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魔族の真実とサキの事情




 盗賊の根城の牢屋にいたサキと言う魔族に盗賊との戦闘を任せる事にした僕たちは、彼女に武器を渡して牢屋を出て最初の広い部屋に向かった。


 「それでノゾム、盗賊はどれぐらいいそうなの?」


 リンは僕が感知出来るのを知っているから、敵の人数を聞いてきた。


 「えっと、20人ぐらいかな?」


 「だそうですけど、サキさん大丈夫です?」


 「相手のレベルにもよるだろうけど、多分大丈夫かな?」


 サキは見栄を張っているわけでもなくそう言った。お手並み拝見といきますか。



 僕が先頭で広い部屋まで案内すると、部屋では盗賊たちが死んでいる仲間を見て騒いでいた。


 「エンダとヴェンがやられてるぞ! それにシークがいねぇ! もしかしてあいつあの女を独り占めするつもりか!」


 「あいつが裏切るはずねぇだろ!」


 「けどよぉ」


 「そこまで言うなら誰か牢屋見てこいや!!」



 騒いでる盗賊たちがこっちに来ないうちに鑑定をしておくか。ん~。めぼしいスキル持ちのヤツはいないなぁ…。


 「サキ、盗賊の頭がレベル8でそれ以外は3~5だよ」


 「りょーかい。それじゃあ行ってくるね」


 サキはまるで散歩にでも行ってくる感じで部屋に入っていった。


 「こんにちわ」


 「誰だ!」


 「お頭、あいつは今朝拾ってきた女だ!」


 「だったら、なんでここにいるんだよ!」


 「あたしがどうしてここにいるか、あなたたちは知らなくていいんです。あたしの憂さ晴らしとついでにご主人様のお願いの為にあなたたちを無力化します。って事だけを知っていればいいんです」


 サキは盗賊たちに極上の笑みを向けながら敵対する意思を示した。


 「も、もしかして、エンダたちをやったのもあの女じゃ?」


 「そうなると、あいつの言うご主人様って言うのはやっぱりシークが…」


 「お前たち! んな事はどうだっていいんだよ。今はあの女と捕まえる方が先だ! 決して殺すなよ!」


 盗賊のお頭が部下に命令を下すと下っ端たちはサキに襲い掛かり始めた。


 「ぐぅっ!」


 「ぎゃっ!」


 「がはっ!」


 「っ!」


 下っ端たちが襲い掛かり始めた一瞬でサキは距離を詰めて先頭4人の鳩尾を剣の柄で強打し沈めた。そして意識が戻っても抵抗できないように手足を斬りつけていた。


 「お、おい。今何があった?」


 「わ、わからねぇよ。気付いたらあいつらやられていた」


 「こいつ、女の癖につえぇ」


 いきなり4人やられた事で下っ端たちも無闇に突っ込むのを止めてサキを距離を取りながら取り囲むように動き始めた。だけどサキも黙って取り囲まれるのを待ってはいない。最初に見せた相手との距離を一瞬で詰める移動方法を使い、再び下っ端との距離を詰めると今度は意識を奪わずに横一閃に剣を振るった。


 「ぎいやああああ」


 「う、腕がああああ」


 正面にいた2~3人の腕が宙を舞った。そこからはサキの一方的な蹂躙になった。それもそうだろう。わずか10秒足らずで7人ほど倒されたのだ。しかも相手が何をしたのか全く分かっていない。お頭も顔が引きつっていた。あの顔はサキの動きが見えてはいたようだ。その上実力の差が分かったようだ。その証拠にお頭は下っ端たちが逃げ始めたのに乗じて我先に逃げ始めた。

 戦闘を放棄した盗賊たちだけど、サキは容赦なく八つ当たりして全員を剣術だけで倒してしまった。

 


