サキと魔法
今回はサキ視点です
リンスレットさんこと、リンさんに魔法を師事するようになりそろそろ一週間が経とうとしている。
あたしは未だに魔法を習得できていない。セシリアもまだ習得できていないけど、そちらは時間の問題っぽい。
セシリアがこれほど早く魔法を習得出来そうなのには理由がある。セシリアは元から妖術と言う魔法に近いスキルを持っていたから、この短期間で習得できそうになっているらしい。
あたしの方はそもそもの原因を取り除かないと魔法はおろか魔力を使うことすら出来ないんだよね…。訓練を始める前、ノゾム君に今のあたしの現状を聞いたところ、習得率96%になったそうだ。約二週間で10%上がったのが、早いのか遅いのかは、比較対照がないから判らないとも言われた。
そんなあたしのこの一週間の練習は朝からお昼までが精神統一で午後から夕方まで魔法の詠唱となっている。この練習だけど、午前の方はいいんだけど、午後の練習は、実を言うと恥ずかしい。練習を始めた頃は家の庭でやっていたんだけど、その練習を見たノゾム君に「チュウニクサイ」と言われた。意味は分からなかったけど、『臭い』って言うんだから、何か変な臭いでもしてたのかな?とか思うと、恥ずかしくなった。それからは午後の練習は町の外でひっそりと行っている。
今日もあたしは町の外に魔法の訓練をしに行く為、家から出掛けようとしたらセシリアと出くわした。
「サキさんはこ…れから、町の外、で練習ですか?」
セシリアはいつもの小動物系の雰囲気で話しかけてきた。彼女のくりっとしたタレ目や喋り方はとても庇護欲を誘う。あたしより1つ年上だけど、守ってあげたくなる。
「そうだよ。家だと、ノゾム君に何言われるか分からないからね」
あたしはそんな事を考えながらも、セシリアの質問に答える。
「私も一緒で…いいです、か?」
おや?セシリアが訓練で家から出るなんて、珍しい。
あたしたちと会うまでの生活のせいか、セシリアは対人恐怖症になってしまっていた。あたしたちと会話する分にはだいぶ自然と話せるようにはなったけど、あたしたち以外とは初めて会った時のような話し方になってしまう。だから、セシリアは自由の時間があっても、自分から家の外には出る事はなかった。
なのに、今日は自分から外に出ようとするとは、いったい何があったんだろう?
「別にいいよ。けど、いきなりどうして?普段は家で練習しているのに?」
「ノゾム様に…外の世界にも慣、れた方がいいって言われ…ました」
あらら。ノゾム君も何を考えているのか…。まぁ、最低限1人で生活できるようにしたいんだろうけど、ちょっと急ぎすぎな気がしないでもないんだけど。
理由を聞いたあたしはノゾム君に文句を言いに行くか迷っていたけど、セシリアの話はまだ終わってないようだ。
「それと焦ら、ないでゆっくり慣…れていければいいと、言ってくれましたが、ノゾム様にそのよ…うな心配を掛けた、くないので少しでも早…く外に慣れたいので、す」
どうやらノゾム君が、『ゆっくりでいいから外の世界に慣れるといい』と言ったのを、セシリアは心配をさせたくない一心で早く外に慣れようと思ったらしい。
「う~ん。そんなに急がない方がいいよ?急ぎすぎて、セシリアに何かあったら、そっちの方がノゾム君に心配を掛ける事になっちゃうよ?」
あたしがセシリアに忠告すると、とてもションボリしてしまった。
「ま、まぁ、それも今日の様子を見て決めればいいんじゃないかな?」
ションボリしたセシリアを見て慌ててフォローの言葉をセシリアに聞かせる。
その後、なんとか持ち直したセシリアと一緒に町の外へ行く。
「さて、今日はこの辺でいいかな?」
「サキさ、んは普段、どのように…午後の訓、練をしてい…るのですか?」
