神様とチート
「はい、神を務めていますが?」
なんと、僕に水をぶっ掛けてきた目の前も女性は神様らしい。
見た目は年上のお姉さんで、黒髪のサラサラのロングだ。
瞳も黒でどう見ても日本人にしか見えない。
身長は165cmの僕より少し高いから170cm近いだろうか?
雰囲気は大人特有の達観したような感じのする落ち着いた雰囲気をかもしだしている。
ただそんな大人の雰囲気も、手に持っているバケツで人の顔面に水をぶっかけてきたのだと思うと、いろいろと台無しだ。
しかも、周りをみると神様の足下にはバケツがもう5~6個あるんだけど、いつ用意したんだろう?
たしか、あの独り言から水を掛けるまでの時間はノータイムに近かったはずだけど…。水のことは置いとくとしても、ここはどこなんだろう? それに目の前の女性はホントに神様? う~ん…聞いてみるしかなさそうかな?
「えっと神…」
「ストップ」
「どうしたんですか?」
僕は神様に話しかけた瞬間に話を止められてしまい、内心びくびくしながら神様に声をかけてみた。
「アイラです」
「はい?」
「私の名前はアイラです。確かに神と言う仕事はしていますが、私は人間に『神様』と呼ばせて悦に入っているクソ野郎とは違いますのでアイラと呼んでください。あと『様』付けは無しの方向でお願いします」
…なんか途中に誰かに対する暴言が聞こえたのは気のせいって事にしておこう。
神様って職業も大変なんだなぁと僕は思った。
「そ、それじゃあアイラさん、質問なんですが、ここはどこで、あなたはホントに神様なんですか?」
ここは特に何かあるわけではない。むしろ何もないと言ってもいいぐらい何もない。ただ当たり一面真っ白なだけ。それに、アイラさんは見た目が日本人すぎて神様に全然見えない。
「まぁ、いきなり『神様』が、目の前にいるって言われても、信じられないですよね。しかし、あまり時間も無いようなのでそこは飲み込んでください」
「…とりあえず、飲み込む事にするんでそれを降ろしてもらってもいいですか?」
この人話進める為とはいえ、何て事をしようとするんだ! …しかし、時間が無いってどうゆうことだろう?
そう思っていたら、アイラさんはその理由と、先ほどのもう一つの質問に対する答えの両方について、話し始めた。
「まず、最初にあなたの質問に答えましょう。ここは私が作った空間になります。あなたは別世界に召喚されたのですが、そちらに行く前に運よくここに召喚されたのです。
次に時間が無い理由ですが、本来ここに召喚される事はイレギュラーな事なのです。ですので、本来の召喚先へと送ろうとする力がもう暫くしたら働くはずなのです」
また『運』関連でしたか…。
「私がここを作ってから初めてここに召喚されたのがあなたです。ですので、プレゼントとして召喚先の世界で役に立つ物をあなたにあげようと思います」
「役立つ?」
「召喚先は、あなたが元いた世界とは違い、命が軽い世界です。元の世界より、身体能力が強化されるとはいえ、異界人でも1歩間違えれば簡単に死んでしまうそんな世界です。そこでプレゼントです」
「いやいや、そんな世界で役立つものより、元の世界に還してくれる方が、僕にとっては最高のプレゼントなんですが!!」
「それは出来ません。あちらの世界に召喚術を伝えたのが私より高位の神なので下位の神はそれを無かった事は出来ないのです。せいぜい出来るのは、こうやってわずかな時間干渉するだけです」
神様にも上下関係があるんだ。ならこの空間から元の世界に帰るのは諦めるしかないか…
「じゃあ、それは今は諦めます。ちなみに召喚先から元の世界に帰ることは出来るんですか?」
そう質問したら、アイラさんは視線を僕から少し外しながら答えてくれた。
「出来るかもしれないけど、可能性は無いに等しいです。召喚術を伝えた神が異世界人に希望を見出させる為に召喚術と一緒に送還術も伝えたと言っていたような気もします」
それを聞いて僕は、なんとなくだけど、アイラさんが嘘をついたような気がした。けど、あえてそれを追求せず話を進める。時間が無いのは本当のようだし。
「それなら、先ほど言っていた『プレゼント』って何を貰えるんですか?」
「私は魔力を司る神ですが、神の位が下級の為、魔力以外にあげれるものは無いのです」
「魔力? ですか。魔力って、ゲームで魔法を使うのに必要になる魔力の事であってますか?」
「その魔力で間違いないですよ。とりあえず、どれだけ受け取ったかは、あちらで確認してください」
