人間だからってのも関係していると思います。

 そんな心の中でツッコミを入れている僕を見てイリスさんはボソッと呟いた。


 「…私の探している人もあなたみたいな人だといいのだけど」


 彼女の呟きが聞こえたので、僕は彼女に聞いてみた。


 「イリスさんは誰か探しているのですか?」


 「もしかして、声に出ていたの?」


 「えぇ、出ていましたよ」


 先ほどの呟き、彼女は声に出したつもりはなかったようだ。


 「聞かれたのならしょうがないわね。確かに探している人はいるわよ。だけど、それ以上は教えられないわ。私はあなたの事をそこまでの信用はしていないから。…一応、酷い扱いはしないだろうって程度には信じることにはしたけどね」


 「別に深入りするつもりはないので、それでいいですよ」




 それ以降、会話が途切れてしまい僕たちは村捜しに集中した。

 だけど、幾つか変化があった。

 まず、イリスさんの敵意の視線が和らいだ事。それに多少だけど、会話をするようになった。

 そんな変化を嬉しく思う自分がいる事に気づいたのは、エルフの村を見つけた時だった。そして、その事を自覚したと同時に、なぜイリスさんを殺さなかったのかその理由が分かった。


 「イリスさん」


 「なにかしら?」


 なので僕はその理由をイリスさんに伝える事にした。


 「イリスさんをなぜ殺さなかったのか分かりましたよ」


 「…聞きましょうか」


 「僕は1人でいるのが寂しかったんだと思います。たから、イリスさんを殺さずに奴隷にしたんだと思います。もちろん、イリスさんから命を狙われたくないって理由もあって奴隷という選択肢を選んだんですがね」


 「…つまりそれは、私でなくても良かったって事?」


 「そうなりますね。だけど、今はそう思いません。だって、イリスさんとの会話が楽しかったから。だから僕は湖にいたのがあなたでよかったと思ってますよ。」


 「っ!!」


 僕の言葉を聞いて、イリスさんの顔が急に真っ赤になった。何かおかしな事言ったかな?


 「…あなた、告白のつもりかしら?」


 イリスさんは顔を真っ赤にしながら視線を逸らしながら僕に問い掛けてきた。



 …? 告、白? なんでそうなるんだ?えっと、なんて言ったっけ? もう一度思い出してみよう…。


 「っ! ち、違いますよ! こ、告白じゃなくて、僕がイリスさんを殺さなかった理由ですよ!」


 僕は慌てて否定する。


 「だろうと思っているから、安心なさいな。さっきは不意打ちだったから赤くなっただけよ」


 イリスさんはそう言いながら少し早歩きで、エルフの村へ向かっていく。


 「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。本当に分かっているんですか?」


 僕は先に進んでいくイリスさんを駆け足で追いかけていく。









 だけど、僕がイリスさんに追いつく事はエルフの村に到着するまで叶わなかった。

ありがとうございました。

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