森での出逢い
ダンンジョンの最下層から一転して見知らぬ森が僕の目の前に広がっている。
「いったい、何が起きたんだよ…」
周囲を見渡しても、目に入ってくるのは樹ばかりだ。ダンジョンから先に脱出した3人の姿はどこにもない…。念のために感知系スキルを全部使って周囲を調べてみても、何の反応も無かった。
「…ここにいても始まるものも始まらないか。兎に角、森の外に出て町を探すか」
暫く放心していた僕は、状況を打破する為にも行動する事にした。
気配察知のスキルを使いながら森をさ迷う事、数時間が過ぎ太陽も沈み始めていた。まだ森の外には出れていない。この数時間で何回か魔物と遭遇したけど、ゴブリンやウルフといった見慣れた魔物ではなく、トレントやワームなど普段は見ないような魔物ばかりだった。
「ここが北の森ではないことだけは確かだよなぁ…。はぁ、こんな事なら魔物の生息図をちゃんと覚えるべきだったよ」
僕はそんな事を愚痴りながら、その日の野宿の準備をし始めた。食料などの夜営セットはアイテムボックスの中に常備しているから問題はないけど、それとは別の問題が浮上した。
「見張りがいなきゃ、寝ることもままならないじゃん…」
よくよく考えてもみれば、王都を出てから1人で夜を明かすのは初めてじゃないか。まさか1人がこんなに不便だとは思わなかった…。1人旅をしている冒険者はどうやって夜を過ごしているんだろうか?
僕はそんな事を考えながら、皆がいた事がとれだけありがたかったか思い知らされた。
見知らぬ森での2日目
僕は一睡も出来ないまま朝日を拝む事になった。感知系スキルを常時発動させていたから寝ても問題ないはずだったんだけど、それでも不安で寝れなかった…。
「…うぅ。朝日が眩しい…。はぁ、とりあえず今日も森の外を目指すとしよう。ってか今は動かないと寝ちゃいそうだよ」
じっとしていたら眠気に負けそうなので、体を動かして眠気を紛らわす為にさっそく今日の探索を開始する。
2時間ほど、捜索していると魔物じゃない反応を感知した。僕はこの森の出口や今の現在地について、知るチャンスだと思い反応のある方向に行く事にした。
スキルの反応がある方向に進むと、湖が見えてきた。僕は一応隠れながら、反応の主を探すとそこにいたのは、気持ち良さそうに水浴びしている女性だった。
「~♪ ~♪」
は、裸!? って水浴びしているんだから当たり前だろ!!
本来なら目を背けなきゃいけないんだろうけど、僕も男なのでじっと見てしまう。
女性は僕からだと背中しか見えないけど、茶髪で肩にかかるぐらいの長さで、所謂ミディアムボブと言う感じだ。そして、背中には黒いつば…さ? ……翼っ!? しかも鳥類の翼じゃない!? 物語に出てくる天使の翼だ!
バキッ!!
「だれっ!?」
しまった! 背中の翼のせいでびっくりして音を立てちゃった!だけど、姿が見られたわけじゃないし、このまま隠れていればやり過ごせるかも…。
「出てこないのなら、こちらから行くわよ!」
どうやら隠れてやり過ごすのは無理なようだ…。
僕は観念して、姿を見せる為に、木々の間から出て彼女の前に姿を現す。
「に、人間!?」
彼女は僕の姿を見て酷く驚いていた。
「あ、あの覗くような事をしてすみません」
「くっ、火よ『ファイアボール』」
僕が視線を彼女から外して謝っていると、いきなり攻撃を仕掛けてきた。
「う、うわっ! 危ないじゃないですか!」
ファイアボールは僕の顔の横を通過しただけなので問題はなかったけど、いきなり攻撃とは穏やかではない。しかし、僕がそう思ったところで、彼女の攻撃は止まらなかった。
「ちっ! 外した。敵を捕らえよ!『マッドプール』。燃え盛る『フレイムランス』」
彼女が使ったマッドプールは沼を作る足止め用土魔法で、フレイムランスは火の槍で敵を貫く火魔法だ。
「うっ! うああああぁぁぁ!!」
