VSオーガ
雄叫びが聞こえた方に森を進んでいく事、10分ぐらいで雄叫びをあげたヤツを見つけ、僕たちは隠れて様子をうかがっていた。
「なぁリン、オーガってあんなだったっけ?」
「…上位種でもあんなのではなかったと思うわよ?」
オーガを知っているであろうリンでも知らないらしい。
問題のオーガ? は身長2m50cmほどあり、全身筋肉で覆われている。そして額には10cmほどの角が生えている。手には僕の身長ぐらいある棍棒?が握られている。まさに大鬼だ。
しかしそのオーガらしくない所がある。なぜか鱗があるように見える。まるでドラゴンのような鱗だ。そんな鱗があるために僕たちはヤツをオーガと断定できないのだ。
「ノゾムの鑑定で何か分からないかしら?」
「多分、問題なく分かると思うよ。ちょっと待ってね」
【名 前】 オーガ
【年 齢】 3歳
【種 族】 改造種
【職 業】
【レベル】 14
【H P】 32431/32431
【M P】 324/324
【筋 力】 24534
【防御力】 22143
【素早さ】 5452
【命 中】 8212
【賢 さ】 232
【 運 】 24
【スキル】
威圧LV3 身体強化LV6 身体硬化LV6 雄叫びLV5
「リンさんや、鑑定の結果が出ましたぞ」
「ちょっと、なんか変な言葉遣いになっているけど、どうしたのよ?」
おっと、予想外の鑑定結果に言葉遣いがおかしくなってしまった。
「えっと、驚かないでよ? あいつの種族は『改造種』だって」
「えっ!?」
「しかも筋力と防御力は今の僕よりちょっと高いかな?」
「はい?」
あー、完全にフリーズしちゃった。まぁ普通はそうなるわな。
とりあえず、リンを現実に引き戻さないと。
「ちょっとリン。現実逃避したくなるのは分かるけど戻ってきてよ」
何度か頬を叩きながら声をかけるとリンは現実に帰ってきてくれた。
「ノゾム、どういう事よ!? いくらオーガでも、あなた並の筋力と防御力があるなんて異常よ!」
「多分『改造種』ってのが原因だと思うんだけど、そもそも『改造種』って何なの?」
混乱するリンの質問は無視して、僕は最大の問題であろう『改造種』についてリンに聞いてみた。
「…私も聞いたことないし、今まで見たこともないわよ。ただ、改造って言うぐらいだから、誰かが作ったのは間違いないわね。一応、聞くけど、その他のステータスってどうなっているの?」
「やっぱり『改造種』は普通じゃないんだね。で、他のステータスだっけ? えっと、レベルは14でMPは300、素早さは約5500、命中は約8000、賢さは約200でスキルは雄叫び、威圧、身体強化と身体硬化だよ」
「完全に脳筋ね…。それもノゾム以上の筋力と防御力とは、恐ろしいわね。それでどう戦うの?」
「基本的に僕1人で相手するしかないわけだけど、どうしよう?」
完全にリンより格上の魔物だから、リンは戦闘には参加させれらない。かと言って作戦があるわけでもないしなぁ…。
「ちょっと!? ノゾム1人で戦うって、どういう事よ!」
「そのままの意味だよ。オーガのステータスはリンの倍以上あるんだ。リンは一撃でも喰らったらアウトになると思うよ? リンにそんな相手と戦闘はさせたくないよ」
リンも相手との実力差を分かっているらしく、僕に指摘されると、悔しそうにうつむいてしまった。
「こうしていても何も変わらないし、とにかく戦うか。リンはここで待っていてね」
「あっ! ちょっ!」
リンの返事も聞かないまま、僕は剣を抜いてオーガに向かって一気に駆け出した。
オーガも僕が突っ込んできたのに気付いたらしく雄叫びをあげる。
「ガアアアアァァァァァ!」
雄叫びをあげているオーガに、先制攻撃として胴切りをお見舞いしてやろうと、突っ込んでいた僕は、オーガの手前5mぐらいの所で急に足がすくんで立ち止まってしまった。
オーガはそんな隙を見逃すはずもなく、1歩踏み込み、持っていた棍棒でなぎ払ってきた。
「くそ、なんで動けないんだ! 動け! 動けよ!」
オーガのなぎ払いが近づいてくる中、僕は必死に足を動かそうともがいたけど、全くもって足は動かなかった。仕方がなく僕は左腕の防御に全力を注ぎ、衝撃に耐えることにした。
棍棒は僕の左腕に当たり、ぐしゃ! と嫌な音を鳴らし、僕はそのまま数十m飛ばされてしまった。
「げほっげほ! いつつつ。あいつめ。思いっきり吹き飛ばしてくれやがって! とりあえず、何とか耐え切ったけど、左腕は動かないか…」
他にも全身痛いけど、動けないわけじゃないから問題はなさそうだ。ただ動かない左腕は折れてるのかも。
ここで休んでいても、オーガがリンを見つけてしまうかもしれないので、僕は体の状態を確かめるのもそこそこにして、もう一度オーガに向かっていった。
僕が懲りずに突っ込んできたのを見たオーガはもう一度雄叫びをあげた。
「ガアアアアァァァァ!」
「二度も同じ手に引っかかるか! 火よ敵を燃やせ!『ファイアボール』!」
雄叫びをあげたのを見て僕は持っていた剣を鞘に収めて、魔法を唱え、大きく開いたオーガの口にファイアボールを放った。
「っ!! グギャアガアアア!」
僕が放った魔法はしっかりとオーガの口に命中し、オーガは口から煙をあげながらのた打ち回っていた。その隙に僕はオーガとの距離を詰め、首を刎ねようと剣を振るった。
「なっ!?」
パキン!
