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異世界で人間辞めました  作者: つばき
3.5章
32/133

ノゾムのいないところで

ここからは日常編だと思ってください。

今回はリン視点です。




 キースとか言う貴族との模擬戦で勝ち越し、ターニンの街に家を買ってから一週間が過ぎた。

 この一週間、私たちに特別な出来事はなく、家での生活に必要な物を揃えたり、私やノゾムは個人で依頼をこなしたして、過ごしていた。ちなみにサキさんは、普通の生活に慣れていないセシリアの為にこの一週間、つきっきりで手助けしていた。


 今日は女性三人で簡単な討伐系の依頼を受けていた。

 理由は、この一週間でセシリアにだいぶ肉が付いて、年相応の体つきになってきたので、少しずつ魔物と戦っていく事になったからだ。

 だけど、この場にノゾムはいない。あのキースとか言う貴族の所に行ってしまったのだ。

 確か、貴族なら国の動きを把握している可能性があるから情報収集してくると言っていたかな?多分、魔族の事やあの勇者の事を少しでも耳に入れておきたいんだと思う。



 「魔物、です。ウルフが…五匹で、す」


 ノゾムの事を考えて、ぼんやりしていた私を現実に引き戻したのは、セシリアが魔物を発見したと、教えてくれた声だった。

 セシリアは以前より、しっかり話せるようになっていた。怒られるのを恐れて途切れ途切れしか話せなかった一週間前と比べるとその差がハッキリと分かる。


 「りょーかい。それじゃあ、セシリアが一匹で、残りはあたしとリンスレットさんで残りを相手しましょうか」


 「はい!」


 「いいですよ」


 サキさんからの指示に元気よく返事をするセシリア。普段から出ている小動物系の雰囲気もなりを潜めている。それにセシリアの耳もピンとしているし、なによりも瞳からは、足を引っ張らないようにすると言う決意が見える。なので、私は「気負いすぎないようにね」と、セシリアの頭を撫でてあげた。すると、セシリアは気持ち良さそうに目を細めてくれた。セシリアの気持ち良さそうにしている姿はホント可愛い。

 私がセシリアの頭を撫でながら、そんな事を考えていると、何だか視線を感じた。


 「…?」


 「っ!!」


 振り向いてみると、サキさんと目があったけど、そらされてしまった。いったい何だったんだろう?


 サキさんの事はひとまず置いて、ウルフの方に集中することにする。いくら最弱の魔物でも油断していると、足元をすくわれるかもしれないしね。


 「『ファイアボール』」


 まず、私が牽制にファイアボールを放つ。ウルフたちは散開し、これを避ける。さらにファイアボールを放ち、セシリアに一匹だけ行くように誘導する。


 「リンスレットさん、そろそろこちらにも来ますよ」


 「分かりました」


 サキさんがウルフの接近を教えてくれたので、魔法での誘導を止めて、接近するウルフに集中する事にする。誘導は上手くいったので、セシリアに一匹で、残り四匹は私とサキさんの方に向かってきた。

 

 今の私の目標は近接戦闘のスキル習得で、その為に杖で戦闘を行い棒術習得に励んでいる。

 こちらに向かってくるウルフのうち、二匹は私を挟撃するのが目的らしく左右から接近している。ウルフたちはほぼ同時に私に飛び掛ってくる。私はそれをよく見て最小限の動きでかわす。そして、先に着地するウルフの胴に杖での一撃を与える。


 「ギャイン!」


 一撃を貰ったウルフはそのまま吹き飛ばされる。私は吹き飛ばしたウルフが体勢を立て直す前に、もう一匹の方へ駆け出す。もう一匹は、着地と同時に駆け出して距離をとろうとするけど、その前に私が追いつき、杖で足払いして転ばせる。そして立ち上がる前に、顔を打ち抜き、喉を突き、胴になぎ払いを入れると動かなくなるので倒したようだ。

 最初に吹き飛ばしたウルフを見ると、仲間をやられた事で怒りをあらわにし突っ込んできた。だけど、最初の一撃が効いているのか最初ほど早くもないので、わざわざ避けないで、突っ込んできた勢いを利用して打ち返した。杖が顔面を捉えて、再度ウルフを吹き飛ばす。そのまま動かなくなるので、どうやら倒したようだ。


 私は自分の戦闘が終わったので、周囲を見渡してみる。2人とも問題なくウルフとの戦闘を終わらせていた。私は自分が倒したウルフの魔石の回収と素材を剥ぎ取りアイテムボックスへ入れて、2人と合流する。