あたしたちは町から少し離れた見晴らしのいい草原に来ていた。そこで、セシリアから普段の訓練に関する質問された。
「あたしは遠くにいる魔物にむかって詠唱するだけだよ?発動すればラッキー程度にしか思ってないからね。セシリアは?」
「私は魔、力を各属性、に変換する…訓練で、す」
「へぇ~、本来はそういう事やるんだ。それで、今はどんな感じ?」
「火の属性変…換はもう少しで、出来そうな気がし、ます。それ以外はま…だ何とも言えな、いです」
もう少しで魔法が使えるようになるのか…。羨ましいなぁ。
「そっか。それじゃあ、訓練始めようか」
お互いの訓練内容を話したところで、あたしたちは今日の訓練を開始する事にする。
と、言っても、あたしの場合は魔物に成功もしない魔法の詠唱をするだけだから、魔法の訓練と言うよりは、詠唱の失敗気付いた魔物を退治するのがメインに思えるけど…。
さて、今日の訓練の成果は…
ゴブリン5匹、ウルフ3匹、オーク1匹、スライム3匹…
え?魔法?そんなの言わずもがな成功なんて一度もしないですよ。もう成功に期待もしてもないから、最近ではただのレベル上げの時間になってるような気がする。
「そろそろ日も落ちそうだから、今日の訓練は終わりかな?っと、あそこにいるのはゴブリンか。今日はあれで終わりにして、町に戻ろっと」
今日も訓練の成果が出ないまま、一日が終わろうとしていたけど、魔物が見えたのでそれを今日最後の的にする事にした。
「セシリア~。そろそろ帰る準備しておいてね~」
「分かりっました!」
セシリアから大きな声の返事が返ってきた。それを聞いたあたしは早速、ゴブリンに向けて詠唱を開始する。
「どうせ失敗するし火魔法でいっか。火よ敵を燃やせ!『ファイアボール』!」
失敗前提で手のひらをゴブリン向けて、詠唱を唱え終えると…
ボンッ!
あたしの手から火の玉が発生し、その火の玉はゴブリンに命中してゴブリンがこちらに気付いた。
「は?え?えぇぇ?」
ゴブリンがこちらに向かってくる事よりもあたしは今の現象に混乱していた。
「わ、ちょっ!ちょっ!」
混乱しているあたしにゴブリンは容赦なく襲ってくる。あたしはそれを何とか回避して、体勢を直そうとするも、冷静になろうとすればするほど、冷静になれなかった。
「はっ!」
あたしを襲うゴブリンの首が急に宙を舞った。
どうやら、駆けつけたセシリアがゴブリンを倒したみたい。
「あ、ありがとう。セシリア」
「いえ。そ、それよりサキさ、ん?さっきのは?」
「え、えっと…ま、ほう?」
セシリアは先ほどの事について聞いてきたけど、あたしも明確には答えられず、疑問系で答える。
「とりあえず、家に帰ってノゾム君に観察してもらうのが一番早いかな?」
「分かりまし、た」
そうしてあたしとセシリアは急いでノゾム君の待つ家へと帰った。
「ノゾム君!ノゾム君!ちょっとキミのスキルであたしのステータスを視て!」
あたしは家に帰るなりノゾム君に詰め寄る。
「ちょっと待って!いったい何があったの?」
ノゾム君はいきなりあたしに詰め寄られて、ビックリしていた。なのであたしは事の顛末を説明した。
「なるほど、そう言う事ならちょっと待ってくれ。…えっと、サキ?マイナススキルなくなって…る、よ?」
「ほ、んとう…に?」
「うん、代わりに火魔法が習得出来てるよ」
「う、う、うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
あたしはノゾム君に魔法が習得出来ていると聞かされて、何か張り詰めていたモノが切れて、泣き出してしまって気付いたら泣き疲れて眠ってしまったらしい。起きたら自室だった。
後日談として、セシリアも同じ日に火魔法を習得していたらし。
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