アイラさんは悲痛な表情で指を鳴らすと僕は光に包まれた。光が収まると同時に僕の足元から光があふれ出した。
その光を見て、僕はアイラさんが言っていた、『時間』が来たんだろうと思い、アイラさんを見た。
そこで見たのはとても申し訳なさそうにうつむいている。
そんなアイラさんを見た瞬間、最初から思っていた事を言わないといけないような気がして、気が付くと、自然とアイラさんに喋りかけていた。
「アイラさん、僕、佐伯 望っていいます」
「えっ?」
何を言ってるんだろうって顔をしながらアイラさんはうつむいていた顔を上げてくれた。
「だって、アイラさんってずっと、僕のことを『あなた』って呼んでいたし名前も聞いてこなかったので」
僕に呼び方の事で指摘され、アイラさんはまた悲痛な表情になり搾り出すような声で話そうとする。
「それは…」
「『それは、私があなたを利用しようとしているから名前を知る必要は無い』ですか?」
僕はそれに被せるように台詞を奪う。アイラさんは酷く驚いている。その様子を見て手短に説明する。
「アイラさんはこの空間を『作った』と言いました。あと下位の神には『召喚を無かった事は出来ない』と、そうなるとここを作った理由は、ここで能力を与えてでも、向こうでやって欲しいことがあるって事しか思えないんですよ」
アイラさんは相変わらず驚いたままだ。
「善意って可能性も考えましたが、それなら最初に僕を起こす意味が無いですしね。話の途中からアイラさん、ずっと悲痛な顔してるんです。なので…」
そこまで聞いてアイラさんは悲痛な表情で僕に頭を下げた。それを見て僕は慌てて止めさせた。
「ちょっと、頭をあげてくださいよ、僕は、別に利用されてもいいと思ったんですから」
アイラさんは再び驚いた顔になり僕を見た。
「なぜです?」
「短い時間でしたが、話をして、アイラさんが僕に悪いことをさせようする人には、見えなかったのと、アイラさんの悲痛な表情を見てそんな表情にさせていたくなかったのが理由です」
それを聞いてアイラさんは唖然とし、僕が本気で言っている事が伝わったのか、次第に笑顔になり、そして…
「ぷっ、あはははははっ」
吹き出して笑い出した。
「ははは、あー、はは、望くんって面白いですね。そんな望君には、特別サービスで『観察』ってスキルもあげます」
「えっ?」
笑い出したアイラさんに、驚いていた僕が『特別サービス』の言葉で、さらに驚いているが、アイラさんは構わず話を続ける。
「『観察』のスキル自体は、あちらでは少し珍しいぐらいのスキルですが、望くんにあげたのは特別製で、隠しスキルなどの普通は視えない事まで視えるものです。こちらもあとで自分にでも使って確認してみてください」
アイラさんの説明が終わると僕の足元の光が強くなり始める。アイラさんはそれを見て再び頭を下げ謝罪してきた。
「ごめんなさい、望くん。私は、私の目的の為にこの空間を作り、ここに召喚された人を、目的の為に利用するつもりでした。しかし、ここに召喚されたのが、望くんで良かったです。利用しようとした私が、言うのもなんですが、ここでの事は忘れてあちらでは自由に生きてください」
アイラさんの謝罪と願いを聞いた僕は…
「嫌です。ここでの事は忘れません」
「そう…ですか。…それなら、この先何があっても生き抜いて下さい」
問答している時間が無いのを理解しているのか、アイラさんはやけに素直に引き下がった。
「望くん、それではお別れです。また会えたら会いましょう」
そう言って、どこからか取り出したバットを構えるアイラさん。
「あの~、なんでバットを構えているのでしょうか?」
僕が質問するとアイラさんは笑顔でこう答えた。
「望くんってここに来た時は気を失っていたじゃないですか? ですので、召喚先で一緒に召喚された人たちに怪しまれない為にも、もう一度、同じ状態になっていただこうかと…」
「ちょ、ちょとm」
「えーーーい」
またもや言ってからノータイムで行動に移すから、僕の台詞が強制キャンセルされる。後頭部に衝撃が走った事により、一瞬で僕の背後に移動しバットを振りぬいたんだと思いながら、僕の意識はまた闇に沈んでいく。
沈んでいく意識の中、アイラさんの「これで忘れるかな?」とか言う呟きが聞こえたが、なるほど、先ほどあっさり引き下がったのはこれで記憶を飛ばすつもりだったのか。
僕は絶対に次会ったら、仕返ししてやると誓い、完全に意識を手放した。
次回はチート能力と望のステータス公開です。