 八つ当たり(戦闘)を終えたサキは多少すっきりした顔で戻ってきた。


 「ご主人様、お願いされた通り全員無力化で留めました」


 「わざわざご主人様って言わないで。ノゾムでいいってば」


 サキはからかうような笑みを浮かべながら僕をご主人様と呼んできた。


 「それでこの盗賊たちはどうするの?」


 「それなんだけど、これから見る事は他言無用で。申し訳ないけど、これは『命令』だ」


 「えっ? 何で? いきなりどうしたの?」


 いきなり命令されてビックリしているサキを尻目に僕は用事(吸血)を済ませる為に盗賊たちに近寄っていった。


 「こんにちは。盗賊の皆さん。僕は先ほど皆さんをボコボコにした女の子の主人で冒険者をしているノゾムと言います。もう会うことも無いので覚えなくてもいいですよ」


 「ってことは、てめぇがヴェンたちを!!」


 「はい。けど安心して下さい。皆さんもすぐ会えますよ。地獄あたりで」


 死刑宣告をされて騒ぎ始める盗賊たちを無視して僕は吸血でスキルを奪った。

 スキルを奪い終わったらあとはリンの出番だ。僕は吸血した相手からは経験値が手に入らないので、トドメはリンが刺した方がレベル上げの為にもいいだろうと話し合って決めていた。僕は反対したんだけど、リンが「ノゾムはスキル、私はレベルを上げないと!」と譲らなかったので、結局僕が折れることになった。

 そうして盗賊たちの処理を終えたので、手分けしてステータスカードを回収して、死体を燃やして一段落ついたところでサキから魔族の情報を得るための話をする事にした。サキにしても吸血の事を聞きたそうにしている。



 「それで、魔族は今何を目的にこの大陸で活動しているの?やっぱり世界を滅ぼす為?」


 「そんなの、あたしには分からないわよ」


 「分からないってそれはサキが下級魔族だから知らされていないって事?」


 「何それ? 下級? 魔族に階級なんて存在しないわよ。それにさっき言った世界を滅ぼすだって、そんな事をして魔族に何のメリットがあるの?」


 なんか聞いていた魔族とは違うような気がするんだけど…。

 そう思っていたら話を聞いていたリンがサキに詰め寄っていた。


 「サキさん! そんなデタラメで誤魔化せると思っているの? 魔族は世界を滅ぼす為に生きている種族で侵略以外でこの大陸にいるわけがない。これが世界の常識よ! 子供でも知っている事よ」


 「リンスレットさん、それは間違った常識です。魔族をそんな風に仕立て上げたのはあなたたち人間なんだから」


 「サキ、それはどういう事なの?」


 僕はサキの言ったことが本当か見極めるためにリンに包帯を外すように合図をしてサキの話の続きを聞くことにした。リンも僕の合図に気付いて包帯を外した。サキはリンが包帯を外した事に疑問をもっていたけど、僕は話を進めさせた。


 「そもそも、あたしたち魔族には、あなたたちと同じヒト族の血が流れているって知ってる?」


 「「っ!!」」


 「その驚きようだと知らないようね。魔族は簡単に言うと、エルフとヒトのハーフなの」


 「それってハーフエルフとは違うの?」


 僕はエルフとヒトのハーフと聞いて一番に思いつくであろう事とは違うのか聞いてみる。


 「違うわ。ハーフエルフは混血だけど、ほとんどエルフと変らない。だけど魔族は違うの。まず寿命がヒトと同じなのよ。それに必ず褐色肌で黒髪と黒い瞳で生まれてくるの。エルフから受け継いだ物は魔力と魔法の才能だけ」


 「けどそれならサキは…。」


 褐色肌が魔族の証みたいなものならサキの白い肌は何なんだ?


 「ごめんなさい。今は魔族の説明が先でいい? 終わったら説明するから…」


 「こっちこそゴメン。話の続きをお願い」


 サキは僕の質問でとても辛そうな表情になってしまった。僕は謝りはしたけど、サキの表情は変らないまま説明を再開した。


 「…遥か昔、魔族はこちらの大陸で生活していたんだけど、魔族の魔力の高さと魔法の才能に嫉妬したヒト族の貴族や王族に罪をでっち上げられて、大陸を追われたそうよ」


 「そもそもなんで貴族や王族は魔族に嫉妬したの?」


 「言い伝えだと、自分たちと同じヒトの血が流れているのに自分たちの方が劣っているのが許せなかったらしいわ」


 さすが王族と貴族だ。プライドだけは無駄に高いんだから。


 「そして、魔族は今の大陸に移ったんだけど、そこには先住民がいたの。そう魔人が」


 「魔人?」


 「あなたたちヒト族風に言えば、上級魔族よ。あいつらは、魔族とほとんど変らない外見をしていたけど、中身はまるで違った。高い身体能力を持っていて破壊衝動の塊なの。今の時代に『魔族は世界の破壊が目的』と言われているのは魔人のせいで間違いないわ」