 「お疲れ様。サキさんはもちろん、セシリアも問題なく倒せたようね」


 「当然です」 


 「はい!」


 そう答える2人から魔石と素材を受け取りアイテムボックスへしまう。


 「…やっぱり、魔法が使えるようになりたいなぁ」


 私が2人から受け取った物をしまっているとサキさんがボソリと呟いた。


 「…サキさん?」


 「えっ?あっ!いや、何でもないです!」


 サキさんはそう言ってうつむいてしまった。

 薄々は感じていたけど、やっぱりサキさんと私の間には遠慮と言う名の壁が出来てしまっている。原因はサキさんと初めて出逢った時の私の態度だと思う。あの時は私をのけ者にして話をしていた2人に、ちょっとムッとしてあんな態度をとってしまったけど、まさか、それがここまで影響するなんて思ってなかったなぁ。

 そんな事を思いながらも、その後も何回か戦闘を繰り返し、依頼の素材集めを進めた。




 「依頼の素材も集まったし、今日は終わりにしましょうか」


 「そうですね」


 「分かりま、した」


 2人に声を掛け、帰りの支度をして、町の方へ歩き始める。


 「セシリアは今日一日動き回って大丈夫たった?」


 「はい。少し体が、重く感じま…したが、問題はあり、ませんでした」


 私はセシリアの体力が心配になったので、本人に聞いてみると、腕をぐるぐると回しながら答えてくれた。


 「それは、肉がついたせいね。そのうち慣れるから、今は気にしない方がいいわよ」


 そう言って私はセシリアの頭を撫でる。すると、サキさんから視線を感じる。


 「サキさん?どうしたんですか?」


 「な、何でもないです!」


 サキさんに話しかけると、何でもないと言われ視線を外された。

 やっぱり壁が邪魔して言いたい事も言えないのか…。





 「………決めた!」


 私はサキさんとの間にある壁を取り払う事にした。サキさんと出逢って、まだ一ヶ月も経っていないけど、サキさんは信用しても大丈夫だと思っている。なのに、今まで踏み込めなかったのは、タイミングがなかったのと、私にその勇気が無かっただけだ。


 「サキさん!」


 「な、なんですか!?」


 私が気合の入った声でサキさんに話しかけると、サキさんは驚きながらも返事をしてくれた。


 「…そろそろお互いに遠慮するのはやめにしませんか?…じゃなくて、やめにしない?」


 「………」


 サキさんは黙ってしまった。


 「サキさんとの最初の出逢った時の私の態度のせいで、今までお互いに一歩引いた距離で接してきたけど、これからも一緒に生活するのに、言いたい事も言えないのはお互いにかなりキツイと思うの。だから、これからはそういう遠慮は無しにしましょう?えっと…サキ?」


 サキさ…。サキが黙ってしまったので、私は言いたい事を全部言ってしまった。


 「……い」


 「え?」


 「ずるいって言ったの!セシリアばかり褒められてずるいって言ったの!あたしだって、ウルフ相手だったけどちゃんと倒したのしたのに、セシリアばかり撫でられてずるい!」


 サキは一気に捲し立てると頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。しかしその頬は真っ赤に染まっている。たぶん思っている事を口にして恥ずかしいんだと思う。


 「そっか、ごめんね」


 そう謝りながら、サキの頭を撫でる。

 私はサキの拗ねた姿を見て、彼女がこの中で一番年下なのを思い出した。


 「セシリアも私に遠慮なんかしないで、言いたい事があったらどんどん言ってね」


 「いいんです…か?」


 「もちろん。だって私たちは仲間なんだから」


 私はサキの頭を撫でながらセシリアにも遠慮は無用だと伝えた。


 「わ、分かりま…した。リンさん」


 彼女は戸惑いながらも私のお願いに応えてくれた。


 「あの、リンさん?」


 不意にサキから呼びかけられた。


 「どうしたの?」


 「…いつまで撫でているの?そろそろ恥ずかしいんだけど」


 「あぁ!ゴメンね」


 私はサキに言われて、撫でている事を思い出して手をどける。


 「…あと、家に戻ったら魔法の練習に付き合ってくれないかな?」


 サキは俯きながら小さな声でお願いしてくる。


 「いいわよ。確か、ノゾムの話だと、もう少しでマイナススキルを無くせるらしいから頑張ろう。…そうだ!セシリアも一緒に魔法の練習する?」


 「いい、んですか?」

 「もちろんいいわよ。どちらが先に魔法を使えるようになるか競争でもする?」


 競争と聞いて2人とも、お互いの事を見る。そして…


 「負けないよ、セシリア!」


 「私も負けな、いです!」


 2人ともやる気は十分のようだ。さて、それじゃあ、どんな手順で教えるか家に帰るまでに考えますか。

 ノゾムがいない所で私たちは少しだけ絆を深めた。私はノゾムがいなくて良かったと少しだけ思ってしまった。

ありがとうございました。

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