奴隷
風邪ひいて遅くなりなした。
皆さんも風邪には気を付けて下さい。
この話から第3章の始まりです。
ステータスのHPとMPの表記を修正しました。
奴隷契約の条件が緩いとご指摘があったので仕様を少々変更しました。
イーベの町を出てから1週間が経っていた。
僕たちはまだターニンの町に着いてはいない。理由はイーベの町で秘密裏に受けた依頼にあった。
本来ならターニンに着くまでの間に寄る町はイーベの町を入れても2つぐらいで問題なく着けるのだけど、イーベの町で受けた依頼が『イーベからターニンの間にある町全てに魔人を目撃した事を伝えて欲しい。』だったので、本来寄るはずのない町にまで立ち寄っている。ちなみにこれから行く所で3つ目の町だ。イーベの町を出る時に渡された地図だとこの3つ目の町がターニンに着くまでに寄る最後の町でもある。
「ねぇノゾム、この依頼受けてみない?」
僕がギルドの受付の人に魔人の報告をしている間に、依頼のボードを食い入るように見ていたリンはそう言って僕に依頼の紙を渡してくる。そんなリンの瞳には探し物がやっと見つかったと安堵するような感じだった。
「どれどれ? 盗賊の討伐? 推奨はBランクになっているけど?それにお金には困ってないじゃん?」
「確かにお金には困ってないけど、この先の事を考えると、ノゾムのスキル強化は早急にしておいた方がいいじゃない? それにノゾムには、人と戦う覚悟もしてもらわないとね」
確かにリンの言う通りかな? 今、魔人の事を伝え歩いているって事を魔族たちが調べたら、オーガの時に会った魔族が僕たちの事を伝える可能性が高い。そうすれば僕たちは魔人たちから狙われる事になる。オーガの時みたく手札が少なくて苦戦を強いられるかもしれない。それを避けるためにも、盗賊からスキルをいただいて手札不足を解消してしまおうって事か。そのついでに、魔族と戦った時に相手を斬る覚悟をも身につけてもらうって魂胆だろうな。僕はまだ人を斬った事ないし…。
「そう言う理由なら受けるしかないと思うんだけど…」
「それじゃあ、私が受注してくるわね」
そう言って受付に向かうリン。ちなみにイーベの町を出る前の考え込んでいたリンは町を出発してから次の町に着くまでには元に戻っていた。どうやら考え事の答えは出たらしい。
「それで、盗賊は何処に出没するんだって?」
依頼を受注した僕たちは早速盗賊討伐に出発していた。
「えっと、ギルドでの話だと、この町の南にある小さな山岳地帯で見かけるらしいわよ?」
「山かぁ…。あまり行ったことないけど大丈夫かな?」
「そういえば、私もそんなに行ったことないわね」
リンも山は経験が少ないのか。これはしっかりと警戒しておかないと不意打ちをくらいそうだ。
盗賊が目撃されている山岳地帯には町から歩いて3時間ほとで着いた。もちろん一般人の速度で、だ。
僕たちには索敵系のスキルが無いので不意打ちがないように警戒度をマックスにして山を登っていた。
捜索を開始してから2時間ほどで洞窟を1つ発見した。
「ノゾム、ここ怪しいよわね」
「そうだね。多分ここがアジトだと思うよ」
この洞窟は不自然なくらい隠されていた。隠されていたと言っても、物で隠されていたわけじゃなく、決まった道順で進まないと辿り着けない迷路のようなものだっただけだ。辿り着けたのは直感のスキルのお陰だと思う。
「見張りはいないみたいだけど、どうする?」
「う~ん、このまま進んでも大丈夫かな?なんとなくだけどね」
「ノゾムがそう言うならこのまま進みましょう」
洞窟の中も迷路みたいになっていた。しかし罠などの侵入者対策は全く無かった。10分ほど歩いてやっと広い部屋に出る所まで来た。部屋の中を覗くと部屋の広さや置いてあるテーブルや椅子の数に比べて人が全然いなかった。いるのは3人くらいだけど、うち2人は寝ていた。とりあえず観察して敵の戦力を分析してみた。
【名 前】 エンダ
【年 齢】 20
【種 族】 ヒト
【職 業】 盗賊
【レベル】 4
【H P】 331/331
【M P】 143/143
【筋 力】 163
【防御力】 132
【素早さ】 253
【命 中】 246
【賢 さ】 97
【 運 】 21
【スキル】
短剣術LV1 忍び足LV2
【名 前】 ヴェン
【年 齢】 19
【種 族】 ヒト
【職 業】 盗賊
【レベル】 3
【H P】 282/282
【M P】 102/102
【筋 力】 147
【防御力】 120
【素早さ】 207
【命 中】 186
【賢 さ】 82
【 運 】 30
【スキル】
剣術LV1 気配察知LV2
【名 前】 シーク