剣はオーガの首を捉えたけど、僕のスキル不足のせいか、首は斬れず剣が折れてしまった。
剣が折れた事に気を取られ、オーガの目の前で止まってしまった僕は、のた打ち回っていたオーガが振るった腕になぎ払われまたもや吹っ飛ばされてしまった。
しかし、今回のは力もこもっていなかったので僕にもたいしたダメージも無かった。
「くそっ! まさか剣が折れるなんて。これからどうやって戦おうか…」
剣が折れたのは痛い、ただでさえオーガの方がステータス高いのに素手じゃダメージを与えられるとは思えない。かと言って、僕の魔法はまだスキルレベルが低くて決定打にはならないし…。
そんな事を考えて次の行動を決めかねていたら、リンが話しかけてきた。どうやら吹っ飛ばされた先は最初にリンと隠れていた所の近くだったらしい。
「ノゾムってバカでしょ? 身体硬化のスキル持っているヤツに剣で切りかかっても無駄に決まっているじゃない? 剣術スキルが7以上とか、剣がレア物とかなら話は違うけど? それに、ノゾムはいつ固有スキル使うの?」
「あっ!」
「『あっ!』て、何よ! もしかして、忘れていたとか言わないわよね?」
しまったぁぁぁぁぁ!
すっかり自分のスキル忘れてたよ! それならまだ手はあるじゃん! そうと決まれば!
「リン、少しの間オーガの注意を引いてもらっていい? その間に回復するから」
「…もう、とりあえず後でちゃんと忘れてたのか聞くからね! 『ファイアボール』!」
リンは文句を言いながらもオーガの気を引くために、隠れながら魔法で攪乱し始めてくれた。
「よし、『再生』発動!」
本当は声を出さなくても大丈夫だとは思うけど、初めて使うからなんとなく声に出してみた。
再生を使ったこと瞬間から傷ついていた体が治っていくのが分かった。特に折れていたと思う左腕が治っていくのはなんか変な気分だった。
時間にして3分ほどで完治した。
「これで動ける! まずはリンと合流しないと…」
辺りを見回して魔法が飛んでくる方向に目を向けると、すぐリンが見つかったのでリンを捕まえた。
「リン! 次は目くらましをよろしくお願い!」
「ちょっと人使い荒くない? さっきまで、戦闘には参加させないって、言ってたのは何処の誰?」
リンがジト目で睨んでくる。
「文句は、終わってから全部聞きますので、どうか今は勘弁してください」
「……しょうがないわね。30秒後に目くらましの魔法を使うからそれに合せられるようにしておきなさい」
リンはため息混じりにそう言ってくれた。僕は早速、オーガの背後に向かって移動をし始めた。
もう少しで背後に回れるって時にオーガの周りが濃い霧で覆われ始めた。
「もう少しだったのに! けど、ここまで来れば何とかなるか」
魔法の効果が残っているうちにオーガにたどり着いた方がいいと思った僕は、一気に駆けてオーガの背後から抱きつき、ヴァンパイアになってから伸びた犬歯を首に突きたて血を吸い始めた。
オーガは脳筋だからなのか、この魔法のお陰なのか、僕に気付いていないみたいだ。
「こんなものでいいかな? よし、あとは仕上げか…」
ある程度血を吸ったのでオーガから一度距離を取って、『吸血』のスキル効果でオーガのスキルを全部奪ったのを確認した。ちゃんとスキルが奪えていたので、オーガにトドメを刺す為に、早速奪ったスキルを使うことにした。
「『身体強化』と『身体硬化』発動!」
スキルの発動を確認した僕は折れた剣の刃を持ってオーガにむかって最初のように突っ込んだ。
ちょうど魔法の効果が切れて突っ込んでくる僕を見つけたオーガは雄叫びをあげたが、スキルが全て奪われているので僕は足をすくませる事なくオーガの喉に折れた剣の刃を突きたてる事に成功した。
オーガは喉を貫かれて声もあげられず、しばらく暴れたのちに絶命した。
「何とか倒せた~」
「お疲れ様ノゾム」
オーガを倒した事で気が抜けてその場で座り込んでいた僕にリンは労いの言葉を掛けてくれた。
「とりあえず、オーガを片付けて町にもどろうか? もう疲れたよ」
「それじゃあ、私のアイテムボックスにしまっておくわね」
リンがオーガをアイテムボックスにしまったので帰ろうとしたら急に僕たちの背後から声を掛けられた。
「おい、ここにオーガがいたはずだが、知らないか?」
僕たちが声のする方向へ振り向くと、そこにいたのは、褐色肌の黒髪の男性だった。
男は身長180㎝ほどで鋭い目つきで僕たちを見ていた。
「オーガ? 知らないですよ? 僕たちも今ここに来たばかりですので」
ごまかした方がいいような気がするので、知らないフリをする事にした。
「……………ふん。知らないならさっさとこの辺りから去るんだな」
男は暫く僕を睨みつけると、僕の言葉を信じたのか、さっさと立ち去ってしまった。
「何だったんだろうね? あのオーガを探していたって事は、もしかしてあいつが製作者なのかな?」
「どうかしらね? だけど、その可能性は高いと思うわ…」
「どうしてそう思うの?」
「あいつ自身の事は知らないけど、あいつの種族の事は知っているからよ」
「種族?」
「あいつは魔族よ!!」
ありがとうございました。