 「なんで魔人のせいなの?」


 「そんな魔人に魔族が使われているからよ。魔族が大陸を追われて行き着いた大陸は魔人の大陸だった。魔族は魔人に敵うはずもなく、魔族は魔人の奴隷となって今の時代まで生き延びてきたのよ。そして魔人に使われ人に牙を向けるようになった。これが簡単に説明した魔族の歴史よ」


 「つまり今の話を聞く限り、最初の質問の正確な答えは、『魔族は魔人の奴隷だからどんな目的があってこの大陸で活動しているかは奴隷のあたしには分からない。』って事?」


 「そうね。その解釈で間違いないわ」


 どうせ行き着く先は世界の破壊で間違いはないんだろうけど、計画の詳細が分からないのは痛いな。結局他の魔族が何故僕たちを追っているのかも理由は知らないらしいし。

 とりあえず僕は、サキの話が本当か最終確認をする為、リンの方を見ると、彼女は軽く頷くだけだった。どうやら全て本当らしい。そうなると1つ疑問が出てきたのでサキに聞いてみた。


 「魔族は魔人の奴隷なのに、なんで僕はサキと奴隷契約できたの?」


 「それは奴隷と言っても契約はしていないの。仮に魔人を裏切っても魔族が1人で生きていくにはこの世界は厳しいわ。…魔族についてはこんなものぐらいかな。他に魔族について聞きたいことある?」


 「魔族については大丈夫かな? だから、後回しにしたサキの肌が白い事の説明をお願いしたいかな?」


 「…先ほどの戦闘で何か違和感を覚えなかった?」


 いきなり話が飛んだような気がするけど、無関係な事ではないんだと思う。だってサキの顔は真剣な表情だから。

 それにしても、違和感? さっきの戦闘は全て剣しか使ってなかったけ、ど…?


 「もしかして…。剣だけしか使わなかったのに理由があるの?」


 「正確には剣『だけ』しか使えないの。あたしは魔力があるのに魔力が使えないの…」


 「魔力が使えない事と白い肌の関係は?」


 「昔から稀に生まれる肌の白い魔族は忌み子とされているの。理由はあたしのように魔力が使えないから」


 「じゃあサキが剣を使えるようになったのは…」


 「そうしなければ、簡単に死んじゃうから。死にたくないから必死に訓練したの」


 そうだったのか。サキも自分ではどうする事も出来ないモノに振り回されて生きてきたのか…。


 「ついでに聞くけど、なんでボロボロだったの?」


 「あなたたちが倒したという、オーガ改造種を指定の場所まで連れて行く任務のせいでなったの」


 「なんで!?」


 「あれは大人しく檻に入っているようなのではないから、あたしが囮になって誘導していたの。だけど、その途中で当のオーガにやられてしまった上に、オーガを見失ってしまったの。オーガは山岳地帯に住んでるのがほとんどだから、もしかしてと思ってこの辺りに来たんだけど、そこで力尽きたの。つまりあの傷はオーガにやられたものよ」


 「囮って…もしかして1人で?」


 「しょうがないのよ。忌み子の使い道なんてそんな危険な任務しかないんだから。それにもしかしなくても1人だよ。忌み子はあたししかいないから」


 忌み子だからっていうのはおかしいだろ。どの世界でもヒトと少し違うだけでなんでこんなにも酷い扱いを受けないといけないんだ?


 「ありがとう。まさかヒト族が魔族の忌み子にそんな顔をしてくれるとは思わなかった」


 サキは僕が自分の事で憤っているのが分かったらしくお礼を言ってきた。


 「種族なんて関係ないよ。サキが不当な扱いを受けているから怒っているだけだよ」


 「なんで? なんで会って間もないあたしの事でそんなに怒れるの?」


 サキはとても不思議そうなそれでいて、今まで我慢していたものを吐き出すかのような泣きそうな顔で僕に問い掛ける。


 「サキが悪いことを何もしていないのに、自分ではどうする事も出来ないことを理由に不当な扱いを受けているから」


 「…まさか、そんな当たり前の事を言ってくれる人がいるなんて思わなかった。…やっぱりあなたは面白い人だね」


 サキは僕から怒っている理由を聞くと、さっきとはうってかわって、とても嬉しそうな笑みを浮かべた。


 

魔族の設定は作者の妄想です。

ハーフエルフがいるんだからヒトよりのハーフがいてもいいだろうと思って作りました。

ご都合主義だと思って見逃してくれるとありがたいです。


キリが悪いように思いますが思ったより長くなったので急遽2つに分ける為にここできりました。なので今回の話はもうちょっと続きます。

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