僕はマッドプールのせいでフレイムランスを避けれずに左肩にくらってしまった。ダメージ自体はステータスのおかげもあって、そこまで酷いものではないんだけど、焼かれる事による痛みは別物だ。
「う、うぅ…」
「まだ…死んでないわね」
僕が焼かれる痛みで膝をついていると、彼女は僕が抵抗できないものと判断したのか、歩み寄ってきた。
「あなた、私をどうするつもりだったのかしら?」
「…? な、何を言っているんですか?」
僕は彼女の質問の意味が理解できずに聞き返してしまった。
「とぼけても無駄よ! 堕天使の証である黒い翼を見たのだから、私が堕天使だって分かっているでしょ?」
そうか、背中のあれは天使の翼だったのか…。ただし、彼女は堕天使らしい。
「それで、堕天使である私を見つけた事を王国にでも報告して、私を討伐するつもりだったのかしら? 神の遣いである天使は神の遣いを放棄した堕天使は敵だと教えているものね」
このお姉さん、自分から情報を漏らしているけど、大丈夫なのかな? おかげでこっちは余計な質問しなくて助かるけど…。それに、そろそろ痛みも引いてきた。再生の時間稼ぎも済んだし反撃といきますか。
「僕はこの森から出たいたけだったんで、道を聞こうと思ったんですよ。だから、いきなり殺されるのを、『はい、そうですか。』って受け入れられるはずないでしょ!」
僕は彼女に近づいた理由を話しながら、立ち上がると同時に剣を抜きながら水平に振るった。
「なっ!?」
彼女は僕の反撃に驚きながらもバックステップと翼を羽ばたかせて後方に下がる方法で一気に距離をとった。
「まさか、まだ動けたなんてね」
彼女は空中に逃げると、そのまま詠唱を始めた。
「させるか!」
僕は追撃するために空歩を使って、空を駆け上がっていく。とは言っても、空歩のスキルレベルが低くて、3歩ほどしか空を蹴れないけど…。
それでも、相手が空を駆け上がって来るとは予想できなかったらしく、ギリギリ届くところにいてくれたので、剣で斬りつけた。
「きゃあああぁぁっぁぁぁっぁ!」
彼女の太ももを斬ると、彼女は悲鳴をあげながら墜落する。
それもそのはず。再び空を飛ばれてたら、今度は手も足も出せなくなるので、それを防ぐ為に雷の魔法剣で斬った。そして、彼女は感電して体の自由がきかなくて墜落したのだ。
「さて、これで話を聞いてもらえるかな?」
僕は剣を収めて彼女に近づくと、墜落しても気を失っていなかった彼女が後ずさる。
「こ、来ない、で!」
もちろん無視だ。
「い、いや! 癒した、まえ! 『ヒーリング』」
無視して近づく僕に彼女は何故か回復魔法を放ってきた。
「?」
僕は彼女の行動の意味が解らず、歩みを止めずに彼女の放った回復魔法に触れると…。
「ん? …ぐはっ!? う、うあぁぁぁぁぁぁ!」
突然、吐血したと思ったら、体中にダメージを受け始めた。
「何…が、起きたん、だ? ぐっ!」
僕は突然襲ってきたいた痛みに混乱しているけど、そうしている間もどんどんダメージを受けているみたいだ。仕組みは解らないけど、原因はさっきの回復魔法で間違いないと思う。
「ちっ、くしょう!」
「うっ」
突然のダメージの原因が彼女の魔法だと判断した僕は、彼女との距離を一気に詰めて、彼女のお腹に一撃入れて意識を奪う。彼女が意識を失うと、謎のダメージも無くなったので、予想通りだったんだと思う。
「とりあえず、これからこの人どうしよう…」
このまま放置ってのはなんか良心が痛むし、かといって目が覚めたらまた襲われると思うし…
「あっ! そうだ!」
僕は思いついた方法をさっそく実行する事にした。
「『ここに奴隷の契約を結ぶ』」
よし。これで、彼女が目を覚ましても襲われる心配はなくなったぞ。あとは裸のままじゃあれだし、何か掛けるとしよう。
僕は彼女に自分の服を掛けてあげた。
「それにしても、道を聞こうとしただけなのに、奴隷が増える事になるとは…。リンたちと合流した時の事を考えると憂鬱になるなぁ…」
ありがとうございました。