【年 齢】 36
【種 族】 ヒト
【職 業】 奴隷商人
【レベル】 5
【H P】 287/287
【M P】 197/197
【筋 力】 165
【防御力】 154
【素早さ】 143
【命 中】 124
【賢 さ】 100
【 運 】 35
【スキル】
奴隷契約 鑑定
「相手の強さには問題なさそうだよ?」
鑑定し終わった僕は結果をリンに報告した。彼女も結果を聞いて問題無しと判断したようだ。
「感知系が寝てるなんて運がいいわね」
「それは僕にとっては死亡フラグになるからあまり言わないで…」
「死亡フラ…グ?」
リンはコテンと首をかしげながら聞いてくる。そのしぐさが可愛いくて暫く見ていたくなるけど、いつ感知系の盗賊が起きるか分からないので誘惑を断ち切る。
「それについてはあとで説明するよ。それより、ここは僕が行った方がいいんだよね?」
「そうね。ただし、ノゾムのスキルアップの為にも最初は無力化よ」
「無力化はいいけど、吸血が終わったらどうするの?」
「ノゾムはどうしたい? 私的には殺してしまった方が色々と問題がなくなるからいいんだけど…」
殺すのか…。まぁ僕も1回殺されているし、この世界じゃ殺人はそこまで問題ないのかな?
「ちなみに殺した時のメリットとデメリットは?」
「メリットはノゾムのスキルがバレないのとあいつらを運ぶ手間が掛からない事かしら。デメリットは…特にないかしら? 盗賊の討伐証明は死んだ後に出るステータスカードだけでいいし」
「ん? 死んだ時にステータスカードって出てくるの?」
それが本当なら、リンが虐殺した盗賊たちのステータスカードも回収していれば良かったのに!
「ある程度原型が残っているのが条件よ。その上で死体に手を置いて『ステータスカード』と唱えないといけないの」
「それはあの時には出来ないわけだね」
あの時は原型残っている人いなかったし…。
「デメリットがないなら殺す方向で行こうかな?」
リンは特に何も言わず僕の事を見ていたので、行動を開始する事に。
改めて部屋を見ると、盗賊たちがいる部屋は隠れるところも無く、入り口から人が現れればすぐ分かる様になっている。
どうしようか考えたけど、良い作戦も浮かばないのでステータスの数値任せの力押しで行くことにした。
僕は剣を抜いて全力で駆け出した。起きていた盗賊まで一気に近づき右腕を斬り飛ばした。盗賊は何が起きたのか理解できていないのか、自分の腕を見てポカンとしている。その隙をついて足を斬りつけた。
「う、うぎゃああああぁぁぁぁっぁぁ」
流石に足を斬りつけられた事で痛みが脳に届いたらしく、声をあげてのた打ち回り始めた。
その声を聞いて残り2人の盗賊たちも飛び起きて辺りを見回していた。しかしその時にはすでに僕は次の行動に移っていた。もう1人の戦闘職だった盗賊の背後に回り足に剣を突き刺した。
「ぎゃああああ」
急に背後から足を刺され崩れ落ちた盗賊の両腕を斬りつけ無力化する。
残った奴隷商人の盗賊は僕が2人目を無力化した時にようやく僕を見つけて、短剣で斬りかかってこようとしていた。
僕はその攻撃を難なくかわし、両手両足を斬りつけて他の2人同様無力化した。
「リン、終わったからもうこっち来てもいいよ」
無力化した盗賊たちを縛り上げ部屋の外で待っていたリンに声を掛けた。
「終わったって言っても、吸血は済んでないじゃない。どうせならそっちも済ませちゃえばよかったのに」
「て、てめぇら、一体、何なんだよ!」
リンが部屋に入ってくると、腕を斬り落とされた盗賊が僕たちに叫んでいた。
「何って依頼で来ただけだよ? まぁ他にも用件はあるけど」
「い、依頼だぁ? お前ら2人で、か?」
「そうだけど?」
「なら、お前らの悪運もここまでだな。運よくお頭たちが出払っている時に来たようだけど、もうすぐお頭たちも帰ってくる。てめぇは多少腕が立つようだが、お頭たちには勝てないだろうよ」
やっぱり仲間がいるのか。それならさっさと吸血しておくか。
「それなら、さっさと用件を済ませて残りのヤツらに備えて準備しないと」
そう言って笑顔で近寄る僕に、盗賊たちは震えていた。
「それじゃあ、いただきます」
「う、うわああああああ」
盗賊たちの吸血が終わると僕は異変に気付いた。
奪ったスキルの中に気配察知があったお陰で周囲の気配が分かるようになった。範囲にして10~15mぐらいかな? そして、今いる場所から少し離れた所に1つ気配がある事に気が付く。
とりあえず、戦闘職の2人にトドメを刺して、奴隷商人の男を叩き起こす。人殺しは初めてだったけど、特に問題はなさそうだ。これもゴブリンのお陰なのかな?
「ひぃっ!」
男は2人が死んでいる事に気付き息をのんだ。
「ここにもう1人、人間がみたいだけど、どこにいる? そこまで案内しろ!」
僕は威圧のスキルを使いながら足を縛っていたロープを切った。
「こ、こちらです」
僕たちは男に案内させたどり着いた所は牢屋みたいなところだった。
そこにいたのはボロボロの女の子だった。女の子は気絶しているようだ。
それを見た僕は怒りがこみ上げてきた。
「とりあえず、もういいや」
「えっ?」
男が間抜けな声を出したけど、それ以上喋る事はなかった。僕が首を斬ったから。
僕はこみ上げてきた怒りを吐き出したので、少し落ち着いたので、ボロボロの女の子に観察を使ってみた。
【名 前】 サキ
【年 齢】 15
【種 族】 魔族
【職 業】 剣士
【レベル】 15
【H P】 32/651
【M P】 2181/2181
【筋 力】 802
【防御力】 312
【素早さ】 915
【命 中】 1064
【賢 さ】 471
【 運 】 25
【スキル】
剣術LV4 縮地LV3 見切りLV2 体術LV1 直感LV1 (魔力操作X)
「リン、この子魔族だよ!」
「っ!!」
観察した女の子は魔族だった。僕たちがすぐ気付かなかったのには理由がある。魔族は褐色肌であるのが基本だけど、この子は肌が透き通るような白さなのだ。
「この子が魔族なら、奴隷にしてでも情報を聞き出したほうがいいんじゃない?」
リンがそう言うのは僕がさっきの男からスキル奴隷契約を奪った事を知っているからだ。
確かに魔族の動きを知る上では、この子から情報を聞き出すのが一番だろう。そうなると、素直に情報をもらう為には、奴隷にするのは確かに有効な手段だ。
とりあえず、どうやって契約するのか確認してみよっと。準備が大変なら別の方法を考えないと。
【奴隷契約】
・呪文を唱え、自身と対象の血を混ぜたものを対象の手の甲につけると契約成立
・仲介契約する場合は、魔法陣を用意し、主人となる対象者を魔方陣に立たせ呪文を唱えさせる。あとは通常の手順通り
・解約は解約の呪文を唱え、解約対象者の手の甲に自身と対象の血をまぜたものをつけると解約成立する
・仲介解約する場合は、魔法陣を用意し、解約者の主人を立たせ解約呪文を唱えさせる。あとは通常の手順通り
特にめんどくさい準備もないし、契約してみるか。
「ノゾムどうしたの?」
「奴隷契約の仕方を確認していただけだよ」
「それって、めんどくさいの?」
リンが契約の仕方を訊いてきたのでやり方とこの子と奴隷契約する事を伝えた。
リンは聞き終わると、興味が無いのか「ふ~ん、じゃあ頑張って」と言って、さっき僕が殺した奴隷商人のカードの回収を始めた。
僕は牢屋っぽいものを力任せに壊して、女の子に近づき契約の呪文を唱える。
「『ここに奴隷の契約を結ぶ』」
呪文を唱えた僕は親指を噛み切り、女の子の手の甲を傷を付けそこに血を数滴垂らした。
その瞬間、風が吹き抜けた。
風が吹き抜けた方向を見ると、そこには自分の手の甲からでている魔方陣を愛おしそうに撫でているリンがいた。
それはリンが僕の奴隷になった証だった。
ありがとうございました。